表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

第7話 夢喰

生活リズムがヤバいっす。

いつもそんな感じだけど、今回特に深夜テンションで書いた感があります。

この小説書き始めてから、自分もなんか変な夢見始めた気がします。

今回はあの動物が出てくるぞ!

早く寝たいぞ第7話!

「わぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ」

 耳元で奇怪な音が響く。

「ぬぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ」

 騒音に耐えかねて体を起こす。隣を見ると、目を開けたまま震えている八作がいた。原因はコイツか。おそらく、蘭にフられたショックでおかしくなってるのだろう。このままにしておく訳にもいかないのでゆすってみる。

「おーい。しっかりしろぉ〜。」

 その程度では反応は無いかもしれないと思ったが、反対に彼は勢いよく起き上がった。首を捻りこっちを向く。

「フられた…。フられちゃったよ…。上手くいくって言ったじゃねぇかよォ…。」

 顔をぐしゃぐしゃにして泣きついてくる。今まで目標にして追ってきたモノが崩れたのは相当辛かったようだ。背中をさすって慰める。

「大丈夫、大丈夫。あいつはまだ生きてるし誰とも付き合ってない。一緒にいればまだチャンスはあるさ。気長にいこう。」

 恋愛経験もないのについ偉そうな事を口走ってしまった。しかし、彼は元気付けられて涙が止まっているし、知らぬ間に後ろで見ていたセバスは「これが友情…。」ともらい泣きしている。とりあえずは結果オーライという事でいいだろうか。

 ぼんやりした頭を軽く叩き、無理矢理目を覚ます。階段を降りると涼しい風が吹き込んできた。…そうか、製作室は吹き飛んだのだった。今は板が釘打ちされていて、通れなくなっている。製作室だけが綺麗に吹き込んで、他の部屋に危害を加えていないのは薪名さんの慈悲なのだろうか。マギナちゃんを思い出してしまいそうになり、目を逸らすように通過した。

なんとか重い気分にならないうちに抜け出せたが、その先ではさらに暗い空気になっていた。更に奥からは、忙しそうな音が聞こえてくる。

「フラれた…。それどころか、興味すら持たれなかった…。」

「まだ諦めてはいけませんわ。たまたま彼に聞こえていなかっただけかもしれませんわ。」

 昨晩の戦いでいい所を魅せようと奮闘したにも関わらず、相手にもされなかった夢乃に同情する。八作を応援した直後だが、こちらにも頑張ってほしい気持ちがある。この三角関係はなかなか解決しそうにない。そして三人が恋の悩みをしている中、眺めているだけの自分に疎外感を覚えた。

「グーテンモルゲン、皆の衆。今日も良い朝だね。」

 八作がこれまたよく分からないキャラになって登場した。妙な爽やかさが鼻につく。

「何が『いい朝だね』ですの?貴方のせいで夢乃さんはずっとこんな…」

「おはよう、八作くん!八作くんに会えただけでとてもいい朝だよ!」

 急にテンションが上がる夢乃に蘭は少し引いている。本人が喜んでいるならいいのだが、報われなさそうで見ているこちらがなんだか寂しくなってくる。

「今日も美しいですね…。」

 早速八作は蘭の隣に腰かけた。またしても無視された夢乃は蘭を睨み、睨まれた蘭は嫌そうな顔になる。最早厄災か何かではないかと思うほど、八作は彼女らの関係をギスギスさせているのではなかろうか。そんな事を思いつつ、俺は朝食を頬張った。


「お嬢様、例の品が届きました。」

 セバスが声をかけるなり蘭は跳び上がり、仲間を呼び集める。これから作戦会議をするつもりのようだ。

 仲間が揃うと、部屋の中央に置かれた段ボールの包装を解き始める。カッターを使わずに素手でガムテープを引きちぎる様は、お金持ちらしくないというか、なかなか豪快である。

