3.ジェスチャーが描く、目に見えぬ曲線
ヴィオランの朝は、街路を縫うような魔導レールの音から始まる。
その光景のなかを歩く仮面の青年レインと、黒銀のもふもふ――フェノ。
街の風景にすっかり馴染んだふたりは、昨日修復を成功させた“音の装置”の工房から、次なる依頼を託されていた。
◆新たな依頼
「……この設計図なんだが、どうしてもこの部分の魔力流路が成立しないんだ」
提示されたのは、未完成の“浮遊舞台装置”。
舞台上で演者が軽やかに舞うための魔導補助台座だった。
だが、その魔力制御回路は、どう見ても――
「これ、設計者の意図が……伝わってこないな」
レインはつぶやきながら、設計図を指でなぞる。
すぐに《ジェスチャー》の魔法陣が浮かび、彼の指先の動きをなぞるように、魔力の残像が宙を舞う。
◆“目に見えない意図”を読み取る
「たぶん……この流れは、“軽やかさ”よりも“緩やかな呼吸”を意識してる」
レインは手を動かしながら、まるで空気に線を描くように、補助魔法の制御式を構築していく。
「――見てるな、リーア」
扉の影から覗くようにしていた少女が、こくりと頷く。
「レイン……うごきが、やさしい。なんか……音、ないのに、うたってるみたい」
その言葉に、レインの手が止まる。
「……うた、か」
◆魔導と“感性”の融合
ジェスチャー魔法は、ただの補助術ではない。
術者の動き=意図=美意識が、ダイレクトに魔法に組み込まれる。
だからこそ、ただの“回路調整”ではなく――
「舞うように動く手で、舞台そのものに“感情”を与える」
レインは再び、魔力の残像で“曲線”を描いた。
その流れは緩やかで、やわらかく、どこか包み込むような魔導制御。
そして――
舞台の試作装置が、ふわりと浮いた。
中心に乗っていた台座が、まるで踊るように円を描いて揺れる。
◆驚きと、尊敬と
「……バカな……この回路、こんな解釈で制御できたのか!?」
設計士が目を見張る。
「もはや技術じゃない……これは、“感性”だ……」
その場にいた技術者たちが、次第に感嘆と尊敬の眼差しでレインを見つめ始める。
「なんなんだ……あの仮面の職人」
◆静かな伝説のはじまり
ヴィオランの芸術ギルド内で、レインの名前がそっと囁かれるようになった。
“動かない音を奏でた男”
“見えない線を描く男”
“感性を宿す技術者”――
その正体は誰も知らない。
だが、確かにその仕事は“作品”として残っていく。
◆夜、もふもふの横顔
宿へ戻る道、レインはゆっくり歩きながら、フェルのもふもふを撫でる。
「なあ、リーアが言ってた“うた”って、たぶん……魔力じゃなくて、気持ちのことだよな」
「……ん。きもち……うつってた。レインの、やさしいとこ」
「……それなら、少しは“俺の魔法”になってきたかな」
レインの仮面の奥――
その目元には、照れ隠しのような優しい色が灯っていた。




