2.商人ギルドと、幻灯装置の記憶
朝。
再び訪れたアルトレールの街は、穏やかな風に包まれていた。
《風車亭》の朝食を終えたユウとフェルは、少しだけ人通りが増えてきた街角を抜けて、「商人ギルド」へと向かっていた。
◆ギルド登録:仮面の商人、ラウル=ディス
ギルド支部の受付で、仮面をつけた青年が登録を申し出た。
「名前は?」
「ラウル=ディス」
「職種・専門は?」
「古物の仲介と、再生品の管理販売。特に、幻灯具や記録媒体など“記憶を映す品”の再調整が得意です」
受付の職員は、一瞬だけ不思議そうな顔をしたが、すぐに笑った。
「面白い分野ですね。最近はあまり見かけないけど、たまに“よく分からない古物”が持ち込まれるので、重宝するかも」
ラウルは、柔らかく微笑んだ。
「そういう品こそ、“心を揺らす物語”が眠っているかもしれませんから」
◆小さな依頼:動かない幻灯装置
登録を終えると、ひとつの依頼が紹介された。
「ちょうど古い幻灯装置があるんです。外装は綺麗だけど動かなくて。試しに見てみます?」
ギルドの倉庫に案内されたラウルとフェルは、埃をかぶった幻灯具を前に、静かに見つめた。
「……構造は単純だけど、記憶の波形が歪んでる。これは……“感情の混線”か」
ラウルは、静かに魔力を込める。
補助魔法《記憶投影補助》が発動。
魔力の波が、記憶の奥に眠る映像をゆっくりと呼び覚ます――
◆灯された記憶、揺れる心
装置が、淡い光を放ち始める。
古びた映像の中には、
野原で笑う小さな少女と、それを見守る家族の姿。
風に揺れる花。微笑み。手をつなぐ影。
ただそれだけの映像なのに――
その場にいた職員の目が、思わず潤む。
「……なんか、癒されたな……」
「懐かしいような……優しい気持ちになる……」
ラウルは微笑んだ。
「記憶の中には、誰かの“願い”が眠っています。それを少しだけ、呼び起こしただけです」
◆その夜:風車亭にて
「……ラウル、なんか、ふわっとしてたね」
「そう? でも、悪くなかったろ?」
フェルは湯気の立つスープをふうふう吹きながら、小さく頷いた。
「……やさしい感じ、した」
ユウは仮面を外しながら、静かに笑った。
「“伝説”じゃなくても、こういう小さな光も、旅の一部だよな」
窓の外では、街灯が灯り始め、静かに夜が訪れていた。




