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第3話 夢追い人、夢に追われて

オマージュとかパロディは楽しいけど程よく入れるのが難しいですね。全部分かった人はめでたい事にきっと僕のドッペルゲンガーです。

さてさてどうなる第3話!

夢を見ていた。

自由に走って、飛んで、遊ぶ夢。

世界はどこまでも広く、空はどこまでも深くて、いつまでも見ていたかった。

そこでは孤独も不安も焦燥も感じなかった。

でも、夢を見れば見るほど現実から目を逸らしたくなって、目覚めると急に全身に恐怖がのしかかってきた。

だけど、今は違う。

今は現実でも居場所がある。仲間がいる。怖い事なんて何も無い。

そのはず。そのはずなんだ。



「どきなさいっ。どきなさいって。どけって言ってんでしょうが!」

朝から屋敷に罵声が響いた。収容されていた狂人も背筋を正した。

「なによアンタ、金持ちのくせして寝相悪すぎでしょうが!しかも重いのよ!」

「家の貧富と寝相は関係ありませんわ。」

「…あー…そう…。」

反省の様子が無いのを見て夢乃は呆れてしまった。

ため息をつきつつ天井を見上げるしかなかった。隣ではせっせと朝の支度をする蘭が見えた。

「アンタはいいわよね…。」

呟くように言う。半分独り言だったが、蘭は返事した。

「そう見えます?」

「何。自分の環境にまだ満足できてないの?アンタは全身自由に動くし、金もあるし、寄り添ってくれる人もいる。望む事なんて無いじゃないの。私は足が全く動かないのよ。そのせいで友達も全然出来なかったし、何も自由にできない。ただ移動するだけで誰かに手伝ってもらわないといけないのよ!」

勢いで吐き出すように言い切ってしまった。相手の事、まだちゃんと知ってないのに。胸が少し苦しくなった。

「そう…。貴方から見たらそうですわよね。私が贅沢すぎますよね…」

笑顔が少し曇ったようだった。しかし、すぐに元の笑顔に戻った。蘭は夢乃の身支度も素早く終えた。

「さて、準備も出来た事ですし、朝食に向かいましょうか。」


不思議な感覚の朝だ。それが夢で戦ったからなのか、隣の部屋からの怒号で目覚めたからなのか、はたまた昨日初めて出会ったおじいさんと一緒の部屋で寝ていたからなのかは分からなかった。既に準備されていた衣服に着替えると、良い香りが漂ってきた。食堂へ向かうともう朝食は出来上がっているようだった。どうやら和食のようだ。

「どうぞ、座ってください。」

料理人か召使いか分からないが、声をかけられるなり一番近くの椅子に腰をかける。

しばらく昨晩の事を思い出しつつ待っていると、他の3人もやってきた。セバスが夢乃を優しく席につかせる。全員座り、それぞれ顔を見合わせると、なんだかおかしくて笑いが溢れた。

