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マネージャー!?

マネージャー!?


1年2組 ― 朝

ホームルーム前の教室は、いつものようにざわついていた。大きな窓から朝の光が差し込み、机の上に長い影を落としている。


後ろの方で、女子たちの輪が小声で弾んでいる。

「高橋くん、めっちゃボロボロじゃん」

「昨日の夜、他校の生徒と喧嘩したってさ」

「弟がうちの学校に助けを求めに来たんだって。バスケ部まで巻き込まれたんだってさ」

「バスケ部!? 白根くん、怪我してないよね……」

「大丈夫だよ。鬼道高校の連中だって。ヤンキー校じゃん……ところで、いつからレンジくんって呼んでるの? ズルい」

「別にいいじゃん、みんなレンジって呼んでるし……あ、静かにして! 来たよ!」


白根レンジと田中瞬が、制服姿で教室に入ってきた。レンジは急にくしゃみを一つ。

瞬が振り返る。

「レンジ、大丈夫か?」

「うん、まあまあ。昨日の雨のせいかな」

瞬は周りを見回しながら頷く。

「そうだよな……俺たちの方は大事なくてよかったけど、達也はどうしてるかな。あいつら、結構やったらしいぜ」

レンジが後ろを指す。

「あそこにいるよ。意外と元気そう」

瞬が高橋に声をかける。

「おはよう達也! 生きてる?」

高橋達也は片目が腫れ、唇が切れたまま顔を上げた。

「おはよう達也!? いつからそんな仲良かったんだよ、田中! それに、この前市川と一緒にいたことも忘れてねーし!」

瞬は額を叩く。

「うわ、やっぱ元気だ……」

高橋の視線がレンジに移る。

「お前もだ、白根。市川の名前で呼ぶんじゃねえよ」

レンジは一瞬キョトンとして、口を開きかけて閉じた。軽く頷くだけで、何も言わない。

木村悠生が椅子を後ろに傾けながら、ニヤニヤと口を挟む。

「まあまあ、仲良くしようぜ。つーか達也、ここで一番嫌われたくないだろ? 後ろ見てみ」

高橋がチラリと振り返る。女子たちの輪が、獲物を狙うような鋭い視線でこちらを見ていた。高橋は慌てて姿勢を正す。(白根、いつからこんなファンクラブ作ったんだよ……気をつけねえと)

北野海翔が隣の席から身を乗り出す。

「昨日のヤツら、誰だったんだ? 何しに来た?」

高橋は肩をすくめ、ちょっと顔をしかめる。

「別に。ただのヤンキーだよ。絡んできただけ」

瞬の表情が少し硬くなる。

「鬼道高校だよ。一回戦の相手。脅しに来たんだろうなー」

高橋の腫れた目がギラリと光る。

「絶対負けるんじゃねえぞ。あいつら、まだ俺に借り返してねえんだからな」

瞬はニッと笑う。

「心配すんな。強い先輩がいっぱいいるし」レンジの肩をポンと叩く。「それにレンジもいるしよ。へへ」

高橋はレンジを疑わしげに見る。

「バスケ、最近始めたんだろ? 本当にできんのか?」

教室のドアが再び開いた。市川結衣が、制服をきちんと着て入ってくる。朝の空気の匂いがふわりと漂う。彼女は会話の最後を聞き逃さず、即答した。

「自分で確かめれば? 私が見た限り、結構すごいよ……みんなで試合見に行かない?」

高橋の頰が少し赤くなる。(市川さん、可愛い……)

木村が拳を上げる。

「俺も行く! 応援団だ!」

北野の目が輝く。

「またバズるかも。有名人に近づけるチャンスだぜ」

瞬が小声で呟く。

「お前の目的、めっちゃ個人的だろ……」

高橋はきっぱり頷く。

「市川さんが言うなら、行く!」

レンジはみんなの熱気に包まれる。温かくて、少し重い。(友達か……絶対、期待裏切れねえ)

ホームルームのチャイムが鳴り響く。椅子がガタガタと鳴り、先生の声が教室を満たした。


部室 ― 放課後

部室はチョークの匂いと新しい汗の混じった空気で満ちていた。練習時間が近づき、西田健太、中島優斗、佐藤陸の三人は、Tシャツと短パンに着替えながらベンチに座っていた。スニーカーは半分紐が通ったまま。

西田がメガネを押し上げる。

「活動始まって結構経つけど、マネージャー、来るのかなー」

中島が短パンを履きながら頷く。

「言われてみれば、まだいないよな」

佐藤がニヤリと笑う。

「お前ら、何考えてんだよ。マネージャー目当てかよ?」

中島が慌てて手を振る。

「違う違う、西田が言い出したんだよ」

西田は顔を赤くしながら、ぼんやりした笑顔の影を想像する。

「女の子って言ったわけじゃねえよ。佐藤こそ、なんで女の子だと思った?」

佐藤の耳が真っ赤になるが、強がる。

「そりゃ普通だろ! マンガでもそうだし」

中島も負けじと。

「そうそう! 別に変なことじゃねえよ」

三人とも黙って、同じ妄想に落ちる。ポニーテールの可愛いマネージャーが、タオルを持って「先輩、頑張って!」って――

森啓太が、隅で既に着替え終えていた。

「お前ら、妄想終わり? 練習始まるぞ」

佐藤がビクッと飛び上がる。

「森先輩! いつからいたんですか!?」

森はロッカーに寄りかかり、ニヤリ。

「バカ。最初からだよ」

佐藤は真っ赤になりながらモゴモゴ。

「ま、マネージャー……バスケ部にマネージャー来るんですか?」

森は気軽に頷く。

「ああ、マネージャーなら、俺、適任者知ってるかもな」

西田の目がキラキラ。(きた! 妄想じゃねえ!)

中島が内心ガッツポーズ。(俺の青春、完璧になる……)

佐藤の心臓がドキドキ。(やっぱりマンガのマネージャーは実在するんだ!)

西田がどもる。

「い、いつ会えるんですか?」

中島は思う。(ナイス、西田。ナイスフォロー)

ドアがバタンと開く。瞬が、練習着を肩にかけながら入ってきた。

「ちーっす!」

森のニヤニヤが深まる。

「お、グッドタイミング。こいつだよ」

西田、中島、佐藤が一斉に振り向く。瞬に鋭い目線が向けられた。

瞬はドアの前で固まり、袋が床に落ちる。(なんだよ、この空気!?)

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