遠藤VSレンジ
レンジのコート、熱がうねり出す!遠藤との勝負、どうなるんだ?
ストリートコート
夕陽が傾く中、ストリートコートのひび割れたコンクリートが薄くオレンジ色に染まっていた。ここは数週間前、レンジとシュンが大学生たちと戦った場所だ。バスケットボールのリズミカルな音が響き、軽い空気が漂っている。コウキ、タクミ、ダイキ、コージの四人が軽くシュートを打っていた。
コウキがドリブルを止めて、スマホを見つめながら目を輝かせた。「おい、タクミ、これ見てくれ!」と声を上げ、画面を長髪のタクミに見せた。
タクミは額の汗を拭い、疑わしげな目つきでコウキを見た。「何だよ? また変なトクティク動画か?」ジャンプショットを放つが、ボールはリムに当たって鈍い音を立てた。(また外した……あの日の試合から調子が悪いな)と思いながら首を振った。
「いや、白陽だよ」とコウキが興奮気味に言った。「今、練習試合やってるんだって」
ダイキが振り返り、リバウンドを取ってボールを腰に当てた。深い茶色の瞳が細くなる。「白陽、か……懐かしいな」その声には懐かしさとほろ苦さが混じっていた。(二年前……俺たち、県大会まで行けると思ったけど、結局ダメだったな)ボールを握る手に力がこもった。
コージがフェンスから身を起こし、キャップを後ろにずらした。「卒業してからもう二年か」と小さく呟いた。(あの頃は無敵だと思ってた。甘かったな)
タクミが近づき、コウキの肩越しにスマホを覗き込んだ。「相手はどこだ?」
「龍鳳だよ」コウキが生配信のコメントをスクロールしながら答えた。「去年、準決勝まで行ったチームだろ?」
コージが目を輝かせ、バスシューで地面を擦りながら駆け寄った。「龍鳳? なあ、コウキ、URL送ってくれ。タブレットで見ようぜ、画面デカいし」ボロボロのタブレットを取り出し、フェンスに立てかけた。
四人がタブレットに集まり、ザラついた配信画面が動き始めた。スコアが表示される。白陽28、龍鳳10。龍鳳の一年生たちは慌ただしく動き、白陽の洗練されたプレーに翻弄されていた。コウキが画面を指差して声を上げた。「お、ほら、新井だ! 4番つけてる――キャプテンになったんだな」ダイキが目を丸くした。カメラがアリウープを阻止する長身の選手を映し出す。レンジだ。画質が悪くてもその姿は見間違えようがない。
「なあ、見ろよ! あいつらだ!」ダイキが驚きの声を上げ、画面を指差した。
タクミが身を乗り出し、ポニーテールがコウキの肩に触れた。「龍鳳の生徒だったのか」声が低く、胸に微かな不安がよぎった。(あのジャンプショットをバレーのスパイクみたいに叩き落とした奴……今、あそこにいるんだ)
コウキがニヤリと笑い、キーホルダーがカチャカチャと鳴った。「めっちゃボコられてるじゃん」笑い声には苦々しさが滲んでいた。(俺たちにあんなことしたんだ。いい気味だ)
コージがキャップの影でニヤついた。「俺たちにした仕返しだな」と満足げに言った。「白陽、生配信で恥かかせてやれ。徹底的にやれよ」
龍鳳高校体育館
体育館は緊張と熱気が渦巻く空間だった。無数の練習で傷ついた木の床が、今は本物の戦いの舞台と化している。スコアボードには白陽28、龍鳳10と表示され、厳しい戦いを物語っていた。まばらな観客がざわめいている。陸上部が脇に広がって小声で話しており、二階のバルコニーではクラスメイトが手すりに身を乗り出し、スマホで撮影していた。汗と期待、そしてスニーカーの擦れる音が響き合う。
レンジはコートに立ち、先ほどのアリウープ阻止の余韻で胸が激しく上下していた。新しいアディスターズはバレーシューズとは違う感覚で、ソールが床をしっかり捉えている。心臓が早鐘を打ち、観客のざわめきとシンクロしていた。汗がこめかみを伝い、鋭い黒い瞳でコートを見渡した。白陽の白いユニフォームが機械のように動き、龍鳳のチームはバラバラながらも必死に食らいついていた。アドレナリンが体を駆け巡るが、その下で不安が渦巻いていた。
(ここはストリートコートじゃない。遊びの試合じゃないんだ。あいつら、化け物だ)白陽の選手たちを見た。新井が正確にプレーを指示し、遠藤がペイント内で獰猛な存在感を放つ。レンジのバレーで培った反射神経は守備で活きた。パスを弾き、リバウンドを確保し、速攻のチャンスを作り出していた。だが、攻撃ではまるで役立たずだった。ドリブルはぎこちなく、動きも洗練されていない。(シュートなんて、まるで素人だ。俺、何やってんだ?)