「いただきます」

本格的な和食など前に食べたのはいつだろうか。もしかしたら初めてかもしれない。しばらく全員黙々と食べていたが、話さずにはいられなかった。

「なんというか…、昨日はその…凄かったな…。」

うまく言葉に出来ない。

「明晰夢にならなくて逃げ回ってた人が何言ってんのよ。」

「最初はほんな物でふわ。ほれよりほ、はのとき空から落ひてひはのは…」

蘭が米をほおばりながら尋ねる。これはセバスも気になっているのか、行儀の悪さを注意するのも忘れているようだった。

「いや…、みんなの所に行こうと思って、飛んで見つければ最短だなと…。その後、戦ってるのを見つけたから自由落下で降りたんだよ。」

「違いますわ、聞きたいのは貴方の度胸です。あんな高い所から飛び降りるなんて…。夢でも死んだらアウトですわよ!?」

米をむせそうな勢いで飲み込み聞き返してきた。

「それは命懸けで戦ってる君たちもそうなんじゃないか?あれで俺が死ななかったのは、何故か分からないが…。気が張ってたからかな?」

いつの間にか焼き魚を綺麗に骨だけにしていたセバスが答える。

「それもそうかもしれませんなぁ。それに関しては私達の方が異常だったのかもしれませぬな。」

3人とも今まで意識してなかったのか、きょとんとして顔を見合わせた。

「じゃあ俺も聞くけど、なんで昨日あんな時間に寝てたんだ?」

あんな平日の真っ昼間に同時に寝ているなんて偶然でもそうそう無いだろう。初めて夢乃に会った時に聞きそびれていた。

「パトロールといったところですかね。庶民を守るのも私達の役目ですわ。」

「暇だから寝てた。」

「私はその時は起きていました。」

それぞれの答えが返ってきた。町中がパニックだったなら学校も無かったのだろう、学生が寝てるのも理解できる。

「なるほどねェ…。」

特に話題が盛り上がらず、微妙な空気になってしまった。だから人と話すのは苦手なんだ。とりあえず作り笑顔でその場は誤魔化した。

それから色々話したが、大概のことは「夢だから」で片付いてしまった。夢乃が自分より歳上のような姿なのも、セバスが少年の姿なのも本人の意思でそうなってるらしい(セバスは蘭の趣味)。そういえば、初めて夢で戦った時、自分も伸びっぱなしだった髭が無い状態だったような気がする。

「ご馳走様でした」


セバスが何やらタブレットを操作している。

火灯(ひび)の調査によると昨晩のこの町での犠牲者は4人らしいです。初日と比べ、かなり減らす事に成功しています。」

火灯というのは別の使用人だろう。初日から被害者のデータをとっているのだろうか。

「ええ、それは良かったですわ。でも、何とか早く0人に抑えないと。」

「初日と2日目はどうだったんだ?」

俺が徹夜していた時の分も聞いてみる。

「初日は、この町の人口の半数以上が犠牲になりました。2日目も緊急で対策を練ったものの、前例があるわけもなく混乱しておりましたので、残った者の4割ほどは犠牲となってしまいました。また、夢での犠牲者による現実での犠牲者も含めると全体でこの町の人口の8割は犠牲になっていると考えられます。」

背筋が凍った。俺は何故こんなにも犠牲者が出ている中で呑気にゲームをしていたのか。

「あくまでこの町のデータでしょ。もっと広い範囲のは無いわけ?」

そういえばそうだ。昨晩目の前で惨殺された人々は4人ほどではなかった筈だ。

「被害域は日に日に広がっており、今ではこの県より広くなっているようでございます。今回はお嬢様が大将を倒したおかげで少なく済んだようでございますが、この町の外では1割強が被害に遭っていると予想されます。」

1割とはいえ、人口の母数も増えているので少なくはないだろう。セバスは落ち着いた声で話しているが、内心は焦っているのがどこからか感じ取れた。

「これはまずいですわ。夢の中での話なんて覚えている人は少ない上、まだ事件を知らない人は信じてくれるわけもない。私達がこの町を守れても、同じように他の町も守れるとは思えませんわ。」

蘭は早歩きで部屋の中をぐるぐると回りつつ言う。

この巨大な屋敷でも狂人の収容人数はギリギリなのに、他の地域でも被害者が出たら治安は最悪だろう。

「廣人さん、夢乃さん、次回の大将格は貴方達に任せます。私達は一刻も早くより遠くの人の避難、戦える人の発見を急ぎますわ。」

「え?」

冗談じゃない。初めて出会った時から相性は最悪だったやつと戦えと?

「ちょーーっとそれは良くない気がするなぁー。」

「あら、私が居なくなったら貴方達はどうするつもりですの?まだ侵攻が激しくない今のうちに訓練しておくべきですわ。」

反論できない。横を見ると夢乃にすごく嫌そうな顔で睨まれていた。多分俺も同じ顔をしていただろう。


夢乃の脳内には悩みが溜まっていた。最初から相性最悪と思われる廣人と組まされる事では無い。…いや、それもあるが。足が動かない事が彼女の悩みのタネだった。

当時幼かったにも関わらず、事故で足の自由を失ってから彼女はずっと引け目を感じ続けていた。両親も周囲もそんな事を気にせず、彼女に愛情を注いできた。しかし、夢乃は自由に足を動かす事を夢見てリハビリを決めた。両親にお金を出してもらい、施設に通い詰めた。しかし、一向に改善する気配は見えなかった。家計の事もあり、彼女は焦りをつのらしていった。そんな中、どこからか心無い言葉が聞こえてきた。