「どうしたんだい?そんなにボクらに見せたい物なのかい?」

「ふふふ、見たら驚きますわよ。」

 不敵な笑みを漏らす。ガムテープが全て剥がれ、段ボールの上面が開く。蘭は段ボールに落ちそうな体勢になりつつも、中身を取り出した。

「そ…それは!」

「そう!人間をダメにするソファですわ!」

 柔らかな素材でできたそれを床におろす。これまで会議室にあった大きな椅子をお役御免と突き飛ばし、そこに次々と低反発な塊を置いていく。

「皆様の分も揃えたのでご安心ください。」

 しかしそこには三つのソファ。二つ足りていない。

「私は、硬い椅子の方が落ち着くので大丈夫でございます。……夜活様がいらっしゃる前に注文したので、足りないようですね…。」

 セバスは困った顔をしていたが、蘭は先日と同じロクな事を考えてなさそうな笑顔であった。

「大丈夫ですわ。一つ一つが大きめですからね。こうすれば…!」

 すると彼女は車椅子の上の夢乃を抱え、一緒にソファに飛び込んだ。

「ちょっ、何すんのよアンタ!離しなさいよ!」

 夢乃が必死に抵抗するも、がっちり掴まれて離れられない。

「夢乃さんってとても可愛らしいですわ。健気で、素直で…とっても素敵。…ふふふ、暴れても無駄ですわ。だって、貴方は私がいないと自分で着替えもおトイレも、段差を越えることさえ出来ませんもの…!」

 どうせ即興で思いついた対八作作戦なのだろうが、廣人は半分本気なのではと感じた。言っている事が間違っていないのも何気に恐ろしい。ソファに沈みながら呆気にとられている。

「ハァ?アンタにそこまで好かれてベタベタされるなんて冗談じゃないわよ!早く降ろして。私だってダメになりたいの!」

 「ダメになりたい」など、人生でなかなか使うことの無さそうな台詞である。しかし、いくら抵抗しても蘭は離さないどころかより密着している。

「いいなぁ、ボクもそのポジションにいたい…。」

 夢乃は八作が羨ましがる様子を見て、そのポジションも悪くないと初めて思った。

「あら、いいですわよ。」

 蘭の回答に八作は目を輝かせる。しかし、次の瞬間、八作の足の上には夢乃が座っていた。

「そっちじゃなぁぁぁぁぁぁいッ!」

 その叫びは屋敷中にこだました。

 さて、ソファ騒動がひと段落した所で、作戦会議が始まった。八作の上で、嬉しいやら全力で「そっちじゃない」と叫ばれて悲しいやらで本当にダメになってしまった夢乃と、大きすぎた期待を裏切られたショックでダメになってしまった八作を尻目に始める。先程まで空気だった廣人とセバスもようやく口を開いた。

「アレはそのままでいいのか?」

 蘭は無言で頷き、一拍おいて話し始めた。

「今回話そうと思ったのは、最近大将格が複数人になった事ですわ。被害の拡大具合から、私達が見ていない所でも大将格は出ていると思われますわ。まぁ、皆様既に気付かれたと思うのですが。メンバーが増えたとはいえ、何が起こるか分かりませんので、何か案が有れば教えてくださいまし。」

 彼女自身に案は無いようである。脳筋ぶりに呆れつつも、廣人は答えた。

「少なくとも二人ペアで固まってた方がいいな。夢に入ったらすぐに仲間を探して一緒に行動する。少し離れたところに出ることも増えてきたから探し方は臨機応変にな。」

 「なるほど」と蘭は感心していたが、セバスはすぐに質問をとばした。

「もし、見つからなければ?」

「その状態で大将格に会ったらすぐに逃げよう。一人しか居なくても、他のやつが死角から狙ってるかもしれない。一人の時は雑魚処理に専念だな。」

 答えに賛同を得られた後で、彼は別の話題に繋げる。

「この前、テレビでこの事件の事が報道されていた。そこまで被害は大きくなっている。もしかしたらライフラインが止まるのも時間の問題かもしれない。だからって、俺たちの手がそこまで回らないというのもそうなんだが、対策は早いとこしておきたいな…。あともう一つ。少し前の話なんだが、電車の化け物と戦った時…初めて夢乃と組んだ時だな、そこでは人間が料理されてた。でも、確かに生きてたんだ。つまり何が言いたいかというと、夢の中での死ってなんなんだろうなって事だ。夢人に殺されると現実で狂う。でも、肉の塊にされたのに生きてた人は現実でどうなってるんだ?」

「難しい話ですわね。『これも夢の中だから』で済ませるしかなさそうですわ。それか貴方の気のせいか。分からないモノは分かりませんわ。出来ることはやられないようにする事だけですわね。」

