第46話 『華隊の女たち』
「うぅ……」
一糸まとわぬ姿となったボルドは、太い柱を背に両手を後ろ手にくくられて座らされていた。
彼の目の前には艷やかな絹糸の夜着に身を包んだ５人の女たちが立っている。
およそ寒さを防ぐのには役に立たないだろうそれらの夜着は、間違いなく夜の戯れのために拵えた衣だろう。
肌も露わな彼女たちの姿にボルドは思わず目を逸らす。
だが、すぐ隣にしゃがみ込んでいるバーサがそれを許さない。
彼女はホルドの顔を掴むと強引に前を向かせる。
「目を逸らすな。せっかく華隊の奴らが一張羅を着込んでいるんだからな。なかなか扇情的で男としてはたまらない光景だろう？ よく目に焼き付けておけ」
華隊。
聞いたことのないその言葉に困惑するボルドを見るとバーサは自慢げに説明する。
「本家に華隊はないんだったな。ダニアの女戦士たちはその腕っぷしで相手を殺す。だが、男を殺すのは刃物だけとは限らん。こいつらは色で男を殺すんだ。そのために幼き日から育てられてきた専門家たちさ」
華隊の女たちは皆、しなやかな肉体を晒し、妖艶な笑みをボルドに向けている。
そんな視線を向けられていることが、こんな状況に陥っていることが、ブリジットへの裏切りのような気がしてボルドは唇を痛いくらいにグッと噛みしめた。
そしてブリジットの顔を思い浮かべると、勇気を出して声を絞り出した。
「わ、私はブリジットの情夫です。この身も心もブリジットのもの。決して他の人のものにはなりません。私を辱めるなら今すぐ殺して下さい」
だがバーサはその言葉もまるで意に介することなく言った。
「女王の情夫が他の女と交わるのは禁忌で死罪。そのことなら案ずるな。もうおまえがブリジットの元へ帰れる日は二度と来ない。それなら死罪になることもあるまい？ 心配せずにここで好きなだけ女と交われ」
「し、死罪を恐れているのではありません。私を汚すことはブリジットの名誉を汚すこと。それだけはまかりなりません」
ボルドはそう言うとじっとバーサを見据える。
彼女の顔を直視するのは怖かったが、ブリジットのことを思うとボルドは励まされた。
そしてブリジットのことを軽んじられるのはどうしても我慢が出来ない。
バーサはそんなボルドの視線を受け、しばらく黙っていたが、やがて嘆息すると頭をかいた。
「やれやれ。思った以上にブリジットの犬としてきっちり調教されてしまっているようだな」
そう言うとバーサは視線を上げ、控えている女たちを見る。
「おまえたち。調教の方針転換だ。こいつを好きなだけ嫐っていいが、決して自分からこいつに跨るなよ」
その言葉に女たちが戸惑いと不満の表情を浮かべる。
華隊の１人は怪訝そうに問いかけた。
「嫐ってもいいけど跨っちゃダメってどういうことですか？」
「こいつは自分がブリジットのものだということを根底まで叩き込まれている。要するに他の女なんざ眼中にないってことだ」
挑発するようなその言葉に、途端に華隊の女たちはその目をギラつかせた。
バーサはそれを見てニヤリとすると、懐から革袋を取り出した。
「決して自分からはこいつの上に跨るな。ボルドのほうからむしゃぶりつかせるように仕向けるんだ」
そう言うとバーサは革袋の中に指を突っ込み、中から軟膏のような白い粘液をかき出した。
バーサの指に光るその粘液にボルドは見覚えがあった。
（あれは……）
そうしてボルドが何かを思う間もなく、バーサはその白い粘液の付着した右手でボルドの性器を握り締めた。
「くっ！」
ボルドは必死に身をよじってそれを避けようとするが、バーサは左手でボルドの頭を掴んで押さえ付け、右手でボルドの性器をしごきながら粘液を塗り込んでいく。
途端に縮こまっていたボルドのそれは熱を持ち始めた。
その薬は先日の黄泉送りの伽の際に緊張で縮こまっていたボルドにブリジットが使った媚薬だった。
ボルドはクッと歯を食いしばって懸命に刺激に耐えるが、薬の効果がすぐに出始める。
ボルドの意思に反してそそり立つそれを見たバーサがククッと喉を鳴らして笑い、華隊の女たちは目を細めて嬌声を上げた。
バーサは立ち上がると右手を布で拭い、それから左手で別の小袋を懐から取り出した。
彼女がそれを床に放ると、袋の口の紐が解けて中から金貨がジャラリと飛び出す。
「最初にボルドをその気にさせ、導き入れた奴への褒美だ。おまえら。華隊の矜持を見せてやれ。明日の朝、ワタシが様子を見に来た時には、おまえらの誰かに突っ込みながら一心不乱に腰を振るボルドの姿が見られるかな」
そう言うとバーサは高笑いを響かせながら天幕を後にした。
残されたボルドは下半身の疼きに必死に耐える。
「さあ。明日の朝まで長いわよ。楽しみましょう。情夫の坊や。ブリジットのことなんてワタシたちがすぐに忘れさせてあげる」
そう言ってボルドににじり寄る５人の女たちはさながら、舌舐めずりしながら獲物を追い詰める獣のような目をしていた。
