間話、娘たちが家に来ました
精霊界から帰ってきて数日経ったある休日、神月家にて。
俺はたまたま暇だった父さんと格闘ゲームで勝負していた。
「オラァ!最強のハメ技喰らえやァ!」
「げっ、父さんそれずるくね!?」
父さんの使う道着を着たムキムキおじさんが、俺の使うキャラを投げ捨てて抜け出すことが至難の連続技を繰り出してきた。
一回一回のダメージは少ないものの、なんせ数が多いのですごい勢いで蓄積パーセンテージが上がっていく。
「竜巻〇風脚ッ!」
「あっ!?」
回転蹴りが放り投げられた俺のキャラにヒットし、クリーンヒットの演出と共に軽々と宙を舞う。
あっぶねぇ、一瞬本気で負けたかと思った!
しかし吹っ飛ぶことはなかったが今ので圧倒的な差をつけられてしまった。
と言うか、俺のキャラはあと一発喰らったら終わりのはず。
ここから逆転するのは俺の実力じゃだいぶ難しいな・・・・・・・・。
「ふっふっふっ、勝負あったようだな咲夜!これで終わりだ!」
「だが断る!」
まぁ諦めませんけど。
勝つことは出来なくても、引き分けに持ってくことならできるもんねぇ〜!
瞬時に体勢を立て直した俺は父さんのキャラが放つ技を回避して身体を掴み、自分ごと道連れにフィールド外に落下した。
よし、これで引き分けだぁ〜・・・・・・・何とか負けることだけは阻止できたぜ。
二つのキャラが消滅してリザルト画面に移動すると、今回の勝敗が発表された。
「あれ、何で俺負けてんの!?」
「だって咲夜の方が蓄積ダメージ高かったじゃない」
「あ・・・・・・・」
母さんに言われて思い出した。
そう言えばこのゲーム、ああいう時って蓄積ダメージの少ない方が勝つんだったな・・・・・・・。
やるの久しぶりすぎて忘れてたわ。
「はいそんじゃ咲夜、私と交代ね!」
「へいへい」
後ろのソファーに座っていた母さんにコントローラーを渡して位置を変わる。
あー、ずっと座って背中曲げてやってたから全身がバッキバキ・・・・・・・・。
背筋を伸ばしたり腰を回したりすると背中の方でコキコキと音がした。
テレビに接続してやってるから、いつもより姿勢が悪くなりやすいんだよなぁ。
チラッと時計を見ると短い針がお昼時を示していた。
あらま、九時くらいからやってたのに、いつの間にかこんな時間になってたよ・・・・・・・。
つい夢中になって時計を見るの忘れてたな。
でも意外とこういうのってよくあるよねー。
この前なんてこのステージ終わったら勉強しよう、ってゲームしてたらいつの間にか朝になってたし。
え、そんな事になるのは限られた人だけ?
うそん・・・・・・・・・。
俺の場合だと結構頻繁に起こるんだけど。
舞衣ちゃんもよくあるって言ってたし、世間一般的にもそうなのかと思ってた。
いやまぁよく考えてみると皆が皆そうだったらやばいけどさ。
ストレッチを終えた俺は台所からコップに入れた麦茶を持ってきて、ソファーにうつ伏せに寝っ転がりながら父さんと母さんの対決を観戦する。
あ、そう言えばお昼ご飯作んなきゃ・・・・・・・・・・・・・・今日はいっか。
朱鳥からも何も言われてないしね。
休日だし少しくらいご飯が遅れたって問題ないだろう。
母さんのキャラが見事に父さんのキャラを吹っ飛ばすのを眺めながらボーッとそんな事を考えていると。
ピンポーン。
控えめにチャイムが鳴った。
何だろ、宅配便?
俺は頼んだ覚えないし母さんか父さんのかな。
「あー、たぶん私がこの前アマ〇ンで買ったエロゲだわ。咲夜受け取っといてくれる?」
「なんつーもん買ってんだ。て言うかそんなのを息子に受け取らせるなよ・・・・・・・・・」
本人曰くゲーム製作の参考にするからだとか何だとか言っていけど、本当にそれだけが理由なんだろうか。
てかあんたが作ってるゲームは十八禁じゃなくて普通のゲームだろ!
親がエロゲやってるとか知りたくなかったんですが・・・・・・・・。
今度そういうのを作るやらその資料用だとか言ってるが、めんどくさいのでそれを無視してインターホンを押す。
「はーい」
『あ、パパぁ!スゥね、遊びに来たの!』
一瞬にして場が凍りついた。
なんとインターホンの画面には、俺たちの間に立ち込める絶対零度の空気とは真反対の眩しい笑顔を浮かべる、我が愛娘(自称)スゥの姿が映っていたのだ。
どこで手に入れたのか水色の可愛らしいフリルがついたワンピースに、波の形をしたヘアピンを差している。
髪色は水色のままなので、パッと見では可愛い外国人の幼女にしか見えない。
『あ、あれ?さっきの声パパだよね、どうしたの?』
「・・・・・・・・はっ!?」
返答がなくて不安げな表情でこちらを覗いてくるスゥの声で我に返った。
あれ、俺疲れてるのかな・・・・・・今玄関にスゥが居るように見えたんだけど。
いやいや、この前まだやる事があるって言ってたし、そんなはず無いよ。
『パパぁ・・・・・?』
スゥの涙ぐんだ声が聞こえてきた。
どうやら無反応すぎて悲しくなってきたらしい。
うんごめん全然気のせいじゃなかったわ!
