第1話 悪夢
初めての投稿になります!
まだ初心者ですが、これからも何とか投稿していきますので、ぜひ読んでください!
「……クソッ」
思わず声に出してしまった。すぐにチャットを覗く。
「下手すぎwwwゲームやめた方がいいですよwww」
典型的な煽りだ。しかしムカつく。とてもムカつく。すぐにエナジードリンクに手を伸ばし、続行する。
気づけばカーテンから光が漏れていた。足の踏み場もない部屋で一度伸びをして画面と再び向き合う。また負ける。画面端のデジタル時計は左側が2桁になっていた。
「集中力切れてるでしょw一旦寝ろwというか一生寝とけw」
分かったよそこまで言うなら寝てやるよ。こっちは2徹なんだよ。
現実逃避してゲームの世界に居場所を求めているのに、そっちでも居場所を追われる。クソみたいな現実世界。クソみたいな仮想世界。それなら寝るのが一番だ。できればずっと寝ていたい。
すぐに画面を消し、ガラクタが散乱した布団に入り込んだ。薄っぺらい掛け布団は自分の全てを受け入れてくれるようで、すぐに心地よい眠気につつまれた。
気づけば外にいた。いや、外なのだろうか。空は赤とオレンジの絵の具を中途半端に混ぜたような模様をしていて気味が悪い。
「ここは…夢の中?」
なんとなくそう思った。そう感じた。
しかし、町中なのに誰もいない。これまた夢にしても気味が悪い。そのまましばらく見知らぬ町を放浪していた。
ズドォン
背後から突然大きな音がした。恐る恐る振り返ると、ビルの下層が破壊され、粉塵が巻き上がっていた。煙たそうな声が聞こえる。
「ゴホッ、ゴホッ、ココらへんにいる筈なんだがなァ。」
ビルを破壊した本人であろう者が煙を払いつつ顔を上げる。ふと目が合った。
「あっ、居るじゃん。ビンゴ。」
彼は少し上機嫌に呟き、距離を縮めてきた。夢の中と分かっているとはいえ、自分も後ずさりしてしまう。ファンタジー世界の貴族のような格好の彼は後ずさりより速く近づいてきて5mくらい離れたところから声をかけてくる。
「君、ここが夢って気付いてるだろう?」
「だ、だからなんだよ。」
咄嗟に返す。彼の質問に不思議な殺気を感じた。
「夢の中じゃ死なないとでも思っているのか?」
感じた通りだった。しかし、何だ。夢の中で死ぬと現実でも死ぬのか?自分の脳内も自分の居場所を奪おうとしているのか?とりあえず頷くと、彼は突然地面を勢いよく蹴り迫ってきた。
「分かっていないのか。まァ、どうであれ死んでもらうがな。」
あまりに突然すぎる。出会ってすぐの相手から拳がとんでくるなんて久しぶりだ。しかもビルを壊す威力ときた。咄嗟に躱そうとするが、腕が掠ってしまった。いや、あの速さで胸辺りを狙ってきたならかなり上出来な方か。夢の中だからだろうか、掠った部分は痛みは無いが、感じたことの無い気持ち悪い感触が残る。彼のパンチの威力は凄まじく、衝撃波で後ろの建物に穴を開けた。
「やるじゃないkッッ⁉︎」
奴が振り向いた瞬間、上から何か降ってきた。…少女?いや、自分と同年齢かそれ以上くらいか。肩より少し下まで薄めの茶髪を伸ばしている。
彼女らがぶつかった所をよく見ると短剣で奴の腕を切り落とさんと全体重をかけている。
「ヌヌヌゥッ、なンだ貴様?」
奴が腕を振って彼女を振り払うと、少し皺を寄せた顔と短剣の跡が見えた。しかし、跡の方はすぐに元通りになってしまった。女の方はというと、空中で回転して俺の隣に着地した。
「何こんな時間に寝てんのよ⁉︎」
そして唐突に叱られてしまった。
「そんな事言われましても…」
そう答えるしかなかった。すぐに次の罵声が飛ぶ。
「アンタ昨日の事忘れたの⁈こんな時間にガッツリ寝るなんて信じらんない!死にに行くようなモノよ!馬ッッ鹿じゃないの?」
あまりの勢いに男も少し戸惑っていたが、すぐにこちらへ拳を向ける。
「さっきからゴチャゴチャと…。まとめて潰してやる。」
「…‼︎」
一気に警戒心が引き締まる。
奴はまたビル破壊パンチ(仮称)を放たんとしている。
「来るッ…!」
パンチの衝撃波を両側にかわす。女はすかさず反撃に向かうが、相手の首を掻き切る直前で弾かれてしまう。
「うっ!」
彼女は地面に叩き付けられ、武器も離れた所に落としてしまった。
「大丈夫か?」
「心配してる間に逃げなさいよ、戦えないでしょ?」
すぐに駆け寄ったが、彼女はそれも拒んだ。しかし、このまま置いて逃げるわけにもいかない。
「逃げなさいって言ってるでしょ!アンタがいた所で被害者が増えるだけよ!」
「どうせクソみたいな人生だ。やれるだけやってやる。」
「足震えてるわよ。」
「うるさい。何とかするから黙って見てろ。」
決意は本当だった。恐怖に体が勝てないだけで、心は命をかけてでも戦おうと決めていた。これまで何も救えなかった、救おうとしなかった自分に与えられた最後のチャンスだと思った。
