幕間:休憩の語らい
(あすかに促され、4人の対談者はスタジオの喧騒を離れ、静かな空間へと足を踏み入れる。そこは「失われた星々のサロン」と呼ばれる休憩室。壁一面にゆっくりと流れる星々が映し出され、穏やかな光が室内を満たしている。部屋の中央には大きな円卓があり、4人はそれぞれの席に着く。すると、ふわりと音もなく、各々の目の前に好みの飲み物が現れた。始皇帝の前には怪しく黄金色に輝く液体が入った杯、トクヴィルの前には芳醇な香りを放つ赤ワインのグラス、リンカーンの前には湯気の立つマグカップのコーヒー、石丸の前には澄んだ日本茶が注がれたグラス。)
リンカーン:「ふぅ…」(コーヒーの香りを楽しみながら、深い息をつく)「いやはや、なかなかに…熱い議論でしたな」(苦笑いを浮かべ、他のメンバーを見渡す)
トクヴィル:「ええ、まったくです。特に始皇帝陛下のご迫力には…少々圧倒されましたな」(ワイングラスをゆっくりと回しながら、穏やかに言う)
始皇帝:「ふん。議論ではない、真実を述べたまでよ」(黄金色の飲み物を一口すする。表情は相変わらず厳しいが、ほんの少しだけ肩の力が抜けたようにも見える)「それにしても、リンカーン殿。貴殿は内乱を鎮めたというのに、なぜもっと反乱分子を徹底的に粛清し、州の権限を完全に奪わなかったのか?朕には理解できぬ。甘さこそが、再び国を乱す元となるぞ」
リンカーン:「(コーヒーカップを置き、少し考えるようにテーブルを見つめ)…それは、陛下、私が守りたかったものが、単なる領土の統一だけではなかったからです。我が国は『全ての人間は平等に作られている』という理念の上に成り立っています。たとえ敵であっても、同じ国民として、法の下で公正に扱われるべきだと信じていました。…もちろん、その理想と現実の間で、多くの血が流れたことは事実ですが…」(声にわずかな痛みが滲む)「力で押さえつけるだけでは、真の和解は訪れない。そう考えたのです」
始皇帝:「理想か…。理想だけでは国は守れぬというのに」(再び飲み物を口にする)
トクヴィル:(リンカーンの言葉に深く頷き、今度は石丸に向き直る)「石丸殿。先ほどのあなたの言葉、非常に興味深かった。現代の日本にも、わたくしが見たかつてのアメリカのような、地方の自発的な精神…その萌芽はある、と感じられましたか?中央の力が強い中で、それは容易なことではないでしょう」
石丸:「ええ、トクヴィルさんのおっしゃる通り、簡単なことではありません」(日本茶を一口飲み、答える)「法制度や財源の問題など、多くの壁があります。しかし、それでも、諦めずに地域のために活動している人々は確実に存在します。彼らの小さな活動が、少しずつですが、地域を変え始めている。インターネットなどの新しい技術も、地方からの情報発信や連携を助けてくれています。可能性は、確かにあると信じています」
トクヴィル:「ほう、それは心強いですな。技術が新たな『結社』の形を生み出しているのかもしれませんね」(興味深そうに目を細める)
石丸:「トクヴィルさん。あなたの分析…特に、過度な中央集権が人々の精神に与える影響についての指摘は、驚くほど現代の日本にも当てはまります。地方に住んでいると、どこか諦めのような、無力感のような空気が漂っているのを感じることがあります。それは、自分たちの力で未来を変えられない、という思い込みから来ているのかもしれません」
トクヴィル:「うむ…それは由々しきことですな。市民が政治への関心を失い、公共の事柄を他人任せにするようになると、自由は形骸化してしまう…」(憂いを帯びた表情で頷く)
リンカーン:(会話を聞きながら、ふと呟くように)「立場は違えど、皆、国や民のことを深く考えているのは同じなのだな…方法こそ違え、その責任の重さは、どの時代も変わらないのかもしれない」
始皇帝:「……」(リンカーンの言葉に、僅かに反応したように見えるが、何も言わずに窓の外の星空に視線を移す)
石丸:「そうですね。皆さんの時代の壮絶なご経験に比べれば、私の悩みなど小さいものかもしれませんが…それでも、未来の世代に対して責任があると感じています」
トクヴィル:「その責任感こそが、為政者にとって最も重要な資質でしょうな」
(しばし、穏やかな沈黙が流れる。激論の後の静けさの中、4人はそれぞれの時代に思いを馳せ、また目の前の異時代の人物たちとの奇妙な邂逅に、何かを感じているようだった。星々の光が、彼らの姿を優しく照らしている)