えっ、何で!?
ここから見る限り他の子たちは居ないし、一人でここまで来たの!?
「あ、えっと、父さん母さん・・・・・・・・あれ、もしかしてこっちも修羅場ってる?」
修羅場ってると言うか、母さんが一方的に父さんを詰問していると言うか。
"あっれれぇ〜、おっかしいぞぉ〜?これはギルティかな、ギルティだよね?サイコロステーキ先輩も真っ青なみじん切りイッとく?"
"誤解だ!俺は〇葉並に嘘が下手だからな!たぶん五等分してどっかに捨ててきたんだと思う"
・・・・・・・・・・こんな中でふざけ合えるなんて、結構二人とも余裕あるね。
俺的にはこの後二人にスゥを紹介しなきゃいけないって考えると、ものすごく頭が痛いんだけど。
「はぁ・・・・・・父さん母さん、あの子は俺の知り合いだよ。今連れてくるから」
「やっぱりそうか!何だよもう、娘がいるならさっさと紹介しろよ〜」
「まさかこんなに早く孫に会えるだなんて思ってなかったわぁ〜。もう、親孝行な息子ね!」
うん、二人とも少しは驚こうね?
高校一年生の息子が六、七歳の娘を連れてきたんだよ?
色々とおかしいでしょうが!
ツッコミが追いつかないので二人を放置して玄関に向かい、閉めてあった鍵を開けてドアを開く。
「パパっ!」
「ぐふっ!?」
途端にスゥがものすごい勢いで抱きついてきて危うく転びそうになってしまう。
くっ、まさか出会い頭に頭突きされるとは・・・・・・・。
俺は結構痛かったのに、スゥは顔色ひとつ変えずに満面の笑顔で俺のお腹にグリグリと額を擦りつけている。
数日会っていないだけなのに、相当寂しかったらしい。
「パパぁ〜、会いたかったのぉ〜・・・・・」
「俺もだよ。にしても、よく俺の家分かったね」
「んとね、索敵とか捜索が得意なアイラが探してくれたの!」
「へぇ、アイラってだらけてるように見えて、結構色んなことしてくれる────────────」
「むぅ、誰がだらけ魔人だ・・・・・・・・・」
「いやそこまでは言ってない・・・・・・・んなっ、アイラが歩いてるだと!?」
門扉の方から声がしたかと思うと、ダラダラと大量の汗をかいて顔を顰めたアイラが重い足取りで歩いてきていた。
こちらもどこで手に入れたのか黄緑の薄い半袖と短パンというラフな姿をしている。
まぁたしかに外であの雲使う訳にも行かないしね。
・・・・・・・・・なんか顔色悪い気がするけど大丈夫?
「・・・・・・だいじょばない・・・・・さくにぃ、失礼なこと言ったの許すから抱きしめて・・・・・」
「ここまで来れたら良いよー。さすがに玄関の前とはいえ外でやるのは恥ずかしい」
「・・・・・・がんばる・・・・・・」
言うほど距離ないけどね?
あと数歩だから。
よろよろと時間をかけてその数歩を歩ききった彼女は、ガバッと両手を広げてスゥの隣に抱きついた。
「あー・・・・・さくにぃ冷たくて気持ちいぃ・・・・・」
「まぁさっきまでクーラー効いた部屋に居たしな。それで、来たのは二人だけなの?」
「うぅん、皆来てるよ!でも何でまだ来ないんだろ・・・・・・」
「スゥが・・・・・ものすごい勢いで先に行っちゃったんでしょ・・・・・・・・」
最初に降り立ったのは藤沢駅周辺だったらしいのだが、そこから妖〇アンテナのようにアホ毛で俺の気配を察知したスゥがここまで全速力で走ってきたらしい。
いつそんな特技を身につけたのかツッコミたいけど、それよりも全速力で走ってきたのに汗ひとつかいてないどころか、息が全く切れてないスゥが末恐ろしい。
そのスゥを追っていたせいでアイラはこんなに疲れてるのか・・・・・・・・。
てことはそろそろ残りの子たちも着くのかな?
