後輩たち
「咲夜くん先輩、可愛い可愛い後輩がお迎えに来ましたよ〜!」
茶色い髪の毛を肩まで伸ばし、伽奈先生とは対照的に童顔の小柄な少女が、スゥたちを押しのけて俺を押し倒す。
痛ってぇ!思いっきり背中ぶつけた!
彼女のあまりの勢いに負けて座ってたベンチから転げ落ちてしまったため、結構シャレにならない音がした気がする。
ねえ今ドコンって言ったよね、ドゴンって。
しかし少女はそんな事はまったくお構い無しな様子で、久しぶりに会ったご主人様に甘える犬のようにほお擦りを繰り返していた。
なんか、パタパタ振られてるしっぽと耳が見えた気がするんだけど・・・・・・・・・・。
「先輩、会いたかったですよぉ〜!」
「むしろ俺は会いたくなかったかな」
絶対にこうなることは分かってたしね・・・・・・・・て言うか予想以上だったわ!
まさか公衆の面前で押し倒されるなんて思ってなかったよ!
この子には羞恥心とか無いのだろうか。
「あはっ、まさか先輩から会いに来てくれるだなんて・・・・・・・・咲夜くん先輩、私のこと好きすぎませんか!?」
「はいはい分かった分かった、とりあえず離れよーね」
「んもぅ、先輩ってば恥ずかしがり屋さんですね!」
「お前、相変わらずポジティブだな・・・・・・・・」
昔からこうなんだよなぁ。
一体俺の何を気に入ったのか分からないが、こいつが入学してから少し経ったある日に大勢の前で突然告白してきて、それからずっとこんな感じ。
ところ構わずアピールしてくる上に、こっちの話もろくに聞かずグイグイくる。
普通に好意は嬉しいし、こんだけアピールされて嫌な訳が無い。
が、この高すぎるテンションのせいで素直に喜べない自分がいるのも現実だ。
結果的に中学生のときの俺は適当に受け流して、あやふやのまま卒業することになった。
卒業式のときも俺の第二ボタンを賭けた壮絶な戦いがあったんだけど・・・・・・・・・うん、これは掘り起こさない方が身のためだね!
俺が思わず乾いた笑みを浮かべちゃうくらいにはやばい事があったのですよ・・・・・・・・・・。
「あの、そろそろどいてくれません?」
「嫌です」
即答しやがった。
俺の首をがっしりホールドした彼女は微塵も離す気がないらしい。
もう一度言うけど、ここ公衆の面前よ?
「良いじゃないですか、むしろ私たちの関係をアピールする良い機会です」
「誤解しか生まない発言!?俺たちの間にそう言う関係なんて無いでしょ!」
「酷いですね、この夏にも負けないくらい熱い青春を過ごしたじゃありませんか!」
「あれ、記憶改ざんされてる?」
ごめん冗談抜きで恥ずかしいから、そろそろどいてくんない?お願いだから。
あとね、さっきから見えないフリしてたけど、皆の雰囲気がやばいんだわ。
んと、ここって地獄でしたっけ。
なんか桃花の後ろに般若みたいなの見えるよ?
・・・・・・・・・ほら、やばいって般若がカタカタ動き出した!?
「たしか月夜さんだったよね・・・・・・何してるのかな?かな?」
「あ、天月先輩お久しぶりです」
彼女は包丁を振りかざす般若に恐れることなくあっけらかんと挨拶すると、俺に跨ったまま上半身だけ起こした。
おまっ、よくあれ見て平然としてられんな・・・・・・・・・とか思ってたら、こいつの後ろにも何か居るんだけど。
口を"ω"の形にした彼女の背後には、桃花の般若にも負けず劣らずなほど巨大な─────────────ウサギが一匹。
それはもうモッフモフな白ウサギちゃん。
何故か見た目がデフォルメされてるせいでまったく迫力がないどころか、むしろめっちゃ可愛い。
あ〜、あのフカフカのお腹にダイブしたいなぁ・・・・・・・・・。
「よし、白ウサギちゃんいけぇ、です!」
「ってちょっと待ったぁ!」
問答無用でウサギを般若に突撃させようとしている彼女を羽交い締めにしてなんとか止める。
いや、さすがにあれは無理だって。
うさちゃん可愛いけど、あんな凶悪な般若のスタ〇ドには勝てないよ!
「うさちゃんを酷使するなんて事したら、動物愛護団体が黙ってないぞ」
「咲夜くん先輩のそれはどこ目線の注意なんですか・・・・・・・」
呆れながらもさらっと俺の拘束から抜け出した彼女は、般若を従える桃花と視線を交わす。
えっ、あれ、抜け出し方上手すぎない?
