お祭り道中
たこ焼きやからあげ、かき氷などを食べながらゆっくりと山を登っていると、ふと異様に盛り上がっている射的のお店を見つけた。
その場にいた子供に聞いたところ、今射的をやっている人がものすごい腕前で、段々と観戦する人が増えていって今に至るらしい。
その腕前はまさに百発百中なんだとか。
おぉ、そりゃあたしかにこんだけ盛り上がるのも納得出来るわ。
「弾が無くなるまで撃ちまくってやります!」
「やめてくれぇ!これじゃあ大赤字だ!」
景品を乱獲してるのが知り合いじゃなきゃね!
こんな所で何してるんだ因幡よ・・・・・・。
何を隠そう、無慈悲に景品を落としまくっていたのは俺の後輩だった。
「あ、咲夜くん先輩、どうですか私の腕前は!惚れ直しました?」
「そもそも惚れてないっての」
満面の笑顔で振り返った因幡が何か言っているが、そんなのいつもの事なので華麗にスルーだ。
まぁこんなに上手いのは素直に驚いたけどね。
でも店主さんが可哀想だからそろそろ止めたげなよ・・・・・・・・。
ほら、半分以上景品が倒されて悲鳴上げてるじゃん。
一回でこんだけやられてしまうと、彼の言うとおり大赤字は確実だろう。
てかよく見たら、このお店俺の知り合いが出してるお店だった。
なんか見たことある顔だと思ったら、小さい頃この祭りに来た時に優しくしてくれたおじさんじゃないですか。
恩を仇で返すとはまさにこの事だ。
「うわぁ、これはやばいね」
「いや、皐月と朱華もまぁまぁやばいよ?」
どこからともなくやって来た朱華が因幡を見てドン引きしているが、正直当の本人も人の事を言えないと思う。
何その色とりどりのヨーヨー。
一体何個あるのさ・・・・・・・・。
合流した朱華と皐月は両手にヨーヨーをぶら下げていたのだ。
それ自体は何もおかしくないし、むしろ夏祭りらしい格好だ。
駄菓子菓子、注目すべきはその数にある。
普通は多く取れても三つか四つくらいでしょ?
でもこの二人が今何個持ってると思う?
二十個以上あるよどうしてそうなった。
・・・・・・・・・あれかな、二人とも素手で取ってきたのかな?
両手で抱えても足りないくらい大量のヨーヨーを腕にぶら下げているお二人さん。
あなた達も十分やばいと思いますよ!
「あはは、二人で勝負してたら思いのほか白熱してしまいまして・・・・・・・」
皐月曰く、どちらが多く取れるかヨーヨーすくいで勝負していたら、ことの他盛り上がって最後の方は今みたいに結構なギャラリーまで居たとか居なかったとか。
あぁ、なんかあっちでも盛り上がってるなぁって思ったら、犯人は君たちだったのか・・・・・・・・。
それに盛り上がったのは良いけど、この数のヨーヨーどうしよう。
"夜桜"とうちに分けても十個は着いてくるぞ。
「きっとスゥちゃん達は喜ぶんじゃないの?」
「たしかに子供は喜ぶだろうけど」
しょうがない、この大量のヨーヨーは今日来れなかった精霊っ子達へのお土産にするか。
まず持って帰るのが一苦労なのだが、まあそれは目をつむろうと思う。
なにせ今目の前に現在進行形でもっと大量の荷物を作ってる人が居るしね!
この子もしかして屋台の景品全部取る気かな?
