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第8話 Dream Catcher

早くも書いてる文章にデジャヴを感じてしまいますわ。あと、蘭お嬢様がお気に入りすぎて活躍させすぎてしまうのも困り物ですわ。

というわけで第8話ですわよ!

 朝から落ち着かないというのは前々からの事だが、今朝は特に落ち着けなかった。蘭と八作が会話する度に声を震わせ、体は固くなっている。朝食を終え、ようやく鎮まってきたかというくらいだ。このままの調子で今晩も乗り切って欲しいと思いつつ、作戦会議に向かう。

 蘭は一呼吸置いて始めた。

「…では、今回も会議を始めますわ。まず、何か話したい方は…」

 いつも通り緊張感の無い作戦会議である。それくらいが丁度いいのだが。しかし、緊張感をほんの少し取り戻すように八作が挙手した。

「ニュース見てみない?毎回、相手はどう来るか分からないし、ここで作戦立てるよりも現実がどうなってるか確認したいよ。」

 俺も毎回のように作戦が意味を成してないのでその方がいいだろうと思う。朝からテレビやラジオをつけるという習慣を持っている者が居なかったのだろうか、ここに来てから報道を目にした回数はかなり少なかった。

 蘭が渋々といった具合にテレビをつけると、昼前の番組が流れていた。しかし、スタジオにいる人数がやけに少ない。やはり芸能人もやられていたのだろう。

「…大臣はこの奇病に対する特効薬、ワクチン、感染対策、研究に支援金を出すと発表しました。しかし、一部では反対の声も上がっており…」

 やはりこの事件で話題は持ち切りのようだ。突然周りの人間が狂い出したら奇病と恐れられても仕方ないだろう。さらに、実際は夢の中に原因があるから誰も気付けないし菌やウィルスなんて見つかるはずもない。既にほぼ日本全体が被害を被っているであろう現在、政府も大変である。

「…変な夢を見たという人物も増えており、狂人の言葉にも夢を示唆するような言葉がある事が独自の聞き込みで判明しました。しかし、まだ関連性は不明であり…」

「夢の内容をそこそこ覚えている人が増えてるみたいだな。夢なんて結構すぐ忘れるモンだと思ってたが…。それなら明晰夢を見れる人がもっと増えてよくないか?」

 思わずニュースを見ている途中で割り込んでしまった。少し申し訳ない気分になったが、蘭はしっかり返してくれた。

「これは私の推測ですが、人が明晰夢を見る時間帯は目が覚める直前が最も多いのですわ。でも、奴らは真夜中の時間帯の夢を狙って来ていると思われますわ。」

 なるほど。そういう見方もできるのか。彼女は普段脳筋だが、知識自体は豊富なのだ。

「…夢が原因だと話している人は既に狂っている、彼らが黒幕である、などの見解もあるようです。強く主張する者の中には、『自分が町を救った。』『夢で戦っていたのは自分だ』などと言う人物も現れ、混乱を招くとして現在収容されているとの事です。」

 これにコメンテーターが返す。

「やっぱりそんな根も葉も無い事言っちゃダメなんですねぇ。人間、やっぱり現実に生きないといけませんよ。夢に原因があるなんて、そんな事マントルがひっくり返ってもあり得ません。ええ、ええ、それはそれは恐ろしい…。まるで母なる宇宙を敵に回すよう。コンピュータがいくら発展しようと、新たなるエジソンがどれだけ現れようと、生命から逃れるなどアァ恐ろしい。そのようなモノには天罰を…。アノ理を覆さんとする塔を破壊せよ…。空の裂け目からイカズチを、大地の生まれる場から大波を…。エェ、エェ、聞こえますトモ、テスラの叫び。量子数を同じくするレールガンと水鉄砲は蓬莱の地に配置…」

 画面が切り替わり、「しばらくお待ちください」と出る。人があんなに自然に狂うのを初めて見た。部屋にはどうしようもなさが漂っていた。

 誰も喋らないまま、テレビの電源を誰かが落とす。

「…で、どうするの…?」

 取り返しのつかない空気を払いきれないまま夢乃が話す。特に会議するような事も無いので、半分雑談みたいになっていたが、今回はなかなかそうもいかなかった。

「…!そうだ!皆さん、お友達と連絡は取りましたこと?これに巻き込まれていては大変でしょう?」

 なんとかして蘭が違う話題に持ち込む。彼女の言う通り、知り合いが巻き込まれていないか心配な人もいるのではないか。手遅れ気味だが良い話題である。

「いや、私友達いないし。」

「ボクも。」

「俺も。」

「私もでございます。」

 全然良くなかった。そうだった。友達なんて俺たちにいるはずが…、八作にはいてもおかしくは無いのではないか?

