第2話 予兆
FANBOXはルビが使えないけど、こっちは使える!!
読みやすくなってると信じて
あれから何日が経ったのだろう。何にもやる気が出ない日が続いている。
「こら、ヒカリ。ちゃんと仕事しなさい」
先輩に怒られてしまった。そもそもこの仕事に対して集中するのなんて無理な話である。折翼者の追放からの年数をまとめて15年に近いものを審判神に通達するなんて。生存者は数人もいない、すでに始末されたものの名前ばかりが出てくる。
結局今日もほとんど仕事に手が付かないまま夜になった。明日は休日。でも呼び出しがある。お昼前に広場の噴水前に来てほしいらしい。
お布団に入ってぬくぬくしながら呼び出し主が誰なのか考えよう。
「休日のボクを呼び出すなんて、一体誰なのよ。ルシフェルじゃあるまいし」
ルシフェルはあのあとコンタクトが取れない。裏を返せば彼女の計画は成功したのだろう。
他に広場に呼び出すような子はあまり知らない。仕事だとしたら会議堂だし。
もっとも、心当たりがないわけではないけど。
あ、お布団あったかくなってきた。幸せ...
「ヒカリ、まだ起きているか?」
コンコンとドアをノックする音が聞こえた。父さんの声だ。
「何よ父さん。そろそろ寝れそうだったのに」
「あぁすまない、実はベルティ家から大天使加入の打診があって上に申告してくれないかと」
ベルティ家。この町ではいわゆる名家なのだが大天使ではない。禁則に触れないのかといつも思うのだが、単純にご近所だという付き合いがある。仕事も戦闘も腕が立つが高慢といった評判をよく聞く。
正直ボクはあまり関わりたくない人たちだ。
「なんでボクが行かないといけないのさ」
「お前が一番審判神に近いからだよ」
「ガブちゃんの方が近いでしょ」
ガブちゃんはボクの従姉。ガブ・リリー・エルトライトというのが彼女の本名だ。
ボクが審判神に一番近いというのも、なぜか次期審判神候補の名簿に名前があるからなのだけれど。
「あの子は忙しいからさ」
「ボクが暇みたいに言わないでよ父さん」
まぁ、サボり魔って言われてるから暇であることに違いは無いのかもしれない。サボり魔でも審判神候補とか言われるのだから楽な仕事ではあるのかな。
「まぁ頭の片隅にでも入れておいてくれ。ごめんな? おやすみ」
「ん、おやすみ。父さん」
次の日、約束の時間に約束の場所に向かうと――
「あっ! ヒカリちゃん、こっちこっちー」
黄緑のショートヘア、黄色い瞳に純白の三対の翼。そう、あの子が
「ガブちゃん、待たせちゃったかしら?」
「いいや、ちょっと前に来たから大丈夫だよ」
この子がボクを呼び出す理由、なんとなくわかっている。だから本当はあまり乗り気じゃない。
「ヒカリちゃん、人の少ないところに行かない?」
「じゃぁいつもの村に行きましょうか」
いつもの村とはあの村のこと。ボクが休みの日によく行ってたあの村。実はルシフェルと別れたきり行ってない。
「前に話してくれたあの子は結局もう下に?」
そういえばガブちゃんからルシフェルに関する記憶が消えていない?
「うん。連絡取れないから成功したんだと思う」
それから口数も少なく村に着いた。
「すぅー、はぁー。やっぱりここの空気って良いねヒカリちゃん」
「向こうと違って澄んでるからね」
この辺は雨も多いし、国の都心からかなり遠いので居住者も少ない。
「ガブちゃん、今日は何の用事があったの?」
質問を投げかけると少し不満そうな顔をした。
「えー、もうそれを聞いちゃうの?」
「だってガブちゃんがボクに用事があるときって大抵は良くない報せがあるときなんだもん」
前回は15年の壁が近い折翼者の処理のつきそい。前々回は大天使としての仕事が折翼者関連のものになったこと。その前が……もう覚えてないけどなんだかめんどくさかった気がする。
「もう、ヒカリちゃんは本当にめんどくさがりさんというか自分に正直というか」
「自分に正直なのは長く生きる秘訣よ?」
「いやいや、アタシたち60くらいでしょ? まだまだペーぺーよ」
確かに今のボクは58になって間もない。ガブちゃんはもうそろそろで61。アヴェイロンの大天使には1000年近く生きる者もいるから子供と言われても差し支えないけども、実際に言われたらちょっと傷つくかな。
もう十分大人なお姉さんだと思いたい。
「それでそうそう、今回ヒカリちゃんへの用事で人の少ないところに来たわけなんだけど……」
「折翼者の件?」
「ううん。今回は人間、というか下界のこと。近々シニエストロはサグラードに対して戦争を企んでいるみたいで、シニエストロと同盟を組むんだって。その手続きとサグラードとの戦争の前線に立ってくれないかって」
え、嫌なんですけど。何を隠そうボクは戦うのが苦手、というか嫌い。
そもそもボクは天界では珍しく魔族の国であるサグラードを支持したい派なのだ。どちらもアヴェイロンから近い国なので、要人同士の関りはあるのだがシニエストロ出身の人間達の傲慢さ、なんか気にくわない。
「ヒカリちゃん、弓、得意だからさ」
「……確かに得意だけど」
「まぁ、戦闘に関してはヒカリちゃん専門じゃないし無理強いはしないでいいってことになってるから。手続きだけでも、ね?」
「なんでボクなのよ……」
「そりゃぁ、あんなに怠い怠いって言いながら仕事完璧なんだもの。期待されてるのよ、次期審判神候補様?」
そんな実はしっかりものみたいなのは営業妨害なのよねぇ。
「辞めてよガブちゃん、ちょっとむかつく」