なんとさっきまで百発百中で景品を落としていた因幡が、さらに課金(お金を払って弾を追加)して、残る景品すらも落とそうとしているのだ。
良い年したおじさんの涙目なんて滅多に見れるものじゃないと思うんだけど。
「皐月先輩と朱華ちゃん、何か欲しいのあります?あったら私が取りますよ!」
「あ、ほんとですか?なら私はこれが欲しいです!」
「皐月はこれですかね〜」
ついに自分が欲しいのは取り尽くしたのか、余った弾で皐月と朱華が欲しい物を取ってくれるらしい。
なんだろう、ここまで来るともういっそ頼もしい。
おじさん、うちの後輩がすまん。
今度ちゃんと限度があるって言っとくから。
だからそんな恨みがましい目でこっち見ないでよおじさん・・・・・・・。
あぁ、因幡が容赦なく当ててらぁ。
ちょっと本当におじさんの目が怖くなってきたので逃げるようにその場を離れた。
うん、見なかったことにするのが一番だ。
皆もそう思うよね?
・・・・・・・・・さて、逃げてきたはいいけど一人になっちゃったな。
頂上で集合にしたからこの道なりには居るだろうけど、誰か都合良く近くに居ないものか。
「君、今一人?」
「え。あ、はいそうですけど」
キョロキョロ辺りを見回していたら、年上っぽそうな男性集団に話しかけられた。
見た目的にたぶん大学生くらい。
うわ、だいぶチャラチャラしてんなぁ〜、ちょっと苦手なタイプかも。
「実はさ、俺たちこの祭り来たの初めてでさ。君は何回か来たことあるの?」
「えぇまあ」
「おっ、ちょうど良かった!お願いなんだけど、案内するついでに一緒に回ってくれないかな。せっかくの祭りなのに、さすがに男だけじゃ虚しくてさ」
「おい、言ってくれるじゃねーかこのー!」
仲良さげに笑いながら軽くど突き合う男性集団だが、正直俺はまったく心が動かなかった。
おそらく俺が女の子でも反応は変わらなかっただろう。
だって明らかに下心あるし。
視線がもう完全にアウト!
こんなヤツら放っておいて早く上に行きたい。
とは言っても相手側もそこそこ本気なようで、返答を渋る俺から中々離れてくれない。
どうしたものか・・・・・・・。
もういっそ全員投げ技喰らわしてやろうか。
「ごめん、そいつ俺の連れだから」
「あ、颯馬」
あまりのしつこさに力技で強行突破しようかと考えていると、男たちの間をすり抜け颯馬が割って入ってきた。
キザなセリフと共に俺の手を掴むと、一気に引き抜き男性集団から距離をとる。
くっそこいつ言動までイケメンだな。
こういうのは楓にやれよ・・・・・・・まぁ助けてくれたのは感謝するけども。
「ちっ、彼氏連れかよ」
「つまんねぇなぁ」
「待って、なんか勘違いしてる。俺と颯馬はべつに・・・・・ちょ、ちゃんと聞いて!?ちょっと!?ちょっとぉーーーー!?」
あらぬ誤解を受け、それが解けぬまま男たちはどこかへ行ってしまった。
膝から崩れ落ちたい気分に駆られるが、浴衣なのでそうもいかない。
「くそぅ、でも助けてくれたのはありがとう。って言うか、バカップルの片割れは?」
「なんか楓は射的の方に行ってたよ。因幡さんに呼ばれたって言ってた」
あ・・・・・・・また被害が拡大したな。
心の中で店主のおじさんにご愁傷さまです、と手を合わせる。
「そんじゃあ、こっちはこっちで男同士の友情でも育みますか〜」
「だね」
こういう時は切り替えが大事なのです。
◇◆◇◆◇◆
颯馬と二人で少し山道を登り、出店が減って所々にぽつぽつある程度になってきた頃。
人の波に乗って歩いていると、ふと見覚えのある出店を見つけた。
「おっ、咲夜じゃねぇか!今年は来たんだな!」
「おっちゃん久しぶり」
幼い頃まだこのお祭りによく来ていた時に、何回も寄ったおかげで仲良くなった気の良いおっちゃん。