「おい、お前、友達いないのか?いかにも陽キャしてるが。」

「うん。放課後はバイトしてたし、女子にモテてムカつくって男子には嫌われた。ボクは蘭さんしか見てないから他の女子にも興味ないし。家族は既にやられてる。」

 本当に狂気的な愛である。

「貴方達、お友達いませんの?…心配事は減ったかもしれませんが…。」

「アンタはどうなのよ。」

 ちょっと引き気味で話していた蘭に夢乃が切り返す。ドキッとして蘭はグダグダ言い始めた。

「私は…その…お友達がいないというか…いや!いますのよ!います!いますが…少々距離を置かれているといいますか…お話した事もありますし、なんなら連絡先も持ってますわ!…ただずっと返信が来ないだけで…」

 要するにいないようだ。金持ちだから妬まれたとか変人すぎたとかその辺が原因だろう。思わず力が入っていて夢乃が苦しそうにしている。

「まぁ、ボクらはお友達って事でいいんじゃない?」

 その一言でその場が救われた。引き篭もっていた俺も、リハビリに青春を捧げた夢乃も、過去がどんなものか分からないセバスもここに来て初めて「友達」ができたのかもしれない。…セバスは友達と言っていいのかよくわからないが。

「で、では、今回はこれくらいにしましょうか。」

 今回も特に何も作戦は立たなかったが、周りを見ると何故か満足そうな顔をして解散していた。もしかしたら俺も、知らぬうちに口角が上がっているのではないかと頬を触ってみた。


 会議を終えて、蘭が夢乃を車椅子に戻し、八作も立ち上がる。廣人はまだ座っていたいようだ。

「アンタ、そんなにくつろいでたらそのまま寝ちゃうわよ。」

 夢乃が見下ろすようにして言う。それもそうかと廣人が立ち上がろうとした時だった。

「おっとっとぅ…、立ちくらみが…。」

 八作がふらつきだした。そのまま蘭の肩に手をつくと、彼女の体はまた跳ね上がり、顔を赤らめて何処かへ走り去ってしまった。先程まで何事も無かったが、体が触れるとダメらしい。セバスは彼女を追いかけ、支えの無くなった八作はそのまま正面に倒れ込んだ。

「八作くん、大丈夫!?」

「お友達じゃなくなるのもあと少しかもな…。」

 そんな事を呟きつつ廣人は八作を起こし、部屋を後にした。

 その後彼らが蘭の顔を見れたのは日が沈んでからだった。それまでセバスは彼女を探し続けていた。

「いいモノを見つけましたわーッ!」

 屋敷の何処かから歓喜の声が響き、セバスはすぐに声の方へ向かう。その後に廣人たちもついて行った。セバスは大きな屋敷を迷わず正確に進んでいく。収容部屋を避けるように階段を上り下りし、奥に広い屋敷のあちこちの廊下を進んで暗がりの倉庫を開く。さらに箱をいくつかどけると蘭の姿が見えた。

「…ハァ…よくこんな所から…あんな大声出せたな…。…しかもなんで…一発で場所分かるんだよ…ハァ…。」

 夢乃を抱えて階段を上り下りしながらセバスについて行った廣人と八作はヘトヘトである。

「あらあら…、わざわざいらっしゃらずともすぐに駆けつけましたのに…。」

 埃まみれの蘭の手には何か怪しい物が握られていた。

「とりあえず戻りましょうか。」

 男子たちは「またかよー!」と叫ぶ気力も無かった。

 蘭は風呂に入り埃を落とし、廣人と八作は汗を流した後、ようやく蘭が見つけた物を見せてくれた。

「ふふん、コレを見てくださいませ。」

 自信満々に見せられてもセバス以外は首を傾げていた。蜘蛛の巣のような造形の下にヒモが伸び、そこの末端には鳥の羽根が付いている。相当古いのか蜘蛛の巣は少し崩れている。羽根は3本。ヒモだけで羽根のない部分もある。

