15.静かなテーブルに灯るもの
「……今日は、ちょっとだけ贅沢しても、いいよな」
ギルドの階段を下りたユウは、街灯のともる通りを歩きながら、そんなことを呟いた。
いつもなら、宿の夕食。
でも今夜だけは、ちゃんとお祝いしたい――そう思った。
向かったのは、商業通りの裏手にある小さなレストラン。
看板には、丁寧な文字で《ロゼッタ亭》と書かれている。
昼間は近所の人が通う食堂、夜はろうそくの灯りでほんの少しだけ特別になる店。
「いらっしゃいませ。おひとり様ですか?」
「……はい。ちょっと、昇進祝いで」
「まぁ!それはおめでとうございます✨」
笑顔の店主が、小さなキャンドルを灯した窓際の席に案内してくれた。
メニューには、高価すぎず、でも日常よりも少し贅沢な料理が並んでいた。
◆ 柔らかく煮込んだ牛肉の赤ワイン煮
◆ 焼きたてのハーブパンと特製バター
◆ カボチャのポタージュ
◆ 紅茶のゼリーに季節の果物を添えて
一皿ずつ、丁寧に運ばれてくる料理。
ナイフとフォークをそっと持つ指先に、少しだけ緊張が走る。
(……こんなふうに“ちゃんと祝う”の、いつ以来だろう)
口に運んだ瞬間、柔らかい肉がほどけ、ソースの酸味が広がった。
思わず目を細めて、息を吐く。
ほんのり甘いカボチャのスープも、焼きたてのパンも、
どれも心をそっと解いてくれるような味だった。
食後、紅茶のゼリーを口に含みながら、
ユウは窓の外に揺れる街灯をぼんやりと眺めていた。
(Eランクになったって、大したことじゃないかもしれない)
(でも……“俺なりの一歩”には違いない)
「ごちそうさまでした。……美味しかったです」
「またぜひ、お越しくださいね」
帰り際、店主がそっと手渡してくれたのは、小さな紙包み。
中には、焼き菓子がひとつだけ入っていた。
「昇進祝いの、おまけです♪」
ユウは驚いたように、それから――ふっと、小さく笑った。




