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ラウンド1:我が理想の国家デザイン~中央集権か、地方分権か~

あすか:「さあ、いよいよ議論の幕開けです。ラウンド1のテーマは『我が理想の国家デザイン~中央集権か、地方分権か~』。皆様が築き、あるいは見つめてきた国家において、理想の首都と地方の関係とは、どのようなものでしょうか?まずは、広大な帝国を史上初めて統一された、始皇帝陛下にお伺いいたします」


始皇帝:「ふん、理想か。簡単なことよ」(他の対談者を見渡すでもなく、絶対的な確信を持って言い放つ)「天下は一つであるべきだ。万里の果てまで、朕の法と命が行き渡らねば、国とは言えぬ。首都は国家の心臓であり、頭脳。そこに全ての権力と富を集め、鉄の規律で地方を統制する。これ以外に、永続する国家を築く道はない」


あすか:「絶対的な中央集権、ということですね。地方が独自の力を持つことは、認められないと?」


始皇帝:「地方の力など、諸侯が跋扈(ばっこ)した乱世の悪夢を繰り返すだけよ。民草は、ただ上に従い、法を守っておれば良い。余計な知恵や力は、反乱の火種となるだけだ。首都の咸陽から、朕が任命した役人が隅々まで監視し、統治する。これぞ磐石の策よ」(断言し、他の者の反論など意にも介さない様子)


あすか:「なるほど…徹底した中央集権による秩序と安定。ありがとうございます。では次に、その中央集権が強かったフランスから、新大陸アメリカに自由の可能性を見出されたトクヴィル様、いかがでしょうか?」


トクヴィル:「陛下のご経験に基づくお考え、理解できぬわけではありません。確かに、秩序は重要です」(始皇帝に軽く会釈しつつ、静かに語り始める)「しかし、陛下。その鉄の規律の下で、民の魂はどうなるのでしょうか?わたくしがアメリカで見たのは、中央の介入が少ない地方…タウンシップにおいて、人々が自らの手で地域の課題に取り組み、活発に議論し、協力し合う姿でした」


あすか:「地方の自律性が、人々を育てていたと?」


トクヴィル:「その通りです。地方自治は、市民が自由と責任を学ぶ最良の学校なのです。人々が自らの意思で結社を作り、公共の事柄に関わる。そこにこそ、国家の真の活力と、専制への防波堤が生まれるのです。過度な中央集権は、国民を無気力な『臣民』に変え、ついには国家そのものの精神を蝕む危険性を孕んでいる、とわたくしは考えます」(冷静だが、確信に満ちた口調)


始皇帝:「甘美な言葉に過ぎぬな。民に自由を与えれば、必ず増長し、国を乱す」(鼻で笑う)


あすか:「秩序か、自由か…早くも対立が見えてきました。では、このお二方のお話を受け、国家の統一という大きな課題に直面されたリンカーン大統領、ご意見をお願いします」


リンカーン:「(深く息をつき)…お二人の言葉、どちらも重く響きます。私が指導した国家、アメリカ合衆国は、まさにその狭間で揺れ動いてきました」(自身の経験を噛みしめるように語る)「各州(地方)が持つ独自の権利と自由。これは、我が国の成り立ちの基礎であり、尊重されねばなりません。トクヴィル殿が称賛された活力の源泉でしょう。しかし…」


あすか:「しかし…?」


リンカーン:「しかし、州の権利があまりに強調され、国家としての統一性…『連邦(Union)』が脅かされた時、我々は悲惨な内戦を経験しました。一つの国家として存続するためには、やはり中央(連邦)政府の持つべき権限と責任があるのです。首都は、単なる支配の拠点ではなく、多様な地方を一つに繋ぎ止めるための、不可欠な結節点であるべきだと、私は信じています。重要なのは、そのバランスです」(誠実に、言葉を選びながら語る)


あすか:「統一と多様性の両立、そしてそのバランス…非常に難しい問題ですね。ありがとうございます。では最後に、現代日本の地方行政の現場にいらっしゃった石丸様。これまでの歴史的な視点も踏まえ、現代における理想像はどのようにお考えですか?」


石丸:「皆様のお話、大変興味深く拝聴しました。ありがとうございます」(他の3人に敬意を表しつつ、正面を向き直る)「現代の日本が直面しているのは、始皇帝陛下が目指された中央集権…とは少し異なりますが、結果として『東京』という首都に、富、権限、そして何より『機会』が極端に集中してしまっている状況です。これを『東京一極集中』と呼んでいます」


あすか:「機会、ですか?」


石丸:「はい。仕事、教育、文化、情報…あらゆるものが東京に集まり、地方は人口が減り、経済が縮小し、社会インフラの維持さえ困難になっている。これは、リンカーン大統領が守ろうとされた『国家の統一性』をも、内側から蝕んでいると私は考えます。地方が活力を失えば、国全体が衰退するのは必然です」


トクヴィル:「それは、まさしく中央集権の弊害が、形を変えて現れていると言えるかもしれませんな」(深く頷く)


石丸:「ええ。ですから、私が目指すのは、単なる地方分権でも、ましてや始皇帝陛下のような中央集権への回帰でもありません。首都・東京が持つ力を否定するのではなく、その力をテコにして、地方が自律的に発展できるような『多極分散』型の国づくりです。首都と地方が対等に連携し、それぞれの個性を活かして共に発展していく。そのための、富と権限、そして機会の再分配と、新たな連携の仕組みが必要だと考えています」(論理的かつ、強い意志を込めて語る)


あすか:「なるほど…中央集権、地方自治、連邦と州のバランス、そして多極分散と連携…。皆様、それぞれの経験と哲学に基づいた、明確な国家デザインをお持ちであることがよく分かりました。早くも議論の火種が見えてきたようです。次のラウンドでは、さらに深く掘り下げていきたいと思います」(クロノスを操作し、次の展開を示唆する)

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