5.風は、旅の続きを知っている
◆静かすぎる朝
エラナ=シルの朝は、驚くほど静かだった。
鳥のさえずりも、森のざわめきも、どこか優しく耳に届く。
宿屋の窓を開けたユウは、森の向こうに薄くたなびく朝霧を見つめていた。
「……フェル、そろそろ、行こうか」
「……うん」
フェルは、少し名残惜しそうに振り返りながらも、いつもの旅支度を終えていた。
◆ギルドに、ひと声だけ
ふたりはギルド支部に立ち寄った。
「もう、出発ですか?」
応対したのは、昨日も会話を交わしたエルフの案内役。
「はい。またいつか来るかもしれません」
ユウはそう言って、軽く頭を下げる。
「そのときは、ぜひ。
……この森も、きっとまたあなたを覚えているでしょうから」
フェルは、小さく手を振った。
その手のひらに残るのは、記憶の花のぬくもり――
◆森の出口、ふたりの会話
木漏れ日が差し込む小径。
「フェル、次は……アルトレールに戻るよ」
「うん。なんだか、あそこに帰るのって、ちょっと不思議な気分」
「そうだね。二度通った場所だけど、“変わった自分たち”でまた通る……そんな気がする」
ふたりは顔を見合わせて、ふっと笑った。
「ねぇユウ、わたし、思ったんだけど」
「うん?」
「“出会い”って、最初だけじゃないよね。
何度でも、“はじめまして”って気持ちになる」
「……ああ。まったくその通りだ」
ユウはそう言って、フェルの頭に手を置いた。
「きっと次の再会も、今とは違う自分たちになってる」
「じゃあ、次の“はじめまして”のために……また歩こうね」
◆風の中へ
風が、ふたりの背中をそっと押した。
それはまるで、エラナ=シルの森が見送ってくれるような――
そして、その風はこうささやいた。
“また、いつか”
◆幕間:小さな手紙
その日の夕方。エラナ=シルのギルド受付に、一通の短い手紙が届いていた。
『この街で出会った記憶を、大切に持っていきます。
また会えたら、今度はもっと笑顔で。 ユウ&フェル』
受付のエルフが、優しく微笑んだ。
「……ええ。また、いつでも帰ってきて」