もしかして特殊な訓練とか受けてます?
色々ツッコミたいところは多いのだが、バッチバチに火花を散らし合う二人の間に割って入れるほど俺のメンタルは強くない。
「パパぁ〜、怖いの〜」
「安心して、俺も怖い」
「さくにぃそれ安心できないやつ」
おっしゃる通りで。
離れた彼女に変わってスゥたちが両腕と背中にくっついてきた。
ただの女子高生が生み出した般若のスタ〇ドは、まさかの大精霊をも怖がらせる力があるらしい。
しかもあの般若とウサギは俺たちだけじゃなく周りの人たちにも見えているようで、その威圧感に気圧されて二人の周りだけぽっかりと穴が空いたように人がいなくなった。
そのくせ興味を持った人達なんかが集まって、いつの間にか二人のバトル(?)を観戦する野次馬が大勢になってしまった。
おーい、先生仕事のお時間ですよ〜、何とかしてくださ〜い!
え?めんどくさいから無理?
あんたそれでも教師か・・・・・・・・。
「え〜、楽しそうだし良いじゃないか」
「あれ見てもそう言えます?」
そう言って刀をブンブン振り回してる般若さんと、相変わらず可愛くその場で跳ねているうさちゃんを指さす。
「実に興味深いね。非科学的にもかかわらず、ここまでハッキリと見えている・・・・・・・・スタ〇ドかな?」
「よくそれ知ってましたね」
キリッとした表情ですごいこと言ったな。
若干俺も同じこと思ってたけど・・・・・・・ってそうじゃなくて。
危うく誤魔化されるとこだった。
・・・・・・・・・伽奈先生、今舌打ちしました?
「はっはっはっ、そんなのする訳ないじゃないか」
「あ、これ絶対にしたパターンだわ」
「君は私のことをなんだと思ってるんだい・・・・・・・・・おや、あれは」
微妙な表情で肩をすくませていた伽奈先生が、何を見つけたのか人混みの奥に目を向けた。
すると意地の悪そうな笑みを浮かべ、嬉しそうに自分の顎に手を当てる。
うわぁ、伽奈先生がこの仕草するとろくな事がないんだよなぁ。
「どうやら月夜につられてまた君の知り合いが来たようだ」
「今思いっきり生徒のことエサって言いましたね・・・・・・・・・・」
にしても今度は一体誰よ。
先生の指さした方向を頑張って探していると、ふとキョロキョロと辺りを見回しながら歩く二人組の生徒の姿が目に入った。
「はぁ、部活中なのに月夜部長はどこに行ったんですかね・・・・・・・」
「私は心当たりあるよ?」
短髪の活発そうな男子生徒と、長い前髪で片目を隠したミステリアスな雰囲気の女子生徒。
片方は見たことあるどころか、それなりに仲の良い子だ。
「あれ、この人混みなんだろ─────────────ってええぇぇぇぇぇぇえぇ!?」
「あ、咲夜先輩」
隙間から中央を覗いた男子生徒が驚きの声を上げ、隣の女子生徒は俺の事を見つけてほんの少しだけ驚いたような表情を見せる。
恐れ知らずな後輩は人混みをかき分けて俺たちの所まで来ると、軽くお辞儀して薄く笑顔を浮かべた。
「先輩久しぶり。相変わらず因幡に愛されてるね」
「こっそり来たのにまさか見つかるとは思わなかったよ・・・・・・」
このミステリアスな少女は友利杏奈といって、因幡と同期の俺の後輩だ。
たしか今は副部長なんだっけ。
因幡はその性格からあまり多くの役には適さないものの、合うものに関しては天性の才を発揮する。
それに対して杏奈はありとあらゆる役を完璧に演じることができるオールマイティなやつなのだ。
一点を貫くのが因幡、それ以外をカバーするのが杏奈みたいな感じだな。
今日も今日とて演劇部は平常運転で練習に励んでいたそうだ。
杏奈曰く、練習の最中に突然因幡が"レーダーが反応した!"と言って部室を飛び出して言ったらしい。
えなに、スゥといい最近そういうの流行ってるの?
「友利先輩、待ってくださいよ・・・・・!」
「大空遅いよ」
「無茶言わないでください、あんな人の群れを一瞬で通り抜けられる先輩がおかしいんですって・・・・・・・」
息を切らしながらなんとか俺たちの元にたどり着いた男子生徒。
おおぅ、近くで見ると身長高いな。
俺と杏奈、因幡はそろって百五十後半なのだが、この子は百七十くらいはあるんじゃないだろうか。
・・・・・・・・・・べ、別に悔しくなんかないもん!
