アルバイト
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「はい、少々お待ちください。オーダー通します。」
俺は早足で歩きまわる。手に銀色の丸いお盆を持ち、テーブルからテーブルへ。水を運んで、食器を下げて。調理場へオーダー通して。はぁ、何で今日に限ってこんなに忙しいんだ?あーそっか近くで祭りやってんのか、だからみんな今日は登録シフトがスッカスカだったのか。失敗した。
「真央君、パスタ出来たから持って行って。十六番テーブルね」
「あ、りょーかい」
出されたパスタをお盆に載せて、十六番テーブルを目指す。途中で、八番テーブルの横を通り過ぎる。ウリエルとガブリエルが興味津々な表情で俺の持っている、トマトソースを絡めたパスタに視線を集中させていた。
「お待たせしました。トマトとチーズのパスタでございます」
俺はテーブルに音を立てないように注意しながら、且つ迅速にパスタを差し出すと、ペコリと一礼をしてすぐに次のオーダーに走る。
「真央君、今度は二十五番テーブルよ。三つ持てる? 」
「おっけー余裕だ。任せろ」
器用に料理が盛られた皿を三つ両手に持つと、再び八番テーブルに目をやる。やはり、俺の持っている料理を物欲しそうにじっと見つめるウリエルとガブリエルがいた。
バイト直前まで散々悩んだ挙句、大事な収入源をむざむざ放棄するわけにもいかなかった俺は、しょうがなく二人をバイト先に連れてきた。六十歳の還暦をとうに迎え益々艶やかに成ったと噂される店長に、事情を説明し快諾をもらった俺は、店の八番テーブルに二人を座らせ、自腹を払い二人ぶんの料理(正確にはまた四人分であるが)を二人に振る舞いバイトの時間の間待たせることにした。中々ハードな1日だなぁ。
「真央君、これ」
見ると、パフェが二つ置いてあった。
「これ、何番テーブルですか?」
「八番テーブルよ。八番」
「えっ」
「私のおごりよ、おごり。そろそろ、お二人が全部食べちゃった頃合じゃない? 」
「あーすまん。七瀬、サンキューな」
この子は#雛菊__ひなぎく__# #七瀬__ななせ__#。同じ大学で同じバイト先だ。小柄だがハキハキと物を言い、どこかお姉さんの雰囲気を醸し出す。子猫のような可愛らしい顔にクリッとした目。笹本、七瀬、俺の三人は何故が大学に入った頃から気が合って、いつも一緒にいる。今日、七瀬がいなかったのは、月曜の講義を取っていないから。つまり、こいつは朝から晩までこのバイト先にいる。毎週月曜日は通しで働くのだそうだ。俺には絶対に真似できん。
「良いのよ。今度何か奢ってね」
七瀬はニコリと笑うと忙しそうに厨房の中へ消えて行った。俺は、七瀬に奢ってもらったパフェを二つお盆に乗せると八番テーブルに向かう。
「おい、余りキョロキョロするんじゃない」
周りのお客様の食べている料理を興味津々な眼差しで見ている二人に声をかける。
「ま、魔王!その手に持っているものは何ですの! 」
「パフェだ、パフェ。チョコレートの甘いやつだ」
「お姉様、何だかキラキラ輝いてます。それに甘い香りもします」
ガブリエルは嗅覚がすげーな。
「しかし、本当に次から次へと色々な種類の料理がありますのね。パフェですの……ふむ」
テーブルの上に置くパフェに二人の視線が集中する。あまりの視線の熱さにまるでパフェが溶ける様であった。