表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/101

第34話 『禁じ手』

 母である先代ブリジットの遺体が眠るひつぎとなりで、ブリジットはボルドの胸に顔をうずめながら涙声で胸の内を訥々(とつとつ)と語った。

 

 母は自分にとって理想の女性像であったこと。

 そうであったからこそ父を失ってからの取り乱した母の姿を見るのが辛く悲しかったこと。

 いつしかそんな母を心のどこかでうとむようになってしまったこと。

 しかしこうして母が亡くなってしまい、そんな自分の心を悔やんでいること。

 もっと娘として母に寄り添いたかったこと。


 ブリジットの口からは彼女の感情の奔流ほんりゅうが言葉となってあふれ出す。

 そんなすべてをボルドは静かに受け止めた。

 彼女のひとつひとつの言葉を大切に自分の心に刻む。

 30分ほどそうしているとブリジットはようやく落ち着きを取り戻したようで、ボルドの胸からそっと顔を離した。

 そして赤くれた目を恥じるように顔を背ける。


「……すまない。ボルド。みっともないところを見せたな」

「いえ、そんな……」


 そう言うボルドの言葉をさえぎり、ブリジットは彼をベッドに押し倒す。

 そして照れ隠しのように、自らのくちびるでボルドの口をふさいだ。

 突然のことにおどろきつつも、ボルドは差し込まれる彼女の舌に自分の舌をからませた。


「んん……」


 そうしてブリジットはボルドと口づけをかわしたまま、彼の体をまさぐり、その夜着を脱がしていく。

 だが……

 ブリジットはその手をボルドの下半身をわせたところで、彼の口からくちびるを離した。

 そして気遣きづかわしげにボルドを見る。


「ボルド。元気がないな。どうした?」

「す、すみません。滋養食は……朝も夜もしっかり頂いたのですが」


 いつもならばこうして熱のこもった口づけをかわすだけで、ボルドのそれは熱い血潮ちしおが通うはずなのだが、今日に限ってはそうはならなかった。

 先代の遺体がすぐそばに安置されているこの状況にボルドは自分で思った以上に緊張していたらしく、いつものように熱いたぎりを感じることが出来ずにいたのだ。


 黒くつややかな夜着に身を包んだブリジットは美しくなまめかしい。

 そしてブリジットを喜ばせたいという思いは自分の中に満ちあふれているはずだった。

 だが、そう考えれば考えるほどボルドのそれは沈黙ちんもくする。


「も、申し訳ございません。少しお時間をいただければ……」

「気に病むことはない。この状況では仕方あるまい」


 そう言って苦笑するとブリジットはボルドのすぐとなりに身を横たえた。


「アタシの父もそうだったらしいが、この黄泉よみ送りのとぎの際は、すんなりとはいかないものらしい。ダニアの記録にも残っているが、代々のブリジットがその気になれなかったり、情夫が緊張のあまりちぢこまってしまったりすることも少なくなかったとのことだ」


 そう言うとブリジットは身を起こし、ベッドのすぐ脇に置かれた小机の上に手を伸ばす。

 そしてそこに置かれていた小さな白亜のつぼを手に取った。

 悠々と手の平に乗るくらいのその小さなつぼふたを開けて、彼女は中に人差し指と中指を差し入れる。

 中には軟膏なんこうのような白い粘液ねんえきが収められていて、ブリジットはそれを自分の手の平の上でよく伸ばした。

 そしてボルドに視線を送る。


「ボルド。少しおとなしくしていろ。これは普段は使わぬ禁じ手なのだがな」

「は、はい……」

 

 そう言うとブリジットは粘液ねんえきを塗った手でボルドのそれを優しく包み込む。

 そしてボルドのそれに粘液ねんえきをゆっくりと練り込んでいった。


「あっ……」

「少し辛抱しんぼうするんだぞ。毒になるものではないので案ずるな」

「は、はい」


 粘液ねんえきを塗り込まれた途端とたんにボルドのそれは急激な熱を感じ始めた。

 そして彼の意思に反して、それは徐々に力強く屹立きつりつし始める。

 その反応を見たブリジットの目に淫靡いんびな光が宿った。


「男をいきり立たせ、女を湿しめらせる媚薬びやくだ。少々強引な手だが、この黄泉よみ送りのとぎでは、よく使われるものだと言われている。アタシも使うのは初めてのことさ」


 そう言うとブリジットは媚薬びやくをふんだんに塗り込んだおのれの手を自らの下腹部にあてがった。

 そうしてブリジットとボルドは互いに熱い視線を交わし合う。

 亡き母の葬送をいろどつややかなうたげが始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