表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

瞬の盗まれた秘密

龍鳳高校、午後

田中瞬は体育館に向かってトボトボ歩き、ジャージがスウスウ擦れる。朝の騒ぎがまだ頭から離れず、ブツブツ呟く。白根レンジのファンガールたちにまた囲まれ、「レンジ君、カッコいい!」とクスクス笑いながら紹介をせがまれた。(なんで俺なんだよ?)

「はー、ようやく解放された!」廊下で小石を蹴り、呟く。「レンジのファンクラブ、しつこすぎだろ。『レンジ君、カッコいい!』って—直接話すか、SNSで絡めよ!なんで俺の悩みになってんだ?」首を振る。(チッ、なんでこんなことでイライラしてんだ?これから練習だ。集中しろ、瞬。)

カバンに手を入れ、ボロボロの「バスケ日記」と殴り書きの漢字で書かれたノートを取り出す。ページをめくり、龍鳳のチームの詳細な分析を眺める。(このメンツなら、インターハイ、いや、ウィンターカップだって狙える。) 唇に小さな笑みが浮かぶ。(うるさいファンガールは別として、龍鳳にして正解だったな。)

物思いにふけり、角を曲がった瞬間、壁—と思ったら誰かにドン!とぶつかり、尻もちをつく。ノートが床に滑る。

「おい、大丈夫か?」低い声が響く。

瞬が目をパチクリ、埃を払い、凍りつく。工藤大知がデカい体で光を遮る。(よりにもよってコイツか…)

「す、すみませんでした、工藤先輩!」瞬が慌てて立ち、頭を下げる。「前見てなくて!」

工藤が手を振る、坊主頭を擦りながら。「別にいい。」目がノートに止まり、「バスケ」の文字に気づく。「そのノート、なんだ?」

瞬が無理やり笑い、ノートを拾う。「ただの日記っす。ほんと、なんでもねえです。」

背後から緑の閃光が飛び出し、葉山翔吾がノートをパクッと奪い、ニヤニヤ。「スティール!何書いてんだ、田中!」

「葉山先輩、返してください!」瞬が飛びつくが、葉山はひょいと避け、ページをめくる。

「ダメだ!」葉山が大げさに読み上げる。「龍鳳練習初日:『先輩たち、バケモノだ!あんな風にプレイしたい!』いやー、かわいいな!」

瞬の顔が真っ赤。「先輩、恥ずかしいっす!工藤先輩、なんとかしてください!」

工藤が腕を組み、ニヤリ。「スティールされたなら自分で取り返せ。」

瞬がポカン。「そ、そんな…」

葉山がページをめくり、瞬の奪還をかわす。「お、こりゃ傑作!『隣のコートでバレー部が練習。レンジのサーブ、ドカン!ってすげえ音、体育館中に響いた!』」クスクス笑う。「ああ、覚えてる。アイツの腕、ヤバかったな。」

瞬がまた飛びつくが、葉山がスッと避け、読み続ける。「よ、工藤先輩、見てみ!スキル表あるぞ。お前のアウトサイドシュート、ほぼゼロだって!」葉山がケラケラ笑い、ノートを工藤に投げる。

工藤が受け取り、眉を上げる。表を開き、ニヤリが消える。握り潰す勢いでノートを掴み、目が鬼のように細まる。「待て…なんでレンジのリバウンドが俺より高いんだ?」

瞬が手を振り、焦る。「ただのメモっす、先輩!マジにしないで—俺の感想ですよ!」

工藤の目がさらに暗く、葉山のイジリを無視。「で、お前、レンジの方がリバウンド上手いって思ってんのか?」

瞬が言葉に詰まり、固まる。葉山がニヤニヤで割込む。「まあ、工藤先輩、コートで証明すればいいじゃん!でもさ、そのシュート評価、大丈夫?」また爆笑。

「うるせえ!」工藤が吠え、葉山の襟首を掴んで漫画みたいにシューッと投げ飛ばす。葉山の笑い声が遠ざかり、ドン!と着地。

工藤が次のページをめくり、鬼モードが驚きに変わる。目を大きく見開き、じっと見つめる。「これ…マジか。こりゃ中村に見せねえと。」

瞬の胃がキリキリ。「待って、先輩、返してください!」

工藤の鬼の目が戻り、瞬の抗議を黙らせる。「練習後に返す。借りるぞ。」

瞬がガックリ、崩れ落ちる。(俺の人生、終わった…)

龍鳳高校ロッカールーム

ロッカールームで、中村陸がスニーカーの紐を結び、練習着に着替える。短い髪が水で濡れている。工藤がノートを手に突進、いつもの渋面が緊迫感に変わる。

「中村、これ見てくれ」と工藤がノートを差し出す。

中村が眉を上げる、リストバンドを調整。「待てよ、ラーメンのツケ、先に払えよ。」

工藤が咳払い、目を逸らす。「ああ、うん、次で、約束な。」ノートを押し付ける。「いいから見ろよ。アイツ、なんかヤバいぞ。」

中村が怪訝そうに。「アイツ?」

工藤がノートを渡す。中村がページをめくり、瞬の殴り書きの漢字を追う。あるページで止まり、表情が変わる。灰色の目が大きく輝き、驚きと興味でキラキラ、手がわずかに震える。

工藤が腕を組み、頷く。「だろ?」

中村の視線がページに留まり、かすかなニヤリが浮かぶ。(こりゃ、変わるな。)

ロッカールームの外でチームの声が響く中、瞬のノートは中村の手の中で、龍鳳のバスケの夢を揺さぶる秘密を抱えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