第1話 休日と雨
FANBOXにて有償公開していた外伝の無料公開がいよいよスタートです。
みんなヒカリさん推してくれ!
ボクの名前はヒカリ・エルトライト。今日はお休みの日だからアヴェイロン郊外のド田舎に来ている。天界とは言え都心部は空気がこもっているから休日だけでも澄んだ空気を吸いたい。
「すぅ……はぁー。静かな地域の空気はやっぱり違うわ」
朝早くから出てきた甲斐があるというもの。ちなみに服はヨレヨレTシャツの上にその辺に置いてあったパーカーを羽織ってきた。お天気よかったからお布団も干してきた。
「へっくしゅっ、あー、もうちょっとちゃんとしたの着てくればよかったかなぁ」
後悔してももう遅い。だって目的地には着いているから。
「大天使の仕事って言ってもボクは……」
ここ最近の仕事では折翼者の15年の壁がどうのこうのといった件がずっと話題に上がっている。正直飽きてきたし、ボクとしては生かしておいてもかまわないと思う。下界、特に人間の国ではこの件はあまり問題視されないというのも悲しい。15年経った時点で殺されているというのが事実。執行は審判神によるものだが、あの階級は大天使出身が多いから考えないわけにもいかない。ただ無駄に天使が狩られているとしか思えないのだ。
「何も生まないのにね、ボクなら審判神になる前にこうやって田舎に逃げ出してひっそりと暮らしたいよ」
これは紛れもない本音である。だからこうして朝早くから田舎でダラダラすることを決め込んでいるのだ。ここの空気は心の中のモヤモヤを晴らしてくれる。
「さすがにここまで冷えていると猫ちゃんはまだ起きてこないか」
ところで何を隠そうボクは無類の猫好き。あのお耳がたまらなく好きなんだ。どこかにモフモフできる油断している猫ちゃんはいないものか……
「儚そうな顔しちゃって~、今夜慰めてあげましょうか!」
あぁ、厄介な奴に見つかってしまった。いや、この場合は見つけたのか?
どちらにせよあの者が厄介なことに変わりはない。
「何しに来たのよ、ルシフェル」
「あはは! ちょーぜつ天才美少女ルシフェルちゃんが来てくれたっていうのに釣れないな~」
底なしに明るいこいつはルシフェル。アヴェイロン出身ではないのだがこの辺りで最近よく見かけるし、国でもその存在はたびたび話題になる。何でもド変態だとか。
「あたしはおっきいおっぱい揉みたくて来ただけよ!」
瞳を爛々とさせてそんなことを言う。
別にいつものことだ。
「ボクの胸、あなたより大きいもんね?」
「Cあるのよ!? ちょうどいい大きさでしょ? 揉ませるわよ! ねえ!」
ルシフェルが何かしでかす前に頭をつかんで抑え込む。20cm以上の身長差だから造作もないことだ。
出会う度に揉ませろだの揉めだの騒いでこんな感じになる。
あぁ、だからこいつは面倒くさい。
ただ、今日の声のトーンはいつもと少し違う。何か隠し事をしているか、或いは何かを伝えに来たか......?
「で、本当の要件は何なのよ、ルシフェル?」
「だからその胸を――」
「ルシフェル?」
鬼の形相で一蹴すると観念したような表情になった。
「わかったわかった! だから手をどけてよ! 痛いじゃない!」
ボクはしぶしぶ手をどけた。何をされるか分かったもんじゃないと思ったが彼女は手を出してこなかった。
今日は珍しく大人しいのね。
「実はあたし天界を追放されるみたいなんだよね」
「至極まっとうな制裁ね」
大の女好きということで、何人もの女天使に手を出しまくっているというのは本人の口からも確認が取れている。
「ガーン」
すごくわざとらしい。ソレを声として発することないでしょって思う。
「思っていないでしょう? ソレ」
問い詰めてみた。
「下の方が楽しそうなのはそうね! あんたも来る?」
あ、はぐらかされた。まぁいいか、追及しても無駄だし。
「ボクは今は遠慮しておくよ。そっちの都合がどうかボクは知らない、でも一つ言えるならこの国は外との接触にはあまり寛容ではないの。お互いのためにもこれ以上は――」
「あたしは今日下界に向かうのよ?」
今日。なるほど……今日。それが事実かどうか、自分の意思なのかそういう制裁なのかだんだん頭に入らなくなってきた。
いつも通りといえばいつも通り、急に現れてはとてつもない情報量を置いていく。それがルシフェルという存在。
「猫ちゃんには会えそうにないか……」
「へっ?」
自分の目的を達成できない嘆きが口に出ていたようだ。ルシフェルは「何言ってんの?」といった顔をしている。
お天気がとても悪くなってきている。ルシフェルがいつも来る方向には雷雲が成長している。
「だって、空が泣きそうなんですもの」
「本当に何言ってんのあんた?」
何も理解できていないルシフェルとの間に、少しの、本当にほんの少しの沈黙が流れた。
「ほら、早く行きなさいよルシフェル。あなた自身の未来のシナリオのために」
「最後まで冷たいのね、ヒカリ」
自称超絶美少女天使のルシフェルはその羽を柔らかく広げて、ふわっと宙に舞い消えていった。さよならも言わずに。またねとも言わずに。
きっともう会うことはない。彼女は自分の意思で下界に向かったのだ。
「空が鳴く、あるいは……地上もまた"泣いている"?」
休日のルーティーンで来ていたこの郊外にも、もう来ることはない。彼女に関する記載や記録は時機にすべて消える。彼女自身の力がそうさせると初めて会った時に本人が言ってた。
「ボクにだけ忘却をかけ忘れちゃうなんて、本当にバカね。ルシフェル……」
雨が酷くなる前に帰ろうか。空の涙は一体誰の代弁者なのか。それともただ天気が悪いのか。
やっぱり家の布団が一番だったんだ。あ、そういえばお布団干してるんだったっけ。
結局その夜はよく眠れなかった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
ヒカリさん主人公の物語、いかがでしょう?
このお話の大枠が出来たのはこの投稿の約半年前の事でした。
第二話をお楽しみに~
~ひとくちプチ情報~
元々無償公開するつもりはなかったんですけど、FANBOX支援者少なくて。
でも読んでほしさがあってね。
まぁ先行有償公開ということで許してもらおう!