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ラウンド2:権力と効率~"強い中央"は国を富ますか?~

あすか:「ラウンド1では、皆様の理想とする国家デザインの基本的な考えが示されました。ラウンド2では、さらに議論を深めてまいります。テーマは『権力と効率~"強い中央"は国を富ますか?~』です」


あすか:「始皇帝陛下は、度量衡や文字、通貨を統一され、広大な帝国に張り巡らされた街道網を整備し、郡県制によって中央から役人を派遣されました。これらは、まさしく強力な中央集権による効率化の追求と言えるでしょう。陛下、こうした強大な中央の力は、国を豊かにし、民に利をもたらすために不可欠だった、とお考えでしょうか?」


始皇帝:「当然のことよ」(即座に、力強く答える)「朕が天下を統一する以前、国々はバラバラで、言葉も、文字も、物の価値さえ違った。商人は国境を越えるたびに関税を取られ、役人は勝手な法で民を苦しめた。そのような非効率で、民が豊かになれるはずがなかろう」


始皇帝:「朕は、それら全てを統一し、法の下の平等を(朕への絶対的な服従という形ではあるが)実現した。咸陽からの勅令一つで、帝国全土の人民が動く。万里の長城を築き、外敵の侵入を防いだのも、全国から人を集め、資材を動員できたからこそ。これぞ効率よ。この効率なくして、どうして天下の安寧と繁栄が築けようか?」(自身の功績を誇るように、胸を反らす)


あすか:「確かに、統一による効率化は大きな力ですね…。しかし、トクヴィル様。効率を追求するあまり、失われるものもあるのではないでしょうか?」


トクヴィル:「仰る通りです、あすか殿」(静かに頷き、始皇帝に向き直る)「陛下のおっしゃる『効率』は、いわば上からの命令が淀みなく伝わる効率性ですな。それは時に必要でしょう。しかし、そのために、地方の持つ独自の知恵や工夫、自発的な創意が押し殺されてしまう危険はないでしょうか?」


トクヴィル:「わたくしの故国フランスでは、首都パリにあらゆる権限が集中し、地方は中央の決定を待つばかり。些細なことでもお役所の許可が必要で、かえって物事が進まないという非効率も見てきました。一方で、アメリカの地方では、時に回り道に見えても、住民たちが知恵を出し合い、試行錯誤しながら地域の課題を解決していく。そのプロセス自体が、社会の活力を生み出しているのです」


トクヴィル:「陛下の『効率』は、民を国の部品のように動かす効率性かもしれませんが、わたくしは、民一人ひとりが持つ可能性を引き出すことこそ、長期的に見て国を豊かにする道だと考えます。画一的な効率性は、魂の不毛を招きかねません」


始皇帝:「魂だと?腹は満たされぬ戯言よ。民に必要なのは、まず食うことであり、安全であること。そのためには朕のような強い指導者による効率的な統治が不可欠なのだ」


あすか:「効率と、そこに生きる人々の自発性…。難しい問題です。リンカーン大統領は、まさに国家の危機において、強い中央政府の権限を行使する必要に迫られたご経験がおありです。効率と権力について、どのようにお考えでしたか?」


リンカーン:「…戦時という非常時においては、国家の存続が最優先でした」(遠い目をして語り始める)「連邦を守るため、迅速な意思決定と兵員・物資の動員が不可欠であり、そのために大統領としての権限を最大限に行使せざるを得ない場面もありました。それは、平時であれば許されざる『効率』の追求だったかもしれません。人身保護令状の停止など、憲法上の権利を制限したことへの批判も承知しています」


リンカーン:「しかし、常に自問自答していました。この権力は、本当に『人民のため』になっているのか?と。効率の名の下に、守るべき自由や権利を侵害していないか?と。中央の権力は、強力であるがゆえに、常に抑制的でなければなりません。効率は目的ではなく、あくまで手段であるべきです。そして、その手段が目的…つまり、人民の自由と幸福…を損なうようなことがあってはならない。そのバランスを見極めるのは、為政者にとって最も困難な責務の一つでしょう」(静かに、しかし重みのある言葉で語る)


あすか:「効率は手段であり、目的ではない…。重いお言葉です。では、石丸様。現代日本における『効率』、特に東京への集中は、リンカーン大統領がおっしゃる『目的』、すなわち国民全体の幸福に繋がっているとお考えですか?」


石丸:「繋がっていない、むしろ逆の結果を招いていると私は考えています」(きっぱりと答える)「確かに、企業活動や行政において、首都に機能を集約することは、短期的には『効率的』に見えるかもしれません。しかし、その結果、地方では産業が衰退し、若者が流出し、地域コミュニティが崩壊の危機に瀕しています。これは、トクヴィルさんがおっしゃった『社会の活力』を日本全体で失っていることに他なりません」


石丸:「さらに言えば、首都機能がこれだけ集中することは、災害リスクの観点からも極めて『非効率』です。首都直下地震や南海トラフ地震が起きた場合、日本の心臓部が停止し、国家機能が麻痺してしまう。これは、持続可能性という長期的な視点で見れば、非常に脆弱で非効率な構造と言わざるを得ません」


石丸:「始皇帝陛下がおっしゃるような、上意下達の『効率』だけを追い求めた結果、日本は豊かさを持続できない、リスクの高い国になってしまったのではないでしょうか?今、私たちが考えるべき『効率』とは、経済的な側面だけでなく、社会の多様性や持続可能性、そして何よりそこに住む人々の幸福度といった、多角的な視点での『真の効率』であるべきだと考えます」


始皇帝:「若造が…リスクばかりを語るでない。国を動かすには、まず力と集中が必要なのだ」(石丸氏の言葉を一笑に付そうとする)


あすか:「効率という言葉一つをとっても、これだけ多様な捉え方があるのですね…。強い中央集権が生み出す効率と、その影で失われるかもしれないもの。そして、現代における『効率』のあり方。非常に重要な論点が提示されたと思います。次のラウンドでは、さらに『自由と多様性』という側面に光を当てていきたいと思います」(議論の熱気を感じながら、次ラウンドへ繋げる)

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