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第4話 猿夢

今回はみんな好きそう(ど偏見)なアイツだ!

まだまだ続くぞ第4話!

・正義のヒーロー

・乗り物

・大きな動物

・オカルト

男の子はどれか一つくらいは必ず好きになるものだ。どれも好きにならずに大人になってしまった男は、これらを見た事、聞いた事がないか、男の心を持っていないのではないかとさえ俺は思う。これらはそれぞれ違う力強さを持っている。悪と戦う心の強さ。人々を運ぶ力の強さ。野性味あふれる獣の強さ。怖い物見たさによる魅力の強さ。そして全部に言えるのはデザインが秀逸な事だ。特に動物は、人間が考案した訳ではないのに惹きつけられる見た目をしている。これこそ、自然の奇跡という物だろう。え?俺はどれが好きだったかって?今は少し離れたが、特にヒーローは大好きだった。仲間を救うため、強大な敵に立ち向かう。憧れない訳がないじゃないか。だって、男の子だぜ?年齢が上がってくると、オカルトに興味を持って調べまくってたな。そんなのある訳ないなんて野暮な事言うんじゃないぜ。ある訳ないから面白いんだろうよ。ある訳ないけど、実際あったら怖いなぁ〜っていうラインをいくのがたまらないのだ。昔の掲示板なんかだと、そんな話を作る才能を持ったやつが多いのなんの。実際の相手の所在も分からないから、面と向かって話を聞くよりもリアリティがあるんだ。これも変な話だがな。そうそう、オカルトの中にも種類があってだな……


そんな話をしていたが、誰も興味が無さそうだった。話せる内容を振られると、すぐ突っ走ってしまうのが俺の悪い癖だ。気づけば夢乃はマンガを読んでるし、セバスは苦笑いしてる。蘭に至っては、椅子にのけぞってイビキをかいている。…俺のせいで夢見てるんじゃないよな?…まァ女子は仕方ない。俺には理解の及ばない生命体だからな。奴らはカワイイ〜とかステキ〜とか言って、本心にはそんな気は一切ないような生き物だ。男子が関わったら最後、尊厳という尊厳が溶き卵のようにグチャグチャにされてしまう。

しかし、セバスはなんだ。理解できないのか。お嬢様と過ごしているうちに男の心を忘れてしまったのか?執事になるにはそんな事に興味を持つ暇は無いというのか?あり得ないと思い睨みつけてみる。

「…ははは。昔の私を見ているようで、なんだか、その…共感性羞恥と言いますか…。」

安心した。セバスにも男の子の時代があったのだ。

「…で、何でそんな話してるんだっけ?」

夢乃の発言で落ち着きを取り戻す。そうだ、こんな話をしてる場合ではないのだ。本当は漢の浪漫をもっと語りたかったのだが…。

「私が最初に尋ねたのが悪かったですわ。廣…人さん、続きはまた今度にして、次の対策を練りましょう。前回何か分かった事はありますこと?」

いつのまにか起きていた蘭が話を進める。そして、どうせ「続きはまた今度」なんて嘘に決まっている。それで本当に続きを聞いてくれた女子なんて姉と母(女子…?)くらいじゃないか?

「アイツ、知ってた…!」

突然何事かと隣を見てみる。そこでは、夢乃が先程とは比べ物にならない深刻な顔つきをしていた。何を食べればそんな切り替えの早さになるのだろうか。彼女はその顔つきのまま口を開いた。

「アイツ、私の足が動かない事知ってた!夢の中で一言も言ったことないのに…。」

部屋の空気が震えた。

「しかも、夢人が攻めてくる理由は私達の方が知ってるって言ってたの。どうしても引っかかるわ…。」

言っている意味が分からなかった。夢の中にしかいないやつが何故外の状況も分かっているのか、意味不明だった。

「まあ。理由なんて分からなくても、敵は端から叩き潰せば同じですわ。」

間違ってはないのだが、相手が来る理由くらいは聞いておいた方がいい気がする。しかも分かった事はないかと聞いたのは君じゃなかったか。

「昨日のアレ見てよく言うよ。…あっ、そういえば被害者数はどうでした?」

ふと思い出して尋ねる。あんなに恐ろしい敵が現れたのだから気が気でなかった。

「まだ集計が完了していないようでございます。恐らくまた被害地域が広がっているのでしょう。」

もどかしかったが、それを待つしかなかった。


「廣人様、少しいいでしょうか。」

昼過ぎに突然セバスに声をかけられた。集計が出たのだろうか。

「今朝の話なのですが、私も昔、憧れていた物がありました。」

予想の斜め上の内容だった。期待とは違ったが、自分の話に共感してくれるだけで嬉しかった。

「私のかつて住んでいた街に列車が通った時は、その迫力に感動しましたし、私を救ってくれた恩人、いわばヒーローには感謝しきれません。それらを目にしてからというもの、私は誰かを助ける強い人を目指しました。今はこうしてお嬢様の近くで役に立てている事が非常に幸福であります。廣人様も、いつか自分の目指す理想像になれれば良いですね。」