相手も既にここまでの大技で相当体力を消耗しているのだろう、次の動きに時間がかかっている。彼女を背負いつつ武器を拾ってこれる。いや、それでは次の衝撃波をかわせない。武器だけ拾いに行けば彼女が確実にやられる。そんなことを考えている間に、奴が目の前に来ていた。予想外だった。
「ハァ…私が同じ技しか使わないとでも思ったかァ…?ところでこれ、無いと困るんじゃ…ないかねェ?」
息切れしつつも奴は卑しい笑みを浮かべ、目の前に短剣を見せびらかすように出した。そしてそれで突き刺そうと高く掲げ、振り下ろす。
「やめろーっ!」
受け止められる訳もないのに俺は手を上に出していた。何か手の内に重みを感じる。
「⁉︎」
「アンタまさか…」
握られていたのは、右手に日本刀、左手に拳銃というよく分からない組み合わせの武器だった。夢の中だから出せたのだろうか。何はともあれ、相手の攻撃を無傷で防げたのは大きい。
「し、しかし、これは防げまい。」
相手は後ろに飛び退き、すぐにパンチの構えに入った。拳銃で牽制しようとするも、全く当たらない。すぐに弾切れになってしまった。
「こっちでもクソエイムかよっ!」
さすがに衝撃波は日本刀ではどうにもならない。
咄嗟の判断で俺は彼女を押してビルの隙間に飛び込んだ。ビル前の大通りが見事にえぐれた。今度は背中が嫌な感覚に襲われたが、死んではいない。
「キャッ!急に押さないでくれる⁉︎」
俺が助けたのにこの女は何様のつもりなのか。さっきまでぶっ倒れてたじゃないか。
「何だよ助けてやったのに。」
「あんなの自分で避けれたわ。」
「嘘つけ。怪我して動けなかったろ。」
「致命傷以外はほぼ無傷よ!そもそもアンタが寝てなければこんなのと戦わなくてすんでたのよ!」
「こんな事になるなんて思わないだろ!大体お前だって今寝てるから…」
「随分…余裕な事…。」
拳をパキパキ鳴らすのが背後から聞こえる。彼女を押し倒した状態で口喧嘩などするものではなかった。
「ちょこまかとォ…!手こずらせやがってェ…!」
怒りに満ちた表情で奴が拳を振り上げるのを見て、顔から血の気が引く。きっと自分が押し倒して仰向けになっている女も同じ表情を浮かべているだろう。
「死ねッ」
奴の声が途切れた。痛みも無いまま夢の中で死んでしまったのかと思い、そろそろと目を開くと、目の前には真っ二つになった男がいた。パンチを繰り出そうとする体制のまま自分の状況を理解できずにいる。
「は…?何故…?ドウして…?おまエらァ…何…したァ…」
そのまま彼は泥のように崩れ落ちた。敵とはいえ目の前で人型のモノが真っ二つになる所を見る気分は良くなかった。そこには1本の突き刺さっている棒状の物とその上に立つ人のシルエットが見えた。
「貴方達も、明晰夢を見ていらして?」
日が傾いたのか(夢の中に日の概念があるか不明だが)光が差し込み、シルエットの正体は、薙刀と少女だと分かった。こちらは自分より少しだけ年下のような見た目で、赤寄りの赤紫に白線の柄が入った高級そうな服装、赤の虹彩の目に眼鏡をかけている。
「…明晰夢?」
「いつまでそのままでいるのよ!」
俺が言葉を理解しようとしている間にビンタが飛んできた。その勢いで壁に頭をぶつけてしまう。全く、当たりどころが悪かったらどうするのか。
彼女らは話について行けない自分をほったらかしにして話を進めているようだった。
「とりあえず、時間もないから」と、眼鏡の少女から目が覚めたら来てほしいという住所だけ伝えられた。
「あっ、その傷は念じれば気合で治りますわよ。そのまま耐えながら戦ってたのですね。ふふっ、それでは、ごきげんよう。」
致命傷以外は無傷というのは、そういう事だったのか。(と言っても、叩き付けられた後は回復に相当時間がかかっていたように見えたが)
彼女は微笑み、優雅に何処かへ行ってしまった。
そしてまた、謎の多いまま恩知らずの女と二人きりになってしまった。
「聞きたいことが沢山あるんだが。」
少し間をおいて尋ねてみたが、彼女は答える気がないのか、知られたく無い事があるのか、それとも心構えが出来ていないのか、俯き黙ったままだった。しかし、せめて名前くらい聞いておきたい。眼鏡お嬢様とはよく話していたように見えたが、男が苦手なのだろうか?
「返事くらいし…ろ…」
夢の中なのに眠気が襲ってきた。自分のここまでの苦難が全て否定されるような無慈悲な眠りに堕ちた。
目が覚めた。気味の悪いくらい夢の内容を覚えている。あの茶髪女、思い出すだけでムカついてくる。夢の中の事に怒るのもおかしな話だが。
もともと汚かった布団は染みた汗でさらに汚く見えた。
「何だったんだよ…クソッ。」
もう5時を過ぎている。教えられた住所まで押しかけるのにも少し遅い時間だ。しかし、このままだと今日寝るのも憚られる。何より、何も分からないままでいる事が一番恐ろしかった。出会うなり襲いかかってきた人物は何者なのか、昨日何が起きたのか、自分が出した武器は何だったのか、出会った少女らの名前などなど、挙げればキリの無いほど疑問は出てくる。
とりあえず教えられた住所に行く為、身だしなみを整えて久々に玄関から足を踏み出した。