3.加護の兆し、そよ風の誓い
森に、静けさが戻っていた。
それは、ただの“沈黙”ではない。
新しい何かが生まれたあとの、やさしく包まれるような――静謐 。
◇
フェルは、森の中心に立っていた。
風が、彼女のまわりで円を描くように吹き抜けていく。
そして、その中から現れる、透明な風の精霊。
その姿は、形を持たない。
ただ、光の粒子とそよ風の重なりが、“在る”という存在感を伴ってそこにいた。
「風とともに歩む者よ――」
その声は、言葉ではなく、響きで伝わる。
「君の心に宿ろう。我らは、君を祝福する」
精霊は、フェルの胸元へとそっと風を送り込んだ。
それは“加護”という明確な契約ではなかった。
けれど、確かに――フェルの“存在そのもの”を認める合図だった。
「……ありがとう」
フェルの瞳が、少しだけ潤む。
でも、もう涙は落ちなかった。
◇
ユウは、その場から少し離れた木陰で見守っていた。
「……加護、か。発現は……まだみたいだね」
フェルのためにできること。
それを改めて考えながら、ユウは腰の道具袋に手を伸ばす。
取り出したのは、いくつかのメモと、小型の魔導具のコア。
彼は、静かに魔力を注ぎながら、考える。
「……いつでも冷静でいられるように。感情のノイズを、抑える補助魔法……」
《コールドフェイス(感情遮断)》――
自分を押さえるのではなく、“守るため”に感情をコントロールする魔法。
「……フェルが、何かを選ぼうとしたときに、ちゃんと判断できるように」
ユウの表情は、少しだけ硬く。
でも、その目は、どこまでもやさしかった。
◇
森を出るころ。
フェルは、いつものようにユウの隣を歩いていた。
でも――どこか、ほんのすこしだけ違う。
「……風のひと、言ってた。“ともに歩める”って」
「うん。フェルは……ちゃんと、認められたんだ」
「……なんだか、不思議。ずっと昔の自分が、いまのわたしに“だいじょうぶだよ”って言ってくれた気がした」
「それ、たぶん合ってるよ」
ユウは、笑った。
「君は、君のままでいいんだ。誰かの期待じゃなく、誰かの目を気にすることもなく――」
「……うん」
風が、ふたりの背中をそっと押していた。
それは、まるで“旅の続きを祝福する”ように。