なんだか申し訳なくなってしまった。自分は趣味を話していただけなのにそんな真面目に返されるとは思わなかった。同時に、セバスがこんなにも立派な人物だったのだと再確認できた。

「どうしました?具合でも悪いのですか。」

「いえ、ご心配なく…」

心配までさせてしまって余計申し訳なくなった。

その場から離れようとした時だった。玄関から音がした。

「ぜェ…ハァ…集計終わり…ましたァ…。」

火灯さんが死にそうになりながら帰ってきた。集計は疲れるだろうが、息を切らすものなのだろうか。

セバスがすぐさま飲み物を持ってきて尋ねた。

「結果はどうでしたか。」

「なんとォ…、この町と隣町の被害はゼロです!」

顔を上げ、疲れを吹き飛ばすように嬉しそうに返した。眼鏡に汗がべったりとついている。

「しかし、被害地域は予測を遥かに上回る勢いで広がっています。明日からはもう全体の集計はできないでしょう。」

「集計出ましたの?」

蘭が夢乃の車椅子を押してやってきた。

「結果はこちらで報告しておきます。君はゆっくり休んでください。」

火灯さんは声になってない返事をして部屋に入っていった。


「…というわけで、近所の被害者は出ませんでしたが、被害地域が著しく広がっているとの事でございます。」

蘭はニコニコしていたが、夢乃は腑に落ちないのか、挙手していた。

「あのォ、昨晩は夢人一人に三人で大苦戦していたのに被害者0人ってどういう事ですか?まぁ少ないに越したことは無いのですが。」

いわれてみればそうである。

「どうしてだと思いますか?」

セバスが微笑んで返す。三人で顔を見合わせた。

「貴方、もしかして一人で…!?」

彼は静かに頷いた。なんと、大量の雑魚戦士を一人で捌いていたらしい。下から見ただけでも大量に攻めてきていたが、それらを一人で受け切ってしまうなんて恐ろしい人である。道理で見当たらなかった訳だ。しかし、蘭はそれが悔しかったのか何なのか、一瞬驚いた顔をしたがすぐに普段の顔に戻った。

「流石セバスですわ。次回も引き続きよろしく頼みますわよ。」

セバスはもっと感動が欲しかったように見えたが、文句一つ言わずに次の彼女の言葉に耳を傾けた。

「え〜と、次回こそは貴方達二人組で戦ってもらいたいけれど、アレより強いのがきたらまずいですわね…。」

「あの、その事なんだけど、アイツは偵察で来てたらしいから、今回それは無さそうよ。」

夢乃はいい終えてから、やってしまったというような顔になった。もちろん蘭は聞き逃すわけもなく、空腹の魚が食いつくようにすぐに反応した。

「あら、そうなんですの?では、お2人お願いしますわね。」

結局夢乃の墓穴によって組まされてしまった。俺は夢乃を睨みつけた。彼女は顔を両手で抑えつけていた。

それはそうと、偵察の為に来てあれだけ暴れ回るとは、ネロイの恐ろしさを改めて身に感じた。

「ともかく、奴らにも攻めてくる理由があるなら、妥協点を見つけて和解するとか、首謀者をとっちめるとかできるかもしれないんだがなぁ。それが分からんままじゃ何ともならんな…。」

そもそも奴は何がどうなっているのを偵察しにきたのだろう。計画とやらの内容も自分たちが一番分かっているというのだから、考えればそれに近づけると思ったが、時間を割いただけだった。ネロイは敵の中でも相当高い地位なのだろうが、どの立ち位置かも分からない。さらに上の存在から派遣されてきたのだろうか?