 結局ちゃんとした解決策がでないまま廣人の振った話題は終わってしまった。


「廣人さん、私、貴方の言っていた事を解決する方法を一つ思いつきましたわ。」

 合流した直後、蘭がそんな事を言ってきた。彼女のことなので、どうせ変な事をするのだろうとは思っていた。

「変な事したらすぐ止めるからな。」

 そう言うと、彼女は落胆したような顔をした。自分でも変だと思っているのか。バカでかいジャングルジムの上から裂け目が出ないか空を確認しつつ、他の三人を探す。しばらくすると、十数個奥の建設中ビルから伸びるクレーンの上あたりに裂け目が出始めていた。何をしでかすか分からない蘭の方を見る。いない。焦って振り返ると、彼女はビルの屋上を駆けて裂け目に向かっている。まさか、裂け目に飛び込んで向こう側を壊滅させようとしてるのだろうか。

「何しようとしてんだ!」

 叫ぶが、聞こえているのかいないのか、止まる気配を見せない。すぐに後を追う。

 蘭が止まった。裂け目の目の前で急ブレーキをかけた。途端、裂け目がものすごい勢いで広がる。今までにここまで大きくなった事は無かった。

「逃げますわよ!」

 蘭が踵を返し走り出す。そのすぐ後ろから巨大な動物が出てきた。長めの鼻につぶらな瞳が特徴的である。その上にはちょこんと何者かが座っている。

「なんだアレ!?アリクイ?」

「バカ!そんなのと一緒にすんじゃねぇ。バクだよバク!二度と間違えるなクソが。」

 上に乗っているやつだろう。そこから声が聞こえる。しかし、この生き物が大きすぎて彼の姿は最早見えない。

「そんな事はどうでもいいですわ!速く走りなさいな。」

 いつの間にか追いついた蘭に急かされる。脳筋だけあって身体能力も高い。

 一方巨大バクは目の前の建物を喰って食って追いかけてくる。心なしか、食べた分大きくなっているように見える。

 いつものビル群っぽい地帯を抜けようとした時だった。バクが体を捻りはじめた。振り向くと、バクは街に落ち、その体の上で鞭を持った男と夢乃が戦っている。ここまでの巨体なので気付かない方が難しいだろう。蘭と共にすぐに応戦する。

「クッソ、お前ら、卑怯だぞ!」

 男は鞭を弧状に振り、間合いをとる。それと同時にバクの体を叩いた。すると、巨体は起き上がり振り落とされてしまった。起きあがったバクは逃げるように反対方向へと突き進んで行った。通過した後は広い道のようになっていた。

「待ちなさいよ!」

 すぐに追いかけようとするが、バクは既に地平線の向こうだった。

「こんな場所あったんだな…。」

 かなり見通しの良い草原で思わず口に出た。毎回戦場は変化しているとはいえ、ほぼビルの立ち並ぶ大都会がベースだ。夢ノ台はそこまで都会では無い地味な地域なので、人々の都会への憧れが集まった結果なのではないかと俺は推測している。…では、この草原は誰が夢見たのだろう?都会の人間はこんな風景に憧れるのか?それとも、人間じゃない何かが…

「何を考えてますの?ぼーっとしてる暇は無いですわよ。でも、あんなに遠くまで逃げられてはもう追いつけそうにありませんわね。」

 そうだった。草原に見とれている場合ではなかった。

「とりあえず、この辺りを守りましょうか。」

 奴を今すぐにでもとっちめたいが、夢乃の提案が最善だろう。草原の向こうの無事を祈る。


「蘭さーんっ。ぐっもーにんっ。」

 朝から上機嫌なやつがきた。そういえば、バク戦で見かけなかったがこいつは何処にいたのだろう。その疑問を蘭がそのまま尋ねてくれた。

「おはよう御座います。いきなりですが貴方、昨晩は何をしていらしたの?あれだけの巨大な敵、見えない事はないでしょう。」

「あぁー、ごめんね。ボクとセバスは後ろ側にいたんだけど、アイツ、子供を撒き散らしてたから処理してたんだよ。すぐにでも蘭さんの助けになりたかったけど、セバスに止められちゃった。」

 彼は顔の前で手を合わせて謝る。確かに俺たちは正面からしか見ていなかったので、向こう側で何があったかは分かっていなかった。蘭も納得したように頷く。

「しかし、あそこまで巨大な生き物に食べられたらひとたまりもありませんな。今回は被害者が多そうです。」

 セバスの心配は的中していた。テレビの報道を見ると少し離れた街で被害者が急増している。

「逃げられたのが痛かったな。遠くに行かれるとどうしようもない。あっちにも俺たちみたいに戦っている人がいればいいんだが…。」

「恐らく居る、もしくは居たでしょう。でも、被害の様子を見るにここまで守れているのは私達だけだと思いますわ。」

 朝食を終え、早速ソファに沈み込み会議を始める。結局、足りない分は蘭と夢乃が一緒に使う事になった。そもそも、足が動かない夢乃は一人で座ろうとしてもバランスを保てないようだ。そこまでするなら車椅子でいいのではと思ったが黙っておく。

