親ばか辺境伯の独立~聖女である娘が婚約破棄されたのでパパたち怒っちゃいました~
妻が先だって早10年。男手1つで育て上げた大切な娘の卒業パーティーで私は涙を流して娘の成長を喜んでいた。
そんな時。
「お前との婚約今日限りで破棄させてもらう!」
突然、馬鹿なくらい大きな声が会場の後方から響き渡る。
(婚約破棄…?)
私は卒業パーティーと言う晴れやかな舞台でそんな愚かなことをのたまうやつの顔を見てみたいと思いながらその声の主を探す。
「ガッ…」
そして見つけた。
そいつは、その阿呆はウチの可愛い可愛い娘リリーの婚約者でありこの国の王子シンプだった。
(あ、あのたわけ!!!!!!)
私は急いでリリーの側に行くべく走る。もちろん王子を頭で屠りながらだ。
その間も王子はつらつらと婚約破棄を突き付けた理由を大声で述べる。
「リリー!」
(娘の名前を軽々しくその口で呼ぶな!)
「お前は聖女でありながら何の祝福も発現させていなそうではないか。そんな出来損ない、この私には不釣り合いだ。」
(リリーのことをお前呼ばわりするなんて、私のいや我が家の宝のリリーを!それに聖女は国が勝手にリリーに押し付けたものだということを忘れたのか!処す。処す。処す。)
「それにお前はこの私のやることなすことにケチをつけて可愛げの欠片もない。」
(それはお前が勉学も武術も怠け、女性を侍らすことしか考えていない頭空っぽのやつだからだろ!)
「そんなやつが未来の、えー何だ。」
(おめえそんなこともわからないのか!王妃だろ!)
「そうだ!未来の王妃だなんて虫唾が走る。そんなやつとは婚約破棄だ!」
王子は言ってやったとばかりに得意そうな顔でリリーをにやにやと見る。
(絶対許さん!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!)
「リリー!」
私は青い顔で呆然としている娘のもとにやっと駆けつける。
「お、お父様…」
リリーは突然の事態に対応できないようで、すがるような視線を私に向ける。
(我が家の宝にこんなにもつらそうな顔をさせるなんて。)
「大丈夫だ。リリー。お父様がついている。」
私はリリーを安心させるべく言葉をかけ頭を優しくなでる。リリーはそれにより少し安心したようで、涙を目にためこくりと頷く。
私はそれを確認するとリリーを腕の中に抱きながら、リリーを泣かせた王子を見据える。
私の視線の影響だろうか。王子は一瞬怯えたような顔をしたように見えた。
が、すぐに戻り少し焦りを含んだ声で再び喋り出す。
「グルーベル辺境伯!俺は…」
しかしそうはさせない。相手が話す前にこちらが仕掛ける。
「今しがた、わが娘と婚約破棄をする。といいましたよね?」
その声は抑えていても怒りを隠しきれていない。
「ああ。お主の娘はわが妃として不適格だと判断したからな!」
王子は言質を取られていることに気づかずに胸を張って堂々と言う。
「それは国王陛下も了承されているのですね?」
「わが言葉は父の言葉と同義のはずだ!」
(権力が何かもわからぬ小僧が。)
「わかりました。」
私は証言を取り終えるとリリーの顔を見、優しく言う。
「リリー。家に帰ろう。」
「で、でもお父様、私。」
リリーは目にとどめておくことのできなくなった涙をぽろぽろとこぼしながら私を見る。
「安心しなさい。後はお父様たちが何とかするから。」
そんなリリーに私は内心胸を痛めながら努めて明るい声で語りかける。
だが邪魔が入る。
「おい、話はまだ終わっていないぞ!そのものは私をないがしろにした罪で国外追放も課すのだ!」
私はリリーとの2人のやり取りの間に入られたことに心底イラつきながら王子いやもう馬鹿でいいだろう。馬鹿に言う。
「あなたの望みはすぐ叶いますよ。ですが、後悔しないでくださいね。」
「後悔などするものか。お前こそ娘が婚約破棄されたなんて醜聞で泣きを見るんじゃないぞ。」
馬鹿は高笑いをしながら、リリーと私を指さす。
私はそれには反応せずに、今にも倒れそうなリリーを抱きかかえ会場を後にするのだった。
その胸にはある決意を抱えて—。
***
我が家の宝。娘リリーは今から15年前にこの世に生まれてくれた。
「おぎゃああ。」
妻に似たとても愛らしい顔をして大きく産声を上げるリリーに私は一瞬で心奪われる。
