中学校へ
「おー、結構人いるな」
「・・・・・・人混み、辛い・・・・・」
「・・・・・大丈夫?」
人混みに当てられてクラっと来たらしいアイラの肩を支える。
精霊六姉妹が我が家に移住してから数日たったある日、俺たちは俺の卒業校であり現在は朱華が通っている桜野中学校に訪れていた。
なぜかと言うと、今日はこの中学校の体育館で朱華の所属するバスケ部の試合があり、前日に本人に見に来てと頼まれていたからだ。
正直俺的には諸事情によりあまりここには来たくなかったのだけど、可愛い可愛い妹の頼みとなれば断る訳にも行かず・・・・・・・・・。
まぁ、あいつに会わなきゃ良いだけだし、さすがにピンポイントに今日に限って学校に居る訳ないよね!
今日会っちゃうと絶対に修羅場になる予感しかしないので、彼女には全力で夏休みを謳歌していて欲しい。
こらそこ、フラグが立ったとか言わないよーに!
「だから言ったじゃん、無理しないで家で待ってればって」
「やだ、さくにぃと一緒に居たいから・・・・・・我慢する」
「・・・・・・・・・・・だとしても無理はしないでよ?」
「ん、分かってる」
むぅ、嬉しいこと言ってくれるじゃないっすか。
そんな事言ってるとお兄さんうっかり勘違いしちゃうぞ?
もしかしてアイラって俺のこと好きなの?って自意識過剰になっちゃうよ?
・・・・・・・・・・・うん、一旦茶番は置いておくとして、人混み(人混みと言う程じゃない)はともかくこの暑さが辛いのは激しく同意。
相変わらず今年の夏は容赦がない。
校門前で五分くらい立ってるだけなのにすでに汗だくだ。
アイラや一緒についてきたクロとスゥは日傘に入ってるものの、俺はモロに日差しを受けているので、それはもう暑いのなんのって・・・・・・・。
「そうよねぇ〜、ほんとこの世界の気温ってばどうなってるんだか」
「最近は地球温暖化がもっと進んでて、三十年後はクリスマスでも三十度越えの日が多発するらしいよ・・・・・・・・・って君どこから湧いてでた?」
「湧いてでたとはひどいなぁ。サクヤ君のために頑張って仕事を片付けて駆けつけたんじゃないか!」
「べつに早く来いとか言ってないんですけど」
いつの間にかさっきまで誰も居なかった俺の真横に涼しそうなワンピース姿のフィアが立っていた。
何でこの人こんなに麦わら帽子とワンピースが似合うんだろうか。
てかこの前皆が来た時に連絡したら、仕事が終わらないって嘆いてたはずなのに、もう全部終わらせたの?
「だって、皆が羨ましかったんだもん!あんなにサクヤ君とイチャイチャしやがってぇ!」
「イチャイチャって・・・・・・・・」
普通に過ごしてただけなのにどこをどう見てそう感じたのやら・・・・・・。
「あ、ママ。久しぶりなの!」
「あらスゥ偉いわね、ちゃんと挨拶出来て。パパのところで元気にしてた?」
「うん!」
「ごめん、ものすごい勢いでざわめきが広がってるからその呼び方変えない?」
ただでさえ幼女をたくさん連れた若すぎるパパってことで視線を集めていたのに、まさかのママの出現によってさらに注目を集めてしまっている。
そりゃあ正門前にこんなのが居たら嫌でも目立つよね・・・・・・・。
しかも今日は保護者の人たちも観戦しに来てるから、その方々からの視線がものすごく痛い。
「金髪の人って外人さん?」
「え、あの人パパなの?娘じゃなくて?」
「妬ましい、あんな金髪美女を・・・・・!」
「おかーさん、あの子たち可愛い〜」
「しっ、指さしちゃ行けません!」
おっとお嬢さん、うちの娘たちが可愛いってのは嬉しいんだけど、ついでに俺も指さしてるのは何でかな?
俺こんな見た目してるけど男だからね?
あ、そうそう。
フィアたちの髪色は目立つので、魔法で違和感のない色に見せてます。
つまりさっき彼が言っていた"金髪美女"とはフィアの事だ・・・・・・・・・・・・ってそこ、誰が娘じゃこら。
総じてツッコミどころが多すぎる。
しかもこれはまだ良い方で、中には目が死んでる学生や下手したら後ろから刺されてしまいそうな形相の人もいる。
男どもの嫉妬の視線がやばいんですが!
どうしよう、普通に朱華の試合を観戦しに来ただけなのに、まさかこんな針のむしろ状態になるなんて・・・・・・・・・。
ちょ、誰かこのアレな雰囲気変えれる人居ない?
