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第4話 ガブの想い

お久しぶりです

叶音ゆいです


更新を忘れていたんじゃなくて、タイミングが無かったというか音楽してたというかそんな感じでございます

みんなヒカリさんとガブちゃん推してくれ~

 ついに下界では戦争が始まってしまった。

 シニエストロもサグラードも互角に争っている。少なくともシニエストロは同盟のことをサグラードには直接伝えていなかったみたいだ。天使への対策が少し甘い。

 魔法光線が飛び交い、前線では近接武器同士の争いまでもが繰り広げられている。何処の国のものでもない平原が、何の罪もない動物たちが、草木たちまでもが戦争に巻き込まれ炎に飲まれてゆく。

 ボクはそれを見守る事しかできない。だってボクは戦闘員じゃないから。

 でも、大切な従姉妹は、ガブちゃんは、既に戦闘に赴いている。結局魔法は完成しなかったみたいで、あの後会いに来ることもなく戦いに向かってしまった。

 魔法開発はサグラードと協力し、戦争ではシニエストロと協力。ボクならそんなことできない。本当にあの子は器用だなと素直に感心してしまう。

「ヒカリ様!」

 とても慌てた様子の下級兵士がやってきた。

「どうしたの? そんなに慌て――」

「ガブ様が……ガブ様がっ!」

「ま……さか?」

 その兵は悔しそうに、うつむいて首を振った。

 そんな、なんで。どうして。どうしてあの子が……!


「ガブちゃん!!」

 ボクは自分の寝室のベッドの上にいた。冷や汗をびっしょりかいている。

 今のは、夢?

 ほっぺをつねってみた。うん、痛い。さっきのは夢だ。

 そもそも戦争自体はまだ始まっていないはずだ。寝過ごしていなければ。

「どうしたヒカリ? こんな夜中に急に大きな声なんか出して」

 不機嫌そうな顔で父さんが入ってきた。

「……何でもないよ父さん。ごめんなさい」

「そうか? お前が何でもないっていうときは大抵何かあると思ったんだが」

「何でもないってばっ!」

 自分でもびっくりするくらいの大きな声が出た。父さんもびっくりして固まっている。

「――ちょっと夜風にあたってくる。父さんは先に寝てて」

 呼び止めようとする父さんを振り切って外に出てきた。

 当たり前だけど誰もいない。そして少し気温が低い。

「はぁ、さすがに薄着過ぎたかな」

 いつも寝るときはでっかいシャツ一枚なことが多い。その格好のまま出てきてしまった。

「ヒカリちゃんまた寒そうな格好で外にいるー」

 この声は間違いない。ガブちゃんだ。

「風邪ひいちゃうよ?」

「ガブちゃんこそ、そろそろ動き出すんでしょ?」

 具体的な日程こそ決まっていないものの、下界の戦争の準備は着々と進んでいるらしい。

「そうなのよ、もう少しで完成だから間に合うといいんだけど」

 ガブちゃんはここ最近毎日朝早くにサグラードに行って例の切り札(ジョーカー)の研究をしているらしい。夜は遅くに帰ってくるって聞いてるから、ちょうど帰ってきた時間なのだろう。