「こ、こんな天使が我が家に来てくれたなんて!」
「ふふ。あなたったら。」
妻は私のセリフにおかしそうに笑う。私はリリーとそんなリリーを抱く妻、そしてリリーの3つ上にいる息子を抱きしめ生涯私が守ると誓った。
しかしリリーが5歳の時。妻が流行り病でなくなった。私は悲しみに暮れ、何も手につかない状態になってしまう。
「おとうさま。おとうさまにはリリーがいるわ。リリーがおかあさまにかわりこのいえをしあわせにする。」
「リリー…。」
たどたどしい口ぶりでこの暗く沈み切った家を何とかしようとして出た言葉らしい。私はその言葉に強く胸打たれる。
「リリー。じゃあリリーのことは俺が守る。」
リリーのその言葉を隣で聞いていた息子クラウスは涙を流しながらリリーと私を見て覚悟のこもった目で言う。
(子供たちは必死に前を向こうとしているのに私は。私は何をしているんだ。)
私はひどく自己嫌悪に陥る。そして自分が間違っていたことに気づかされた。
「すまないリリー。クラウス。私が愚かだった。」
私は2人に謝罪をし、もう1度あの日誓ったことを誓い直した。
そして月日は流れリリーは12歳。クラウスは15歳になる。
「「リリー!今帰ったよ!」」
私と私の下で働いているクラウスは一緒になって家で帰りを待っていたリリーに抱き着く。
「お父様!お兄様!」
リリーはこの世にいることが信じられないくらいの眩しい笑顔で私たちを迎えてくれる。
「クラウス…」「父上…」
「「私たちのリリーが可愛すぎる…」」
私とクラウスはその笑顔にやられてしまいその場にへたる。
「父上、我々は国境警備なんかよりもこの家の警備を強化しないといけないかもしれません。」
「ああ、そうだな。早々に騎士を雇おう。」
リリーはそんな私たちを苦笑いしながら優しいまなざしで見つめる。
そんな時。
「伝令!リリー・グルーベルを聖女に任命する!」
「「はぁあああああああ?」」
私とクラウスは鬼のような形相で王宮からの使いの男をにらむ。
この国の聖女とは神聖力を身の内に持っているもので、その力が1番大きく聖女たるにふさわしいものが指名されるものだ。
聖女に任命されたものは毎日神に祈りを捧げ、その神聖力を国のため、祝福という形で顕現させる。
そしてここが重要。王1代につき1人の聖女が任命され、そのものが王妃になる慣例があった。
(王命で神聖力を図る儀式に参加した時、当然ウチのリリーは優秀だからその能力が高く出た。だがまさか聖女にまで選ばれるとは…)
私とクラウスはリリーがぼんくらで有名なシンプ王子の妻になることが決まってしまったことが心配でならない。
だがリリーは責任感が強く信心深い子だ。王妃になんぞに興味はないが領民のためになるならと受け入れてしまう。
そこからリリーの妃教育と聖女修業が始まった。
「リリー。つらいことがあったらすぐにお父様にでもクラウスにでもいいから言うんだぞ?」
私はリリーのことを案じ、いろいろと声をかける。
しかし返ってくる答えは同じだ。
「お父様ったら。私は大丈夫。だってお父様の娘ですもの。」
しかし日に日にその笑顔には陰りが増していく。
「なあ、クラウス。リリーの様子変じゃないか。」
「父上もお気づきになられましたか。ええ、いつもよりも3倍も多くため息をつき、髪の毛の湿り具合も増しています。」
「…お前ほどの観察眼はなかったよ。だがリリーの元気がなくなっているのは事実みたいだな。」
そこで私たちはリリーの元気がない理由を内々に調査する。
すると私たちの大切なリリーがつらい状況に置かれていることに気づく。
「なっなんだと。あのぼんくら。私たちの可愛いリリーの婚約者になっておきながら花街に何度も出かけているというではないか!」
「そっそれに見てください父上。リリーはそんな馬鹿を案じて言葉をかけているというのに逆に馬鹿はリリーのことを罵り学園でも女子生徒を侍らせ冷たくしているということです!」
私たちは怒りに震えた。しかしそれ以外にも気になることはあった。リリーは高い神聖力を持ちながらも今だ祝福を顕現できていないということだ。
(歴代の聖女はすぐに顕現していたのだが…リリーは遅咲きなのかもしれんな。だが、それによりさらに馬鹿から責められている事態。これは親として放っておくことはできぬ!)