「努力が足りないんじゃないか。」

「後から始めた子の方が先に回復したよ。恥ずかしくないの?」

「誰のおかげで施設に通えてるのか分かってるの?親不孝な奴だ。」

どこの誰が言ったかも分からない。もしかしたら自分の焦りが幻聴となったのかもしれない。何にせよ夢乃の心はボロボロだった。「もう辞めたい。足なんて動かないままでいいから解放されたい。」その言葉を吐き出す選択肢と度胸は無かった。彼女自身も、「もしかしたらもう少し頑張れば回復するかもしれない。」と思っていた。

結局そのまま義務教育の終盤に差し掛かり、友人もろくにできないまま受験生を迎えようとしていた。遊び、勉強、青春の時間を捧げた努力は実らないままだった。挙げ句の果て、同級生にからかわれる事さえあった。

「あなた、足が動かないのをいい事に男子に心配してもらおうとしてんじゃ無いわよ!」

「啜屋って放課後すぐリハビリ行ってるらしいけど、あんだけやって治らなきゃ無理だろw」

「階段から落として怪我させたら諦めるかな?」

しかし、その頃には彼女は受け流す事ができるようになってしまっていた。全て自分の足が動かないせいだ。動けばこんな事にはならなかったんだ。と、石鹸のごとくすり減り、極限まで削られた心は痛みも苦しみも感じなくなっていた。それからだろうか、彼女のリハビリに覇気がなくなってきた。心の中に免罪符を手に入れてしまった彼女はリハビリに意味を見出せなくなったのかもしれない。しかしついに両親に言われてしまった。

「もう勘弁して!あなたのためにどれだけ時間使ってると思ってるの!」

「何もかもタダじゃないんだ。やる気が無いなら辞めてもらう。」

「こんなに長い間続けてて全く良くならないなんて、初めからやる気なんて無かったんじゃないの?こんな事なら協力するんじゃなかった。」

ショックだった。今まで協力してくれた人に今までの全てを否定されてしまった。いつしか求めていた解放とはかけ離れた形で諦められてしまった。もう誰も信用できない。そう思った日から彼女は学校にも行かなくなり、夢に逃げ道を見出した。しかし、夢の話などすぐに忘れてしまうので毎朝夢日記をつけるようになった。そうしているうちに明晰夢が見れるようになっていた。

そのおかげで、今は良い人に拾われた訳なのだが、足の動かない自分を迷惑と思っていないか心配だった。リハビリを途中で辞めたような親不孝な人間を信用してくれるだろうか。いきなりお荷物だと捨てられてしまうのではないか。過去を振り返る度に自分が嫌になっていた。


なんやかんやしているうちに寝る時間が近づいてきた。なんやかんやというのは、人手不足な屋敷の家事を手伝ったり、大雑把な作戦を聞き流したり、トランプで遊んだり…と様々だった。勝手に狂人収容をしているのが警察などにバレると面倒なので、出来る限り外には出ないようにしろとの事だったので退屈な時間もできると思ったが、退屈なのは作戦会議くらいで済んでいる。相手の強さも戦法も全く分からない状態で話し合っている訳だからな。作戦は臨機応変が一番である。


「もう寝るのか…。」

全く眠く無い。こんなに早く寝るなんていつぶりだろう。

「何言ってんの、もう11時半よ!良い子のみんなはもうとっくに寝てるわよ。」

昨日は徹夜の後だったし、昼寝も寝てないようなものだったからすぐ寝れたが、普段3時より遅く寝る人にとって厳しい時間設定である。

俺達が寝る時間帯は、被害を抑えるため多くの人が寝てる時間帯を狙っているとの事だ。しかし、現代の日本人は生活リズムが崩れがちで、夢をみる時間帯がまちまちらしい。広がるであろう被害範囲で今回も他人を守るのはなかなか厳しくなりそうだ。

「私が子守唄でも歌いましょうか?」

セバスが背後から声をかけてくる。

「けっ、結構です…。」

冗談でもよして欲しい。

そして今夜も、健闘を祈ってなんとか眠りについた。


私の願い…足が自由に動くようになる事…足が自由になれば、どこでも行ける。遊び回れる。友達と仲良くできる。

……本当にそう?…私は足を動かすのが目的だったの?違う。足が良くなってもどこにも行けない。遊べない。仲良くなれない。…そうだ…今まで、足が動かないせいにして逃げてきたのかもしれない。そうだった。なかなか達成できない目先の目標に執着していつのまにか手段が目的になっていた。確かに足が動けばと思った事はいくらでもあるけど、そうでなくても何とかなったはずだ。それなのに…どうして…どうして…

