魔法陣
「証拠は、これですの」
ウリエルが俺の玄関前にある、アパートの廊下を指差す。そこには奇妙な図形が描かれていた。俺も初めて見るのだが、これが魔法陣と言うやつか。
丸と三角の複合そして所々に奇妙な文字が描かれた魔法陣が淡く光り輝いている。へえ、なかなか凝っているじゃないか。
「これがここにある事が、あなたが魔王である証拠ですの」
「説明を全部端折るな。全くわからん」
おい、ウリエル。その「やれやれ、しょうがないですの」と言いたげな表情をやめろ。それと、ガブリエル。ウリエルの陰に隠れてこちらを見るな、初対面とは言え、女の子に恐れられると言うのは結構ショックなんだぞ。
「私達はこれを使って、天界から瞬間移動して来ましたの」
ほう、そう言う設定なのか。しかし、魔法陣から登場するのは悪魔ではなかったか?天使も登場するのか。魔法陣と言う代物について詳しくは知らんが、この淡く光っているのは多分、蛍光塗料なんだろうな。
「この魔法陣は、魔王の城の前に現れるように設定されていますの。つまり、これがここに描かれていると言うことは、あなたが魔王ってことですの」
「いや、俺は魔王ではない。桜瀬真央と言うただの人間だ。何かの間違じゃないのか? 」
「魔法陣の出現は絶対ですの」
うーむ。ウリエルもガブリエルも悪い奴には見えない。
ちょっと整理してみよう。こいつらの目的は俺、つまり魔王(俺は決して魔王ではないのだが)を倒すこと。攻撃方法は悪口。悪口を言うつまり、攻撃をすると少なからず自分もダメージを食らう。
……なんて馬鹿な設定だ。人を騙すならもうちょっとマシな設定はなかったのか。
まてよ、こいつらが言ってる事が本当ならどうする。まあ、百歩譲ってそんな事は無いと思うが……。まあ良い、可能性だ可能性。例えばウリエルとガブリエルの髪の毛はウィッグとして、二人の背中から生えている羽は天使のそれそのものだよな。
「ちょっと失礼」
ウリエルに近づき、髪の毛を軽く引っ張ってみる。……何だと、引っ張るたびにウリエルの頭が動く。
ん、ウィッグではないのか。もうちょっと強く。
「一体なにしてるんですの」
ウリエルが不思議そうな顔でこちらを見ている。
うーむ、本当にウィッグでは無いようだな。ああ、成る程染めているのか。しかし、二人ともこんな派手な色じゃあ普段の生活に支障が出るだろうに。まさか、普段の生活でウィッグを付けてるのでは。うん、きっとそうだ。
「いやあ、本物の髪の毛かなと、思ってな」
「本物の髪に決まってますの。やはり魔王、発想が不思議ですの」
いや、俺はお前らの髪の色の方が不思議だと思うのだが。
「失礼、ついでにこっちも」
ウリエルの羽を掴んでみる。なんだこれは、生暖かいぞ。まるで本物の羽みたいじゃ無いか。ちょっと引っ張ってみよう。おや?外れる気配がない……まさか。
「やっぱり魔王は発想というか、行動が読めませんわね。羽がそんなに珍しいですの? 」
「珍しいってお前、普通、人間に羽なんか生えてないだろ」
「人間?なんですのそれは。羽なんて誰にでも生えていますの。魔族にも羽はあるとは聞いていますの。あれ?そう言えば、あなたには禍々しい羽が生えてい無いですのね。魔王は羽が無いんですの? 」
ガブリエルもウリエルの陰から不思議そうな顔でこっちを見ているな……やめろ、禍々しい羽を探すな。そんなもの生えてるわけないだろうが。
「まさか、この羽が本物って事は無いよな? 」
んなわけねーだろ。俺はなにをわざわざ確認しているんだ。
「本物ですのよ」
ウリエルは簡単に言って、翼を広げ数回軽く羽ばたいた。ウリエルの体がふわりと浮き上がる
「どうしたんですの?そんなに驚くことですの? 」
ウリエルとガブリエルは、二人揃って驚く俺を不思議そうに眺めている様だった。