「毎回敵が出てくる裂け目の中も気になりますな。無論、入れば敵の本拠地かもしれません。どれだけ危険か分かりませんが…。」

「では、最終目標はそれにしましょう。でも、今考えても仕方ありませんわ。さっさとお夕食を食べて寝ましょう!今夜はハンバーグと聞いてますわ!」

いつまでも楽観的なお嬢様である。

「まだ夕方にもなってないぞ…。」


今日も一日楽しかった。…楽しかった…?いや、楽しんでいる状況ではないのだが。しかしなんだろう、遥か昔に成長に置いて行かれたような、奇妙な高揚感が残っていた。どうしてだろう。毎晩戦って楽しいはずがないのに。楽しんでいいはずないのに。いや…夜な夜なゲームで戦ってた奴が言える事でもないが。一旦今日の記憶を整理してみる。…ご飯食べて会話して手伝いして遊んで会議して風呂入って…特に何も特別な事はない。以前の俺には欠如していたが。何か大切な事に気付いた気がした。よく分かってないのに人生振り返ってみるものだと感じた。ところで、なぜこの感覚をこんなに懐かしく感じているのだろう。脳の斜め前辺りに何か引っかかっている感じがする。その引っかかりは次第に痛みへと変わっていき、眠りへ引き摺り込んでいった。


緊張の中、二人はそわそわしつつ立っていた。

「ちょっと、何か話しなさいよ。」

暇なのか、緊張をほぐしたいのか、夢乃がそそのかす。しかし、廣人はむすっとした顔で緑と紫の空を見ていた。彼の視界には、ビルの頭、いくらか壊れているメリーゴーラウンド、何かの骨組みだったであろう鉄骨に、巨大な箪笥などが映っている。

「何?怒ってるの?私の態度がそんなに嫌なら、自分のそのド陰キャな性格から直しなさいよ!」

そわそわはだんだんとイライラに変わってきた。夢乃は今朝、優しい言葉をかけてくれた事など忘れたように廣人を罵った。それにしてもいつまで経っても敵が来ない。来ないなら平和でいいのだが。前回の偵察で恐れ慄いて諦めたなど、到底有り得ない話なので来ない訳がないのだが。見上げる廣人も顔が険しくなっていく。罵り疲れた夢乃は視線を廣人から外して前を見た。

「…?」

前から不気味な気配を感じる。曲がり角の反対のビルに二つの円形の模様が見えてきた。

「前!前見なさい!」

急いで肩を揺らす。曲がり角から出てきたのは電車…に似た何か。車輪の代わりに百足のような脚が無数に生えており、線路もない道を走って来る。

「何だよありゃァ!?」

廣人はようやく口を開いたかと思うとすぐに真上に跳び、電車の上に着地した。電車の最前部も口のように開き、何故か汽笛のような鳴き声を放った。電車の上から受ける風は強烈だが心地よい。

「何なのこれ…?生きてる?」

電車が生きてるなど信じられない。いくら夢でも、こんな奇妙なものが出てくるなどそうそう無いだろう。

「…トレインイーター?…」

「何よ…それ…。」

「電車に擬態して人を喰う化け物だよ。調べた事がある。そこ見てみろ。」

指を指された所は、塗装が剥がれたようにピンク色になっている。しかし、だんだんと電車らしい色に変化していった。

「あのピンクが元々のコイツの体色だ。」

廣人は意気揚々と話す。好きだった物を直接見れてテンションが上がっているのだろうか。夢乃はそれを呆れた目で見ていた。

「それにしても、iR217系に擬態するなんてなかなか良い筋してるなぁ。電車オタクならすぐ乗るだろ。…電車、興味無い…?」

ようやく夢乃の視線を意識したのだろうか。気を取り直してかがんでいる姿勢から立ち上がった。

「電車というか、乗り物なんて興味ないわ。でも、良かったんじゃない?男の子の好きな物が詰まってるわよ。」

夢乃の笑みは小馬鹿にしているようだったが、その言葉に廣人は納得していたようだ。口角を上げて日本刀を電車の頭に突き刺す。

「あとは俺達がヒーローになれば完璧だな!」

電車は悲痛な鳴き声をあげてうねった。血しぶきが飛び出す。バランスを崩しかけたが、天井を突き破って運転席に侵入する事に成功した。

「ひぃっ!」

怯えるような声が聞こえた。こんなのにも運転手がいるようだ。部屋の隅で小さくなっている。突然電車の屋根が剥がれたのだから当たり前である。

「運転手もいるのか…。あんた何モンだ?」

運転手は顔を横に振り、しばらく震えてから答えた。

「わた…私は何も知りません!」

そのまま黙秘を続けるようなので、刀を突きつけてみた。すると、案外あっさりと話してくれた。

「すす…すいません!…実は私、気付いたらここにいまして、運転しようにも電車が言うことを聞かないのです。ドアも開かずに途方に暮れていると、車掌のような人に脅されて閉じ込められてしまって…。」