自信を持った態度とは裏腹に、レンジの心は迷いで揺れていた。こんなハイレベルなバスケの試合は初めてだ。ミスが大きく響く。バレーではエースだった。コートの隅々まで把握し、試合のリズムを支配していた。だがここでは、ただの初心者だ。深いプールに放り込まれた気分だった。チームメイトの視線が重い。シュンの必死な動き、石橋の静かな苛立ち、一年生たちの隠しきれない焦り。(俺のせいでみんな苦しんでる。俺が足引っ張ってるんだ)その思いが心を締め付けた。だが、シュンが守備の穴を埋めるために全力で走る姿が目に入った。(違う。俺は自分のためだけにここにいるんじゃない。俺が選んだんだ。俺はこのチームの一員だ。証明しないと)
レンジの視線が石橋に移った。新井からボールを奪おうとして失敗し、息を切らしている石橋の目に迷いが見えた。レンジはそばに寄り、静かな存在感で支えた。しっかりとした視線で頷くと、石橋は一瞬ためらい、頷き返した。(石橋も頑張ってる。みんな頑張ってる。俺、みんなを失望させるわけにはいかない)大げさな行動ではないが、その瞬間、レンジの決意が固まった。もう自分だけの戦いではない。
佐藤が近づき、静かな声で言った。「ナイスブロック、レンジ。いけるぞ」その控えめな励ましには信頼が込められていた。中島も小さく頷き、「この調子だ。まだいける」と慎重ながらも前向きな言葉を添えた。ベンチでは西田がメガネを直し、「遠藤にやられないでくれ……頼むよ」と震える声で呟いたが、その小さな言葉がレンジの闘志をさらに燃やした。
第二クォーターが進む中、体育館は緊迫感で張り詰めていた。レンジの守備力が効き、龍鳳は少しずつ点差を縮めていた。スコアは30対14。バレーで鍛えた反射神経でペイント内を固め、パスを弾き、リバウンドを奪い、速攻のチャンスを作り出していた。観客もその変化を感じ、ざわめきが歓声に変わっていった。ベンチでは先輩たちが興味深く見つめていた。中村が身を乗り出し、灰色の瞳が鋭く光った。(まだ粗削りだが、試合を変えてるな)と小さく口元が緩んだ。森がボールを指で回し、「ほら、怪物だって言ったろ」と葉山に囁くと、葉山は普段の穏やかな笑顔を消して頷いた。「面白くなってきたな」と答えた。工藤も小さく笑い、太い声で呟いた。「根性あるな」
だが白陽は龍鳳を簡単に巻き返させる気はなかった。遠藤がついに我慢の限界を迎えていた。レンジに空中戦で二度もシャットアウトされ、アリウープを叩き落とされ、ペイント内で楽に得点できなかった。遠藤の我慢が切れた。トップ・オブ・ザ・キーまで進み、新井にボールを要求した。「よこせ」と低い声で唸った。新井が一瞬ためらい、パスを放つと、遠藤がドンッとボールを受け取った。
観客が静まり、一触即発の空気が漂った。遠藤がトリプルスレットの構えを取った。体を低くし、ボールをしっかり握り、レンジを睨みつけた。シュンが駆け寄り、急いで警告した。「レンジ、気をつけろ! トリプルスレットだ!」
レンジが眉を寄せ、床を踏みしめた。「トリプルスレット?」と低い声で聞き返した。
シュンが目を丸くしたが、素早く教えた。「その構えだとドリブル、シュート、パスの三択だ。注意しろ!」