私たちはすぐに親子3人の場を設けリリーに聞く。
「リリーや。お前最近めっきり笑顔が減ったな…お父様たちは心配だぞ。」
「聞けばリリー。お前はバ、いや王子から適切でない扱いを受けているそうではないか。」
「それは…。」
リリーはうつむきながら言葉を選ぶ。
「それは私が祝福を顕現できていないせいですわ…。」
(理不尽な対応を取られているというのに王子を否定しない。わが娘はなんて優しいのか!いやまてもしや馬鹿を好きとかいう可能性があるのか!?)
「リ、リリーそんなに王子をかばうなんてもしや王子のことをす、好きなのか!」
私はもしもの事態に備え、クラウスと手を握る。私たちの鬼気迫った表情を見てリリーは慌てながら言う。
「い、いえ。そのような感情はまだ…。」
((YES!))
私とクラウスはリリーの言葉に胸をなでおろす。
「リリー。それならなおのこと聖女修業も妃教育もつらかろう。お父様が王宮に聖女の名を返上するよう言おうか?」
「しかしそれでは王命に背いたことになってしまいます。私の問題が家にまで及んでしまうのは心苦しくつらいです。」
リリーはそんな状況でも私たちのことを考えてくれる優しい子だった。
「もう少しだけ頑張らせてください。」
そう言ってリリーは儚く笑った。
そうして再び王宮へと向かうリリーを憂い気に見つめながら、私はクラウスとともに今後の話をする。
「クラウス。私たちがすべきことわかっておるな。」
「ええ、いつでもリリーが聖女の名を返上できるように準備しておくのですね。」
「ああ、そうだ。」
王命に背いたと言われようが構わない。
しかしそれでリリーが苦しい思いをしないよう独立の準備を進めるのだ!
独立など簡単にできるものかと思うかもしれない。しかしわが領地は独立できるに足る条件がいくつもそろっていた。
私が納める領地グルーベル辺境地は国土の20%を占め、その肥沃な大地から資源も豊富だ。
税収は国家の30%に及び、小さな国の国家予算並みである。
そして辺境伯という立場上、国境警備騎士団は精鋭で軍備も充実している。
またこの国は海に面していながらも大きな港はわが領地に開港しており、国の外交窓口はわが領地が一身に担っていた。
そのような状態だ。王がリリーを王妃にしたかった理由もここにあるのだろう。
しかし私はそうはさせない。リリーを心の底から愛し、私たちよりもリリーを大切にしてくれる奴にしかリリーを渡しはしない!