「コレはドリームキャッチャーといって昔アメリカで買ってもらったお守りですわ。まさかあんな所にあるなんて…。」

「それよりも、私は心配していたのですよ。何時間も姿を見せないで…。」

 ずっと探し回っていたセバスは蘭を睨んだ。しかし、彼女はそんな事は気にせずに続けた。

「…ごめんあそばせ〜。…それよりも、もしかしてもしかしたら、このお守りが活躍するかもしれませんわよ。コレがあった倉庫に逃げ込むなんてラッキーですわ。」

 聞いている側は本当にそんな物が役に立つのかと訝しんだが、彼女はノリノリで部屋に吊るした。


「『夢を掴む』ですか…。」

 独り、セバスは悩んでいた。どうしても「ドリームキャッチャー」という響きが残ってしまう。それは悪夢を捕まえるという意図で命名されたと分かっていても、将来の夢を実現するという方に考えてしまうのだ。自分は夢を叶える事が出来たのか、そもそも幼い頃の夢は何だったか。現状に満足はしている。しかしどうしてもモヤモヤが残る。かなり歳をとってしまった今に考えても意味のない事だと分かってはいるが、どうしても考えてしまう。戦線のメンバーを見ていても、彼らも同じ事を考えているのではないかと思う。青春を奪われ、誰も認めてくれない中戦っているのだ。この状況なら簡単に夢を見失ってしまいそうだ。

「どうしたんですか、ボーっとして。お嬢様は見なくていいんですか。」

 目の前から声をかけられる。全く気付いていなかったが火灯が何度も話しかけていた。

「いやぁ、将来の夢について考えていて…。」

「夢!?セバスさんが?」

 火灯は思わず驚いた声を出してしまい、少し申し訳なかったと若干下目線になる。

「君も昔、夢を持っていたのではないですか?この仕事が夢という事は無いでしょう。」

「そうですね…。僕は昔、パイロットになりたいと言ってましたねぇ。今はこの仕事してますが、それで満足ですね。悔いもありません。」

 悔いも無いという事にセバスは驚いた。本当に悔いが残らない程に努力できたのか。そこからどういう経緯でこの仕事に就いたのか。少なくとも自分はそれすら出来ない状況に生きていたという事は分かる。ある日ある人に見込まれた。それまで全く夢も持てない環境だったのか。そこまでで持った夢が無かったのか。それだけが分からなかった。

「それは貴方が夢を掴めなかった事になると思いますか?」

「さぁ?でも、将来の夢なんて抽象的な物、コロコロ変わっても全くおかしくありませんよ。仕事に就いてから、こっちの方が良かったんじゃないかって思うなんてよくあると思いますよ。…あっ、こんな時間。昔の夢、思い出せたらいいですね。」

 火灯は、セバスのような人物もそんな事を考えるのかと思いつつ部屋に戻った。逆にずっと一生懸命に働いてきた人だからこそそんな事を考えるのかもしれない。


「ほらほら、皆さん、テンション上げて!」

 誰も、「あんたのせいだよ」とは言えないままだった。彼女が騒ぎを起こさなければ誰もこんな精神的疲労を抱えていない。

「…今回は早めに集まれたが、どう分かれる?」

 先日のまま破壊された街をチラッと見て廣人が尋ねる。この有様では、一般人を保護しようにも無理がありそうだ。

「私と夢乃さん、廣人さんと八作さんで分かれて、セバスは雑魚と臨機応変なアシストをお願いしますわ。」

 螺旋状に並ぶ無数の月をバックにして蘭は答えた。月は全て満ち欠けの状態が違うが、大量にあるので夜でも明るい。彼女らがいる場所をライトアップしているようだ。

「お嬢様、無理は禁物ですよ。良ければ私も着いて行きましょうか。」

 いつも突っ走り気味な蘭にセバスの方から提言した。しかし、蘭はこれを退けた。

「大丈夫ですわ。私は貴方を信用して一人にしているのです。だから貴方も私を信用してくださる?」

 そう言って彼女はセバスを抱きしめる。

「ボクも小さくなろうかな…。」

 廣人はそんな事を考えている八作をさっさと連れて出発した。

「さ、私たちも行きましょう。」

 廣人達と反対側に向けて夢乃達は歩き出した。セバスは深く明るい夜空に向かって飛び込んだ。

 その直後、新月の一つから夢人が入り込んできていた。暗くて裂け目が見えにくく、誰にも気づかれずにやってきたのは、これまた全身暗い色に身を包まれた男。後に続いて似たような格好の者達がやってくる。反対側からはいつもの雑魚戦士だ。彼らにいち早く気付いたセバスは、どちらから倒しにかかるか一瞬迷ったが、自分一人しかいないので雑魚の処理に専念する事にした。その前に敵の侵入を伝えようとしたが、背後から声をかけられ動きが止まる。

