精霊たち(2)
と、そんな感じで今に至る訳よ。
本当は俺とイフリートとの勝負のはずだったのに、どこから聞きつけたのかどんどん精霊たちが集まってきて、いつの間にか俺たちをトップに置いた二大勢力が出来上がっていた。
向こう側にいる精霊たちは"反サクヤ派"、こちら側は"サクヤ様至上主義"とそれぞれ名乗っている。
ただ新しい精霊王として認めてもらうために来たんだけど、どうしてこうなった。
サクヤ様至上主義って何よ、べつにそんな崇めなくても良いのに・・・・・・・。
『俺の情熱とこの炎は消えやしねぇ!喰らえコノヤ───────────』
「暑苦しい!」
『冷たっ!?』
何やら叫びながら炎の拳を繰り出してきた男の精霊を氷漬けにし、力いっぱい振りかぶると遥か彼方にポイ捨てした。
物理法則ガン無視で飛んでく精霊から目を離して、目の前まで迫っていた女の精霊の槍を受け止め、腕を絡めて組み伏せる──────────っと!
新手の精霊の蹴りをバク転で躱して距離を取る。
・・・・・・・・あの、倒しても倒しても次々と新しい精霊が来るんですが。
いつになったら終わるんですかねこれ!さすがに疲れてきたんですけど!
もはや何人目かも分からないほど相手にしてきたが、チラリと見た限りどうやら彼らはまだまだヤル気のようだ。
て言うか倒した奴らもゾンビみたいに起き上がってまた戦おうとしてるし。
そんなに俺が精霊王になるの嫌なの!?
そのあまりの執念深さに"サクヤ様至上主義"のメンバーたちは若干引いてるんだけど。
まぁ確かに
『変わるだなんて聞いてねぇ!』
『急に言われても困る!』
『実力は確かだけど、いきなりすぎるわ!』
などのド正論な意見もあったので、そう言われると俺としては反論し難い。
しかし、今となってはもはやそれは建前に過ぎなくなっているのが一目瞭然だ。
『恨めしいぃ・・・・・あんなにモテてるサクヤが恨めしいぃ!』
『おのれよくも我らがシルフィたんを・・・・・!許さん!』
さっきから時々そういう怨嗟の乗った呪いの言葉が聞こえてくる。
一瞬本当に呪われるんじゃないかって思っちゃうくらい、恨みに満ちた声だったんだよね・・・・・・・・。
これには俺を含め味方の精霊たちもドン引き。
てか俺がモテモテって、どうしてそういう事になるのだろうか。
彼女たちは俺を認めてくれたから味方してくれているだけで、べつに俺に対してそういう感情は持っていないと思うのだが。
『怨敵滅殺!!!』
『『『『ウオォォォォォッ!!!』』』』
「ひっ!?」
次は何だと思ったら、五人のマッスルガイたちが筋肉を主張しながらこちらに迫ってくるではないか。
しかもただの筋肉男ではない!
なんと大胸筋のせいで着ていた服が破れる、世紀末から来たのかと疑いたくなるような顔面の濃いナイスマッスルガイたちだったのだ!
あまりの筋肉量の多さに思わず悲鳴が出てしまう。
「むぅーーっ!」
『『『『うわあぁぁぁぁぁ!?』』』』
涙目になりながら地中の巨大な根っこを複数操り、ナイスマッスルガイたちの足を掴んで"反サクヤ派"の連中がまとまっている場所に投げ込んでやった。
単純な物理的威力と押し寄せる筋肉の波に、向こう側では阿鼻叫喚が起こっている。
ふっ、ざまーみろ!人が嫌がることするからそうなるんだよー!
『キャ〜!サクヤさまぁ!』
『さくにぃ、ナイス』
『パパかっこいいの〜!』
『ざまぁみろこの脳筋連中め!』
おおぅ、ナイスマッスルガイたちが倒された瞬間から一気にバッシングが。
ここまで言われてると何だか不憫だな・・・・・・・・いや、もうこれで良いか。
だってさ、ゴリマッチョの男にものすごい速度で接近されるのって、下手したらトラウマレベルだからね?
うわっ、ほら鳥肌立ってるもん。
今すぐに女の子成分の補給を求めます!・・・・・・・・・って言いたいところだけど、ここにはそれをしてくれる優しいお嫁さんは居ないんだよなぁ。
みんなが恋しいぜ・・・・・・・・。
『どいて、あんた達じゃどうしようもならないわ。私がやる』
「おっ、とうとう大将のお出ましだね」
騒ぐ精霊達を避けてイフリートが俺の前に立ちはだかった。
これでやっと本来の勝負に戻ることができる。
『手加減はしないわよ?』
「もちろん。俺だってしないさ」
ニヤリと薄く笑ったイフリートの姿がぶれて、ものすごい速さの蹴りが傾けた首の横を通り過ぎていく。
それとほぼ同時に彼女の掌から業火が放たれ、螺旋状に燃え上がりながら大気を焦がす。
『やった!イフリート様の必勝パターン!』
『いくらアイツが強くても、さすがにこれを喰らったら─────────』
『いいえ、悔しいけど全然効いてないわ。・・・・・・・・・・そこよ!』
イフリートは火の粉の散る視界をあちこちに巡らせ、炎の揺らめくある一点に火球を放り投げた。
炎を貫通した火球はその後ろに隠れていた俺にまで届き、地面に命中して爆発を引き起こす。
「当たり!よく分かったね」
「炎の揺らめき方であんたの動きなんてバレバレよ!」
「じゃあこれはどう?」
炎の揺らめき方で俺の位置が特定できるのなら、風を発生させてその揺らめきを不規則にするのはどうだろうか。
これなら位置を把握されることなく近づけるんじゃ・・・・・・・・・。
『甘いわね!魔法や自然現象のものと、人為的なものの区別が出来ない訳ないじゃない!』
今度も寸分の違いもなく俺の元に火球が飛んでくる。
うぇ!?凄いね!