***
そして話は冒頭に戻る。
「お父様、ごめんなさい。私、私。」
涙ながらに謝るリリーを私は抱きしめ言う。
「何も謝ることはないんだよリリー。だってわが領地はもうこの国とは何の関係もないんだから。」
「え?」
リリーは私の言葉に不思議そうな顔をしてみる。
「先ほど、王宮に独立を宣言する書簡を送った。もうわが領地は国になったんだ。王都にいる私の息がかかったものももう全員秘密裏に我が国に移動している。この事態を知った者たちも続々と我が国に移動してくることだろう。」
「じゃあ。」
リリーは息をのむ。
「ああ、我が国に帰ろう。」
***
そして私たちが馬鹿のいる国から去ってしまった時。ようやく馬鹿の父親である国王の下に独立を宣言した書簡が届いた。
「なっ、ばっ。」
国王は心臓が止まるほどに驚いた。そして急いで事実を確かめるべく王子を呼ぶ。
「シ、シンプ。お前がグルーベル令嬢に婚約破棄を突き付けたというのは本当か!?」
国王はどうかこれが夢であって欲しいと思いながら息子に問う。しかし息子は笑った。
「父上もお聞きになられたのですか。私の英断を。」
国王は目の前が真っ白になるのを感じる。
(ああ、この国は終わった。)
「父上?」
シンプがそんな国王の様子を不思議そうに見る。
国王はこの事態の重さに気づいていないそんな愚かな息子に怒りが湧いてくる。
「お前は…お前はなんてことをしてくれたんだ!!!!!!!!!!」
国王は息荒くしながら息子を攻める。
「ど、どうしたというのですか、父上。」
「どうしただと?お前のせいでこの国は終わりだ!」
「何を言っているのですか。たかが役立たずの聖女1人を失ったところでこの国がどうなると言うのですか。」
「お前は!グルーベル辺境伯が娘を溺愛しているのを知らんのか!お前が婚約破棄を突き付けたせいで伯爵は独立すると言ってきたのだぞ!」
「それの何が問題なのですか?」
愚かなシンプはそう言われてもまだ事態の深刻さを理解できない。
「お前グルーベル辺境の立地を知らんのか?あの土地がどれだけ我が国の要となっているのか!」
「そうだったのですか?でしたら婚約破棄を撤回してやればよいではないですか。」
「っそれができたら苦労はせんわ!子供の遊びではないのだぞ!」
「えっでは。我が国はどうなるのですか!?」
シンプはやっっと事の重大さに気が付く。
「お、お前は…。」
国王はこれほどまでに息子は馬鹿だったのかと怒りを通り越して呆れる。
「私は何とか辺境伯と話をつける!その前に私はこの事態に至った原因を処罰する!」
「へ?」
シンプは呆けた声を出して、国王を見つめる。その顔は自分がこの事態を引き起こして張本人だという自覚がないようだ。
「お前だ!お前を処罰するというているのだ!」
「そ、そんな父上。」
シンプは父親である国王に縋りつく。
しかし国王はそんな息子の手を払いのけ言う。
「お前は魔の地域と呼ばれるドロー山脈で強制労働だ!」
「そ、そんなあそこは1度入ったものは2度出ることができないと言われている場所ではありませんか!それに労働何て!私は王子ですよ!」
「お前をもはや息子とは思わぬ!」
国王はそれだけ吐き捨てるともうシンプの顔を見ることなく玉座を後にする。
シンプは床にへばりついて初めて自分の行いを嘆く。しかしその嘆きは誰にも届かず、やってきた衛兵に王宮から身1つで放り出される。
その後、この国はグルーベル辺境伯に見放されたことで衰退し、その原因を作ったシンプは山脈で強制労働して人生を終えることになるのだった。
***
そして独立したグルーベル国はというと。
その優れた立地、統制から国は大いに栄えていた。
しかし辺境伯もといグルーベル王は娘リリーに笑顔が戻ったことの方が嬉しかった。
だがそのリリーが最近またしても様子がおかしい。
「クラウス。婚約破棄騒動から早1年。またしてもリリーの様子がおかしくはないか?」
「父上よくぞお気づきに。私もリリーのため息が通常より2倍にそして頬の赤みが3割ほど増していることに気づいていました。」
