第3話 《真実は突然に》
強も俺はいつものように漫画の続きを描いていると志音がやってきた。
「来たよー。おぉ~もうコタツ届いたんだ~」
「1時間くらい前に来てさっき設置し終わったところだ」
志音は靴を脱ぐなりすぐにコタツに入った。
「温かいね。それで漫画の調子はどう?」
「今からラストの話しだ」
「何か手伝うことあったら言ってね」
「分かった」
志音はコタツに入りながら漫画を読み始め、俺は次々と漫画を描いた。
気が付くと日が落ちてきていた。
「続きは明日にしようかな?」
机にペンを置いた。
コタツで寝ている志音が起きた。
「ふぁ~……お疲れ様~」
志音はコタツから出て机の上にある漫画の原稿を読んだ。
「あと少しだね」
「あっそうだ。プレゼントあるんだ」
「なに?」
机の引き出しから長方形の箱を志音に渡した。
「漫画制作に協力してくれたからな」
「ありがと。開けていい?」
「いいよ」
「なんだろう?」
志音は箱を開けると中には桜のペンダントが入っていた。
「綺麗~」
「付けてみて」
「うんっ」
志音はペンダントを取り出し着けた。
桜の部分のガラスが灯りに照らされ輝いている。
「ど、どうかな?」
「似合っているよ」
志音は近くにあった鏡でペンダントを付けた自分を見ていた。
すごく嬉しそうにニコニコしている。
「あのさ、明日には終わるからどこか遊びに行かないか?」
「あ、うん、いいよ」
「生きているって素晴らしいな」
「そう……だね……」
突然志音はさっきの元気が無くなったかのように静かになった。
「ん? どうした?」
「……あのさ、ちょっと来て欲しい所があるんだけどいいかな?」
「あぁ、いいけど?」
部屋を出てアパート裏にある丘を登って行った。
丘の上には大きい病院がある。
「病院? 知り合いでも入院しているのか?」
「まぁそんな感じ」
病院に入りエレベーターで病棟4階に上がり一番奥にある個室の病室に着いた。
「ここか?」
「うん」
入るとそこには寝ている人がいた。
顔が見えないから近付いて見るとそこで寝ていたのは志音だった。
「これって……」
「見ての通り、私だよ」
「どうなってるんだよ?」
「隣町の事故で意識不明の女の子って私なんだよね」
「えっ……」
「私さ、2年くらい前からシナリオ書いていて入賞したの。そして次の日、自転車に乗っていたら信号無視して来た車とぶつかってね」
「……」
「きっと運が悪かったんだよ」
「でもそんな事って……」
「そろそろ行こ。私がここに居るとまずいし」
「あぁ……」
病院を出てアパートに向かい歩いた。
帰り道は会話が無い無言状態が続いた。
「このまま帰るね。また明日」
俺の頭に‟帰る„という言葉に謎が浮かんだ。
「そういえばいつも志音はどこに帰っているんだ? 家には帰れないはずじゃ……」
「それは……」
「……あのさ、帰る場所無いなら俺の部屋に泊まってもいいんだぞ」
「えっ……」
俺は何恥ずかしいこと言っているんだ!?
鼓動が早くなっているのが分かる。
「うん、ありがとう」
志音はニコリと笑ったがその眼には涙が見えた。
アパートに着き志音はすぐにコタツに入った。
「やっぱりここ落ち着くね~」
「そんなのん気な事言っていて良いのかよ」
「だってどうしようもないからね。私はもう少しこの世界で頑張っていたい」
「それじゃ俺もう少し頑張ってみようかな?」
「今から続き描くの?」
「今日は徹夜でやるぞー」
「頑張れ~」
俺は机に向かい漫画を寝ないで描き続けた。まるでさっき病院の事を忘れるかのように。
途中まで隣で漫画の様子を見ていた志音は机に突っ伏して寝てしまい、俺はそっと毛布を掛けた。
外が薄っすら明るくなってきた頃やっと漫画が完成した。
「終わったーー!」
その言葉に寝ていた志音は目を覚ました。
「ふぇ? 終わったの?」
「これも志音のおかげだよ!」
「よかった……」
志音は椅子から降り徐にカーテンを開け窓の外を眺めた。
その身体は朝日に照らされ透けてきていた。
眠すぎて幻覚を見ているのか? それとも夢?
俺は目を擦ったり頬を抓ったが現実だ。
「えっ……志音、体が……」
俺はとっさに椅子から降り志音の元へ駆け寄った。
こんな時なのになぜか志音は落ち着いていた。
「やっぱりね」
志音は何かを確信していたみたいだ。
まるでこうなることが分かっていたかのように。
「何がどうなっているんだ?」
「私は幸太が心配でここに居続けたの。でももう心配ないみたいだね」
「そんな……」
「もうお別れだね」
「待って! 志音が消えるくらいなら俺は漫画家になんかならない! 応募も辞める!」
「それは駄目だよ。漫画家になるのは昔からの夢でしょ。夢は諦めちゃいけない」
「でも……志音が……」
「私の事はもう大丈夫だよ。私の事は心配しないで……もう何があっても死にたいとか思わないで……」
「くっ……」
俺は涙を堪えたが次から次へ涙が床に零れた。
辛すぎて志音の顔を見ることが出来ない。
「じゃぁね……」
「待っ! ……」
顔を上げるとそこに志音は居なく床にはプレゼントした桜のペンダントが落ちていた。
俺は床に落ちたペンダントをそっと拾った。
「なんでだよ……」
ペンダントを握りしめた。
病院で寝ている志音はどうなっているのか気になったが動こうにも足は震えている。
そんな足を思いっきり叩いた。
「くそっ! 何やっているんだよ俺は……」
そしてその日は一日何もせず終わった。
部屋でずっとぼーっと過ごした。
バイトも少しの間、休みをもらった。
「(志音が居ないだけでこんなに部屋って静かだったのか……)」
俺は独り静かな部屋で漫画の続きを描き続けた。