表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/101

第70話 『確かめ合う2人』

「んむっ……」


 背の高いあしで囲まれた川原でボルドは立ち尽くしていた。

 不意を打つようにブリジットのくちびるが押し当てられ、ボルドの口がふさがれたからだ。


 これまで幾度も口づけを繰り返し、もうすっかりその形や柔らかさを覚えた彼女のくちびるはボルドの体を芯からしびれさせた。

 それは長い長い口づけだった。

 ようやくくちびるが離れた時にはブリジットもボルドもわずかに息を弾ませていた。

 そしてブリジットはボルドのほほにつけられた赤いあとを指で優しくでながら言う。


「こんなことを言ってもなぐさめにはならんだろう。気に病むなと言う方が酷だ。だが……おまえがアタシのものだという事実は微塵みじんも変わっていない」


 そう言うとブリジットはボルドが羽織っていたソニアの外套がいとうをゆっくりと脱がせる。

 ボルドの体はあちこち赤くれていた。

 こんな体をブリジットに見られたくはなかったが、隠すわけにはいかない。

 自分の身に起きたことをブリジットにだけは全て正直に伝えなければならない。

 色々な危険を承知でブリジットはボルドを救うために駆けつけてくれたのだから。


 その思いだけでボルドはブリジットの前で一糸まとわぬ姿となり、羞恥しゅうちと罪悪感に耐えてその肌をさらした。

 ブリジットもそんな彼の心情を十分に理解しているのだろう。

 ボルドの体を見ても冷静な表情を一切(くず)すことなく、いたわりの言葉をかける。


なぐられはしなかったか?」

「いいえ。ですが……」


 そこでボルドは思わず言葉につまってしまった。

 なぐられはしなかったが、媚薬びやくを繰り返し塗り込まれた局部はヒリヒリと痛む。

 見た目にも赤くれてしまっていた。

 それを含め、華隊はなたいの女たちにされたことをブリジットに伝えるのは辛かった。


 全てを話し、自分自身が傷つくのは怖かった。

 そして全てを聞き、ブリジットが傷つくことも怖かった。

 だが、ブリジットはボルドの目をじっと見つめる。


「おまえはアタシのものだと言った。それは何があろうと変わらぬ」


 短い言葉だったが、そこに込められたブリジットの思いはボルドに伝わった。

 全てを受け入れる。

 彼女の目はそう語っていた。

 ボルドは覚悟を決め、静かに語り始めた。

 感情が揺れぬよう出来る限り事実を淡々(たんたん)と伝えようと努めた。


 バーサに誘拐ゆうかいされてからの出来事。

 華隊はなたいの女たちから受けた仕打ち。

 バーサの思惑によって結果的にボルドは最後の一線を越えずに済んだこと。

 そしてソニアたちが助けに来てくれて救われたところまでをボルドは時折、声を震わせたり息をつまらせたりしながら話し終えた。

 その間、ブリジットはずっと彼の肩を抱き、優しくさすってくれていた。


「あの女たちはむくいを受けた。バーサもリネットもな。アタシの情夫であるおまえに手出しをしたのだから当然だ。ボルド。おまえは何も悪くない」


 そう言うブリジットの眼差まなざしをボルドはようやく真正面から受け止めることが出来た。

 そしてボルドは彼女の目を見て心に浮かんだ言葉を口にする。


「最後の一線は越えなかったと誓います。それは不幸中の幸運でした。ですが……それを証明することは出来ません。断じて無かったと言い張ることしか……」


 その言葉にブリジットはうなづいた。


「おまえの言葉を疑うものか。アタシはおまえを信じる。証明は確かに出来ん。だがボルド。これだけは言っておく。もしおまえが誰かに無理やりまたがられたとしても、おまえの心がアタシから離れない限り、アタシがおまえを手放すことはない。仮に分家の女たちに最後まで手籠てごめにされてしまっていたとしても、アタシの心は変わらなかっただろう。信じてくれるか?」


 たとえ他の女との行為に及んでも、それがボルドの意思でない限り、自分の心は変わらない。

 ブリジットはそう言っているのだ。

 それはダニアの女王としては間違った考えなのだろう。

 だが、1人の人間としての彼女の気持ちは、ボルドには涙が出るほど嬉しいものだった。


「ブリジット……敵にはずかしめられた時、私はずっとあなたのことを考えてこらえました。あなたと過ごして来た日々の思い出が、絶望のふちで私を踏み留まらせてくれたんです。私は信じます。あなたの御心を」


 ボルドの言葉にブリジットは目を細めた。

 そして足元を流れる清らかな水に手拭てぬぐいの布をひたすと、それでボルドの体をき始める。

 突然のことにおどろいてボルドは身をすくめた。

 

「ブリジット? そのようなことは自分で……」

「いいんだ。おまえはアタシのものだぞ。だからアタシが洗いたいと言ったら素直に洗われろ」

 

 そう言うとブリジットはボルドの体を丁寧ていねいぬぐい、持ってきたおけで水をかけて綺麗きれいに洗ってやった。

 そして彼女はボルドの肌に残された赤いあとに次々と口づけをしていく。

 これがまだボルドを大いに戸惑わせた。


「ブ、ブリジット? 何を……」

「じっとしていろ。他の女のニオイなど、アタシが消してやる」


 そう言うとブリジットはボルドの体を綺麗きれいに洗いながらくちびる愛撫あいぶしていった。

 とぎの時のような激しさはなく、互いを確かめ合うように2人は肌を寄せ合う。

 ようやく訪れた、身も心も寄せ合える2人だけの時間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