「あ、咲夜先輩ですよね、話は常々先輩方から伺ってます・・・・・。初めまして、一年の大空陸です」
「・・・・・・・その様子だと、色々教えこまれたみたいだね」
「はい、それはもう・・・・・・」
どんよりした瞳で下を見下ろす陸くん。
何があったか容易に想像できる・・・・・・・。
「大空陸?贅沢な名前だね。お前の名前は今日から大陸だよ、大陸!」
「でたな杏奈の声マネ」
杏奈は演劇の天才であると共に、声マネの天才でもあるのだ。
どのくらい上手いかと言うと、本家と比べても違いがまったく分からないがほど。
今のも某有名アニメ映画のキャラの声のまんま。
てか大陸って。
たしかに名前に空も陸もあるって贅沢だけどさ・・・・・・・・。
「一年って事は、俺が卒業したときに入ってきた子か」
今年もちゃんと入部してくれた子がいてよかったよかった。
この中学校だと、部員が三人以下になると廃部になっちゃうから、毎年それがちょっと心配なんだよね。
まぁ因幡たちの代は結構人が多いから問題ないけど、その次の代がどうなるか気になってたんだよね〜。
でも陸くんの話を聞く限りでは全然大丈夫そう。
「・・・・・・・・・って、そうじゃないですよ!」
「え、何が?」
突然我に返ったようにツッコミを入れる陸くん。
どうした、急に何かに覚醒したの?
「ナチュラルに月夜先輩が跨ってますけど、何でスルーしてるんですか?」
「あ、それね。その・・・・・色々あってさ・・・・・・・」
今度は俺が遠い目をして過ぎし青春の影を思い出しながら黄昏れる。
いやもうほんと、色々あったよね・・・・・・・・・。
「咲夜くん先輩、戻って来てくださーい!」
「分かった、分かったから揺さぶんないで!」
般若とバトってたはずの因幡が俺の襟首を掴んで前後にブンブン揺さぶってくる。
でも一つ言わせてくれるかな?
俺がこうなった原因君だからね!?
「にぃが困ってる・・・・・・・今すぐ止めて・・・・・・・」
俺の腕にがっしり捕まっていたクロがほおを膨らまし、敵意のこもった瞳で因幡を上目遣いで見上げる。
アイラもスゥも、皆俺に捕まって同じような表情を浮かべていた。
本音を言ってしまうと可愛さしかないけれど、三人とも何やら必死そうなので言わないでおこう・・・・・・・。
あれ、今度はここでバチバチするんすか?
ほほ〜う?とラスボスのような笑みの因幡が背後のウサギを可愛く跳ねさせたり、ゴロゴロ転がして謎の可愛さアピールをする。
何してるんだと思っていると、左腕のスゥがはわ〜っとウサギちゃんに見とれてるじゃありませんか。
まさかの因幡のやつ、可愛いウサギで皆を心変わりさせる気だ。
しかしすぐに頭を振ったスゥはより強く俺に抱きついてしまう。
・・・・・・・・・・即行作戦失敗したな。
「・・・・・・・・咲夜くん先輩、この子たちは?」
「俺の親戚の子たちだよ」
「随分懐かれてるみたいですね。この子にはパパと呼ばせてるようですし!」
「おいこら誤解の生まれる発言を大声でするんじゃない!」
周りの人たちがザワついてるでしょうが!
伽奈先生も笑ってないで助けてくださいよ・・・・・・・・・・。
「しょうがありませんね、ここら辺でいっちょ格の違いを見せつけてやりますか!」
因幡は身体を起こして自分のそこそこある胸に手を当てると、ここにいる全員に聞こえるような大きな声で。
「初めまして、桜野中学校三年の月夜因幡、将来の夢は咲夜くん先輩と結婚することです!」
特大の爆弾を放り投げてきた。
お知らせです。
なんとですね、これから私は改稿の旅に行ってきます!次の話に入る前にやっておこっかなぁ〜、と思いまして……。
そのせいで投稿頻度は下がりますが、そこら辺はご了承くださいm(_ _)m
あと、改稿頑張るので、良ければ評価をお願いします!
酷評でも好評でも良いのですが、好評だと私が喜びますです。
いくつか変更点もあるので、改稿後と改稿前で若干話が繋がらないかもしれませんが、すぐに改稿を終わらせますので、そちらも覚えておいていただけると。
・スタンド : ジョジョの奇妙な冒険