ほっぺをつねってやった。ガブちゃんのほっぺはいつ触ってもモチモチしている。身長は10cmほど小さな従姉。
「ひあいひゃんってほんおにあてゃしのほっへすひあよね?」
ボクにほっぺを触られて上手くしゃべれていないガブちゃんちょっとかわいい。もっとモチモチしていたい。
「ひあいひゃん、いひゃいよー」
いひゃい? ああ、痛いか。ならやめてあげよう。
「ふぅ、やっと解放された―。アタシのほっぺ伸びちゃうじゃんかー」
ほっぺをさすりながらガブちゃんは涙目でそう言った。
「そうだ、父さんからガブちゃんに伝言があって」
「叔父さんから?」
「うん。本当はボクが頼まれてたことなんだけどガブちゃんの方がいいかなって思って」
そう、父さんはボクに頼んできた。お前が一番審判神に近いからと。でも実際にはガブちゃんの方が近い。
じゃあなぜボクに相談してきたのか。それはガブちゃんのお父さん、つまりボクにとっての伯父さんは父さんとは仲が悪くほぼ絶縁状態にある。実の兄弟なのにね。この2つの家庭でのやり取りは基本的に従姉妹であるボクたちだけなのだ。
「ベルティ家のことで相談があるんだけど」
ガブちゃんはなんだか合点がいったような顔をした。
「あぁー。あの大天使になりたいとか言う?」
「そう。審判神に申告してくれないかって」
「無理じゃない?」
「うん。ボクもそう思う」
事実、あの高慢さを嫌う者が多いし周りも上も問題視している。
でも、エルトライト家とベルティ家が近しい関係というのも事実。近所という物理的な近さもあるけれど。
そもそもこの件は階級間での接触禁止という五禁則の1つには触れてしまうのだが。
「例外だからねぇ、彼らは。戦闘面での実力は本物。第一子のエラディオスは10歳にも満たないのに学園一位だもんね。さすがモリフェルとスノウフィルの子供。優秀なのはいいのだけどその優秀さに溺れて――」
「あの手の家族は子供を増やして色々な権力を手に入れて、それで何も成しえない子を捨てる。きっとそうなるわ」
「うーん、なんだかわかる気がする」
ベルティ家の今の三人以外の者は己の高慢さ故に亡くなっている。骨の髄すら残らないほどの凄惨な事故で。ということになっているがボクは知っている。本当は周りの反感を買って……
「近所であんなことあったらそりゃ争いも嫌いになるし無気力にもなるよね」
「まぁ、考えておいてよ。ヒカリちゃんのサグラードに対する印象は分かってるけど」
魔族の国であるサグラードは2000年ほど前の第二次北部大戦に勝利後、どの種族とも争うことなくずっと平和にやってきている。
多様性に富んでいて一部の人間達とも共存しているのだが、シニエストロの城塞内出身の優秀な冒険者が年に数回魔王討伐だとか言ってやってくるらしい。共存する人間はそもそもサグラードの近くに位置する小さな名もない集落の者だという。この集落はもともとはシニエストロの管轄だったのだが遠いからとサグラードに売られたのだとか。
「天使族だから一応は人間達の味方をしないといけない。ボクだって理解ってる……理解ってるんだけど……でも――」
言葉が出てこなくなった。いろいろな思考が頭をグルグルしてめまいがする。
「ヒカリちゃん、せっかくの休日に呼び出しちゃって本当にごめんね? 上には無理そうだって伝えておくよ」
ガブちゃんは荷物をまとめて帰り支度を始めた。
「ガブちゃん……」
「アタシはヒカリちゃんの従姉よ? あなたが一人になりたいときくらい分かるわ」
「うん。ガブちゃん、ごめん」
「ヒカリちゃん、そういう時は”ありがとう”。でしょ?」
「そう、ね。ガブちゃん、ありがとうね」
たったの3つ差だけどさすがの従姉。気遣いはいつも負ける。
「じゃぁ、また今度ね。ヒカリちゃん」
「うん、また。ガブちゃん」
★
「ヒカリちゃん、何かまた思い詰めているみたいだった」
解散した後、ちゃんと話聞いておけばよかったと後悔している。
ヒカリちゃんはいつも嫌な予感がするって言って当てている。大抵の場合その現場からは逃げているんだけど。
でも、逃げられなかったのが一件だけある。それがベルティ家の事故。表向きは爆発事故になっているアレはただの殺戮テロ。あまりの高慢さに周りに嫌われ襲撃された。当時最年少だったモリフェルだけがたまたま生き残ったという。その真実を知る者は、少ない。アタシ達2人以外は事実から目を背けるものが多いし。
モリフェルがいくら末っ子だとして、当時350歳があの家の最年少というのも違和感があるが。
「あの時はただ呼ばれただけなのか、それとも……」
ヒカリちゃんはベルティ家との交流が強くあの日はベルティ家に呼ばれたと、その前日に聞いた。いやな予感がすることも当然。
あの日以来ヒカリちゃんは変わってしまった。すべてのやる気がなくなったようで、元々正確だった弓もどこか敢えて外してわざと成績を下げるようになった。まるで、何かトラウマになっているかのように。
矢の外し方が曲射だから結局のところ腕前だけは評価され続けたんだっけか。
「ヒカリちゃんのこと、守護ってあげなきゃ……アタシの愛で」
ここまで読んで下さりありがとうございます!
ガブちゃんはかわいいしヒカリさんは美人だし
現時点でキャラデザが出来ている二人は顔面最強です
~ひとくちプチ情報~
ガブちゃんがヒカリさんにほっぺを触られてるシーン
言葉の文字起こしは私が実際に自分の頬をつねりながらしゃべってみたものです
痛かった。。。