大精霊たち
『こちら、新しく私たちの主となるサクヤさんです』
「えっと、どうも・・・・・」
壁に囲われた草原のさらに中心にある洋風のオシャレな丸型テーブルにて、ノームが集まった大精霊たちに俺のことを紹介した。
咄嗟に出たのは、そんな当たり障りのない言葉だった。
いやどうもじゃねぇよ、と内心思わずセルフツッコミしてしまう。
だってしょうがないじゃん、緊張してるんだもん!
そりゃあシルフィとノームからは肩の力抜いて大丈夫、って言われたけどさ・・・・・・・やっぱそう簡単には行かないよ。
それに、なんで女の子しか居ないんだろうね!?
赤髪青眼で少し俺より年下くらいの火の大精霊イフリート。
彼女からの視線が一番キツイような気がする・・・・・・と言うか、キツイのは彼女だけなんだけど。
その右横に座っているのはゆるふわな蒼髪の幼女、水の大精霊ウンディーネ。
なぜか先程からはわーっ、と口をぼんやり広げて俺の事をキラキラした目で見つめているんですが。
おにーさんにはその真っ直ぐな瞳がすごく眩しいです。
そしてそのまた横には初めて出会った大精霊、だらけ魔人ことシルフィ。
今はイスの背もたれに寄りかかって、雲を抱き枕にしながらウトウトしてらっしゃる。
ほんとこの子ってブレないな・・・・・。
その図太い神経は少し見習いたいかも。
またまたその横には俺とフィアとノーム。
ノームはほんわりした微笑を浮かべて優しく見守ってくれている。
うぅ、その優しさが身に染みるなぁ。
どこかのドMな誰かさんのせいで、お姉さんキャラがトラウマになりそうだったけど、ノームのおかげでそうならなくて済みそうだ。
最後に俺の横の一席に二人座っていて、右側に居る金髪碧眼でくせ毛の活発少女が光の大精霊ルーチェ、左側に居る黒髪黒目の大人しそうな少女が闇の大精霊シェイド。
ちなみにこの二人は双子だそうで、互いのことが以心伝心で分かるとか。
ルーチェもウンディーネと同じように俺をキラキラした瞳で見つめ、シェイドは少しほおを赤らめてこっちをじっと見つめている・・・・・・・・ような気がする。おそらく。たぶん。きっと。
『これからこいつが主って・・・・・・いきなりそんなの言われても、認められるわけないじゃない!』
今まで静かに聞いていた赤髪の少女が、机をバンッと叩きながら声を荒らげた。
予想通りというか、最初に異議を唱えたのはイフリートだった。
やっぱりさっきの視線からして、俺の事をあんまりよく思っていなかったみたいだ。
まあそりゃそうか。
彼女の言う通り、いきなり精霊王変わるからって言われても納得できないよね。
至極もっともな意見なので、俺としては何も言い返せないのだが・・・・・・。
『どうせこいつは精霊王の地位が欲しいだけのクズ男でしょ!?そんなのが主になったらどうなる事やら』
「酷い言いようだね・・・・・・・」
さすがの俺もそこまで言われるとショックなのですが。
そんなに俺って悪そうな顔してんの?
『こら、サクヤさんに失礼よ』
『逆になんでノームは認めてるわけ?何処の馬の骨かも分からないやつのどこが良いの?』
『サクヤさんは実力もそうだけれど、お人柄もとても良い方よ。彼が主になって損する事なんてほとんどない』
『・・・・・・・・ずいぶんと好評なのね』
『えぇ。道中でシルフィもお世話になったのだし、フィア様が認めたのであれば、私が拒絶する理由はないわ』
穏やかにそう言い放ったノームに対して、それを聞いたイフリートはなぜか機嫌が悪そうにほおを膨らまして俺の方を睨んできた。
あれ、なんか怒ってる!?
何か不味い事でもしてしまっただろうか。
ノームが説得してくれているのを横で聞いてただけなんだけど・・・・・・・・・はっ、それがダメだったの!?
ちゃんと自分で説得しろと?
いやでも、そういうのとは違う怒り方だよな・・・・・・・・・・。
『とにかく、あんたが何と言おうと私は納得できないわ!』
『困ったわねぇ。もうほとんど決定事項なのだけれど・・・・・・・』
『は?何それ、私の意見ガン無視する気?』
『そうじゃないわよ?もうフィア様が"同化"を済ましてしまったせいで、後継者がサクヤさんしか居ないの』
『───────────っ、はあぁぁぁぁぁ!?"同化"を済ませたぁ!?』
一瞬フリーズしたイフリートが我に返り、あっという間に服の襟を掴まれて前後に揺さぶられる。
うわっ、ちょ、何そんなに慌ててるのさ!