「さて、アイツをどう倒すか、案を出してくださいませ。」

 沈黙。デカくて速いやつをどう倒すか、パッと思い浮かぶ人は少ないだろう。戦線メンバーは皆揃って頭を抱えた。

「運も絡んでくるが、高い所で待ち伏せて、現れたら上から襲撃するのがいいかもな…。前回みたいに高い所から出てきたら大変だが。そもそも、奴が俺たちの近くに出てくるかも分からない。リスクを承知でバラバラに分かれた方がいいのかもな。」

 それっぽい事を言ったが、根本的な対策にはなっていない。しかも、自分で言って気付いたが、大将格はどうして毎回俺たちの前に現れるのだ。ここまで範囲が広がったのだから、どこか遠くに現れてもいいはずだ。それとも、まだ見ぬ大将格が遠くの地で現れているのだろうか。

「今回、あの上の男を倒した後も考えないといけないわよ。バクが単体で暴れ出したら最悪、凶暴化するかもしれないわ。」

「それならば、足を崩しましょう。先に動けなくしてしまえば、上の男も一人で戦わなくてはなりませんし、バクは身を震わすくらいしか出来ません。」

 セバスの意見に感心の声が上がる中、夢乃は少々傷ついた様に見えた。気のせいならいいのだが、足を動かなくする作戦に自分を重ねたのかもしれない。

「んじゃ、ボクは足撃ち抜くから応援ヨロシクね。あっ、あと、昨日ヒロさんが言ってた夢の中での死ってなんだってやつ?あれって、『夢人の決まった攻撃でやられたら死』みたいなんじゃナイ?ボク、前に夢でビル屋上から落っこちたり感電したりしたけど、大丈夫だったし。」

 「ヒロさん」なんて呼ばれたのは初めてで少し戸惑う。しかし、彼の説はなかなか興味深い。俺も二回目の戦闘で自由落下攻撃をしたが、全身骨折で済んでいる。…まぁ、だからといって自分から死ぬような事をしにいきたくはないが…。

「貴方、あの時意識あったのですね…。」

 気絶したままだと思っていたのだろう蘭が少し引いている。

 何はともあれ、作戦も練れたのであとは夜を待つだけである。


 夢に入った戦線メンバーはそれぞれ気合いを入れていた。意味があるのか分からないが、屈伸運動をしているなど、筋肉をほぐしている。しかし、舞台には明らかな違和感があった。これは夢に入った瞬間から感じ取ることができ、ほとんどがすぐに正体も理解した。

「道がそのまま…?」

 前回バクが食い荒らした跡がそのまま残っていたのである。いつもなら、いくら暴れ回って破壊しても、次回には綺麗な新しい舞台になっていた。だが、今回は周囲の雰囲気は変われど、明らかに前回の跡が残っている。

 八作以外はすぐに合流できた。食い荒らした跡で見晴らしが良くなったおかげでもある。

「どうなってんだ…。今までこんな事なかったぞ。」

「まぁ、初めてで驚くのは皆同じですわ。今のところ戦いに支障はきたさないと思いますし、倒す事に集中しましょう。」

 それもそうであると、皆割り切って行動を始めた。

 突然に足元が揺れ始める。

「なんだ…?地震?」

「ひゃっ!?ひゃぁぁぁッ!」

 地面が割れて上向にバクが現れる。真上にいた廣人は食われる寸前であった。

「うおぁっ!下からなんてアリかよ…!」

 咄嗟に口内に銃を撃つ。すると相手は怯み、なんとか一命を取り留めた。

「下から…完全に油断してました。」

 全身が出てくる直前に、何処からか鞭の男が降りてきて飛び乗る。

「どうだ!下からなんて考えなかっただろ!お前らみたいな卑怯者が相手なら、俺は容赦しないぜ。」

 未だに複数人でかかったのを根に持っているらしい。その大きな動物は卑怯ではないのか疑問に思う。

「いくわよ。」

 圧倒されている余裕などない。全員でバクの前脚を潰しにかかる。…硬い。さすがにここまで硬いとは誰が予想できただろう。全く歯が立たない。このままでは、また逃げられてしまう。