随分と早口で言い切った。なるほど、この人は夢を見ている人間らしい。本当に電車の運転手かは分からないが、そこは問題にはならなそうだ。運転手が将来の夢の男の子でもおかしくないだろう。

俺は銃で運転室から後ろの車両に繋がる扉の鍵を壊した。思ったほど頑丈な作りではなかったが、人が開けれないようにするには充分すぎるほどだった。

「それじゃあ、安全運転で頼むぞ!」

運転していない運転手に声をかけて勢いよく出て行ったのはいいものの、そこには恐ろしい光景が広がっていた。通勤、通学で乗ったのであろう人々が料理されていた。吊り革に干物のように吊るされたサラリーマン、座席に生け作りにされている学生、荷物置きにヒラキにされている老人。丁寧に置かれているのがより不気味だった。しかも、よく見ると全員少し動いている。生きてるのか?こんな姿にされて生かされて、そのままこの電車に消化される運命なのだろうか。

「夢乃には刺激が強すぎるな…って夢乃?」

いない。一緒に入ってきてなかったのか?引き返す事も考えたが、彼女の無事を信じて電車の後部車両を目指して次のドアを突き破った。

そこから2回は同じような景色が続いた(急いでいたから違ったとしても気付かなかっただろうが)。次のドアを見た時、一瞬足が止まった。

『女性専用車両』

そこに入る事は決して簡単な決意では出来なかった。夢の中とはいえ、先程までのような凄惨な光景が繰り広げられていると思うと入りづらい。

「次はァ〜ミンチィ〜ミンチィ〜。」

突然に車内に声が響く。この後ミンチにされる人がいるという事だろう、もう女性専用車両など気にしている場合ではなかった。

 ドアを突破すると、俺から最も離れた位置に2匹の猿に捕まった2人の女子高生らしき人がいた。その手前には、大きな機械と車掌の姿があった。女性専用車両では前までの車両の人と違う料理にされているようだった。吊り革にはハムやソーセージのようなものが吊るされており、うっすらと人の顔のような模様が見える。座席には泣き顔を浮かべる生首が皿に乗せられ並べられている。荷物置きに目をやると手足が大量に置かれており、最早料理なのかも分からない。更に、乗車口の前ではスープにされていたり、丸焼きにされていたりした。こちらの料理も生きているようだった。

 俺が入ると、車掌も猿も女の子もすぐに気付いたようだった。

「助けて!そこのひt…mgm…。」

片方の女の子が叫ぼうとすると、すぐに猿が口を抑えた。

「おい、何してるんだ!まさかその機械を使うんじゃないだろうな。」

銃で威嚇してみる。しかし、相手は女の子を盾にしているので撃つことは出来なかった。

車掌がゆっくりとこちらを向いて語りかける。

「ダメじゃないですかぁ〜。勝手に女性専用車両なんて入ってきちゃぁ〜。」

彼は帽子を深く被っており、ニヤついた口元しか見えない状態だが、苛ついてるのが見て取れた。彼が手袋の上から指をパチンと鳴らすと、猿達が女の子を機械に投げ込んだ。

「やめてっ!嫌っ!死nゥアガんッ」

機械に声まで飲み込まれていった。2人は機械の中で肉塊になって混じり合い、下から排出された。例に漏れず、このピンクの塊もビクビクと震えている。焦って引き金を引いていたが、猿に避けられて反対の壁に小さな穴を開けただけだった。

猿達は機械ごと奥の車両へ彼女らを運んで行った。

「待て!」

追いかけようとしたが、敵が大人しく行かせるわけもなかった。

「えェ〜、緊急のダイヤ変更申し訳ございません〜。侵入者によりィ〜次はァ〜引き回しィ〜引き回しィ〜。侵入者のォ〜、お相手はァ〜、私ィ〜、猿捕海(さとりうみ)がァ〜させていただきまァ〜す。」