レンジの頭がフル回転した。(なるほど、だからトリプルって言うのか。どれを選ぶか当てなきゃいけないんだな)遠藤と向き合い、黒い瞳で相手の動きを捉えた。体育館の空気が一瞬で締まり、雑音が消えた。二人の世界だけがそこにあった。
遠藤がニヤリと笑い、軽蔑するような声で言った。「跳躍力は認めてやるよ。だがそれが、お前の最大の弱点だ」
レンジの表情は揺らがなかったが、心臓が速く鼓動した。「は? 来るのか来ないのか?」
「落ち着けよ、新人」と遠藤が嘲笑った。獲物を狙うような目で見た。「気づいてないと思うなよ。お前、初心者だろ?」
レンジが顎を固くした。一歩も引かなかった。「それがどうした?」
遠藤の笑みが広がり、獲物を弄ぶような態度だった。「なんでもねえよ。お前を叩き潰すだけだ」
遠藤が左へジャブステップを踏み、レンジの反応を試した。レンジは僅かに動いたが、反射神経が働いて堪えた。遠藤が心の中で頷いた。(反応いいな。なら、これをどうする?)シュートのフェイントを入れた。肩をわずかに上げ、ボールを放つ動きを見せた。レンジが本能的に反応し、脚が地面を離れた。ブロックを狙った。
(かかったな。完全に初心者だ)と遠藤が心の中でニヤついた。
レンジの心臓が沈んだ。(くそ、引っかかりかけた。気をつけないと)アディスターズが床を擦り、着地した瞬間、バランスが少し崩れた。
「行くぞ、新人」と遠藤が挑発した。低い唸り声だった。
遠藤が再びジャブステップを踏み、左へドライブした。動きは流れるように鋭い。レンジが素早く反応した。(来る!)と直感が叫んだ。遠藤を止めるために動いたが、遠藤は即座に右へスピンをかけた。レンジが逆方向に傾き、観客が息を呑んだ。遠藤がフリーになり、ゴールへの道が開けた。レンジが必死に追いかけ、長い脚を動かして遠藤に迫った。
遠藤がシュートのモーションに入った。レンジが腕を伸ばし、懸命にブロックしようとした。だが遠藤が途中で動きを止めた。フェイントだった。「もう終わりだ、新人」と遠藤が勝利の笑みを浮かべた。
レンジが目を細め、鋭い声で言い返した。「何度その手に引っかかると思う?」今度はフェイントに引っかからなかった。遠藤の表情が一瞬揺らいだ。(何!?)と動揺が走った。レンジが体を低くし、集中力を研ぎ澄ませた。遠藤が焦り、フォームが乱れたまま無理やりシュートを放った。
レンジが本能的に動いた。バレーの感覚が蘇り、ネットの後ろにいるかのように両腕を上げた。バレーのブロックのように両手でボールを空中で押さえ込み、相手のスパイクを止めるような勢いで跳ね返した。ボールは跳ね返らず、レンジが力強くつかみ取って、ドンッと音を立てて引き寄せた。体育館が歓声で爆発した。
シュンが興奮で声を張り上げ、拳を振りながら駆け寄った。「レンジ、すげえ! シャットアウトだ!」
石橋が珍しくニヤリと笑い、レンジに頷いた。「やるじゃん、新人」とぶっきらぼうだが温かみのある声だった。(こいつ、ただの足手まといじゃないのかもな)とこれまでの疑念が和らいだ。佐藤が手を一度叩き、静かに応援した。中島が小さく安堵の笑みを浮かべ、慎重ながらも希望が見えた。ベンチでは西田が息を吐き、「よかった……」と呟いた。