「みんな、どいてー!」

 道の奥から声が響く。八作がクロスボウを構えていた。声を聞いて全員が伏せると共に鉄柱が発射される。


バリン


 割れるような音を出して鉄柱は弾かれた。バクの足は少し欠けたくらいで、ダメージが入ったかも分からない。

「そんな…。ダイヤモンドか何かでできてますの!?」

 頼みの綱のクロスボウさえ通らず、いよいよ絶望感が増してきた。

「そんな足元にいるなんてバカなやつらめ。すぐに踏み潰してやるよ!」

 伏せた状態から、転がって何とか足を回避する。衝撃で周りの建物が揺れ、窓ガラスが弾け飛ぶ。

「…作戦変更ですわ。頭の上の鞭野郎から潰しますわよ。」

 蘭は地面を蹴り、勢いよく跳び上がってバクの体に捕まる。廣人と夢乃もそれに続こうとするが、その前にバクは反対に向いて走り出してしまった。セバスはというと、直接上の男から倒すのはあまり乗り気ではなかった。彼は他に良い方法を思いつきそうだった。

「…そうだ…。廣人様、先程下から出てきた奴をどうやって怯ませたのですか?」

 廣人はハッとしてすぐに答える。

「口に銃を撃った。もしかしたらアイツの弱点は口かもな。」

 しかし、現在それを理解したのは三名だけで、他はそんな事思いもしていないだろう。何かを食べながら走っている時よりもはるかに速いバクに追いつくこともできない。これほどまでに夢の中で通信機器が有ればと思ったことはないだろう。追いつくのは不可能なのですぐに八作の方へ弱点の予想を伝える。

「なるほどなるほど。それじゃぁ、ボクが撃ち抜くしか無さそうカナ?…正面怖いなぁ…。」

 あんなのと正面から立ち向かうのは確かに恐怖でしかない。もし口が弱点ではなかったり、弱点だとしても倒しきれなかったりすれば一瞬で食われるだろう。

「怖いのは分かるが、今、蘭がアイツの上で戦ってるからな。彼女を助けると思ってやってくれ。」

 廣人がそう言うと一変して超がつくほどのやる気モードになった。やはり、単純な男だ。


「風が凄いですわね…。奴はどうやって耐えてますの?…」

 蘭はバクの体毛を掴み、よじ登っていた。高速で移動しているため、進行方向からの風圧が恐ろしい。何とか背中まで登る事ができたが、頭の方まで少々距離がある。匍匐前進のようにして男の背中を目指す。

「ここからなら、いけますわ!」

 薙刀を突き出して不意打ちを狙う。

「うわっ!」

 突然スピードが遅くなり慣性に従って前に飛ばされる。鞭が目の前で撓った。

「危ねぇ!全く、不意打ちなんてどこまで卑怯な奴なんだ。」

「わ…私は後ろの正面から正々堂々不意打ちしただけですわ…ごめんあそばせ〜。」

 今回ばかりは相手の言う事が正しいのでなんとか誤魔化そうとする。正々堂々戦う必要は無いのだが。

 急に減速したのは、バクの走行がまた食べながらになったからだろう。またビル群を貪っている。

「ただ、俺が正々堂々お前と戦っても勝てる気がしない…。引かせてもらうぜ!」

 そう言うと同時にまたバクを鞭で叩く。前回と同じく、バクは汚れを落とすように身を捻り転がった。

「同じ手にはかかりませんわ。」

 蘭はローリングの直前に浮き上がる事で振り飛ばされるのを回避した。バクはまた立ち上がり、走り喰いを再開する。

「くそ…もういっちょ!」

 鞭が打たれると、今度は大きく跳び上がり、例の道に出る。そしてまた本気走行に入った。身体中に強烈な風圧を受け、蘭は飛ばされかけたが何とか耐えた。

 どうにかして敵に一撃だけでも入れたい所だが、なかなか上手くいかない。さすがに相手もこの風圧には助けなしで耐えられないようで、必死に毛を掴んでいる。このままではまた逃してしまう。蘭は諦めかけていた。バクが走りながら雄叫びをあげる。

 ドスンと、バクの身体が波打った。急停止するものなので、蘭は耐えられず前に飛ばされてしまった。鞭男に背中がぶつかる。

「何だッ?」

 頭から転がり落ちると共に、バクの体が沈んだ。

「蘭さーーーんっ!」

 落ちてくる蘭を八作がスライディングキャッチする。

「キャッ!………八作さん…。」

 助かったが、八作に助けられてしまって微妙に歪んだ笑顔になる。隣では、何があったか分からないまま落っこちた鞭男が潰れて肉塊になっている。その返り血も八作は全て受け止め、半身が真っ赤になっていた。