「でー、なーんでそんな薄着で出てきちゃったのよヒカリちゃん」

「えっと、父さんとちょっと喧嘩しちゃって」

「叔父さんも今回の戦争のあれこれでバタバタなんだっけ?」

 実はお父さんも戦争には一部協力している。人間と天使の融合の話が確定して、何やら古代禁術を使うらしい。その術が使える天使と、優秀な戦闘兵を集めているとか聞いた。

「ガブちゃんも融合の候補って言ってた」

「あっはは、笑えちゃうね? アタシがそんな野蛮な戦闘するはずがないじゃないの」

 ガブちゃんは基本的には戦わない。いざ戦ったら強そうだけど、弓も上手いし。

「アタシが戦わないのは神に最も近い存在って言われてるからよ。実際にはヒカリちゃんと同じで戦う気もあまりないんだけど」

「へっくしゅ!」

「あーほらヒカリちゃん薄着だからー! そろそろ帰りな?」

「ガブちゃん、ちゃんと……また会えるよね?」

「何を心配してるの? ヒカリちゃん、当然また会えるわ。アタシたちならね」

 別れる前に一度だけ抱擁を交わした。ガブちゃんの身体も夜に冷えていた。彼女の翼は少しだけ黒くなっていた。


 三日後、戦争の日程がついに決まった。明日の朝だ。

「ええ? 明日!?」

「仕方ないだろうさっき決まったんだから」

 上も勝手である。いつもそういう会議があるときは呼ばれるのに。

 呼ばれないということにはそれなりの理由はあるのだろうけど納得できない。かといって直接文句を言いに行くのもめんどくさい。

「戦争始まる前に、またあの場所に行こうかな」

「ヒカリ? 一体どこに――」

 呼び止める父さんの声はやっぱり無視していつもの村に来た。

 やっぱりここの空気は澄んでいて落ち着く。

 ねぇ、ルシフェル。あなたなら一体どうするのかしら? いいえ、聞かなくてもわかるわ。あなたはきっとあなたのやりたいことをやる。

「でもボクは、ボクのやりたいことがわからないよ……」

 シニエストロに好感の持てないボクは今回の戦争に協力するつもりがない。とはいえ、ボクの地位として何もしないことは許されない。事実をそのまま記録することが良しとされないのは辛いことだ。あくまで、人間達を支持するように記さないといけない。

 それが天使の宿命(さだめ)だってみんな言うから。

「やっぱりここに来てたのね、ヒカリちゃん」

「ガブちゃん……」 

 ひどく疲れた様子のガブちゃんが会いに来てくれたみたいだ。神力(しんりょく)の弱りをすごく感じる。それに翼がさらに黒くなった気がする。

「ガブちゃん、堕天したでしょ」

 小声で聞いてみたら驚いたような顔をしている。

「ヒカリちゃんには隠せないか。うん、アレの研究でなっちゃったみたい」

 下界との強い繋がりがあると堕天化が進むようだ。ルシフェルがそうだったように。そもそも今彼女のことを覚えているのは、いや、()()()()()のはボクだけだけど。

「堕天化はいわゆる成長の1つに数えられるのかな? ほら、アタシには黄緑の烈響があるのに」

 この世界には色の烈響と呼ばれる特別な力がある。ガブちゃんが持っている黄緑の力は状態異常の無効化だ。デバフが一切効かないともいう効果を持っている。

 一般に色の烈響は発動に条件がある。色ごとにではなく個人で違うとされているがデータが少ないから確定的なことは言えないらしい。そんな特別な力がガブちゃんは常時発動している。

「アタシは一応は神に仕えてる訳で、バレるわけにはいかないから内緒にしておいてね? 今のところヒカリちゃんしか気づいてないけど」

「それは、もちろん黙っておくよガブちゃん」

 しばらくお互いに沈黙していた。

 日が暮れて空が茜色に変わった頃、口を開いたのはガブちゃんだった。

「ヒカリちゃん、アタシが堕天した理由、気付いてるよね?」

 その先を聞きたくなかった。聞いたら話が進むし時間も早く進んでしまう気がする。

 だって戦争が始まるまでもう半日もない。ガブちゃんに会えなくなるかもしれない。だったら今が永遠に続けばいいのにと思う。

「研究してた切り札(ジョーカー)、ついに完成したの」

 ガブちゃんはまた静かに話し出した。

「闇黒魔法なんだけどね、弓が上手くないと使えないの」

「ちょっと待って? 闇黒魔法って言った?」

 闇黒魔法とは魔法階級の1つだ。初級、中級、上級の3つが普通魔法。その上に特級と鳳級(おうきゅう)があってこれが高度魔法。ここまでは普通に流通する魔法だ。

 さらにその上の特別魔法に属しているのが闇黒魔法。そのグループには禁忌魔法も属していることもあり、一般に禁術とまとめられることさえある。

 ガブちゃんはそんな危険な魔法のことを口に出したんだ。驚かない方が無理だと思う。

「そう、闇黒魔法。開発できたにはできたんだけど、闇属性が強くなっちゃったみたいでね」

 天界では闇属性魔法は暗黙の了解で使わないことになっている。もちろん規則として記載されているわけではないので使ったとしても何の罰則もない。周りから少し非難の目を向けられるくらいだ。