藁にもすがる思いとはまさにこの事。
いやまぁそもそも、その藁すら見当たらないんだけどね。
────────────駄菓子菓子、そう諦めかけた瞬間、目の前に美しい女神が降臨した。
いやほんと文字通り。
「あっ、咲夜君遅れちゃってごめんね〜。ちょっと準備に手間取っちゃって」
殺伐とした雰囲気をぶち破って、白峰高校の女神こと美少女桃花現る。
そう、今日は俺たちの母校での試合ということもあり、朱華に誘われて桃花も一緒に来ることになっていたのだ。
本当は一緒にここまで来れば良かったのだが、スゥたちを迎えに行くふり(一緒に住んでるのをバレないため)をしたせいで校門前に集合と約束していた。
まさかそれが裏目に出るとは・・・・・・・・・・。
「あんな美女が奥さんなのに、あんな美少女まで侍らせてるなんて・・・・・・爆発すればいいのに」
「あれ、天月先輩じゃない?」
「えなに、あの人高校生にも手出してんの?」
ちがわい!俺も高校生だから!
たしかに大人が高校生に手出したら警察のお世話になるけど、高校生だから!
・・・・・・・・・・・・・・いや、高校生でも手を出すのはダメだろ・・・・・・・・。
「ねぇねぇ、私のこと奥さんだって!」
「何で喜んでんのさ・・・・・・・」
「?どうしたの?」
「何でもない、桃花はそのまま純粋でいてくれ・・・・・・」
桃花の肩をポンッと叩いて諭すように言う。
ピンときてないらしい桃花だったが、色々説明するのがめんどくさかったので、そのまま逃げるように体育館に向かうのだった。
◇◆◇◆◇◆
「「「「「ありがとうございましたぁー!!」」」」」
両校の選手がコートの中央で握手を交わす。
いやー、白熱した良い試合だった。
66対62のギリギリで朱華たちが勝利した。
「アスカお姉ちゃんすごかったの!」
「だな。まさかスリーポイントシュートをキメるとは」
俺に肩車されたスゥが興奮したように手をブンブン振り回す。
おっとっと、危ない危ない。
人が多すぎてスゥじゃ見えなかったから肩車したんだけど、やっぱ慣れないことはしない方がいいね。
もうすでに腰と腕が痛いよ・・・・・・。
さすがにスゥを肩車しながらクロを持ち上げたのは無理があったらしい。
・・・・・・・・・・・・・今度から少し筋トレするか。
ぞろぞろと体育館から出ていく人の波に逆らわず外に出て、試合終わりのミーティングをしている朱華が帰ってくるのを待つ。
あー、体育館から出たら暑さが戻ってきた・・・・・・・・。
日陰に避難しよ。
「にぃ・・・・・・あつい・・・・・」
「ボクもそろそろ溶けそう・・・・・」
「俺もー・・・・・・って二人ともほんとに溶けてね!?」
左右から寄りかかって来たクロとアイラは冗談かと思いきや、本気と書いてマジで溶け始めのアイスのようになっていた。
やばいじゃん、このままだとスライムみたいになっちゃうよ!?
てかそれどういう原理なの?
とりあえず、冷えたお茶をおでこに当ててみるか。
カバンから取り出した凍ったペットボトルを二人の額に当ててみる。
するとあら不思議!
見る見るうちに元通りになるじゃありませんか!
やべぇ、かわゆい。
ゆるゆるの表情でぐでーっと身を預けてくる二人。
これがかわゆいと言う以外の何があるだろう!
「パパ、スゥも忘れちゃやなの!」
「おおぅ。大丈夫、頭べしべししなくても忘れてないよ」
未だに肩車されっぱなしだったスゥを降ろして膝の上に乗せ、スゥの額にもペットボトルを当ててやる。
「ふふっ、咲夜君ほんとに懐かれてるんだね〜」
「嬉しいことにな」
微笑ましそうに幼女まみれな俺を眺める桃花。
その笑顔はまさに女神のようで、周りの男子だけではなく女子までもが悶絶している。
うわ、鼻血出てる子もいるよ・・・・・・・・大丈夫?
「桃花さん、無意識にこんなこと出来るなんて凄いわね」
「でしょ?中学生の頃は"純情の男たらし"って呼ばれてたんだよ」
「恐ろしい・・・・・・・」
戦慄の眼差しで桃花を見つめるフィアは、ギリギリ聞き取れるほど小さな声で"侮れない強敵だわ"って呟いてたけど、何の事だろう。
強敵って、絶対戦ったらフィアの方が強いじゃん。
まぁそもそも戦わせないけどさ。
「ん?おやおや、そこに居るのは咲夜君じゃないか」
「げっ・・・・・」
しまった、この学校で二番目に会いたくない人に見つかってしまった。
校舎の方からやって来たのは、白衣を羽織った妖艶な雰囲気を醸し出す女性。
理科の教師にして、俺が入部していた演劇部の顧問である高橋伽奈先生だ。
・・・・・・・・・・改めて会って思ったけど、ほんとにこの人中学生の教師してて大丈夫?