「…どうしたんだ!どうした!おい!」

「あっ…いや…なんでもない。」

疲れているのだろうか。頭の中でまだ思考が渦巻く。

「ホラ、もうすぐ来るんじゃないのか?」

「わ…私だけでも充分よ。」

「ホントに…?」

ニヤついたような目で見られる。

「…それは言い過ぎた…かも…。」

「それでは、お二人とも頑張ってください〜。」

少し遠くから蘭は手を振った。

しかし何というか、今回は前回までとまた違った雰囲気の夢になっていた。夢っぽさが増えたというか、より沢山の人の夢を混ぜたというか…。これから先、どんどん坩堝状態になっていくのだろうか。

空に裂け目が出来る。

「来るわよ」

「ああ」

今回は視界に一つしか裂け目が見えなかった。そのたった一つの裂け目から出てきたのは、シンプルな杖を持った、人間でいう60代くらいの男性。豊富な白髪に数本黒髪も混ざっている。

相手の全身が出てきた瞬間、恐ろしい殺気が押し寄せてきた。全身の生存本能が逃げろと言っている。

「アイツ、多分相当ヤバいわよ。」

「分かってる。分かってるけど…。」

気付くと敵はもう目の前にいた。

「うおッ!」

廣人が弾いてくれなければやられていた。

(何?速すぎない?)

「やるじゃないか。」

「あんた、今までの奴とは違うな。何者だ?」

微笑むような細い目が不気味に見える。老人ははっきりした声で答えた。

「私かね?私はネロイ。君たちの言う所の夢人だよ。これまでにこちらに来た者とも同じさ。それよりどうだ、一戦交えんか。」

こんなのと戦ったら一瞬でのされる。戦闘なんてごめんだ。一応廣人に釘をさす。

「やめときなさいよ。今戦っても勝てるわけないわ。」

その瞬間、正面に強力な風圧を受けた。杖を振って風を起こしたというのなら、尋常じゃない力だ。

「君には話しかけていない。」

ネロイの目が薄く開き、冷たく睨みつけた。苛立って斬りかかろうとしたが、昨晩の事を思い出して踏みとどまった。

「結構だ。無駄な戦いはしたくない。それより、わざわざ戦うか聞いてきたんだ。何か伝えたい事でもあるんだろう?」

戦いを拒否してくれた事に安堵する。しかし、相手の考えている事が分からない。冷や汗が頬を伝った。

「まぁ、そうだな。君たちに伝えたい事はいくつかある。まず一つ目に、無駄な戦いなど無い。先程の君の発言をこちら側で訂正させてもらう。二つ目に、昨日までの君たちの戦いに敬意を表したい。非常に見応えのある戦いだったよ。我慢できずに来てしまった。そして三つ目、私達は計画のためこれからも夢から侵略を続ける。そしてそれは今日も例外ではない。」

ネロイがそう言うと、空の裂け目が一斉に現れ、小型戦士が大量に出てきた。

「最後に、日に日に侵攻は激しさを増すだろうが、頑張りたまえ。絶望する迄…。」

停戦を期待したが、彼の言葉は戦線布告に過ぎなかった。

言い終えて一瞬静寂が生まれたが、ネロイは自分と廣人の間を抜けて飛び去った。

「なっっ⁉︎」

まずい。あっちは蘭が町の人を避難させた方!

「止めるわよ!」


「おかしいですわ…。いえ…夢の中から侵略してくる方がおかしいのですが…。」

ひとまず人々を避難させた蘭は、敵が全く出てこないのを怪しんでいた。ビルの屋上から眺めても、敵の気配どころか、前回までに見た空の裂け目すら見えない。

「向こうも一通り確認しましたが、裂け目は見つかりませんでした。」

セバスの報告からも収穫は無かった。

「とりあえず、しばらくは向こうを見張っていて下さる?セバスちゃん。」

また襲撃範囲が広がっていると思われるので、セバスを再度遠くへ行かせる。今日は相手もお休みなのだろうか?それとも昨晩までどころか、現実と思っていたのも夢だったのではないか?もしかすると、範囲が広がりすぎてこの地域とは違う所が集中攻撃されているのではないか?と振り向いた瞬間、脊髄が激しく震えた。

