表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/101

第64話 『死に場所』

「かはっ……」


 ソニアの投げたベラの槍が……リネットの腹部に突き刺さり、その体を貫いていた。

 リネットは体を震わせてその場にガクッと両(ひざ)を着いて座り込む。

 そして自分の体を貫いている槍に目を落とすと、フッと口元をゆがませて笑った。


 これまで多くの命を奪ってきて、人が生命を失い肉体が抜けがらに変わる瞬間を幾度いくどとなく見てきたリネット。

 彼女はいつか自分がそうなる瞬間を常々想像してきた。

 いずれは自分に順番が回ってくると思いながら。


「ククク……。アタシの最後はどんなもんかと思ってきたが……おまえらにやられるとはね。ゴホッ!」


 そこでリネットは口から激しく血を吐いた。

 その様子をベラとソニアは目を見開いて油断なく見据みすえる。

 リネットを倒すために死力を尽くした2人だが、いざその瞬間となるとにわかには信じがたい光景に絶句していた。

 リネットが死ぬ。

 様々な感情が複雑にからみ合い言葉を失うベラとソニアに、リネットは苦悶くもんの表情の中にも笑みを浮かべた。


「ベラ、ソニア……。アタシは……見たかったんだ。盗賊とうぞくでも蛮族ばんぞくでもない……栄誉えいよある一族となった……ダニアの未来……を」


 そこでリネットは再び口から血を吐き出し、それ以上は何も言わなくなった。

 おそらく臓器ハラワタを貫かれたせいで多量に出血し、体力の急激な低下によって意識を保てなくなったのだ。

 リネットの目から徐々に光が失われていく。


 リネットには言伝ことづてを残すような家族はいない。

 心から男を愛することもなく子供を生んだこともなく、ただひたすらにダニアのために一生をささげた女だった。

 そのことを知っているベラとソニアは彼女の最後の姿にくちびるむ。


「馬鹿野郎……ブリジットの元から離れさえしなきゃ、こんな死に方じゃなかったはずだぞ。リネット。色々やってきて結局こんな所があんたの死に場所かよ」


 くちびるを震わせてそう言うと、ベラはリネットの体から槍を引き抜いた。

 その腹から大量の血があふれ出し、地面に血だまりを作る。

 すでに息の無いリネットの体は血だまりの中に横たわり、二度と動かなかった。

 その姿にソニアはわずかに目を閉じて、短い黙祷もくとうささげた。


「ケッ! 同士討ちかよ!」

「すぐに後を追わせてやるよ!」


 リネットが死んだのを見た周囲の女たちがあざけりの声を上げ、武器を手に包囲の輪をせばめてきた。

 ベラもソニアも負傷している。

 特にソニアはリネットの短剣で刺された腕と足の傷が深く、もはや満足に戦える状態ではない。

 取り囲む20人余りの相手は同じダニアの女戦士たちであり、どう考えても2人が敵を蹴散けちらしてこの場から脱出することは不可能だろう。

 ベラは左(ひじ)の痛みをこらえて槍を構え、ソニアは片(ひざ)を地面に着けた状態で片手でおのを持つ。


「やっちまえ!」


 分家の女たちが眼光と刃をギラつかせ、全方位から殺気立って襲いかかって来た。

 だが……。


「ピイイイイッ!」


 そこで頭上から数羽の鳥が急降下してきたのだ。

 それはとびであり、分家の女たちの頭の近くを飛んで撹乱かくらんする。

 

「くそっ!」

「何だコイツら!」


 苛立いらだちながらとびを払い落とそうと武器を振り回す女たちだが、そこに2本の矢が降り注いだ。

 1本は女戦士の足を貫き、もう1本は別の女戦士の眉間みけんに突き立った。

 どちらも防具の隙間すきまねらった見事な射撃だった。

 足を貫かれた女戦士は痛みにうめいてうずくまり、眉間みけんをやられた戦士は仰向けに倒れて即死していた。


「何だ?」


 ベラとソニアは驚愕きょうがくの表情で後方を振り返る。

 すると後方から一台の馬車が猛然と向かって来るのが見えた。

 その馬車の上で長弓を構えているのはベラにとって憎らしい後輩の双子、ナタリーとナタリアだった。

 そして数種類の猛禽類もうきんるいを次々と空に放つアデラの姿も見える。

 

「あ、あの馬鹿ども……何で戻って来たんだ?」


 信じられないといった顔でそう声をらすベラの横でソニアも唖然あぜんとして口を開けている。

 そして馬車は女たちを蹴散けちらし跳ね飛ばしながら囲いを破って突っ込んでくると、ベラとソニアの目の前で停車した。


「ベラさん! ソニアさん! 乗って下さい! ブリジットを助けに行きますよ!」


 荷台の上でそう叫び、手を差し伸べたのはボルドだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