表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/101

第9話 『初めての同伴』

 二度目の夜を終えたボルドは翌日、起床後の昼食を終えたところで呼び出された。

 迎えに来たのはまたもや女戦士ベラだ。


「よう。ブリジットがお呼びだぞ」


 そう言ってボルドを連れたベラは、先日の儀式があった大本営とは別の方角に向かっていく。


「今日は御前試合の日なんだよ」

「御前試合……ですか?」


 御前試合とは腕自慢のダニアの女戦士たちが、長たるブリジットの前で武術の腕前を競い合うことだった。


「おまえ、案外気に入られたな」

「えっ?」

「迎えて三日目の情夫が昼の行事に駆り出されるのは異例だ。ブリジットがおまえを気に入り始めた証拠さ」


 夜伽よとぎの相手である情夫はブリジットの政務に関わることはない。

 だが御前試合や狩りなど、半分は遊興目的の行事に同伴することはある。


「おまえにダニアでの暮らしを慣らそうとしてるんだろう。いや、単に自分の男を見せびらかしたいだけだったりしてな。ま、何にせよ良い傾向だよ。まずは女王様のお眼鏡めがねにかなったってことさ」


 そう言うとベラは快活に笑う。

 自分に女から気に入られる要素があるなどとは思えないボルドは、これからどう振る舞えばいいのか分からずに困惑した。

 相変わらずボルドが歩いていると道行く女たちからのジロジロとした視線を受ける。

 ボルドとしては居心地が悪く萎縮いしゅくしてしまうのだが、そんな様子がおかしいらしく、ベラはのどを鳴らして笑う。


「おまえ人気あるな。ま、あたしらダニアの女は皆、自分がゴツいせいかおまえみたいな優男やさおとこが好みの奴は結構多いんだよ。今おまえを見てる女たち皆、頭の中でおまえを抱くところを妄想もうそうしてよだれらしてるのかもななぁ。ククク」


 ベラの笑い声に思わずボルドは悪寒を感じて背すじを震わせた。


「心配すんな。あたしはナニの立派な男にしか興味はねえから。おまえを妙な目で見たりしねえよ」


 そこから歩き続けると、ほどなくして女たちの威勢いせいのいい声が聞こえてきて、天幕が一つしかない広い場所に出た。

 そこではダニアの女戦士が二人、木剣を手に向かい合っている。

 周囲をぐるりと取り囲む女たちが歓声を上げる中、二人の女戦士は木剣で激しく打ち合っていた。

 体格の良い女たちが打ち合う様は威圧感いあつかんに満ちあふれ、木剣がぶつかり合う激しい音にボルトは思わず身をすくめる。

 そんな戦いの様子をブリジットが天幕の下に置かれた椅子いすに腰かけて見守っていた。


「来たかボルド。座れ」


 ブリジットはりんとした表情をくずさずにそう言って、ボルドを自分のななめ後ろの席に座らせる。

 寝室で見せる顔とは違い、女王の振る舞いだった。

 ベラはボルドの横に立って控える。


「我が一族のならわしだ。こうして七日に一度、我が前で皆が腕前を披露ひろうする」


 そう言うブリジットの視線の先では背の高い方の女戦士が相手を打ち負かしたところだった。

 勝った女はいきり立って雄叫おたけびを上げ、負けた女はひたいから血を流しながら悔しげに地面を拳で打っている。


「そのくらいにしておけ。おまえたちの勇猛ぶりは明日の戦までとっておくことだ」


 そう言うとブリジットは椅子いすから立ち上がり、そばに控えている小姓こしょうから木剣を受け取ると自ら戦いの場へ歩み出ていく。

 そして勝った方の女に声をかけた。


「ソニア。体格をかした戦いぶりはそのまま貫くがいい。おまえの初撃を受け止められる男はそうそういないだろう。だが、その体格に自惚うぬぼれるな。振りの大きさにおごりが見える」


 そう言うとブリジットは木剣を構え、ソニアの前に立つ。

 2メートル近いソニアの前に立つとブリジットはいかにも小さく見える。

 その身長差は20センチ近くはあるだろう。

 だが、ブリジットを前にしたソニアは緊張に表情をかたくしていた。

 相手が女王だからというだけではない。

 木剣を手にしたブリジットはゆるやかな構えで立っているだけにもかかわらず、ソニアを恐れさせていた。


「打ってこい。アタシの頭を勝ち割るつもりでな」


 ブリジットの言葉にソニアははじかれたように動き出し、えながら上段から鋭い一撃を振り下ろす。

 だが、ソニアの木剣がブリジットの頭に振り下ろされたかと思われた瞬間、ブリジットはすでにソニアの真後ろに回り込んでいた。

 そのあまりの動きの速さにボルドは目をしばたかせる。

 彼の視線の先でブリジットは手にした木剣をソニアの右肩にそっと当てた。


「打ち出しの瞬間に右肩がわずかに右に流れるくせがある。それを見抜く相手なら、おまえはもう死んでいる」


 ブリジットの言葉に振り返ったソニアは息を飲んで頭を下げ、ざわめいていた観衆は圧倒的なブリジットの動きの速さに驚嘆きょうたんして沈黙ちんもくした。

 ベラの言う通り、ダニアの長・ブリジットは別次元の強さをその身に秘めている。

 自分の主となった女の強さを初めて目の当たりにしたボルドは、ただただおどろきの眼差まなざしを彼女に向けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