2.“動かない装置”と、芸術家たちの沈黙
ヴィオランの街角にある古い工房――
そこには、長年動かぬまま放置された“音を奏でる魔導装置”があった。
それは、かつてヴィオランで名を馳せた老工匠が創り上げた、音楽と魔導を融合させたアートピース。
だが今は、魔力の流れが途絶え、音色どころか振動すら失われていた。
◆芸術家たちの沈黙
「これは……もう誰にも直せないよ」
「修復なんて、無粋ってやつだ」
その装置は、芸術家たちの間では“神聖な失敗作”として扱われていた。
誰も手を加えようとしない、いや――加えられないまま、長い時が過ぎていた。
◆仮面の職人、工房を訪れる
そんな中、その工房を訪れたのが、鍛治ギルドの紹介で派遣された青年職人――レイン=カーヴァ。
「こちらが……例の装置です」
案内人は苦笑しながら肩をすくめた。
「まぁ、見るだけ見てもらえれば。誰にも動かせなかったんでね」
レインは仮面越しに静かにうなずくと、装置にそっと手をかざした。
「……魔力の流路が崩れている。内部の触媒が、経年で劣化しているな」
その言葉に、周囲の芸術家たちがざわめく。
「やめてくれ。壊れたままでいいんだ」
「これは“完成しなかったからこそ、美しい”作品なんだ」
だが――
レインは、言葉少なに告げた。
「……音を失ったままでは、作品とは言えない」
◆動作補正魔法、実戦投入
静かに手を動かすレイン。
彼の指先が宙に描いたのは、精緻な補助魔法――《動作補正》。
その魔法は、術者の動きをトレースし、繊細な魔力操作を可能にする。
彼はあらかじめ準備していた触媒片と補助部品を使いながら、装置内部を調整していく。
一手、また一手。
まるでピアニストが鍵盤に触れるように、優しく、正確に。
◆リーアの詩
沈黙の中、ふと――工房の隅にいた少女が、ぽつりと口を開いた。
「……この部屋、ずっと、かなしかった」
「でもいま、すこしだけ、……あたたかい」
その言葉に、場の空気が変わった。
芸術家たちは、一斉にレインの手元に視線を向ける。
その魔力の動きは、まるで演奏のようだった。
◆再び動き出した“音”
やがて――
カチン、と小さな音。
装置の奥、錆びついていた歯車が静かに噛み合う。
そして、ふわり――
淡い音色が、空間を包んだ。
風のような旋律。
揺らめくような光の演出。
それは、たしかに“芸術”だった。
芸術家たちは言葉を失い、ただ、音に聴き入っていた。
◆静かな拍手
「……動いた」
「まさか……本当に?」
誰かが、小さく拍手した。
それは、讃えるためではない。
“黙っていられなかった”だけ。
やがて、その拍手はもう一人、また一人と伝わり、静かな波になって広がっていく。
◆レインとリーア、立ち去る
装置の音が鳴り止む頃、レインとリーアは静かに工房を後にする。
「……芸術は、動いてこそ生きる」
「……レインの音、……きれいだった」
彼の仮面の奥の表情は見えない。
でも、リーアの声にだけ、ふっと目元がやわらいだ。