もう歳は結構行ってるはずなのに、今年もその元気っぷりは衰えていないようだ。
例年は昔ながらのお店の前でラムネ売りをやっているのだが、今年はそれに加えて複数の店舗と合同でわなげもやっているらしい。
皆でお金を出しあったので景品が少し豪華なんだとか。
今店番をしている人達は見たことがないので、たぶんこの人たちがその複数の店舗の従業員なのだろう。
おっちゃんは色んな角度から俺を眺めると、うむ、と嬉しそうに頷いてからから笑う。
「昔に比べてべっぴんさんになったじゃねぇか!今年で高校生だもんなぁ」
「やだも〜、それは女の子に言うやつだゾ☆」
「ゴフッ!?」
「「ちょ、近藤さーん!?」」
結構遠慮ない平手で背中を叩く。
御年六十七歳になるおっちゃんが、ゴフッと割とシャレにならなそうな声を出しているせいで、周りの人達はプチパニックだ。
大丈夫、ゴフッとか言ってるけど、この人ノリ良いだけだから。
思った通り店の奥に担がれて行ったおっちゃんは数分で元気に戻ってきた。
「あー、危うく死ぬところだった。なんか川の向こう岸で婆さんが呼んどったわい」
「いや、まだトネさん亡くなってないでしょ」
おっちゃんの奥さんであるトネさんは、いわゆる優しいおばあちゃんみたいな感じなのだが、その実おっちゃんよりアグレッシブな六十九歳なのだ。
今はどうやら店の奥で仕込みをしているらしい。
後でトネさんにも挨拶しておこう・・・・・・・・え?ツッコむとこが違う?
ちょっと何言ってるか分からない。
せっかくだしわなげやってくか。
「点数の合計が低かった方が奢りね?」
「おっしゃかかってこ〜い!」
先行は言い出しっぺの颯馬。
輪っかは三つ。
さぁ、現役サッカー部の実力はいかに!?
まあサッカーは足でのコントロールだし、輪投げなら颯馬に勝てるでしょ・・・・・・・・・。
「よっ!」
颯馬の結果は初めから八点、五点、九点の合計二十二点。
あれ、おかしいな。
いきなりなんでそんな高得点なんですかね!
後攻の俺にめっちゃプレッシャーかけて来るじゃん。
だが負ける訳にはいかん!
俺のターン!
「ていっ!」
・・・・・・・・・・俺の結果は最初から六点、三点、二点の合計十一点。
くっ、ノーコン過ぎる。
まさか二倍も点差が開くとは・・・・・・。
ちょ、おっちゃんたちその可愛い孫を見るような目はやめて!?
その後仕方がないので負けた俺が料金を払い、それぞれ点数に見合った景品を貰った。
のだが、そこで事件は発生した。
「はい、これとこれ景品ね。可愛い彼女さんにはおまけでうちの自慢のリンゴ飴もあげよう」
「あ、どう・・・も・・・・・・・」
やったね、と差し出されたリンゴ飴を受け取ろうとして、俺は石のようにビシッと固まった。
あちゃ〜っと額を抑えるおっちゃんと颯馬に、?顔のリンゴ飴屋の男性。
うんまぁ、悪気がないのは分かってるよ・・・・・・。
大人しくリンゴ飴を受け取った俺は、錆びたロボットのようにギギッとぎこちなく颯馬とその場を後にした。
「はぁ、まさか彼女に間違われる日が来るとは」
「咲夜の見た目ならしょうがない気もするけどね」
まったく、今日はナンパと言いリンゴ飴屋の人と言い、女の子に間違われることが多すぎる。
どれもきっとこの浴衣を着ているせいだろう。
おっちゃんの言う通り可愛さに磨きがかかってしまったか・・・・・・・・。
そういう意味では因幡のチョイスは正しかったんだろうけども。
「・・・・・・・・・お、楓から連絡きた。荷物持つの手伝ってだってさ」
「そっか。じゃあまた上でな」
「うん、また後で」
本当の彼女から連絡がきた颯馬は来た道を戻って麓に向かっていった。
俺はと言うとこのまま道なりに進みつつ、貰ったリンゴ飴をやけ食いじゃあ!
それはもうマンガかのようにバクバクとリンゴ飴をかじるのだった。




