第56話 『傷だらけのボルド』
天幕の外が騒がしい。
「なに？ この音？」
華隊の女たちが動きを止めて怪訝そうにそう言う声を、ボルドはどこか虚ろな意識の中で聞いていた。
５人の女たちに嫐られ、ボルドはすっかり疲弊していた。
吸いつかれ、甘噛みされた肌には全身に赤い跡が残されている。
女たちはあの手この手でボルドを攻め立てたが、ボルドは必死に歯を食いしばりこれに耐えた。
最後の一線だけは越えさせぬボルドの意地にさすがの女たちも業を煮やし、バーサが置いていった媚薬を幾度もボルドの性器に塗り込んだ。
そのせいで、すでにボルドのそれは感覚がなくなっていた。
雄々しくそそり立つそれはまるで他人のもののようだ。
（ブリジット……）
虚ろな意識の中でボルドは必死にブリジットの顔を思い浮かべ、それにすがることで懸命にこの状況を耐え続けているのだ。
だが、そこで事態は思わぬ方向に転がった。
突然、天幕の戸布を押しのけて別の人物が中に飛び込んで来たのだ。
「バーサからの命令だ。誰でもいい。今すぐにボルドに跨れ」
そう言ったのはリネットだった。
聞き覚えのある声にふと顔を上げ、そこに見知ったリネットがいるのを見たボルドは、急に意識がハッキリとして目を見開いた。
リネットはそんなボルドを一瞥すると女たちに向けて鋭い声を発した。
「早くしろ！」
突然のことに華隊の女たちは困惑するが、そのうちの１人が疑惑の目をリネットに向ける。
「あ、あんた本家の女じゃない。ワタシたちは直接バーサから絶対に自分からはこの子に跨るなって命じられているのよ。あんたの言葉は信用できない」
「四の五の言わずに今すぐやれ！」
「い、一体なにがあったってのよ？」
リネットの剣幕に怯えの色を見せつつ女はそう尋ねた。
リネットはまたしてもボルドをチラリと見やり、それから苛立たしげに言った。
「……ブリジットがボルドを奪還すべく仲間たちと乗り込んで来た。今、バーサがブリジットとやり合っている」
ブリジットがこの場に来ている……。
その話にボルドの心臓が激しく脈打ち始めた。
華隊の女たちに好き放題に弄ばれていた時は死んだように色褪せていた彼の心に、再び熱き血潮が通い始めた。
（ブリジット。なぜ……）
彼女がすぐ近くに来ているという喜びと、自分を見捨てず助けに来てしまったことで彼女に危険と不利益が及ぶことへの不安。
その２つがボルドの胸の内で渦巻く。
そんな彼の内心を露知らず、華隊の女たちは青ざめた顔で動揺し始めた。
「え？ せ、戦場になるってこと？ 逃げないとヤバイじゃない」
戦闘要員ではない彼女たちは当然、戦場に立つことはない。
こうして戦士たちに同行中に戦闘が起きても、普段は遠く離れた場所で護衛に守られながら安全に過ごしている。
だが、今はすぐ近くで戦闘が始まっていると知り、華隊の面々はすっかり及び腰になっていた。
そんな彼女たちにリネットは凄味のある声で迫った。
「ここで逃げたらバーサの命令に背くことになるぞ。そうなれば貴様らは罰をうける。それに華隊というのは男を籠絡することにかけては他の追随を許さないのだろう？ ならばその矜持を見せてみろ。案ずるな。事が終わるまで、ここはアタシが守ってやる」
その言葉に華隊の面々は互いに顔を見合わせた。
そして先ほどの１人が唇を噛んで覚悟を決めた顔でリネットを見た。
「くっ……分かったわ。その代わり、バーサへの説明はあんたがしなさい」
「請け負おう」
リネットの言葉に頷くと女はボルドを振り返り、そそり立つ彼のそれに跨ろうと構えた。
ボルドという獲物を前に、その目に妖しげな光が宿る。
「さあ坊や。ブリジットを喜ばせたみたいにワタシのことも喜ばせてちょうだい」
そう言うと女はゆっくりと腰を下ろす。
ボルドは必死に身をよじって抵抗しようとする。
だがそんなボルドを華隊の女たちが寄ってたかって押さえつけた。
ボルドはたまらずに声を上げる。
「や……やめろ！ 嫌だ！ 私は……私はブリジットの情夫だ！ 他の女のものなんかにならない！ ブリジット！」
思わずブリジットの名を叫ぶボルドだが、抵抗むなしく潤沢な愛液に濡れた蜜壺が彼のそれを飲み込もうとする。
だが……。
「ヌンッ！」
野太い声と共にいきなり天幕が切り裂かれた。
そこから大きな岩のような巨漢の女が踏み込んで来たのを見て、華隊の女たちが悲鳴を上げる。
「きゃあっ！」
そこに現れた人物の姿を見てボルドは思わず声を上げた。
「ソ……ソニアさん！」
そう。
天幕を斧で切り裂いて踏み込んで来たのは本家の女戦士・ソニアだった。