こちとらなんの事だかさっぱりなんですけど。
"同化"って何か重要なことなの?
『重要どころじゃないわよ!第一"同化"したら一蓮托生、どっちかが死んだらもう片方も死ぬのよ!?』
「っ、はあぁぁぁぁぁ!?何それ初耳!」
今度は俺がイフリートのような反応をしてしまった。
だってしょうがないじゃないが、そんなの聞いてなかったんだもん。
サラッとやってたから、二人の力を合わせるフュー〇ョン的なやつだと思ってたのに・・・・・・・・。
『しかも"同化"って言ったら・・・・・・・っ!ユグド───────じゃなくてフィア!あんたなんて事してくれてんのよ!!』
「てへっ!」
怒りの矛先が目を逸らしててへぺろしてるフィアへ向き、俺から離れて食ってかかっている。
これはさすがに俺も少し怒かな。
心臓に悪いから、そう言うのはなるべく早く言って欲しかった。
まぁなっちゃったのはしょうがないから、そこはべつに良いんだけどさ。
『むぅ〜!あんた自分の立場利用してこんなことしやがってぇ!』
「ふんっ、使えるものは全て使って欲しいものを手に入れる。大人の世界の常識よ!」
「おいこら、間違った常識を植え付けんな」
そんなどす黒い大人たちが居るのはごく一部だけでしょうが。
俺のツッコミを軽くスルーした二人の言い合いは更に白熱していき、一触即発な雰囲気がこっちにまで漂ってくる。
ムキになった二人の言い合いを苦笑いしながらも、若干笑えなくなってきてないか、と思い始めてきた。
・・・・・・・・・・どうしよう、なんか今すぐにでもお互い手が出そうな空気なんだけど。
誰かこの状況を救ってくれる女神は居ないのか!?
バッと皆の方を振り返る。
ノームは何故かニコニコしながら見守ってるから無理だろうし、シルフィは初めから論外。
幼女たちに助けを求める訳にも・・・・・・・ってあれ、ウンディーネどこ行った!?
先程まで彼女が居た椅子にはもう影も形もない。
もしかして、この二人の雰囲気が怖すぎて帰っちゃったか?
とか思っていたら、突然クイクイッと服の左裾が引っ張られた。
『ねぇねぇ、サクヤお兄ちゃん!』
「ん?ウンディーネか、どうしたの?」
見ると、件のウンディーネが興味津々といった様子で俺の事を見上げている。
どうやらフィアとイフリートが喧嘩しているうちに、さっさと椅子から降りてここまで来たらしい。
『サクヤお兄ちゃんは、ディーネたちのあるじさまになるの?』
「ん〜、ここまで来たら責任取ってやるべきなんだろうけど・・・・・・皆がイフリートみたいに嫌なんだったら止めとくよ?」
『うぅん、私はサクヤお兄ちゃんになって欲しいな!だってサクヤお兄ちゃんと一緒に居たら楽しそうだもん!』
そう言って屈託のない笑顔を見せるウンディーネ。
あぁ、なんてええ子なんじゃあ!
お兄ちゃん感激だよ!
『あはは、サクヤお兄ちゃんくすぐったぃ〜!』
お礼に頭を撫でると、嬉しそうに目を細めてホワホワした表情になっていく。
あー、癒されるぅ〜。
何時間でも見ていられる可愛さって、まさにこういうのを言うんだろうね。
『あっ、そうだサクヤお兄ちゃん!』
「ん?撫でるの止める?」
『それは続けて・・・・・・・・じゃなくて!もしサクヤお兄ちゃんがあるじさまになったら、フィア様みたいにディーネたちにも名前付けてくれるの?』
「そうだね、皆が欲しいなら頑張って考えるよ」
『やったぁ!』
太陽のように眩しい笑顔を浮かべて、ウンディーネが勢いよく抱きついてきた。
やばいこの子可愛い。
無邪気に喜んでくれている彼女を見ていると、こっちまで嬉しくなってくる。
それにしても、さっき会ったばっかりなのにすごい懐かれてるな・・・・・・・。
そういえば初めからキラキラした瞳で俺を見ていたが、そんなに懐かれるような事をした覚えはないのだけれど。
もしかして俺って、舞衣ちゃんたちのような年下に懐かれやすいタイプなのだろうか。
思わずそんな事を考えてしまう。
しかし次の瞬間、そんな疑問も軽く吹き飛ばすくらい強力な爆弾が、その幼女によって投下された。
『そうだ、サクヤお兄ちゃん、今度からサクヤお兄ちゃんのこと"パパ"って呼ぶね!』
『「「・・・・・・・・・・・・・・?」」』
先程まで喧嘩していた二人がピッタリそろって動きを止め、シーンとする中、油を差し忘れた機械のようにギギッとこちらを向く。
二人ともまだ状況が上手く呑み込めていないようで、頭の上に大量の"!?"だけが漂っていた。
・・・・・・・いや、ごめん前言撤回。
状況自体はちゃんと分かっているようで、"うぼぁ"と二人の口からは白い魂的な何かが吐き出されている。
え、俺?もちのろんで固まってますが何か?
