精霊たちの気持ち(2)
土の大精霊の場合。
時間になっても来ないシルフィを探していると、聞き覚えのある二人の声が何やら言い合いをしているのが聞こえてきました。
声のする方へ行ってみると、予想通りユグドラシル様とシルフィ、そして見慣れない顔の男性が一人いらっしゃいました。
おそらくあれが噂のサクヤさんでしょうか・・・・・・・・っと、ぼーっと見てる場合じゃありませんね。
早く止めないと。
どうやらサクヤさんを取り合って喧嘩(?)していたらしい二人をなだめて、フィア様とサクヤさんを皆の元へと案内します。
それにしてもあのシルフィが懐くだなんて、サクヤさんは面白い方です。
一体どんな人となりなのか、私も気になってきましたね。
道中、喧嘩している二人をあやしながらサクヤさんにあれこれ質問したり、逆に色々聞かれたりしました。
すると、いつの間にか私は二人をそっちのけでサクヤさんの話にのめり込んでしまっていたのです。
サクヤさんは話を聞くのがとても上手く、出会ったばかりなのに他人に言わないような日々の愚痴や、ちょっとした悪口まで話してしまいました。
うぅ、お恥ずかしい・・・・・・・・。
「そんな事ないよ。俺で良ければいつだって聞くさ」
そう言って笑うサクヤさんに、少しキュンとしてしまいました。
あらあら、私もまだこんな風に感じれたのね。
もう良い年頃なのに我ながらチョロいと思ってしまうけれど・・・・・・・だって、今まで出会いなんて無かったんですもの。
こうなってしまうのも仕方がないでしょう?
シルフィやフィア様には悪いけれど、どうやら私も貴方達と同じ気持ちみたいなの。
年甲斐もないかもしれない。
でも、サクヤさんさえ良ければ私を──────────────。
そう思っていたけれど、現実はそう甘くなかったようです。
私は勝手にライバルがシルフィとフィア様だけだと思い込んでいたのです。
・・・・・・・・・皆、分かりやすいくらいサクヤさんの事が・・・・・・・・。
フレアはまだその気持ちに戸惑っている様子ですが、他の子達は自分からアピールする気満々のようです。
ここは一番年上として、諦めるしかなさそうですね・・・・・・・・・。
皆のお姉ちゃんなのだから私が一番我慢しなければ。
それは分かっています。
でも・・・・・・どうしても、この想いは忘れられそうにありません。
サクヤさんに頂いた"ヴェレーナ"という名前を呼ばれる度に、私は──────────────。
◇◆◇◆◇◆
光の大精霊の場合。
お兄っ!お兄っ!
私は嬉しさのあまり、お兄に抱きついて額をグリグリと押し付けた。
反対側でもシェイドが私と同じようにギュッて抱きしめて、赤く染ったほおを隠すようにお兄のお腹に顔を埋めている。
そりゃあこうなるよ!
だってお兄がくれた名前はおそろいで、私たちと同じように表裏一体のもの。
光と闇の原初の姿を表した名前なんだ。
もちろん私たちだけじゃなくて、皆にもちゃんとそれが入った名前を付けてる所はさすがお兄だね。
私たち精霊にとって、それはどんな事よりも嬉しい事なの!
お兄は少し痛そうにしながらも、優しい手つきで私たちの頭を撫でてくれた。
お兄の温かいのが直接伝わってきて、頭がとろけて何も考えられなくなっちゃう・・・・・・・・。
チラッと横を見ると、シェイドも同じくとろけ落ちちゃいそうな表情をしていた。
私も同じくらい・・・・・・・いや、負けないくらいそんな気持ち!
お兄のなでなでは悪魔的に気持ちいいからなぁ・・・・・・・。
こんなのされたら誰でもハマっちゃうよ!
え?会ったばっかりなのに何でそんなに懐いてるのかって?
ん〜、さっき言ったなでなでにハマったってのもあるし、お兄ちゃん的な存在に憧れてたってのもあるよ?
私は立場上、どちらかと言うと引っ張る側だったからね。
甘えられる人が少なかったのさ。
まぁその分みんなにはたっぷり甘えさせてもらったけど!
でもそんなんだったから、当然のごとく出会いは無かったね・・・・・・・・・・・あれ、今笑ったの誰かな!?
だってぇ、私たちくらいのお年頃になるとそういう出会いとかに憧れるんだも〜ん!
たしかにもう"ピー"歳だけど、人間で言うとちょうど高校生くらいだから。
もろに青春を謳歌するお年頃だから!
精霊の中にはとくに気になる人居なかったし。
そこに突然好みどストライクのお兄が現れたんだよ!?
そりゃあこうなるでしょ!
え〜っとつまりね、結局のところやっぱり一番の理由はあれかな─────────────。
◇◆◇◆◇◆
闇の大精霊の場合
にぃっ・・・・・!にぃっ・・・・・・!
