野心のコート
リムジンの中
リムジンの革シートが柔らかな照明に輝き、エンジンの低い唸りが静かな背景音。田中瞬はふかふかのクッションに沈み、バッグをギュッと握り、目を丸くする。(マジすげえ!こんなのに乗れるなんて思わなかったぜ!)
「やべえ、めっちゃ豪華じゃん!」と瞬がポロッと、信じられない声で。
向かいにふんぞり返る葉山翔吾がニヤリと笑う。「何、これ?普通じゃね?」
瞬の顎がガクッと落ち、声が跳ね上がる。「普通!?こんなのフツーにあるわけねえだろ!」と隣の白根レンジを肘で突く。「おい、レンジ、なんか言えよ!」
レンジは長い脚をラクに伸ばし、広々とした車内を見回す。「うーん、すげえいい車だな。こんな風に脚伸ばせるの、初めてだ。」
瞬が手をバンッと上げる、呆れ顔。「そこかよ!?」
葉山がクスクス笑い、背を預ける。「俺、背低いからそんなん考えたことなかったわ。もうちょい背欲しかったけどな。」
レンジが小さくニヤリ。「いや、先輩みたくシュート撃ちたいっす。」
数分のバカ話の後、リムジンがスーッと進む。執事の鳳が前から少し振り返る。「お話を失礼いたします、翔吾様。もうすぐ到着いたします。ご自宅へ向かう前に、どこか寄られますか?」
葉山が首をかしげ、二人を見る。「いや、俺はいいや。お前らは?」
瞬とレンジがサッと目配せ、首を振る。「大丈夫っす」と瞬、バッグをまだ握りしめ。
「かしこまりました」と鳳が答え、リムジンを滑らかに進める。
葉山の家へ向かう
リムジンが豪華な門をくぐると、瞬は窓から覗き、普通の家を期待。だが、広大な庭と大理石の噴水が目に飛び込む。目がギョッと開く。「待て、先輩、家のハズじゃね?なんでリゾート入ってんだよ!?」
葉山がゲラゲラ笑い、ニッコリ。「リゾート?ここ、俺んちだよ。コレくらい普通じゃね?」
瞬の顔がグニャッと歪む。「何言ってんすか、先輩?意味わかんねえ!」とレンジにすがる。「おい、レンジ、フォローしろよ!」
レンジは動じず、でっかい屋敷をチラ見。「…めっちゃ広いな。外に出ず走れるの、いいかも。」
瞬がズルッと座席に沈む。(もういいわ、話になんねえ。)
門が開き、整った木々が朝のそよ風にユラユラ揺れるドライブウェイが現れる。執事たちがズラリと並び、一斉に頭を下げる。「お帰りなさいませ、翔吾様。」
瞬の胃がキリッと締まる。(やべえ、俺みたいな貧乏人はこんなとこにいちゃダメだろ!)一歩一歩、ちっちゃくなる気分で進む。
屋敷の中
執事が三人を大理石の床がキラキラ輝く玄関ホールに案内、シャンデリアが光を放つ。玄関で、瞬がピタッと止まり、目がデカい靴棚に釘付け。プロアスリートのサイン入りも含む高級バスケシューズが、まるで博物館みたいにズラッと並ぶ。
「葉山先輩」と瞬が口ごもる、「これ、全部先輩の?」
葉山が肩をすくめ、ジャケットを執事にポイ。「ああ、でも俺、いつも同じペア使うだけ。お前とサイズ一緒だろ?好きなの持ってけよ。」
瞬が手をブンブン振る。「いやいやいや!ムリっす!これ、俺のボロ靴の10倍、15倍の値段すよ!」
レンジが片眉を上げ、興味津々。「10倍、15倍?バスケシューズってそんな高いの?それともお前のが安すぎ?」
瞬が胸を押さえ、わざと傷ついたフリ。「レンジ、ヒドいよ…」
レンジがニヤッ。「冗談だって。最近新しいの買ったけど、結構高いと思ったけど、これ?バカ高いな。」
葉山が割って入る、イラッと。「靴の話ばっかかよ、シュート撃つぞ。ほら、こっち来い。」
瞬の目がまたデカくなる。(待て…中で撃つのかよ!?)