刀を振り回していたが、ひととおりアナウンスが終わるまで避けられてしまった。吊るされていたハムがぐちゃりと音を立てて床に落ちる。そういえば、料理された人が生きているならこのまま目覚めたらどうなるのだろう。もしかしたら、食べられなければ無事かもしれない。俺は細心の注意をはらって戦う事にした。

「次はぁ〜私の番〜。」

猿捕海はポケットから切符のような紙切れを出すと、検札鋏でパチンと挟んだ。

「キキィーー!!!!」

その瞬間、窓を割って大量の猿が乗り込んできた。そして、窓際にあった生首達を貪り食い始めた。

「ああっあっああっ。」

被害者を減らそうと努力しようとして直ぐに全てを水の泡にされてしまった。猿達はもう、ハムに食らい付いている。

どうしていつもこうなんだ。何かしようとする矢先に叩き潰される。守りたい物も守れないなんて…。


一方、こちらは夢乃サイド。彼女は廣人について行く直前、背後に気配を感じた。車両と車両の間に何か入っていったような…。一つ後ろの車両に乗ってみる。やはり何かいる。今度は奥の車両の横に隠れた。影を追っていく。

「ウキキィーー!!」

「猿!?」

横から猿が飛び出してきた。反射的に剣で薙いで追い払うも、次々と出てくる。始めは一匹出てきただけだったのに、車両の隙間、横、上!?あちこちから湧いて来る。

「なんなのよコイツら!」

今は一人で、頼れる味方もいない。必死で追い払うしか無かった。一匹に向かって適当に剣を振って距離をとり、横、後ろから攻めてきた奴に刺す。足元を狙ってみる。とりあえず色々な方法で処理したが、相手も学習しているのか、同じ手は通用しなかった。何とか切り抜けて一つ奥の車両に逃げる。

「いくら何でも多すぎでしょうが!」

とにかく数の暴力である。先程の猿達が追いかけて来るのに加え、次の車両の横からも湧いて来る。電車が重さで軋んでるように感じる。捌き切れるわけがないので逃げるしか無い。更に奥の車両に飛び移った瞬間、猿達が吹き飛ばされた。標識である。そういえばこの電車は線路を通ってなかった。

「…ら、らっきぃー…。」

安心したのも束の間、すぐに新しい猿が湧いてきた。再び囲まれて身構える。猿達がまた飛びかかってくる。と思ったら、何か別の獲物を見つけたように車両の横に飛び降りていった。安心してすぐにガラスの割れる音が響いた。

「中で何してるの…。」

自分も気をつけて窓から侵入する。そこでは、人間の身体を喰らう猿と車掌、そして廣人の姿があった。

周りの状況が分かって無いのか、廣人は呆然と立ち尽くしている。

「何やってんのよ!」

それは廣人と猿両方への言葉だった。

「二人目のぉ〜侵入者ぁ〜ですかぁ〜。

 …同じくゥ〜引き回しィ〜引き回しィ〜。」

ようやく気を取り直したらしい廣人は銃を車掌に乱射した。全く当たらない。

「私は猿をやるから、あんたは車掌潰しなさい。」

返事は無かったが、伝わってはいるようだ。彼は車掌の方へ走り出した。車掌を壁際まで追い詰めてトドメの一撃を出す。

「ピピィィィィ!」

耳をつんざくような笛の音が響いた。電車が急停車する。それも、減速なしで止まるものだから、猿達も巻き添えで車掌以外反対側の壁まで吹き飛ばされてしまった。

「くっそ〜。」

猿がクッションになり二人共怪我はしなかったが、鈍い衝撃が体を突き抜けた。

「随分とぉ〜邪魔の多いぃ〜日ですねぇ〜。」

帽子の下の目が少し見えた。もう一度切符を挟もうとしている。

「させるかよ!」

銃で手元を撃ち抜いた。初めて上手くいったかもしれない。廣人は自分でも驚いた。すぐに追い討ちをかけに行く。

ガシャンガシャン、ゴン、ゴロゴロ

重たい音がどこからか響いてきた。

「横に跳べッ」

奥の車両から壁を突き破ってきたのはミンチ製造機だった。急ブレーキの慣性で滑ってきたのだろう。

「そぉ〜んなのぉ〜アリかぁ〜。」

機械に轢かれてそのまま前の車両に押し出されていった。あんなのをマトモに食らえばひとたまりもないだろう。敵ながら少し可哀想だと後ろを覗いてると、何かが廣人の顔にくっついてきた。