にぃが付けてくれた"クロ"という名前を反芻しながら、にぃのお腹に顔を埋めてグリグリと押し付ける。
もちろん嬉しかったというのもあるんだけど、何より今自分の顔を見られるのが恥ずかしかった。
きっと今はかつてないほど緩んだ表情をしているんだと思う。
それを見られるのはすっごく恥ずかしい・・・・・・・・。
どうやら隣の"シロ"には余裕でバレているみたいだけど、にぃが気づく気配は微塵もない。
むぅ・・・・・・少しくらい気づいても良くない?
ほんの少しだけ顔をずらして、上目遣いでにぃを見上げる。
しかし、当のにぃは頭の上に"?"マークを浮かばせて分かっていない様子。
にぃには効果がないようだ。
・・・・・・・・その代わりと言ってはなんだけど、抱きつくクロとシロの頭を優しく撫でてくれた。
にぃの温かいのが直接伝わってきて、頭がとろけて何も考えられなくなっちゃう・・・・・・・。
チラッと横を見ると、シロもクロに負けないくらいとろけきった表情でにぃに抱きついている。
・・・・・・・・・・・・・・・・あれ、何で今モヤってしたんだろう・・・・・・・・・・。
おかしい・・・・・いつもはこんなの感じないのに。
初めて感じる不思議な気持ちにクロは戸惑った。
だけど良く思い返してみると、シルフィ達が名前をつけられて嬉しそうな表情をしている時も、心の奥底では同じことを感じていたのかもしれない。
クロは・・・・・・シロ達に嫉妬してる・・・・・・?
そんな事あるの・・・・・・?
今までずっと一緒にいて、時には喧嘩もしたけれど。
皆に対してこんなに暗い感情を持ったのは初めて。
あぁ、ダメ・・・・・・・こんな気持ち自覚しちゃったら・・・・・もうクロ、ガマンできなくなっちゃうよ・・・・・・・・。
にぃの全てをクロのものにしたい。
温かいその手も・・・・声も・・・・その身体も・・・・・その心も・・・・・!
何もかも誰にも渡したくない、全部クロのもの!
クロだけを見て、クロだけに愛情を注いで欲しい。
他の子達に見向きもしないで、ずっとクロのことだけを考えていて欲しい。
クロもクロの全部をにぃにあげるから・・・・・・・ねぇ、にぃ・・・・・・?
全部・・・・全部全部全部全部全部全部ぜんぶぜんぶ全部ぜんぶ全部全部ぜんぶ・・・・・・・・・・・・・・・・クロに、ちょうだい・・・・・?
どんどん自分の内に黒い気持ちが振り積もっていく。
だからもう・・・・・皆にじゃなくて、クロだけに─────────────────っ!?
突然、はっと我に返った。
原因は明らかで、隣にいるシロからの視線だった。
別に軽蔑してる訳でも蔑んでる訳でもなくて、ただただ驚いてるみたい。
・・・・・・・・・クロは、最低。
少し落ち着いてきたクロはにぃのお腹にもっと顔を押し付けて、自分の顔を隠した。
本当はこうやってにぃと触れ合うことすら止めるべきなのに、どうしてもこの気持ちは抑えられそうにない。
でも・・・・・それでも、皆にも幸せになって欲しい。
にぃ、クロはどうしたら良いの・・・・・・・・?
◇◆◇◆◇◆
最後にシロとクロの名前をつけ終わった俺は、満面の笑顔の二人に抱きつかれていた。
ふぅ、こんだけ嬉しそうな顔されると、頑張って考えたかいがあるってもんだね!
・・・・・・・・・まぁ、シロとクロは適当につけただろ、って言われても仕方ないくらいシンプルだけども。
別に手抜きじゃないからね?
フランス語とかスペイン語の白と黒にしようかと思ったんだけど、二人に合うようなものが無かったんだもん。
シンプル・イズ・ベストってことで。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、シロとクロがグリグリと頭を押し付けてくる。
おぉふっ・・・・・・・なんか二人とも抱きつく力強くない?
常人なら骨折してるとかそういうノリですかね。
あれ、なんかクロの力が弱くなった。
もしかして察してくれたの──────────って痛てぇ!?
急にクロの抱きつく力が弱くなったかと思ったら、これまた急に力が強くなってただでさえ細い俺のウエストをさらに細くしにかかってる。
クロの腕力どうなってんだよ!?
隣のシロもこれには驚いたようで、俺のお腹から顔を離してクロのことを見つめている。
少しして我に返ったのか、クロがはっとした表情を浮かべたあとまた俺のお腹に顔を埋めた。
さっきよりも強く、自分の顔を見られたくないみたいな感じで。
一体どうしたんだろうか・・・・・・。
色々な後片付けが終わって帰る途中シロに聞いてみたのだが、"今はそっとしておいてあげて"とだけ言われた。
少し心配だけど、双子のシロがそう言うならば俺は出しゃばらずに見守ろうと思う。
何かあったら力になれるといいなぁ・・・・・・・・・・。
サクヤはまだ知らない。
クロがああなった原因が自分にある事を。
それだけじゃない。
彼女達の瞳が、秘めた本心が、その表情が、諦めようとして、でも諦められない想いが、一目見て抱いたその想いが、彼を独占したいという想いが────────────────恋する乙女のそれだということを。