「ナイスだ八作ゥ!」

 他のメンバーも駆け寄る。巨大な獲物をバックに、帰っていく雑魚戦士を見上げていた。もう、心も体も疲れ果てて追いかける気にはならなかった。

「そろそろ降ろしてくれませんこと?」

 お姫様抱っこが恥ずかしいのか、急かし気味に言う。

「なんか、嫌な音聞こえない?」

 夢乃の一言で良かった雰囲気が砕かれた。しかし、皆、確かに聞こえた。軋むような、崩れるような、貪るような…音。

「右っ、右見てください!」

 珍しくセバスが焦る声を出した。そちらから、ビルが倒れてきている。

「何で!?老朽化でもしてたのか。」

 そんな事はどうでもいいと、とにかく走る。

「ちょっと…待っ…て…ハァ…。ハァ…」

 ここまで大活躍を見せた八作だが、体力が限界を迎えたらしい。この様子では走れそうに無いが、他のメンバーはもう走り出している。

「…仕方ないですわね…。今回だけですわ。私とお付き合いしたいなら、もっとスタミナをつけてからにしなさい!」

 蘭が八作を背中に抱えて再度走り出す。彼女は自分より大きな男をおぶっているとは思えない速度で走り抜けた。後ろではビルの屋上が着地している。大バクの遺骸は下敷きになってしまった。真後ろではなく横の列のビルだったのが不幸中の幸いだった。

「なるほどねぇ、アレのせいか…」

 土煙が晴れてくると、そこには子バクたちがいた。それらがビルの根元を齧った事で倒れてきたのだ。可愛らしい見た目をしているが、しっかり敵対生物である。

「アレは放っておけないな…。」


「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 うるさい。一昨日よりうるさい。

「いぇぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」

「うるさい!落ち着け!」

 おかげで未だに耳元に呻き声が響いている。これからは耳栓でもしながら寝なければならなさそうだ。

「だってだってヒロさん、ボク、蘭さんをお姫様抱っこしちゃったんだよぉ!その跡は逆におんぶしてもらえるなんて!夢みたい!夢だけど!」

 彼は喜んでいるし、それは良かった。テンションが地獄のように低いよりかは、こちらの方が断然マシである。

「ほほほ、良かったですねぇ。お嬢様に気に入られるよう、これからももっと自分を磨き続けてください。」

「はい!」

 セバスの応援に元気よく返事して八作は部屋を出た。


「もしかして、惚れちゃったんじゃないのぉ〜?」

 朝から夢乃がおちょくる。蘭は顔を赤くして首を振った。

「そんな事無いですわ。あんな変な人間、認めませんわ。大体、貴方も彼の事が好きなのに何ですのその言い方は!」

「貴方『も』!?『も』〜!?」

 夢乃は、蘭が八作と両思いなら自分に勝ち目はないので焦ってしまい、ぐちゃぐちゃの感情でさらにおちょくってしまった。蘭の顔は夢の中で八作に付いた返り血より赤くなっていた。

 蘭はおちょくる夢乃を黙らせて(どうやったかは内緒)何とか落ち着き部屋を出る。

「!!!!」

「らららら蘭さん!?おおおはようございます。えと、その、昨晩はありがとうございましたぁっ。」

「あああらあらこちらこそ、あのままおちたらおおおおケガでしたわわ。つつ次はスタミナを鍛えるようにッ、」

 他人に対して不器用な二人が今後どうなるのか、この様子を見た夢乃と廣人にとって楽しみであり不安でもあった。

登場人物紹介

夜活(よいき) 八作(はっさく)

年齢 16歳

誕生日 8/3

血液型 B型

好きな物 蘭さん蘭さん蘭さん蘭さん蘭さん

嫌いな物 蘭さんに敵対する全て 柑橘系の果物

武器 巨大クロスボウ

突然押しかけてきたイケメン君。蘭を夢で見て一目惚れし、一途に彼女だけを求めて生きてきた。しかし、努力が空回りし、蘭にはあまり好かれていない、残念なイケメン。一度元気付けてくれた廣人を尊敬している。クロスボウは矢のように尖ったものではなく鉄柱を発射する。実家は貧しく、自分磨きには相当苦労した。八作なのに八朔嫌いなのかよって言うとキレる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