「うおっ!?今度はなんだよ。」

正体は、大きなハンバーグ。それも二つ。怯えるように震えている。…まさか…。夕飯を思い出してしまって気持ち悪くなってきた。

「何それ、動いてない?」

夢乃はまだ料理の正体を知らなかった(料理と呼べないような生首などは見たので半分理解してしまったが、信じたくなかった)。彼は知らなくていい事もあると、その事は言わなかった。手の中で命乞いをするようにハンバーグは蠢いていた。

「…食わねぇよ…。」


その後、運転手の方へも行ったが無事なようだった。彼は泣いて感謝してくれた。夢が覚めたらおそらく覚えて無いのがもったいなかった。ちなみに、彼が料理されてなかったのは運転手がいないと電車が走らない仕様だったかららしい。

猿捕海と言ったか、あの車掌を倒した事で猿達も消えて電車も動かなくなった。しかし車内はそのままで、酷い有り様だった。腹の中でこんな事が起こったら電車もたまったものでは無かっただろう。

「うえっ、なんかネチョネチョしてる。何これ、ヨダレ?」

そういえば急停車で料理が端に固まっていると思ったが、見当たらない。まさか、消化されたのか…?そう思った瞬間から、猿が食い荒らしていた時のような無力感に苛まれた。

俺達はヒーローになれたのだろうか?


最高に酷い目覚めだった。勝っても負けた気分だった。

「元気出しなさいよ。全員守るなんて無理があるわよ。」

隣の席から夢乃が声をかける。周りではみんな頷いている。しかし、慰められた気はしなかった。捻くれているのだろうか、逆に諦められたような気がして辛かった。

「私達も、必死で応戦しましたわ。でも、雑魚も狩残しが出てますわ。全員守るというのはそれほどに厳しい事ですのよ。」

どうしてそんなに諦めがつくのだろう。料理人も心なしか減っているように見える。とりあえず肉以外の朝食を食べて今日は休む事にした。…牛には悪いが、肉はどうしても食べる気にならなかった。

部屋に戻ろうとするところで、火灯さんに会った。集計が終わったのだろうか。

「やぁ、元気少ないようだけど大丈夫かい?」

彼は悩みを受け止めてくれた。辛く思っている事、自分がまだまだ弱い事。沢山話してだんだん心が軽くなってきた。気持ちを吐き出すというのはこんなにも心安らぐものだったのか。

「そうだね、確かに守りきれなかったのは辛いね。でも、僕なんてまだ明晰夢さえ見れてないんだよ。戦ってるだけでも君は凄いよ。

一人でも守れなかったら自分を責めてしまう。それは短所だけど長所だ。本当に優しくないとできない。本当にヒーローみたいだ。」

彼の言葉は胸に染み込んでいき、傷を癒すようだった。次こそは全員守ってやると気持ちを切り替えることができた。心残りというと、ハンバーグにされた女の子達が無事なのかだけだった。

「あーあー、見たかったなぁ、トレインイーター。見たら絶対虜になってたよ。」

彼は男の子の精神を今も宿しているらしい。仲間がいないのではと少し心配になっていたので嬉しかった。

少し間を空けてから話す。

「ぶっちゃけ、お嬢様も優しい人じゃないからね。君がより優しく見えるよ。」

早口でそう言い、クスクスと笑った。俺は笑えなかった。

「火灯、覚悟はよろしくて?」

彼はすごい勢いで振り向いた。何処へ連れて行かれるのだろう。悲痛な叫びだけが聞こえてくる。

しばらくすると、見違えたように絶望した顔面で火灯さんは帰ってきた。何をされたかなど、恐ろしくて聞けない。

「…女の子ってなんなんだろうね…。」

俺は何も答えられなかった。

これから課題、部活、テラリア、スマブラなどなど、やむを得ない用事で投稿遅くなるかもしれません。もしも楽しみにしている方が居られるとしたら申し訳ございません。


登場人物紹介

啜屋(すすや) 夢乃(ゆめの)

年齢 15歳

誕生日 3/6

血液型 O型

武器 短剣

好きな物 寝る事 一人で楽しめる事 イケメン

嫌いな物 他人とやらなくてはならない事 リア充

侵攻が始まって廣人が最初に夢で出会った少女。せっかちで偉そうな所があり、戦闘ではそれにより失敗する事も。幼い頃の事故で足が動かず、その為夢の中に居場所を求め今に至る。最近、「五体不満足」を読んで腕が動くだけ幸せだと思い始めた。

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