スライディングしてそれを躱し、次々と撃たれてくる火球も左右に走って近づきながら避けて、彼女のすぐ目の前まで接近して腕を掴む。
『待ってたわ!この距離なら確実に当てられる!』
「っ!」
反対側の掌が至近距離で俺に向けられ、最大火力の業火が繰り出された。
ただの人間なら骨も残らないどころか灰まで燃え尽きるくらいの勢いの炎が派手に燃え上がる。
勝利を確信したのか、イフリートの顔には笑みが浮かんでいた。
が、イフリートには申し訳ないけど、俺も手加減しないって言ったんでね。
これで終わる訳には行かないんですよ。
立ちはだかる炎を風魔法で消し飛ばして、もう一度彼女の腕を掴む。
『なっ、なんで──────!?』
驚きに目を見開くイフリートは、俺の金色の右目を見てハッとする。
気づいたみたいだね。
【賜与の神眼】によって、俺に"火属性耐性"を付与したのだ。
まぁそれだけじゃ足りなかったから魔力でもガードしたんだけど。
やっぱ精霊の本気の一撃って凄いなぁ。
まだ諦めず技を使おうとしていたイフリートを引き寄せ、抵抗できないように腕を抑えてその場に押し倒す。
「よし、これで俺の勝ちだね!」
『────────っ、そ、そうね・・・・・・』
笑いかけながらそう言うと、彼女は目を逸らしてうっすらと頷いた。
じゃあ約束通り、イフリートも俺を認めるって事でいいかな?
『・・・・・・ええ。約束だし・・・・私もあんたなら嬉し────────────って!今のなし!』
最後に何かを言いかけてボッと赤くなって、慌てたように取り繕っているけど、いくら常日頃から鈍感と呼ばれてる俺だってさすがにこれは分かるよ?
『えっ、うそ・・・・・・待って、まだ心私も心の整理が出来てなくて・・・・・・・!』
「あれだよね、"あんたくらい強いんだったら安心"、って事だよね!」
『・・・・・・・・・え?』
でもそれを面と向かって言うのは恥ずかしいから、今のはなし!って叫んだと。
まぁ、そう言うお年頃なら仕方ないだろう・・・・・・・・・・・ってあれ?
なぜだか目の前のイフリートが涙目になりながらほおを膨らませている。
見るからにひじょーに怒だ。
え、なんでぇ!?
『もうっ、知らない!』
「ぐえっ!?」
勢いよく俺をどかしたイフリートは怒りながら皆の所へ向かっていく。
な、何だったんだろう・・・・・・・。
『・・・・・・・・・サクヤさんはもう少し女心というものを学んだ方が良いかもしれませんね』
「うっ、よく言われるよ」
まさかのノームにまで呆れられてしまった。
自覚はないのだが、もしかして俺はとんでもないやらかしをしてしまったのではないだろうか。
後でイフリートに謝っとくか・・・・・・・いや、でもそれよりも先に何が悪かったかだよな。
『パパ〜!すっごくすっごく、かっこよかったよ!』
色々頭を悩ませていると、"サクヤ様至上主義"の集団の中から一人の幼女が駆け寄り抱きついてきた。
言わずもがなウンディーネだ。
ニコニコと満面の笑顔でほお擦りしてくる。
あーもう、なんて可愛いんだろう!
勝負での疲れが一気に吹っ飛んでく気がする。
『お兄、おめでとう!』
『・・・・・・にぃ・・・・・よかったね・・・・・』
ルーチェとシェイドの双子姉妹もウンディーネに続いて左右から俺に抱きつく。
おっとっと、危うくバランスを崩すところだった。三人の頭を交互に撫でることで、今日一日分の疲れやらトラウマやらを浄化していく。
あー、ここだけ見ればただの癒し空間になってくれるのになぁ・・・・・・・・・。
『絶対に処す!』
『『『『オオォォオォォォォォッ!!!』』』』
残りの"反サクヤ派"の奴らの殺気や怨嗟の眼差しがよりきつくなり、正直それどころではなくなってしまった。
ダメだ、これ負の連鎖だよ・・・・・・・・。