葉山のプライベートバスケジム
磨かれた廊下を数歩で、ダブルドアが。葉山がグイッと開け、フルサイズの室内バスケコートが現れる。ハードウッドの床がピカピカ、頭上のライトが輝く。瞬の顎がまたガクッ。(やっぱ、葉山先輩からは予想外しかねえな。)
レンジは一瞬で切り替え、目がコートにロック。(これだ。本物のバスケコート。無駄にすんな。)
葉山が二人をチラ見、ボールをバウンド。「お前ら、シューズとウェア持ってきたよな?今日、バスケの話するって決めたんだろ。」
瞬がバッグをポンと叩き、頷く。「うい、大大丈夫っす。」
レンジもサクッと頷き、バッグをガサゴソ。「準備OK。」
バスケギアに着替え—瞬はボロ靴、レンジは新品—コートに踏み出す。磨かれた床がキュッと鳴り、空気がビシッと張り詰める。
葉山がレンジを見、ボールをパス。「で、シュート習いたいんだろ?」
レンジが背を伸ばし、キリッと。「はい、先輩。教えてください。」
葉山がボールを指でクルッと回し、ニヤリ。「習うのはいいけど、繰り返しが全てだ。生まれ持った才能もデカい—同じくらい練習しても、頭一つ抜ける奴もいる。」
瞬の肩がちょい下がり、頭が暗く。(そっか、俺、目立たねえ方だな。)
レンジが眉をギュッ。(才能?ま、やってみるしかねえ。)「葉山先輩、お願いします。」
葉山がボールをレンジにパス、レンジはフリースローラインに立つ。「そのライン、フリースローライン。相手がファウルやらかすとボーナスで撃てるショットだ。」
レンジが首をかしげ、距離を測る。「フリースロー、ね。遠いな。ここからダンクのが楽そう。」
瞬がウッと唸る、呆れ。「そんなこと気軽に言うなよ!ついでに言うけど、フリースローでダンクはダメだぞ。」
レンジが頭をポリポリ、気まずそう。「わり、知らなかった。」
葉山がゴールに顎で。「そこから撃て。どうやってもいい、ゴールに放れ。」
「了解」とレンジ、ボールをガシッと。
瞬と葉山がガン見。レンジが両手でボール上げ、女子バスケのフォームっぽく構える。瞬と葉山が目を丸くする。(すげえ、めっちゃ自然に女子のフォームじゃん!)と瞬。(コイツ、センスあるな!)と葉山。だが、ボールが落ちてくると、レンジはバレーのスパイク用セットみたくゴールにトス。ボールがグニャッと変な弧で、リムにガツンと当たって跳ねる。瞬と葉山がバタッと揃って倒れ、ド派手にドスン。
瞬が先に起き、笑う。「お、おう、わりとイケてんじゃん、ぶっちゃけ…いや、ダメだったな!」
葉山が起き上がり、頭振ってニヤリ。「またビックリさせてくれるかと思ったぜ。レンジなのにレンジゼロってどういうこと?」
レンジが首をポリポリ、照れ。「実のとこ、シュートなんて撃ったことねえっす。」
ボールがリムから跳ね、葉山の方にコロコロ。葉山がサッと拾う。「よし、レンジ、ゴール下からだ」とゴール下を指す。「そこから始めようぜ。」レンジが頷き、目がリムにロック、決意がチラッと光る。(ここからだ。)瞬がレンジの肩をポンと、ニッコリ。(こいつ、根性あるな。)コートの響きが三人の集中を運び、でっかい一歩の始まりだ。