「あっつぅ〜・・・・・この世界の夏の気温、舐めてたわ・・・・・・・・」
フリンジ(紐飾り)のついた真っ白なブラウスに、側面の開いたデニム生地のピンクのロングスカートを履いたフレアがぐったりと肩を落としながらやって来た。
その後ろからシロとクロを連れたヴェレも。
「皆その服どうしたの?」
例に漏れずシロとクロは色違いの薄手の韓国風ワンピース、ヴェレはノースリーブのニットとゴム式のロングスカートに肩掛けの小さなカバンと、どれも精霊界で皆が着ていた物とは全然違う。
もしかして魔法で作ったの?
「いえ、それも出来ますが、これはちゃんと買ったものですよ。こちらに来る前に通販で買いましたの」
「現代のシステムに適応してる・・・・・・」
そっかぁ、今どきの通販って精霊界にも荷物届けてくれるんだぁ〜・・・・・・・・・・・ってそんな訳あるかい!
いくら発達した通販業界と言えど異世界は無理だわ!
まぁ無理に追及するつもりはないけども。
俺的には可愛い皆を見れて眼福だし。
「・・・・・・・あんた、よくサラッとそんなこと言えるわね・・・・・・・・」
何やらフレアが呆れた顔で俺の事を見ているが、一体なんの事だろうか。
しかしそう思っているのはフレアだけではないらしく、皆が揃って頷くのであった。
・・・・・・・・・・・とりあえず、暑いから中入ろうぜ?
「明らかに誤魔化したわね」
「パパ、スゥはパパのそういう所だけ良くないと思うの」
「おーい、父さん母さん連れてきたよー!」
わざとらしく声を上げてリビングの扉を開く。
てか腰に抱きつかれながらだと歩きにくいな・・・・・・・。
両腰に抱きつくスゥとアイラを離したいけれど、絶対に二人は激しく抵抗すると思われるので止めておこう。
「あらあら、その水色の髪の子がさっきの子ね!?私咲夜の母です、息子がいつもお世話になってます」
「娘のスゥです!スゥこそパパにはお世話になってるの!」
母さんがぺこりと頭を下げると、スゥもそれに習って元気よく頭を下げた。
いや、それってどちらかと言うと娘ってよりお嫁さんのする事じゃ・・・・・・?
「なぁ咲夜、さっき見てたのより女の子が多くなってるんだが・・・・・・・・そういう体質ってことだな」
「どういう体質かはさて置き、その"分かってるよ、この子達もそうなんだろ?"みたいな眼差しは止めてもらおうか!」
一体俺をなんだと思ってるんだか。
そんな無闇矢鱈に手を出すようなクズ男じゃないからね?
て言うかスゥは娘なんだから、少なくともスゥには絶対手は出さないし!
もちろん他の子たちもだけど!
「こんなヘタレな息子で申し訳ない・・・・・・」
「大丈夫ですよ、それを踏まえた上での判断ですから」
父さんとヴェレは何か通じ合ったのか握手してる。
シロとクロもスゥと一緒に仲良く話していて、アイラに至ってはすでに我が物顔でソファーに寝っ転がっていた。
皆適応早くない・・・・・?
フレアがちょっとまだぎこちないけど、それも時間の問題な気がするのは俺だけだろうか。
「ん〜・・・・・なんか騒がしい・・・・・・・ってあれ、もしかしてお兄ちゃんがこの前言ってたのってこの子たち?」
少し騒がしくし過ぎたのか、上の階にいたパジャマ姿の朱鳥が降りてきた。
まさか今まで寝てたんじゃないだろうな。
「さすがに起きてたよ?いくら私でも昼まで寝てるわけないじゃん」
「・・・・・・・その割には眠そうだね」
「・・・・・・・まぁ、疲れてるからね」
おい、何で今目を逸らした。
これは明らかにさっきまで寝てたやつだな。
まったく、いくらなんでもそれは寝すぎだろ・・・・・・・・。
マイリトルシスターよ、それだと成長止まっちゃうぞ?
「・・・・・・・お兄ちゃん、セクハラ」
「身長的な話だからね!?」
誰が発育の話をしたと!?
たしかにそう受け取れないこともないけれども。
「パパの娘のスゥなの!アスカお姉ちゃんだよね、パパから教えてもらったの!」
「やぁんもう可愛い!反則だよこんなの!」
シュピッと手を挙げたスゥを朱鳥が抱きしめ、その柔らかいほっぺたにほお擦りする。
当たり前だよ、義理とはいえ俺の娘だからね!
ふんすっ、と腰に手を当てて鼻息を上げるスゥ。
「もう親バカになってる・・・・・・」
「何やかんや言いながらも、ちゃんとスゥのこと可愛がってるみたいね」
・・・・・・・・・・否定は出来ないかな。
・竜巻旋風脚……ストリートファイターII
・あっれれぇ〜、おっかしぃぞぉ〜?……名探偵コナン
・サイコロステーキ先輩……鬼滅の刃
・四葉……五等分の花嫁
・妖怪アンテナ……ゲゲゲの鬼太郎




