1 ミケの場合
吾輩は猫である。
名前はミケ・キサラギ。
暗くジメジメした所でニャアニャアと鳴いていた記憶はないが、天界のヴィリー・キサラギの『あばら家』で、第二の人生(猫生?)を満喫している。
と、言う事で。
人間界で彷徨っていた野良三毛猫のミケは、こうやって今は『デブまっしぐら』でありんす。
それにしても今日はいい天気でありんすねぇ。
ここに来てから早2週間。
天界…何ていい所なんでありんしょう。
平和とは、無造作にあくびが出ることでありんす。
─ドタドタっ!
─バァン!
─「おい、バカ!騒ぐな!ミケにバレるだろ?!」
と、騒がしいヤツが帰ってきたでありんす。
平和感丸つぶれでありんす。
「ヴィリー、帰ってきたでありんすか?わっちは腹が減ったでありんすよー。」
わっちは猫の姿のままの障子の隙間をすり抜けて玄関まで続く廊下に出た。
目をしぱしぱさせながら、玄関で騒ぐヴィリーを見ると、ヴィリーは「あっ…やべぇ…。」と、小声で言ったのをわっちは聞き逃さなかった。
「何がヤバいんでありんすか?」
と、ヴィリーに近付くと、そこには…。
「犬?!?!」
「猫?!?!」
白い子犬が目に飛び込んできて思わず後ろに飛び跳ねると、子犬は毛を逆立てて「ヴヴヴっ…!」と唸る。
わっちも負けじと
「何で犬がいるんでありんすか?!お前さんはどこの犬でありんすか?!」
と、背中を丸め背中の毛を逆立てながら威嚇すると、犬は威嚇体勢のまま言う。
「何だ?!猫のクセに生意気だな!僕は犬だぞ!噛み付いてやる!」
何だ?こいつ…喋るぞ?!
と、わっちが思ったのも束の間。
ヴィリーが
「おめぇたちとりあえず落ち着け!ケンカすんなよ。」
と、わっちと子犬の間に入って、わっちには左手で、犬には右手で制した。
「ヴィリー、これはどう言うことでありんすか?わっちがいるのが分かってて、犬を連れてきたんでありんすか?!」
わっちは威嚇を辞めずにヴィリーに聞くと、ヴィリーは
「人間界で迷子になってたんだよ。ほっとけなくてな。しかも記憶がねぇみたいだし…。」
と、頭を掻きながら言う。
「それにおめぇ、キサラギ館でコマと仲良くやってたし、大丈夫かと思って…。」
ヴィリーは引きつった顔でわっちの頭を撫でようとする。
わっちはそれを左前足で払って
「コマの兄さんは『先住様』だったからでありんすよ!そうでなけりゃ犬なんかと仲良くなんてしやしねぇ!犬と猫が仲良く暮らすなんて、夢のまた夢でありんす!」
と、言うと、犬が急にムキになって
「ヴィリーさんになんてことするだ!このクソ猫め!ヴィリーさんに危害加えんなら許さないぞ!」
と、言いながらわっちに飛びかかってきた。
「あっ!バカ!やめろ、犬!」
と、ヴィリーが言うが、クソ犬はわっちの首を噛もうと口を開けた。
「莫迦にするのもいい加減にしてくりゃれ。小僧!」
わっちは
─ぽん
と、人の姿になり犬を『猫掴み』して、犬の顔を睨みながら
「ワン公、甘いでありんすよ。わっちに喧嘩を売るなんて。」
と、勝ち誇った様に笑う。
犬はわっちの顔に鼻を近付けて「フンフン」と匂いを嗅いだ。
「何でありんすか?わっちが『いけめん』で驚いたでありんすか?」
と、わっちは「勝った」と確信して、「フフン」と鼻を鳴らした。