「其方、本当に信用されているのか?(やつがれ)はそうは思わぬ。」

 低く落ち着いた声の正体は黒ずくめの男の先頭。かなり離れていたが、瞬間移動でもしたのだろうか。

「何ですか貴方は。初対面で他人の主従関係に口出ししないでもらいたいですね。」

 セバスも負けずに返す。

「これは失礼…。僕はビルフェズ。…ネロイ様専属の魔術師…とでも言おうか。其方の事は既にしっておる。名乗らずともよい。」

 口元と額のみを隠した顔からは若さが見受けられるが、話し方は大人っぽい。

「其方は主に信用されている…と思っているが、それは真か?信用されていないから一人でここに居るのではないか?」

 自分の心配を煽るような事を言ってくる。しかし、こんな事を話している間に刻一刻と時間は過ぎていく。

「貴方と話している時間はありません。…先程ネロイの名が出ましたね。彼の事を教えていただけるならば話は別ですが。」

 恐らくこの事件の主犯であるネロイの情報が得られるならばセバスにも得である。しかし、ただ話しているだけならば戦いの出だしが遅れるのみだ。

「其方にそのような余裕はあるのかね?」

 一言残し、ビルフェズは消えた。小さな光の粒のような物がそこから漂って行く。その先は魔術師の後列集団。そして彼らのすぐそこには蘭達のいる場所!

「まずいっ!」

 セバスは急いでそちらに向かう。出来れば廣人達を呼びたかったがその余裕は無かった。


「最近、セバスがずっとあんな感じなんですのよ。」

「それ、アンタのせいじゃない?それだけ無茶苦茶してたらそりゃ心配もするでしょうよ。」

 月明かりで星も見えない空を眺めて彼女らは話していた。蘭は夢乃の方をちらりと見ると、突然首元をくすぐった。上を向いていた夢乃は顎下から首が丸出しであった。

「何すんのよ!くすぐったいじゃない!」

 ふざけてやったにしては深刻そうな表情を浮かべる蘭。

「ごめんなさい、ちょっと気になりまして…。その、前回、八作さんが疲れていたでしょう。前まで現実のようなそういう感覚は無かったはずですわ。」

「…言われてみればそうね。荒らされた街が直らないのもそうだけど、なんか変わってきてそうよね。」

 妙に感の良い蘭が不気味だが、夢乃は納得せざるを得なかった。

「…そんで、セバスさんの話はどうなったの…」

 言葉を遮るように、先程まで空気を掻き乱していたビル風が止む。

「皆の物、油断するでないぞ…。奴にこれまで大量の夢人が殺された。確実に潰すのだ。」

 上から低い声が響く。上を見ると十数人の黒ずくめ。座禅を組んで四人が向かい合い、中央に一際装飾の多い者、さらにその上を座禅を組んだまま飛び回る者がいる。

「一旦引くわよ!っうわ!」

 夢乃は蘭の方へ行こうとしたが、見えない壁に阻まれてしまった。

「油断しましたわ…。」

 蘭が手触り確認すると、既に正方形の結界に囲まれていた。内部面積もかなり狭く、薙刀を出しても振る事が出来ない。

「まさに袋の鼠よ…。其方は信用されるに値する者だったか?」

 突然の問いに焦りが倍増する。

「…私は信用されるべきですし、信用してくれる方々を信用し返すべきと思ってますわ。」

「今の状況でも?」

「貴方、セバスに何か吹き込んだんじゃないでしょうね。」

 睨み合う両者の隣で、夢乃は結界を張る者を攻撃しに出ていたが、その上の黒ずくめに防御されてしまった。蘭は下からその様子を見て、この結界は自分を倒す為に用意されたと直感する。

「…私の為にわざわざここまで考えてくださるなんて光栄ですわ。でも、信用をみくびらないでほしいですわね。」

 諦めが混じった強気の言葉だった。敵は顔をしかめ、号令を出す。

「潰せ!」

 結界の天井が落ちてくる。透明で見えないが、確かな圧がある。蘭は薙刀をつっかえ棒のようにして天井を防ぐ。スペアも全て出し切り、自分の背中も付けて押し返さんとする。抵抗も虚しく薙刀は全て同時にへし折れ天井は沈む。地面スレスレで一瞬停止したと思うと、深い音と共に砂煙が巻き上がった。

