4.舞う影、詩う風、光る狐
ヴィオランの午後。
舞台装置の調整で訪れた芸術ギルドの中庭では、見習いの演者たちが小さな発表会の準備に追われていた。
その中に、一人の少女がふらりと現れる。
ふわふわの黒銀髪。
瞳は静かな輝きを湛え、まるで“言葉の奥”を感じ取るような雰囲気――
名は、リーア。
「この子が、レイン職人の……?」
「いや、正体は不明。ただ“あの子が何かをした”だけで、風が変わるって噂だ」
◆風のような踊り子
「ねえ、少しだけ……この曲に合わせて、動いてもいい?」
リーアの声はかすかに震えながらも、確かな芯があった。
舞台の端で流れていた音楽にあわせて、彼女は一歩、そしてまた一歩と舞台の中心へと進む。
そして――
その動きは、まるで“風の精霊”そのものだった。
軽やかで、浮き立つような足取り。
衣の裾が光を反射し、まるで“光る狐”のように観客の目を奪っていく。
「……踊ってる? でも……振り付けじゃない。これ、即興だ」
「動きが……“風”を詠ってる……!?」
◆風を詩う、静かな魔力
踊りの最中、リーアの周囲にかすかに風が集い、空気がふわりと温かくなった。
――実は、フェル(リーア)は無意識に風属性の低位精霊と同調していた。
人化時間はまだ2時間しかないけれど、
彼女の“感覚”は確かに、精霊の世界に片足を踏み入れていた。
◆そして、噂は広がる
「レイン職人の連れ、“光る狐のような少女”が風を詩った――」
「演技ではない、本物の“風の魔力”だ……」
誰が名付けたか――
その日以降、彼女は《光る狐》と呼ばれるようになった。
◆夜、レインとふたり
その夜、宿の一室で。
「……リーア、すごかったな。まさか即興であそこまでやるとは」
「ん……ちょっと、きんちょうしたけど……でも、たのしかった」
リーアはベッドに横たわり、仮面を外したユウの顔を見上げる。
「なんかね……風が、やさしかったの。わたしに、歌ってって言ってるみたいで……」
「……歌ったんだな、風と一緒に」
ユウは、優しくリーアの頭を撫でた。
「ありがとう。君のおかげで、きっと“何か”が変わり始めてる」
◆翌朝のささやき
朝、もふもふ姿に戻ったフェルが耳をぴくっと立てて、小声でつぶやく。
「……わたし、“光るもふもふ”じゃないもん……」
「うんうん、“光るリーア”だもんな。かっこよかったよ」
「……うん」