「その魔法を、ボクに?」

「そ、ヒカリちゃんは弓も上手いし、優しいからきっと使える」

 みんなボクの弓が上手いと言う。正直お世辞だと思っている。だってみんなが見ているところでは利き手で弓を使わないから。

 ここアヴェイロンでは左利きは禁則だ。そしてボクは左利き。当然矯正しているから右手でもある程度のことはできるが、やっぱりどうしても左手の方が安定する。

 右手での弓の実力はというと命中率は7割に届かないくらいだ。他の弓使いの天使たちとそう大差ない。

「ヒカリちゃん、利き手ならもっと弓使えるよね」

「わからないよ、こっそり試した時は全部当てたけど公式の記録じゃ無いもの」

「公式の場で左利きバレたら追放されちゃうもんね。まぁヒカリちゃんがちゃんと弓が上手いことが分かったから問題ないわ」

 ガブちゃんはどこからかカゴを取り出して何やら準備を始めた。カゴには果物がたくさん入ってる。

「ヒカリちゃん、弓の準備をして? 教えてあげる、研究してた切り札(きりふだ)を」

 あぁ、ガブちゃんが覚悟を決めた目をしている。これが終わったらもう会えないかもしれない。来てほしくなかったこの時が来てしまった。

 もうあきらめるしかないのか。ボクは右手に神力を()めて弓を形成した。

「じゃあ準備運動がてらスイカを投げるからこれを射抜いてみて?」

 ボクが何か言い返す前にスイカは空中に放り投げられた。とっさに弓を構えて矢を引く。

「大玉スイカなんて、いつもの練習用の的より大きいじゃない」

 放たれた矢はまっすぐスイカを貫いた。特に難しいことではない。仮に左手で弓を持ったとしてもこのくらいは撃てる。

「とっさに真ん中を貫けるなんて、やっぱりヒカリちゃんの弓の腕はすごいわね。じゃぁ次いくよ」

 先ほど射抜かれたスイカをむしゃむしゃと食べながらガブちゃんは次の準備を始めた。そして取り出されたのはメロンだ。

「ヒカリちゃん、朱き閃光矢(あかきせんこう)って使える?」

「特級魔法の? 一応使えるけど、それでメロンなんて撃ったらバラバラになっちゃわないかしら?」

 特級魔法【朱き閃光矢】はその名の通り朱い光を纏う矢を放つ弓専用の魔法。属性も特に持たない特殊な魔法。あまり研究も進んでおらず使える者も少ないので詳細は不明な点が多い。

 ただ高威力であることはわかっている。それと同時に危険な魔法。術者が弱ければ魔法は暴発し自身が爆発する。もし使えて命中した箇所が急所だったら一撃で瀕死まで狙うことだって可能だ。

「出力を抑えるのよ。これから教える闇黒魔法は朱き閃光矢をマスターしていることが使用条件よ」

「つまり上位互換ってことね?」

「簡単に言えばそうね。だから精度をより高める必要があるの、いくよ?」

 空に放られたメロンは先ほどのスイカより低い軌道にある。でもやる事は決まっている。

 集中して、出力を絞って……

「できるだけ弱く、鋭く……特級魔法【朱き閃光矢】」

 小さく詠唱し、放たれた矢はわずかに朱く輝いていた。メロンは砕け散った。

「あ、はは。ヒカリちゃんちょっと力籠めすぎだよ」

 どういうこと? って思ったけど声は出なかった

「見てて、こうやるの」

 ガブちゃんは先ほど食べ終わったスイカの皮を高く投げて朱い矢を放った。

 無詠唱だった。

 皮は撃ち抜かれたことに気付いていない様子だが、小さな穴が見えるので確実に撃ち抜かれている。

「さ、もう一回やってみましょう」

 ガブちゃんが次のメロンを構えた。

 深呼吸をする。

 先ほどので強すぎるなら、いっそ髪ほどの細さの矢を撃つしかないのではないか?

「ヒカリちゃん、行くよ」

 小さく頷いた。

 先ほどよりも高く上がったメロンに狙いを定める。

「細く、鋭く……」

 メロンが最高点に達し、一瞬の静止から下に向かって落ち始める瞬間を狙って――

「特級魔法【朱き閃光矢】!」

 放たれた矢は夕焼けに溶けて見えなかった。

 メロンは少しだけ揺れた後で下に落ち、ガブちゃんが受け止めた。

「さすがねヒカリちゃん、これなら使いこなせるわ」

 なんだか自分のことのように喜んでいるガブちゃんがとても可愛らしく見えた。と思ったら急に真剣な表情に変わった。

「さて、そろそろ本題の魔法を教えましょうか」

 空はだんだん黒くなり始めている。夜が始まる。

 ガブちゃんは林檎を空中に浮遊させてこちらに来た。

「いい? 漆黒の一矢はね強い愛が必要なの。あとは護りたいという気持ち」

 護りたいもの、強い愛。なにそれ、恋しなさいってことなの?