「そんな…ありえませんわ…。」

夢の世界にありえないことなど無い。しかし、そう思わせる殺気が全身を包む。そのあまり、持ち場を離れて大将格担当の二人の所まで行きたくても出来なかった。

「とりあえず、もっと遠くへ避難してください!」

避難させた人がここに居て無事な保証など無い。すぐにビルから舞い降りてさらに遠くへ避難するよう警告した。人々が反対に逃げ出して一息つく間も無く風鳴りが耳を支配した。時間差でコンクリートが崩壊する音が聞こえる。

「うっ!」

何とか飛んできた攻撃を防ぐと、目の前には現実のセバスと同年代くらいの男がいた。

「君は、これまでの大将格にトドメを刺した…蘭君…だった…かな?」

「まあ。ご存じなのですね。光栄ですわ。」

ドスの効いた声で返事をする。上品さよりも威圧感が勝っていた。

「それより貴方、そちらの方向から来たのなら、男女二人組と出会いませんでした?私のお友達ですの。」

「ああ、彼らなら戦いたくないと言っていたのでそのままだ。まだ向こうにいると思うが。」

相手の雰囲気から停戦でなかったことは見て取れる。しかし、それなら狙いは何なのだろう。

「君は戦いたいんじゃないかね?『天下夢双』を目指すんだろう?」

突然に聞いてくる。少し戸惑ったが、質問で返してみる。

「戦わないならばどうしますの?」

「私は侵略を続けるだけさ…。 おっと…。」

ネロイの背後から二つの影。それらは攻撃を仕掛けるが、彼は動じずに杖を後ろに掲げて簡単に攻撃を防いでしまった。しかし、武器で防御したため身体はガラ空きになった。今がチャンスとばかりに蘭は薙刀で思い切り突いた。

「おやおや。戦いたくないと言ったのに自分から攻めてくるなんて…。」

…何という馬鹿力か、もう片方の手で薙刀を掴んで止めてしまった。彼は杖をそのまま横にスライドするように動かす。

「うおぁっ!」

背後にいた二人がバランスを崩して倒れる。…仕込み杖だ。出てきた刃を引き抜いた勢いで蘭に振りかぶる。蘭は薙刀を掴ませたままにその場にしゃがんで足払いを狙った。

「おお、初見にしてはいい判断だ。」

ネロイは軽く跳んで足払いを避け、蘭の背後に着地した。そして、左手に持った薙刀を握ると、焼き菓子のように簡単に粉砕されてしまった。破片は地面に次々と突き刺さる。蘭はすぐさま、どこからともなくもう一本薙刀を出した。

「こんなにすぐにスペアを使う事になるとは思いませんでしたわ。」

蘭は何本もスペアを隠し持っているらしい。

ネロイがゆっくりと振り向く。

「君達は、戦う気になったのかね?」

落ち着いた低い声が路地に響いた。

「戦わないとあんたが虐殺し始めるからな。それは見逃せないな。」

「戦うという事でいいのだね?」

語気を強めて再び聞いてくる。三人は小さく頷く。戦闘狂なのだろうか、ネロイは少し嬉しそうに続けた。

「ならば、3、2、1の合図で始めよう。」

「分かった。」

廣人が目配せをする。

「3」

二人共作戦を理解して敵に向き直る

「2」

武器を握り、足を踏ん張り身構える。

「1」

ネロイは一瞬姿勢を低くしてから地を蹴って迫ってきた。

「逃げろ!」

3人は散り散りになって逃げ出した。今戦っても勝ち目はない。このままノンレム睡眠まで耐久するつもりだ。

「おやおや?おやおやおやおやおやおや。…なるほど…。」

すぐに事態を察したネロイは、少し飛び出した後、悠々と廣人達の方とは反対側へ向かった。


「うあぁぁぁぁ!助けて!助けてくれぇ!」

あっという間に逃げていた人に追いつく。落ち着いた顔で杖から刃をだす。

「アンタ、私達と戦うんじゃなかったの。」

刃は寸前で止められた。散った火花と激しい音は花火さながらだった。

「こうすれば君達はすぐに駆けつけるだろう?」

「ホント最低ね。」

そこからしばらくは、火花と爆音が続いた。

「どうしてアンタ達は侵略するの?計画って何?そもそも何者なの?」

火花にかき消されそうになりつつも質問を飛ばした。

「それは君たちが一番分かってるんじゃないかね?」どういう意味か分からなかった。自分達が何を知っているというのだ。様々な思考が脳内を駆け抜けていった。考えている暇など無かった。相手の攻撃を防ぐだけで精一杯だった。

