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正体は、街の外に置いてきました〜ギルド登録の地味冒険者と、街に現れる謎の職人の関係〜  作者: 流浪の旅人
(フィルヴァリス)エラナ=シル編:精霊樹の下で、心にふれた
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1.静寂の森、優しい風

〜“静けさ”が、ふたりの歩幅に溶けていく〜


朝の空気はひんやりと澄んでいて、森の中を吹き抜ける風が、葉をやさしく揺らしていた。

小都市エラナ=シル。

“静寂の樹々”という名を持つこの街は、まるで時間の流れまでゆるやかにしてしまうかのような場所だった。


「……音が、少ない」


フェルがぽつりとつぶやいた。

もふもふの姿でユウの隣を歩きながら、しっぽをふわりと揺らす。


「うん。でもそれが、この街の“挨拶”みたいなもんかもな」

ユウは微笑むと、街道に伸びた木漏れ日を見上げた。


道端の木々には、精霊石で編まれた風鈴が、風に合わせて小さく鳴いている。

静かな街並み。

声を荒げる人はおらず、すれ違う人々も皆どこか静謐な佇まいだった。


◆ギルドへの申請と、森の奥の気配


エラナ=シルの冒険者ギルドは、森の入り口近くの大木を活かした建物だった。

他都市のような喧噪はなく、受付の女性も微笑みながら静かに対応してくれた。


「フィルヴァリス領への入域申請……はい、こちらでお預かりいたします。精霊の森ですので、許可には少々お時間をいただきます」


「大丈夫です。急ぎではないので」

ユウは丁寧に頭を下げた。


隣では、フェルが“もふっ”とおすまし顔で座っている。


「可愛らしい相棒ですね。……もしかして、精霊の加護持ち、でしょうか?」


「……あー……そういうの、まだです」


受付嬢は小さく笑い、申請書をまとめて奥へと引き下がっていった。


◆森の街で見た、透明な横顔


その日の午後。

ユウとフェルは街を散策していた。


この街では、人間、獣人、エルフ、少数の亜人などが混在しながら、穏やかな距離感で共存していた。


「……ここ、すき」

フェルがぽつりとこぼす。


「うん、わかる。なんか……騒がしくなくて、気が楽だよな」


通り沿いのカフェでは、エルフの若者たちが静かに本を読み合っていた。

その中のひとり、淡い銀髪の少女とユウの視線が一瞬交差する。

――けれどすぐに、彼女はまた本へと視線を戻した。


「今の……エルフかな?」


「……たぶん。でも、話しかけたら逃げちゃいそう」


フェルはくすっと笑った。

風が吹くたびに、透明な気配がふたりの間を抜けていった。


◆夜、宿の一室にて


その夜、宿屋の小さな部屋で。

フェルがユウの膝に頭をのせ、眠そうにしっぽをぱたぱた揺らしている。


「なんだか、心が落ち着くね。言葉じゃないけど……この街の空気、やさしい」


「……ここ、すき。わたし、静かなの……安心する」


ユウは静かにフェルの耳をなでながら、ぽつりとつぶやいた。


「……この街では、派手な活躍はできないかもな。だけど、ふたりの“心に残る旅”にはなりそうだ」


窓の外では、淡く青い光が舞っていた。

それは、精霊たちの灯火。


ふたりのまわりにも、そっとその光が漂い――

まるで、歓迎の証のように部屋を照らしていた。

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