「アタシはね、ヒカリちゃんが好きなの」

「えっ?」

「アタシは、従姉妹同士だからとかじゃなくてヒカリちゃんのことが好きなの。守護りたいの」

「ガブちゃん……」

「ヘンよね、笑ってくれていいのよ」

「ボクはそんな酷いことしないよ」

 ボクは優しくガブちゃんを抱擁した。前より痩せてる。魔法の研究で相当無理をしたのだろう。

「ありがとうヒカリちゃん」

 ガブちゃんが腕の中から離れて弓を構えた。

 そして翼を広げた。夜溶けそうな黒い翼に変わってしまっている。

「見てて、これが漆黒の一矢。護りたい気持ちと愛の気持ちの結晶――」

 ガブちゃんが弓を引くと黒とも紫ともいえるような色の魔法陣が浮かび上がった。

 魔法の基本的な組成は朱き閃光矢との違いはほとんどなかった。

「闇黒魔法【漆黒の一矢】」

 ガブちゃんがつぶやくと真っ黒な稲妻のようなものが空を走った。

 それが林檎に当たったかと思うとどちらも元々存在しなかったかのように消えてなくなった。

「完成自体はしたんだけどね、まだ安定しないのよ」

「この魔法を、ボクに……?」

「うん、開発段階で見つけたズルがあってね」

 ガブちゃんが急に近づき、そして。頬にキスをした。すると頭にさっき見た魔法のイメージが流れ込んできた。

「これでヒカリちゃんも使える。本来消費する魔力、アタシたちにとっては神力だけど、これを消費しないで使えるようになる」

 本来この程度の魔法になると一日に1回使うと向こう何日かは使えなくてもおかしくないくらいのコストはかかる。だから切り札(ジョーカー)と言ったのだろう。

「あ、アタシもうそろそろ行かなきゃ……」

 あぁ、ついにそんな時間になってしまったか。

 別れたくない。もう目の前から誰かいなくなるのなんて嫌だ。

 ベルティ家の事件もルシフェルも、ボクの手が届くかもしれないあと一歩のところで。

 そしてガブちゃんも。今こんなに近くに、目の前にいるのに、とても遠く感じる。どこかに行ってしまってもう会えなさそうな気さえする。

「じゃぁ、またねヒカリちゃん。大好きだったよ」

 目に涙を浮かべるガブちゃんはボクの返事を待たずに帰ってしまった。


 翌朝。

 下界での戦争が始まってしまった。

 ボクは天界の会議堂から見守る事しかできない。だってボクは戦闘員じゃないから。ここには下界の様子を映している大きなモニターがある。

 あの後一人で魔法の練習はしたがどうしても上手く使いこなせなかった。

 シニエストロもサグラードも互角に争っている。少なくともシニエストロは同盟のことをサグラードには直接伝えていなかったみたいだ。サグラード陣営はこの度の戦争に天使が一部参加していることに驚きの表情がある。

 様々な色の魔法光線が飛び交い、辺り一面は火の海と化している。前線では近接武器同士の争いまでもが繰り広げられている。何処の国のものでもない平原が、何の罪もない動物たちが、草木たちまでもが戦争に巻き込まれ炎に飲まれてゆく。

 だから戦争は嫌いなんだ。一部の天使たちは嬉々として戦争に加わっている。あいつらこそ堕天すればいいのにと思ってしまう。

 肝心のガブちゃんはというと、どうやら人間との融合を振り切りサグラードに協力しているようだ。良いとも悪いとも言えない。ただそれが彼女のしたかったことなら尊重することしかボクにはできない。ただ、ただ見守る事しかできない。

「ヒカリ、こんなところにいたのか」

「ライアン、あなたどうしてここに?」

「私も同じだ。ここのモニターが下界を一番確認しやすい」

 ライアンは審判神、もしボクが応援しているのがサグラードだと知ったらどう思うだろうか。追放と言われてもおかしくはないが、彼は何も言わずにモニターを眺めていた。

「あなたは今回の戦争についてどう考えているの? ライアン」

「私は、今回は深い意味はないと思ってるよ」

「じゃぁなんで協力することしたの?」

「人間たちの動機と同じだよ。人間と違うのはもしもの時には全員撤退を命じることくらいだよ」

 ふーんそうなんだ。結局は暇つぶしというか娯楽の1つか。

 そういえば人間と天使の融合がどうとかみたいな話もあったけどアレは結局どうなるんだろう。融合した後どうなるのかとかの話は何も知らない。

 今回戦争に参加している天使は希望者だけだ。その参加者というのがなんとアヴェイロンの戦闘兵のおよそ半分なのだ。そのうちの半分が人間との融合があるとかないとかの噂だけは覚えている。

