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ただ進み続けろ

スコアは4–13。レンジがハーフコートを越えた瞬間だった。

赤組はまだフルコートでプレッシャーをかけてきていた——四方からディフェンダーが寄ってくる。


レンジは冷静を保とうと努め、コートを見渡した。

(どうすればいい? 早く考えろ……このままドリブルか、パスか? 誰に?)


工藤が素早く回復し、笑みを浮かべて近づいてきた。

「お前、完全にナメてたろ。

まさかドリブルしてくるとは思わなかった」


レンジはスペースが急速に狭まるのを感じた。

(近すぎる……振り切れない)


一瞬、右側に細い隙間が見えた。

(ここを突くか? くそ……考える時間なんてねえ。ただ行け)


レンジは狭いレーンに突っ込んだ。

だが森はすでにそこにいて、まるでレンジの行き先を知っていたかのように待っていた。


森の声は穏やかで、どこか優しかった。

「悪くない試みだな、レンジ」


罠だった。


レンジの視界の端に、佐藤が弱側でいい距離を取っているのが映った。

佐藤が手を上げた。


「レンジ、ここ!」


二人のディフェンダーに挟まれ、体勢を崩しながらレンジは佐藤へ無理やりパスを放った。

ボールがゆっくりと宙を舞う。


佐藤の目が見開いた。

(いつ中村先輩がそこに……!?)


中村が一歩前に出て、きれいにパスをカットした。

罠は完璧に決まった。


中村は石橋に素早く頷き、パスを出した。

石橋は受け取り——無言の了解。


中村は一度深く息を吸い込み、地面を蹴った瞬間、爆発的に加速した。


佐藤は呆然とその背中を見送ることしかできなかった。


石橋は大きく前にリードパスを放った——普通なら追いつけない距離のロングパス。


だが赤組の選手たちの口元に浮かぶ笑みはすべてを物語っていた。

彼らは知っていた。

中村なら追いつく。


ボールがコートの反対側へ飛んでいく中、瞬は驚嘆と苛立ちが入り混じった感情に襲われた。

今まさに切り裂かれている瞬間なのに、このチームの可能性がこれまで以上に鮮明に見えた——もし成長し続けられれば。


中村はボールを追いかけながら、足が自然に動く感覚に過去がよぎった。


博多、福岡。

家族が営む小さなラーメン店。


小学生の頃から毎日手伝っていた——近所の事務所へ丼を届け、問屋へ走り、材料や現金が足りなくなるとすぐ運んだ。


博多の道は信号も少なく、ひたすら続いていた。


自然とペース配分を考えるようになっていた。

(走れば、一回で二往復できる)


学校では鬼ごっこで一目瞭然だった。

誰も捕まえられない。


先生たちは笑って「逃げ足の速い子」と呼んだ。


速くなるために練習したわけじゃない。

ただ、毎日、本当の理由で走っていただけ。


店の仕事は体力勝負だった。

朝早く開け、夜遅くまで。休みなし。


放課後:用事、掃除、荷物運び。

それでも外で遊ぶ時間は作った。


歩く代わりに走って帰るようになった。

わざと遠回りした。

夜の川沿いを何周も走った。


小学校高学年になる頃には、どれだけ走っても平気だった。

疲れるのは当たり前だった。


バスケはほとんど偶然だった。

野球もサッカーもグラウンドはいつも埋まっていた。


でも川沿いに無料の公共コートがあった。

最初はリバウンドを追い、ボールを返し、年上の子たちを見ていた。


ある日、誰かに5対5に引っ張り込まれた。

シュートは打てない。

ドリブルも下手。


でもファストブレイクでは誰よりも速かった。


年上の子たちが言った。

「ただ走れ。俺たちがパス出すから」


そこで気づいた。

バスケは努力がすぐに報われる。

下手でも、速ければ意味がある。


それで決めた。

陸上をやろうなんて、一度も思わなかった。


走って、測って、競って、それの繰り返し。

何のために?


走ることは道具であって、目的じゃない。

バスケなら、自分の速さが誰かの役に立つ。

すぐにゲームが変わる。

自分だけじゃない。


博多の家賃が高騰し、人の流れが減ったとき、父親は千葉の古い知り合いに連絡を取った。


龍鳳高校近くの空き店舗。

家賃が安い。学生が多い。


賭けに出て移転した。


陸はコートも仲間も、ようやく掴み始めた日常も離れたくなかった。

でもついて行った。


千葉、新しい学校、新しいチーム、何の実績もない。

一番上手くなかった。

一番大きくなかった。

一番声が大きかったわけでもない。


でも誰よりも走った。

練習後も残った。

コンディショニングを欠かさなかった。

一度も文句を言わなかった。


仲間は自然とついてきた。

最初は石橋、次に工藤、翌年には森、葉山、斎藤、山田。


監督がキャプテンに指名したのは、派手だからでも天才だからでもない。

誰もが止まりそうなとき、彼だけが走り続けていたからだ。


父親が暇な夜に一度言った言葉。

「止まったら終わりだ。

いいから、前に進め。それでいい」


その言葉が今も残っている。


中村はボールをキャッチした瞬間、現実に戻った——すべてが始まったあの頃と同じように。


簡単なレイアップを決めた。

4–15。赤組。


差はさらに開いた。


だが体育館のどこかで、静かな決意が芽生え始めていた。

まだ何も終わっていない。


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