ベンチの先輩たちは皆笑顔だった。中村の口元が緩み、灰色の瞳が光った。(成長が早いな)と心の中で呟いた。森が小さく笑った。「あいつ、ほんと怪物だな」と呟き、葉山が頷いた。「これ、逆転あるかもな」と答えた。工藤も小さく笑い、太い声で呟いた。「根性あるな」
観客席では高田が腕を組み、試合を見ていた。口元が緩み、小さく呟いた。「お前、ほんとに新しい居場所を見つけたんだな」踵を返し、足音が小さく響いた。誇りとほろ苦さが胸に広がった。
ストリートコート
大学生たちはタブレットの画面を呆然と見つめた。コウキが沈黙を破り、ダイキを肘でつついた。「なあ、ダイキ、あいつ、お前にしたのと同じことやってるぞ」とキーホルダーを鳴らしながらからかった。
ダイキの顔が暗くなり、ボールを握る手が強くなった。「黙れ。見とけ」と苛立った声で言った。(あのブロック……また俺をバカにしてるみたいだ)
タクミの脳裏にあのストリートコートの試合が蘇った。レンジがフェイントに引っかかり、すぐに対応した瞬間だ。(もうフェイント読めるのか)と苛立ちと感嘆が胸の中で混ざった。(成長、早すぎだろ)
スポーツショップ
スポーツショップでユイがカウンターに寄りかかり、スマホで生配信を見ていた。レンジのブロックが決まると、優しい笑顔が広がった。「ナイス、レンジ」と小さな声で呟いた。(ほんと、やってくれるね)
龍鳳高校体育館
レンジはボールを手に立ち、胸が激しく上下していた。観客の歓声が波のように押し寄せた。タクミのジャンプショット、中村のフェイク、過去に何度もフェイントに引っかかってきた。だが今日、重要なことを学んだ。(我慢だ)と心の中でその言葉が響いた。(なんでもかんでも跳べばいいってもんじゃない。読んで、待って、反応するんだ)まだバスケ選手として洗練されてはいない。だがこの瞬間は一歩前進だった。知らないコートでの小さな、だが大きな成長だった。
遠藤がレンジを睨み、自信は揺らいだが闘志は消えていなかった。「運が良かっただけだ」と苛立ちを抑えた声で吐き捨てた。「次はお前を叩き潰す」
レンジは答えず、黒い瞳で遠藤を静かに見据えた。(好きに言えよ。俺は負ける気はない)
第二クォーター終了のブザーが鳴った。スコアは32対18。まだ龍鳳が負けているが、点差は縮まり、コートの空気が変わっていた。一年生たちが集まり、疲れ切った顔に新たな闘志が灯っていた。シュンがレンジの背中を叩き、満面の笑みで言った。「巻き返してるぞ、レンジ! この調子だ!」石橋が頷き、かつての不安が静かな決意に変わっていた。中村と先輩たちがベンチから見つめ、期待と満足が入り混じった表情だった。
レンジが額の汗を拭い、チームメイトたちを見渡した。試合の重圧が肩にのしかかるが、潰れるほどではない。遅れて来た自分、経験不足でつまずいた自分。だが今、ここに立って、試合開始時になかった明確な感覚があった。(俺はただプレーするためにここにいるんじゃない。このチームを支えるために、ここにいるんだ)と決意が鋼のように固まった。
レンジ、遠藤をシャットアウト!次はどう動く?X: @RyuhoBasketballで熱く語れ!