監視
「お前らまさか、付いて来る気か? 」
「当たり前ですの、魔王から目を離す訳にはいきませんの」
ウリエル達が来る時に使った魔法陣の丁度真上、つまり俺の家の玄関前でニコニコ笑って付いて来る二人に俺は問いかけた。ウリエルとガブリエルは、昨日俺ん家に乗り込んできた格好である白のワンピースに天使の羽で、裸足というスタイルだ。いやいやちょっと待ってくれ、そんな格好で付いてこられたら、俺目立ってしょうがないんだけど……
あれから朝食をトコトンまで堪能した二人は、冷蔵庫の食材をほぼ平らげた後、満足げな顔をしてお礼にと天界の話を詳しくしてくれた。俺に情報を流していいのかよ、俺は魔王なんだろ?……まあいいか。俺は魔王じゃないし。
この二人が言うに、天界には天使の住んでいる場所があり、ごく普通に彼女達にも仕事があり、意外に世俗的で職安みたいなものまであるらしい。また、天界での流行や儀式などの話もあった。
ただし、これはやはりと言うべきか当然と言うべきなのか、皆馬鹿正直で嘘、偽り、騙しなどが全く無い世界らしい。まあ、それはこいつらを見ててもよくわかる。
兎に角、今日は月曜日。大学に行く支度を済ませ、遅刻の可能性があるから慌てて外に出たのだが、こいつらも一緒に出て来たので何処に行くんだと問いかけた。今はまあ、まさにそんな状態である。全くもって忙しい。
「で?魔王は今から何しにいくんですの? 」
「勉強だ勉強! 」
「お勉強? 汚い言葉の使い方や騙す方法とかの勉強ですの? 」
「なんでそうなるんだよ!大学へ勉強しにいくんだ」
「大学?それは何ですの? 」
「いーから、お前ら家で待ってろ」
「嫌ですの、魔王を監視するのが我々の使命ですの」
駄目だ、ウリエルもガブリエルも付いて来る気満々だ。これはマズイな。例えばこいつらを連れて行ったとしよう。真っ白の服に真っ白の羽、しかも髪の色はピンクとライトブルー。
絶対に目立つな、三秒で注目を集めるはずだ。何とかせねば……。
「分かった分かった、付いてきても良いがその羽と真っ白な服は何とかならないか? 」
ウリエルとガブリエルはお互いに顔を見合わせた後、これまたお互いの服を眺めた。
「何故ですの?理由が判りませんの」
「無用な混乱は避けるべきだとは思わんか? 」
「はて、無用な混乱って何ですの? 」
やはりこうくるか。まあ、予想はしてたんだがな。
「真っ白のワンピースってだけでも結構目立つのに、羽まで生えている天使が二人もいたら、みんな混乱すると思わないのか? 」
「うーん……」
考え込むウリエルを、下から不思議そうな顔をしてガブリエルが覗き込んでいる。
「それもそうですのね。突然、天使が二人魔王の後をついて歩き回っていたら、住民の皆さんが混乱するかもしれませんの」
良かった、勝手に納得してくれたな。しかしどうするつもりだ、羽を引っ込められるのか?
「でも、魔界ではどんな衣服を着るんですの?想像つきませんの」
「よし、ちょっと待ってろ」
カバンの中に雑誌があったはず。えーと、あ、これだこれ。確か最初にアイドルの写真が何枚かあったはず……うーん、ちょっと派手だけど、今の格好よりはマシか。
「これ参考になるか?」
「ふむふむ」
お、やけに食いつきが良いな。それなりにやはり着飾ることに興味があるのだろうか。
「何だかごちゃごちゃしている衣服が魔界では流行りですのね。いいですの、少し待ってくださいの」
ウリエルは俺の手から雑誌を取り上げると、ガブリエルに見せて、「貴方はこっち、私はこっち」などと指示していた。おいおい、明らかにガブリエルは不満そうだぞ大丈夫か。
まあどうでも良いが、早くしてくれ時間があまり無い。
「これ、お返ししますの」
ウリエルは雑誌を俺に手渡すと、ガブリエルとともに瞑想に入った。二人の体が少し宙に浮き、二人の白いワンピースが淡い光をあげて光ると、やがて雑誌に載っていた有名アイドルの着ていた服に落ち着いていく。
羽も見事に消えていた。
「これで、いいですの? 」
こいつはたまげた。驚いた。
服が光って変化することも驚きなのだが、素が良いからか雑誌の有名アイドルさえ悔しがるほどに、輝く二人がそこにいた。しかし困ったな、こうなると別の意味で目立つんだよな……。