「うむ。お前の観察眼は少し怖いね。」
私は息子にそんなことを言いながら、またしてもクラウスとともに秘密裏にリリーのことを調査する。
すると今度はリリー付きのメイドから驚きの証言を聞くことになる。
「それでマーサ。君をメイドの中で1番のリリーの理解者であるとかんがみたうえで聞いているのだが。もう1度聞く。リリーが何だと?」
「ですからお嬢様は恋をなさっているようなのですよ。」
「…もう1度聞く。リリーが…」
「ですから恋です。」
マーサは真顔で言ってのける。
「ウソだ!!!!!」
私は信じたくなかった。
「クラウス、これは、これは現実か?なあ夢だよな。」
「父上、私もこれは夢だと思います。ですからどうか私の目を覚ましてください!」
2人はそんなことお互いに言い合い現実を無視しようとする。だが、マーサがそうはさせてくれない。
「事実です。もしもあれでしたらお嬢様に聞いてみればよいではありませんか。」
「「…」」
「…クラウスお前聞いてきてくれ。」
「嫌です。父上聞いてきてくださいよ。」
2人は互いの頬をつねりあいながら言い合いをする。
「私は嫌だぞ。もしも、もしもリリーが恋をしているのが事実だとしたら私はその相手を…してしまう!」
「私もですよ!」
そんな2人にマーサはため息をつき玉座に背を向け扉の方へ声を掛ける。
「だ、そうですよお嬢様!」
「「え?」」
私とクラウスはマーサの言葉に耳を疑う。すると扉が開かれ、恥ずかしそうにしたリリーが顔を出したではないか。
「「リリー!!!」」
私とクラウスは一斉にリリーの名を呼ぶ。
「お父様、お兄様。あの。」
リリーは大事な事を話すときの顔つきをして私とクラウスの前に立つ。
私は父としてその顔を見ればリリーがどんなことを言いたいのかわかってしまう。
「…リリーの言いたいことはわかった。だが少し気持ちの整理をつける時間をくれ。」
「父上!」
クラウスは私を攻めるような口調で呼ぶ。
「仕方ないだろう。リリーの気持ちを変えるなんてことはできないのだから。」
「しかし…」
クラウスはそれでも納得できないようでリリーの顔を見ながら無言で涙を流す。
(リリーが恋か…あの婚約破棄騒動を乗り切れたということか。そうか。そうか、喜ばしいことなのか。)
「…相手はどこの誰なんだい?」
私は覚悟を決めてリリーに尋ねる。
「こんな個人的な気持ちを吐露するのは恥ずかしいですが。」
リリーはそう言いながらも私とクラウスの顔を見る。
「海を挟んだ向かいにあるリードリッヒ国の王子アベル様です。」
(あいつか—。)
リードリッヒ国はグルーベルの地と海を挟んで向かい側にある大きな国だ。リードリッヒ国もグルーベルと同じ、いやそれ以上に豊かで栄えている国であり、近隣国に絶大な影響を持っている。グルーベルもその存在を無視することはできず、何度も交易をおこなっていた。
そしてその交易の際、リリーとアベルは何度も互いの王子と姫として会っていた。同じ年頃の2人のため、話も弾んでいると思っていたが。
「な、なぜあいつなんだ!」
クラウスはダメージを受け何も言うことのできない私に代わりリリーに尋ねる。
「あの方は私が出来損ないの聖女だと知ってもそれでも態度が変わることはありませんでした。それに私個人をしっかりと見てくれたのです。」
リリーは嬉しそうに思い出をかみしめて話す。
(そんな幸せそうな顔されたら…)
私はリリーがアデル王子のことを話す様子を見て反対などできなかった。
それはクラウスも同じだったようで先ほどと同様、涙を流し私を見る。私がどんな決断を下すか待っているのだ。
「…アデル王子の気持ちを確認してから判断しよう。」
私に言えることはそれが精一杯だった。
***
リードリッヒ国に書簡を送り、私はアデル王子と話をする場を設けてもらった。
そしてその当日。
「ようこそおいでくださいました。グルーベル王。」
「こちらこそ時間を設けていただき感謝いたします。」
私は礼儀正しく挨拶しながら心の中では毒を吐く。
(わが娘のこともしも好きじゃないとか抜かしたらただじゃおかないからな!)
