第三話☆転校と嫌がらせと忘れ物
九月半ばに
須寿垣から坂北へ転校した。
中途半端な転校生なため、
新しいクラスでは
質問責めにあった。
色々と適当に誤魔化した。
放課後、校門を
出ると満彦が
停めた車に寄りかかりながら
煙草を吸っていた。
「よう」
須寿垣はどうしたんだ?
この時間なら
向こうだって、
帰りの時間のはずだ。
「校長がお前を
迎えに行けって言ったんだよ」
言葉にする前に
満彦が応えた。
顔に出てただろうか?
何にせよ、
校長がねぇ……
『へぇ~
まぁ、
迎えに来てくれて
助かったぜ。
ありがとうな』
煙草をくわえたまま
助手席のドアを開けてくれた。
俺はエスコートされる姫か‼
内心つっこんでみる。
**翌日**
昨日のあれを見られていたらしい。
転校二日目、またもや
質問責めに合う羽目になった。
「昨日、迎えにに
来てた人誰?」
どぉ返そうか……
素直に恋人と言うべきか?
いや、同性愛に嫌悪感を
抱いている奴も中には
いるだろうし、無難に
親戚と言うべきか……
困った……
「カッコイイ人だったね」
そりゃぁ、満彦はカッコイイけどな。
いい父親だし、いい恋人だ。
勿論、いい教師でもあった。
じゃなきゃ、いくら
カッコイイといってもあんなに
人気者にならない。
「そうだな」
満彦がカッコイイことなんて
わかりきってることだ。
昼休みになり、
満彦にメールをした。
あっさりと“恋人”だと
言えばいいと返って来た。
まぁいいか。
教室に戻ると
やっぱり、休み時間と
同じ質問が繰り返された。
「三神君、あの人誰なの?」
はぁ~
深呼吸をしてから
口を開いた。
『恋人』
教室に変な空気が流れる。
だからといって
別段驚かない。
皆、引いただろうか?
それならそれでいいのだが。
蜘蛛の子を蹴散らすように
俺の席から離れて行く際に
一人の呟きが聞こえた。
「何あれ、
あんな嘘言ってまで
私たちにあの人を
関わらせたくたにのかしら」と。
そうきたか。
翌日、黒板に色々と書かれていた。
あまりにも言葉が幼稚過ぎて
消しながらガキだなぁと思った。
もう少し語彙を増やせよな。
そして、とうとう
嫌がらせまで
始めたらしい。
転校して二週間目、
満彦が昼休みに
坂北に来た。
「柾」
呼ばれるまで気付かなかった。
『満彦!?』
何で居るんだよ!?
「弁当届けに来たぞ」
そう言われて、
バッグの中を確かめると
確かに弁当は入っていなかった。
てことはだ、
須寿垣に行ってから
態々届けに来たことになる。
驚いて何も言えない俺に
満彦はいたずらが
成功したみたいな
顔をしている。
「“旦那”が作った
弁当を忘れて行くとは
酷い“妻”だな」
うん、まぁ、
立場上は間違っていないが
これは、態と言っているな……
先週のあれが原因か‼
あの話だけで俺に
何かあったとわかったのか。
『とりあえず、サンキューな』
満彦から弁当を受け取った。
そして、クラスメイトに
向かってこういい放った。
「“妻”と仲良くしてやってな」と。
それだけ言うと
教室を出て行った。
心配してくれたんだな。
放心しているクラスメイトは
ほっといて自分の席に
戻り弁当を食べることにした。
来るなら来るで
メールくらいして欲しかったぜ。
まぁ多分、俺を
吃驚させたかったのも
あったんだろうけどな。
その日の夜、俺は
満彦に改めて礼を言った。
更に一週間後、
クラスメイトからの
嫌がらせは無くなっていた。
かと言って
仲良くする気もないみたいだが。
一人の方が気楽だから
それはそれで構わない。
そもそも、友人を
作ろうなんて思っていない。