しかし、それもつづかなかった。体力も技量も全然違った。

「あぁっ!」

集中力も切れたところで弾き飛ばされ、短剣をまたしても手放してしまった。

「動きは前より断然良くなっていたな。」

ネロイはカツカツと足音を立てて迫ってくる。鼓動と足音が重なり、処刑までのカウントダウンをされているようだ。

「君の知りたい事はいずれ知ることができるだろう。君の心の闇もいつか晴れる。」

突然に自分にとってポジティブな発言が相手の口からつらつらと出てくる。あまりに唐突すぎて戸惑い固まってしまった。しかしそれも束の間だった。

「生きていればだがな。」

突然にどん底へ落とされる。武器もない。勝ち目もない。

今まであらゆる事を足のせいにしてたからか、自分は夢で足が動けばなんでもできると思い込んでいたが、足があっても勝てなくて現実を思い知らされた。胸の内に隠し持っていた免罪符も、実は機能していなかったのだろう。改めてそれを実感させられた。後悔が湧き上がってきた。

それでも夢乃は息を荒くして身構えようとした。しかし、体力の限界なのか前に倒れてしまった。否、ついにノンレム睡眠にたどり着いたのだ。命拾いした。

「…もう寝てしまうのか…。まあ、今回は半分偵察のつもりで来たのだが。防衛戦としては、今回は君達の勝ちだな…。足に気をつけて頑張りなさい。計画が完遂される頃にまた来るよ。」

そう言ってネロイは小型騎士と共に空の裂け目に帰って行った。

夢乃の眠りについた意識の中で、彼の発した言葉は心を乱していった。


夢を見ていた。

中身は悪夢。自分が死んでしまう夢。

夢の中では足も自由。何でもできるはずなのに。

夢の私は救世主。みんなのために戦うの。

一生懸命やったけど、誰も感謝もしてくれない。

負ければ浴びる、罵詈雑言。

できない事もやったのに。

ならどうすれば良かったの?

どうして褒めてくれないの?

……目覚めた。でももう少し寝ていたい。何故か、しっくりこないモヤモヤと共に心地よい物も心のどこかにあった。

「良かったですわ!夢乃さん、無事だったのですね!」

二度寝は許されなかった。

また、前日と同じように勝手に服を着替えさせられ、抱き抱えられて食堂に連れて行かれる。スロープが無いというのは不便極まりない。

「無事で良かった。…昨晩はごめんな。すぐに駆けつければよかった。雑魚戦士が多すぎて捌き切れなかった。あの作戦を考えた俺もバカだった。」

廣人に心配される。咄嗟に首を横に振って大丈夫だと答える。実際、作戦は何も悪くなかった。かなりの強敵だったが、誰も戦線離脱していない事に全員安心した顔を浮かべていた。

ふいに疑問が浮かんできた。

「突然なんだけどさ…。みんな、私の足、自分で動かせるようにならないといけないと思う?」

本当に突然の質問に少し戸惑った様子だったが、廣人から答えが帰ってきた。

「君がそのままでいいならいいんじゃないか?別に俺はどっちでもいいし、動いたところで扱いが変わるわけじゃない。夢乃がどうしようと文句は無いぞ。」

「私も同じですわ。」

「私もです。しかし、突然どうしたのですか。リハビリをされるのであれば、私どもが力になりますぞ。」

一つ、心を縛っていたものが解けた感じがした。なんだかほっとしてしまって涙が出てきた。今までしてきた努力は無駄になってしまったかもしれないが、今の自分を信じれるだけで嬉しかった。

「どうしたの?大丈夫ですの!?」

蘭はとても焦って、救急車でも呼んでしまいそうだ。

「大丈夫よ…。嬉しかっただけ…。騒がないでよ。」

足は動かないままだが、一歩前に踏み出せた気がした。

登場人物紹介


漠田(ばくだ) 廣人(ひろと)

年齢 23歳

誕生日 9/7

血液型 A型

武器 日本刀+拳銃

好きな物 ゲーム 布団 家族

嫌いな物 知らない人と話す事

今作の主人公。しかし、何故か地味な存在感。最近までバイトをしてたらしいが、辞めてヒキニート生活になっていた。徹夜でゲームする事で初日、二日目の夢侵攻を神回避している。武器の有効な使い方もいまいち掴めていないっぽい。

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