私はリリーの恋が実らないで欲しいと思いつつもその反対の気持ちも抱えていた。
私はアデル王子の気持ちを確認するべく直球で聞く。
「王子に今日聞きたいことは1つだけ。わが娘リリーのことをどう思っているか、だ。」
アデル王子はそれを聞くと途端に顔色を変え、その整った顔を崩す。
「え。」
まさかそんな質問をされるとは思っていなかったのだろう。だが、私は答えてくれるまで尋ねる。
「わが娘リリーももう16歳。そろそろ結婚を考えているんだが、その相手に困っていてね。それでアデル王子。こんな言い方失礼ですが、あなたはどうかと思いましてね。」
「いえ、問題ありません。そのリリーのことですね。」
(えっ。リリーのこともう名前で呼ぶくらい仲いいの?)
私はそこに驚く。
その私の視線に気づいたアデル王子は慌てて言う。
「あ、グルーベル令嬢とは手紙のやり取りもさせていただいていまして、つい。」
(リリーちゃん!?私そこは聞いていないんだけど!?)
私はリリーにツッコミを入れつつ、まだ肝心な答えを聞いていないことに気づく。
「それで随分とわが娘と親しくしているようですが…」
「はい。」
アデル王子は意を決したような顔をして私をまっすぐに見つめる。
(ああ、若いな。)
私はその王子の姿に自分が若いころ妻にプロポーズを申し込んだ日のことを何故か思い出す。
「私はグルーベル令嬢のことをお慕いしております。グルーベル令嬢のお気持ち次第ですが、もしも叶うことなら私は結婚を申し込みたいと思っております。」
「…そうかい。」
(リリー。お前の選んだ男はお前の気持ちも尊重してくれるらしい。いい男を選んだな。)
私はしばし感慨にふけりながら目をつむる。アデル王子はそんな私を無言で待ち受ける。
「私は色よい返事を聞けたので帰るとするよ。」
「え、では。」
「すべては娘次第と言うことだ。」
「ありがとうございます!」
私は背後で頭を下げているであろう王子にそのままの状態で手をふりその場を後にするのだった。
***
それから1年後。
婚約期間を無事終えたリリーとアデルは遂に今日結婚式を迎えた。
花吹雪が舞うチャペルで2人は愛を誓いあう。
私は隣にいる息子の肩を抱き寄せながら一緒に男泣きをして2人を祝福した。
(妻よ。今日私たちの娘が私たちの下から旅立つ時が来たよ。)
そんな私たちに花束を抱えた娘が向かってくる。
「お父様、お兄様。」
「「リリーおめでとう。」」
私たちは純白のドレスを身にまとうリリーを思いっきり抱きしめる。
「ありがとうございます。私が今こうしていられるのもお父様たちのお陰です。」
リリーは満面の笑みで私たちを抱きしめ返す。
(ああ、なんて幸せな光景なんだ。)
私は自分が生きてきた理由がこの瞬間にあると思った。
「お父様!お兄様!」
リリーは笑顔で私たちを呼びながら、アデルの下へと先導する。
「リリー。」
そんなリリーに私は後ろから声を掛け引き留める。
「何?お父様。」
リリーは不思議そうに私の方を振り返る。その顔を私は微笑んで見つめて言う。
「幸せになるんだぞ。」
その言葉は私の心の底から出た言葉だった。
「ありがとうございます。」
アデルに手を取られながらリリーがにこりと微笑んだ。
その瞬間だった。
空には虹がかかり、光が降り注ぐ。祝福が発現したのだ!
「「「おおおおお。」」」
結婚式の参列者は皆声をあげ祝福を喜ぶ。
祝福を発現した当の本人であるリリーは困惑したように自分の手を見つめる。私はそんなリリーの隣にクラウスとともに立つ。
「お父様、お兄様…」
リリーは目に涙をためながら、私たちを振り返る。
(リリーはこれで本当に幸せになるに違いない。)
私はリリーにまなざしを向けながらそう思った。
(だが、リリーにまた何かつらいことが起こったら今度は戦争も辞さないからな!)
私はいまだ子離れできない親ばかだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
このお話が少しでも面白い!良かった!と思ってもらえたら幸いです。
下の☆☆☆☆☆をお好きな数おして応援いただけたら飛び上がって喜びます!
新連載も始めました。
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