「む…今更来たのか。其方の信用とやらもここまでだったようだな…。」

 彼の視線の先にはセバスがいた。身体中が絶望にまみれている。夢乃も同じ状態だった。防御している黒ずくめに吹き飛ばされ、急いで戻ってきたらこんな事になっていた。

「そんな…そんなのあんまりでしょ!?」

「心配するでない其方らも夢へ送ってやる。」

 ビルフェズは先程までの結界を消させ、次の標的を定め、結界を徐々に発生させていく。ビル風が再び流れ、土煙を運んでいく。しかし、土煙が晴れると異様な光景があった。彼らはそこには血の水溜まりと圧縮された肉塊があるだけと思っていたが、あったのはコピー用紙程に薄っぺらく伸びたモノ…。異常すぎる事態に動揺が巻き起こる。集中力が切れたのか生成されていた結界も消え去った。夢乃は急いでソレを引き剥がす。

「…とりあえず、引きましょうか…。」

「うわ喋った!」

 驚きつつも蘭の言う通り、薙刀の残骸を踏み鳴らし、すぐに離れた路地に駆け込む。

「何で生きてんのよ!私の涙返しなさいよ!」

 蘭の頭を掴んで怒鳴る。

「死ぬよりマシですわ。…多分これは…ドリームキャッチャーのおかげですわね。」

 ペラペラになってもいつもと調子は変わらず話す姿に安心する。

「それよりアンタ、言うことあるんじゃないの?」

 蘭を隣のセバスの方に向ける。彼女は申し訳無さそうな顔になるが、話す前にセバスに遮られた。

「いえいえ、お嬢様が無事(?)なだけで充分です。ホラ、敵が来ましたよ逃げましょう。」

 彼は急かすようにして言った。とりあえず男子組のいる所を目標に走り出す。

「いつもならグシャグシャにしてポケットに突っ込むけど、セバスさんがいるからやめてあげるわ。」

 そのままでは持ちにくいので夢乃は蘭をくるくると巻き、片手に握った。

「ふざけた真似を…。」

 ビルフェズ達は印を結び空中からエネルギー弾のような物で攻撃してくる。セバスは軽くそれらを躱してブーメランで応戦する。流石に当たって一撃で落ちてくれるような相手ではないが、防御用の結界を張るので時間稼ぎにはなる。

 夢乃の体力が尽きてきた頃だった。連続する甲高い音と共に敵が次々に結界を張った。

「大丈夫か?八作の蘭センサー、流石だな…。」

「ヒロ!…とりあえずこれ、パス!」

 廣人達とようやく合流できた。夢乃は手汗の染み込んだ巻物を投げ渡し、振り返って敵と向かい合った。廣人は、突然投げ渡されたモノを落としそうになりながらも掴み、広げてみた。

「夢乃さん!もっと丁寧に扱ってくださる!?」

 巻かれていると声が出せなかった反動からか、広げた途端叫び出した。

「蘭さん、どうしちゃったの?」

 戦闘はセバス達に任せて建物の影で大まかな経緯を聞く。

「ドリームキャッチャーは悪夢を捕まえるって聞いたんだが…。」

「ボロかったから…という事にしておきましょう。それより貴方達、これから反撃出来ますこと?」

 次々湧いてくる疑問は後にして反撃することを考える。相手は多いので、二人では優勢にはならなかった。

「ごめん、ボク弾切れ。」

「俺はいけるぞ。」

 リロードの手間はあれど、弾を無限に出せる廣人に対し、八作は弾切れを起こすようだ。彼は出来るだけ撃った鉄柱を拾って再利用している。

「…不本意ですが、八作さんが私を連れて逃げつつ弾拾い、廣人さんはあちらを手助けしてくださいませ。」


 まさかあんな事が起きるとは思わなかった。アニメとかゲームの世界ですら近年は見ることが少なくなったような潰れ方だった。それはともかく、蘭がそこまで苦戦するような相手と今戦っている。攻撃すると結界で防がれ、離れると弾を撃ってくる。それが道いっぱいに並ぶ事で攻防がかなり強くなっている。後ろの装飾が多い奴は特に強いようだ。俺が手助けに入っても戦況は変わった気がしない。出来る事は銃で時間稼ぎくらいである。