健全な男子中学生には目に毒どころじゃないよ?
本人曰く"ピー"歳らしいのだが、それなのにこの美しさ。
一度だけ先生の昔の写真を見たことがあるんだけど、本当に一ミリも変わってない。
いや、何回も確かめたし見比べもしたよ?
ドン引くレベルで微塵も違いがないんだよ・・・・・・・。
そのせいで高橋先生のあだ名は"桜野中学校の魔女"となってしまったのだ。
俺の目の前まで来た彼女は艶然と微笑むと。
「お、お久しぶりです・・・・・・・・」
「やぁ、久しぶりだね。元気そうで何よりだ」
軽い調子で俺の頭を撫でてくる高橋先生。
俺、この先生苦手なんだよね・・・・・・・こんな感じで結構グイグイ来るから。
「こらこら、"高橋"先生じゃなくて"伽奈"先生と呼べと言ったじゃないか」
「ははっ、そうでしたね・・・・・・・」
笑顔でなんて事口走ってんだこの人は!
たしかに中学生のときそんなこと言われたけども。
「あ、あいつ高橋先生とも仲が良いのか・・・・・・!?」
「ウソだろ?守備範囲広すぎだろ!」
言わんこっちゃない。
あぁ、事実無根な噂が広まっていく・・・・・・。
俺が遠い目をしていると、伽奈先生は隣にいた桃花に目を移す。
「高橋先生お久しぶりです」
「おっと、天月さんも久しぶり。・・・・・・そちらの方は?」
「この子たちの母親のフィアと言います」
フィアはスゥたちの頭を撫でてぺこりと頭を下げる。
お、フィアがまともな対応をしてる・・・・・。
「・・・・・あなた・・・・・にぃの何・・・・・?」
「・・・・・さくにぃ、この人誰?」
「パパ〜・・・・?」
左右のクロとアイラは警戒したような瞳で俺の腕に抱きつき、膝の上のスゥに至ってはぷくぅっ、とフグのようにほおを膨らませている。
スゥ、無言なのが一番怖いのよ・・・・・・。
何で俺は幼女たち相手に浮気をした旦那のようになっているのだろうか。
ほら、伽奈先生も驚いてるじゃん。
先生が目を丸くしてるのなんて初めて見たよ。
「ふふっ。咲夜君、相当好かれてるようだね」
「ええ、むしろ懐かれすぎてる気もしますけどね」
笑みを深める伽奈先生は、ふと思い出したように手をぽんっと叩いた。
「あそうだ、今日はたまたまタイミングの良いことに演劇部の活動日でな。ちょうど彼女も居るぞ?」
「んなっ──────────」
なんだとぉ!?
何でよりにもよって今日が活動日なんですかね。
「ふっ、そんなの当然さ。何せ今日バスケ部の試合があるのは事前に知っていたからね。妹さんの参加する試合なら必ず来ると踏んでいたよ」
「くっそこの人謀りやがったな!」
「・・・・・・・・・・パパ?」
「・・・・・・・・・・にぃ?」
「・・・・・・・・・・さくにぃ?」
「・・・・・・・・・・咲夜君?」
「・・・・・・・・・・サクヤ君?」
「アッハイ」
全員からの刺すような視線が降り注がれる。
悪いことは何もしていないはずなのに、嫌な汗が全身から滲み出てくる。
「咲夜君は彼女にとても懐かれていただろう?良かれと思ってのことさ」
うん、完全に火に油を注いだね!
おいこら何ニヤニヤしてんだ、この空気どうしてくれんの!?
「あっ、せんぱぁい!」
「げっ!?」
最悪だ。
最悪のタイミングで最悪のやつが来た。
早く逃げなきゃ────────────。
「もう遅いですよぉ!咲夜くん先輩っ!」
「ぐえっ!?」
「んみゅ!?」
「わっ・・・・・」
「ぬぅ!?」
俺のそばにいたスゥとクロとアイラを押しのけて、小柄な制服姿の女子生徒が抱きついてきた。
あまりの勢いに支えきれず押し倒されてしまう。
「咲夜くん先輩、可愛い可愛い後輩がお迎えに来ましたよ〜!」
そう言うと、俺の後輩は嬉しそうにほお擦りするのだった。