「なぁ、ヒカリ。ガブは何故向こう側なのか聞いているか?」

「いいえ? でもまあ、元々あの子には出動要請が出ているのに堕天しちゃったからじゃない?」

「なるほど……なるほど、そうかぁ。あの子もかぁ」

 すごく困った様子だ。

「折翼者でもない、追放の儀式もない、そんな天使が堕天したり下界から帰ってこなくなったり。最近は多いから神の間も困ってるって話題なんだよ」

「例えばルシフェルとか?」

 ボクしか覚えていないハズのあの子のことを聞いてみた。

「そんな天使いたっけ? 少なくとも過去にその名前の天使が存在したという事実はないと思ったけど」

 やっぱりボクしか覚えてないか。それはそれで良かったのかもしれない。

「お、同盟側の天使とガブが戦ってるね」

 モニターに目をやると下界から使者が来るときにボクに声を上げた天使とガブちゃんが戦っている。あの知らない天使……じゃない! あの天使はどこかで見たことある。

「お! やってるね~」

 背後から声がした。

 こいつのことは知っている。モリフェル・ベルティ。ベルティ家の事件の生き残り、そして今は父親。

「おっとこれはこれはライアン様とヒカリさんじゃないですか」

「なんでボクのことはさん付けなのよ、失礼しちゃうわ」

「まぁまぁヒカリ、ここで事を荒立てないでくれよ。ところでモリフェルはなぜここに?」

「いやまぁ大天使になれないかという打診のつもりだったんですが、戦争の時期だけ禁則が緩くなるので大きいモニターで様子を見に来たに過ぎないですよ」

 やっぱり姑息だな。素直にそう思った。後で痛い目を見てほしい。

「それにしても我が妻が戦争に参加するとは。さすが1軍の隊長に昇格しただけの実力だ」

 そうだ思い出した、今ガブちゃんと戦っている天使の名はスノウフィル・ベルティ。モリフェルの妻。すごく優秀な戦闘技術を持っていると聞くが、双剣の得意なスノウフィルと弓が得意なガブちゃんだと相性はどうなのだろう。

 モニターに映し出されている情報から見るに両者の距離は少し離れていて縮まらない。ということは若干ガブちゃんが優勢か?

「スノウフィル、いいぞ。そのまま裏切り者を撃ち落とせ」

 モリフェルが興奮気味にそんなことを言っている。

 だがその興奮もむなしく、ガブちゃんの放った朱き閃光矢がスノウフィルの耳を掠めた。おそらくわざと外したのだろう。

 モリフェルは激昂し会議堂から立ち去った。下に向かったのかな?

「これはガブが一本取ったね、まだまだ余裕そうだし隠し玉もありそうだ。警戒するよう皆に伝えなければ」

 ライアンも去って行った。

 この戦争が今日にでも終わればいいのに。今日始まって今日終わってくれたらいいのに。

 ガブちゃんがサグラードの拠点に帰るところでモニターは一般兵同士の戦闘の映像に切り替わった。特に変わった様子はない。火ではない(あか)が大地を濡らしているくらいだ。

 見るに堪えないので今日はボクも帰ろう。ガブちゃん、どうか生き延びて。


 ★


「ふぅ危なかった~」

 スノウフィルに魔法を掠めた後、彼女の口が死の呪文を唱えようとしていたから急いで逃げてきた。

「お疲れ様です、ガブ様」

 ここはサグラードの最終防衛ライン。今のところは安全地帯。

「結局あの魔法は使わなかったのですね」

「あら、魔王様がこんなところまで出てきて大丈夫なんです?」

「僕が出て来ないでどうするんですか。この国の王ですよ、国と国民を守る使命があります」

 確かになと思った。守りたいものを守る、そのために戦う。そんな美しい心に魅かれて一緒に魔法の研究をしたのに結局咄嗟には使えなかった。

「もっと強く守りたいと思わなきゃ」

「大天使様が魔族を守るとか言っていいんですか?」

 給仕担当のゴブリンが心配そうに聞いてきた。

「大丈夫! アタシ、堕天しちゃったから!」

 この戦争が終わった後にアヴェイロンに戻るつもりはない。

 そのつもりであの魔法をヒカリちゃんに教えたんだから。

 それから夕方まで戦況は特に変わる様子もなくこの日の戦闘は終わった。

ここまで読んで下さりありがとうございます!

姑息って最近はズルいみたいな意味で使われるけどアレは誤用ですよ

本来の意味ではその場しのぎという意味です

モリフェル(ベルティ家)が大天使になりたいのは事実なのですが、ライアンとヒカリさんの前に現れたのはただの冷やかしなのであの言い訳は姑息だなと言う意味でした


~ひとくちプチ情報~

ガブちゃんは割と真剣にヒカリさんLOVEなんです

本当は頬じゃなくてDキスしようと考えていたとかいないとか

本当のところはガブちゃんしか知りません

作者ママにもわかりません

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