「増えてもそんなものか。情け無いのう…。」

 装飾の多いやつが煽りつつ両手を掲げる。手元が光だす。

「結界で守られてる間に溜める気か?」

 俺がそう言った頃には既にセバスが回り込んでいた。先程までは攻撃も激しく回り込めない状態だったが、防御に徹底している今なら行けるとの判断だろう。しかし、後ろに回る瞬間に相手が陣形を変え、円の中心にリーダーが来るようにして防御を始めた。

結界はいくら叩いても割れない。

「諦めなさい。これで全て消し飛ぶ。」

 もうすぐで光の球が直径が道幅程に到達する頃、円の端を掠めるようにして何かが飛んできて結界を二つほど割った。

「ヨシ!鉄骨でも上手くいくもんだねぇ。」

 八作が帰ってきた。結局自身の鉄柱は見つからず、破壊されて剥き出しのビル鉄骨を打ち出したらしい。

「割れた…!?」

 他の結界を張っていた者も驚きによって結界が解けてしまう。

「いけます!あとは私にお任せください。」

 セバスがブーメランを縦回転で投げると、リーダーの額に突き刺さる。彼はまだ息があるが、掲げていた手はおりた。

「ちょちょちょっと!なんか落ちてきてるわよ!」

 夢乃の言う通り、光の球は衝撃で浮き上がった後、発射点に向かって落下していた。着弾すれば俺たちもこの周辺も無事では済まないだろう。

「其方らも巻き添えよ…。」

 俺の顔の目の前にそれがきた時、二つのドリームキャッチャーが現れた。どちらも現実の物と同じ見た目でサイズだけ大きくなっている。それらは互いの網目の穴を補うようにして光球を包み、そのまま回転して敵の一団を叩き潰した。かと思えば、光球を包んだ状態のまま空高く運んで行き、いつしか月と重なって見えなくなった。

「一体何だったんだ…。そうだ、蘭はどうなった?」

 訳の分からない展開で助かって呆然としていたが、蘭が一番心配である。

「こ、ここにいますわよ。」

 未だ元に戻らぬまま、八作に抱えられている。こちらから何かしないと復活しないのだろうか。

「空気入れたら戻るかも…という事でボクが空気を入れてあげま…」

 ノンレム睡眠に入ったらしく、蘭が消えた。ナイスタイミングである。

 今回のギリギリの勝ち方でこれからの戦いが心配になり、また、助けるならもっと早く来てほしかったなどと思っているうちに自分も深い眠りに誘われていく。


「私、復活ですわーッ!」

 毎回恒例のように朝から大声が響く。現実に戻ったのだから当たり前だが、彼女はとても嬉しそうである。ウキウキで廊下に出た彼女だが、すぐにセバスに呼び止められる。

「良かった…無事で本当に良かった…。」

 少し早めにノンレム睡眠に入ってしまった彼は戦闘後に蘭の姿を見ていない。彼女の肩に両手を乗せ、そして夢の中でされたように抱きしめた。


「それは大変でしたね。でも、皆さんが無事で僕も嬉しいです。」

 火灯は前日と同じ場所でセバスと話していた。戦いの概要を聞いて苦笑いを浮かべる。

「ええ。でも今回、私も成長できたような気がします。お嬢様との信頼関係がどういう物であるべきなのか、彼女の信じる物も信じるべきか、今回沢山考えさせられました。そして、私の昔の夢は未だ思い出せないのですが、何故か今叶っているように感じるのですよ。」

 火灯はメガネを上げて返した。

「不思議ですね。でも、なんか分かる気がします。セバスさんと他の皆さんを見てると、まるでお友達みたいに楽しそうですから。」

「お友達…ですか。」

 昔、人の少ない田舎で友達も少なかったのを思い出した。もしかしたら将来の夢というのも、そんなに大層な事では無かったのかもしれない。ただ、些細な幸せを願っただけの夢。

 セバスはその後、蘭を呼びに部屋へ行ったが誰も居なかった。彼女の部屋には羽根の取れたドリームキャッチャーが床で日を浴びていた。

「ありがとうございます。」

 彼はそのお守りを丁寧に丁寧に仕舞った。

登場人物紹介

火灯(ひび) (つとむ)

年齢 27歳

誕生日 2/4

血液型 AB

好きな物 ゲーム 酢飯 夜景 お話

嫌いな物 クモ 至近距離で見る花火

頭一つ抜けて真面目に働いている人。若い方だが、セバスに次いで蘭とは長い付き合いである。最近、関係ない時間に明晰夢を見れるようになった。

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