『?パパどうしたの?』
「もう呼び方がパパになってる!?」
あ、あぶねぇ、何とか戻ってこられた。
あのままじゃ危うく昇天するところだったよ・・・・・・・。
ってあれ、フィアとイフリートが息してない!?
急いで昇ってる魂捕まえないと!
数十分後なんとか気合いで二人の魂を捕まえ、これまた気合いで身体の中にぶち込んだ。
「はっ、私は一体何を・・・・・・!?」
『なんか記憶が飛んでるわね・・・・・・・』
二人とも無事でなにより。
そしてこの騒動を起こした元凶(悪意はない)であるウンディーネは、何が何だか分からないといった様子でオロオロしていた。
「えっと、それじゃあ話を戻すけど、なんでウンディーネは俺のことパパって呼ぶの?」
『だって、パパはディーネに名前をつけてくれるんでしょ?』
「うん、まあそうね」
『じゃあパパだもん!』
「飛躍しすぎじゃない!?」
一気にぶっ飛んだね。
そっかぁ、名前付けただけでパパにされちゃうのか・・・・・・・。
正直言われて嫌ではないのだが、こんな幼女にパパと呼ばれる高校生・・・・・・・・事案ですか?
はい、事案です。
事案さんがひょっこり俺の事を覗いているような気がする。
まだセーフだよね、特に何もやってないし!
『パパは嫌なの・・・・・?』
「嫌って訳じゃないんだけど・・・・・・・」
目をうるうるさせて上目遣いで見上げてくる。
うぅ、そんなのされたら断りずらくなっちゃうじゃん。
『ディーネ、精霊だから生まれた頃からパパやママが居なくて、とっても寂しかったの。だからサクヤお兄ちゃんにパパになって欲しいの』
・・・・・・・・重い!
思ってた以上にちゃんとした理由があるだけあって、より断りずらく・・・・・・いや、断れなくなってしまった。
「・・・・・・・はぁ、分かったよ」
『っ、ほんと!?』
「うん。まぁ俺に父親の代わりができるか分からないけどね」
『やったぁ!パパ大好き!!』
「ごふっ!?」
嬉しさのあまり力いっぱい抱きついてきたウンディーネを受け止めきれず、腰が嫌な音を立てて変な方へ曲がった。
こっ、腰痛ぁ!?
しかしそんな俺にお構い無しに頭をグリグリ押し付けてくる。
結構痛いので離れて欲しいのだが、この状況でそれが出来るほど俺は白状じゃない。
それにしてもまさか、この歳で娘(仮)ができるとは。
人生って何があるか分からないもんだね。
『なっ、ななっ・・・・・・!?』
イフリートが涙目で何か言おうとしているが、言葉にならないようで口をパクパクさせている。
ごめん、今は俺もそんくらい驚いてるからフォロー出来ないわ。
『これであとはルーチェとシェイドだけれど──────────』
『私たちもお兄が主になるの賛成だよ!』
『ん・・・・にぃが主なら嬉しい・・・・・』
とうとうイフリート以外の全員が賛成してしまい、ムキーッと駄々をこねる子供のように地団駄を踏む。
『〜〜〜〜っ、私は認めないわよ!』
『もう、頑固なんだから・・・・・・・。じゃあこうしたらどうかしら。二人で勝負して、サクヤさんが勝ったら認める。イフリィが勝ったら認めない』
簡単でしょう?とノームは微笑む。
『それいいわね。あんた、私と勝負よ!私が負けたらあんたのこと認めてあげる。でもその代わり、そっちが負けたら即行帰りなさい!』
「えぇ〜・・・・・。なるべく穏便に済ませたいんだけど・・・・・・」
『パパ頑張って!』
あ、もうこれ戦う以外の選択肢ない感じですか、そうですか。
しゃーない、そんじゃあやったろうじゃないの!
負けた後に言い訳すんなよ?
『ふんっ、いきがってられるのも今のうちよ!痛い目に会わせてやるんだから!』
フュージョン・・・・ドラゴンボールより。




