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普通の男子高校生、色々あってハーレムの主になる~記憶を失くした神様が十二人の花嫁と幸せになるための話~  作者: 没
剣を創りに行っただけなのに

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精霊たちの元へ





『うおぉぉぉぉっ!!』


ゴリマッチョの男が地面に腕を突き刺し、そのままボコッとくり抜いて砲丸投げのように投擲してきた。

拳を前に出しそれを砕くと、男は舞い散る大地の破片を突き破って突進しながら、俺に向けてその鉄拳を振り下ろす。


『もらったぁぁぁぁ!!──────────ああぁぁぁ!?』

「よいしょっとー」


迫る拳を躱し、その勢いのまま一本背負い紛いの技で男をぶん投げた。

地面に顔面から着地した彼は、"ぐふっ、よくぞ俺を倒したな・・・・・・だが俺は四天王の中でも最弱!"と呟いて動かなくなった。

いや、何そのベタな演技は・・・・・・。

一体どこでそんな芸を身につけたんだよ。

と言うかそもそも何故それを知ってる?

色々ツッコムとこが多すぎて呆れていると、俺の後ろに集まっていた子達が、一斉に歓喜の声を上げた。


『キャー!サクヤ様ぁ!』

『サクヤ様カッコイイ!』

『どうよ脳筋馬鹿ども!サクヤ様に勝てるわけないんだから、さっさと認めちゃいなよ!』


女の子たちの黄色い声援に、男側の陣営(主に男)が殺気立ち血涙を流す勢いの形相で睨んでくる。

敵方は男女比がほとんど男に寄ってるから、これだけの男たちに睨まれると結構な迫力あるな。

ちなみに俺の方はほとんどが女の子だ。

もちろん男も居るのだが、比で言うと8対2くらいだろうか。


『オラァ!埒あかねぇから全員で殺れ!必ず奴に地獄見せてやるぞぉ!!』

『『『『『おおぉぉぉぉっ!!!!』』』』』


"くたばれェ!"やら"玉もいだらァ!"やら、最終的には"キエェェエェェェエェ!!"と、どこぞの宇宙の帝王みたいな物騒なことを叫びながら、男たちが襲いかかってくる。

これには敵も味方も関係なく女の子たちはドン引きだ。

もちろん俺もドン引き。

どうしてこうなった・・・・・・・・。

奇声を上げながらまとめて殴りかかってくる男たちを捌きながら、俺はこんな事になった経緯を思い返していた。


        ◆◆◆◆◆◆


ユグドラシル改めフィアと契約をした俺は、彼女に連れられて精霊界という場所に来ていた。

あらゆる精霊が暮らす彼女らの世界。

属性と同じく六つのエリアに分かれていて、中央には円形の大きな草原があるそうだ。

今はそこへ向かっている。

大体は定期集会のようなものを行う場所らしいのだが、今日はフィアの呼び掛けによってそこに大精霊たちが集まってくれているとのこと。

フィアと同化した者、つまり新しい精霊王となるには、まず彼女たちに認めてもらう必要がある。

精霊たちも急に自分たちの王が変わりました、じゃ納得できないもんね。


「世界樹の周りもそうだったけど、ここもすごい綺麗だね」

「そう言って貰えると、頑張ったかいがあったってモノね!たぶんサクヤ君の知らない種類の花もいっぱいあると思うわよん」

「たしかに綺麗なのがばっかりだけど、知らない花ばっかりだね・・・・・・あっ、あんなとこに雲が落ちてる・・・・・・」


雲が落ちてるってどんな状況だよ、と思うかもしれないが、実際その通りなのでそれ以外に言い様がない。

俺たちが今歩いている道から少し外れた茂みに、白い綿のような雲が埋もれているのだ。

へぇ、精霊界だとこんな事もあるんだ・・・・・・・ここなら子供の頃一度は夢見た、雲の上で遊ぶってのが出来るかもしれないね。


「あれ、精霊界だとしても雲が落ちてるはず無いんだけど────────────」

「試しにさわってみよーっと!」


フィアが怪訝な顔で何か言っていたが、それが言い終わる前に雲のところまで行き、両手で掴んで持ち上げる。

ん?なんか重いような・・・・・・・・・。

実際に今まで持ったことがないから分からないけど、ふわふわした雲にしては何故か重みがある。

不思議に感じつつも、大した重さじゃなかったので気にせず引っ張ると。


『あぅ・・・まぶしい・・・・・・』

「・・・・・・・・・・・・・うわあああっ!?」


雲と一緒に、雲にしがみついたロリっ娘がぴょこっと出てきた。

あまりの衝撃展開に思わず雲を投げ捨ててしまいそうになるが、寸前でなんとか踏みとどまって女の子をその場に下ろす。

エメラルドグリーンの髪はボサボサで、サイドテールに結ぼうとしたが途中で諦めた痕跡があり、同色の目も眠たそうに細められていた。

なっ、何この子!?

何であんな場所に居たの!?

頭の上で大量の"!?"マークを量産していると、件の女の子は辺りをキョロキョロと見回したあと、雲を抱えてぐでーっと寝っ転がってしまった。

えぇ〜・・・・・すごいマイペースな子だね。

この子見てると、こんなに驚いてる自分がおかしいのかと思っちゃうな・・・・・・・・。

こう言うのは"触らぬ神に祟りなし"って言うし、黙って放置しておいた方が良いのだろうか。


ぐうぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜・・・・・・・・。


そーっとその場を離れようとしていると、寝っ転がっていた女の子が盛大にお腹を鳴らした。

少しの間無言の時が流れ、寝返りをうった女の子は俺の目を見つめながら重々しく口を開いた。


『・・・・・・・・お腹空いた・・・・・・・・』

「だろうね。すごい音してたもん」

『・・・・・・・と言うわけでさくにぃ、何か食べるものちょうだい?』

「なぁ、もしかしてその呼び方って流行ってるの?て言うか君、絶対に舞衣ちゃんでしょ」


このダラッとした雰囲気とか喋り方とか・・・・目も似てるね。

このジト目気味の目と少し口下手な感じは、妹の友達である伊吹舞衣(いぶきまい)を思い出させる。


『それは違う・・・・・・ボクは風の大精霊シルフィード・・・・・・・。呼び方に関しては風の噂で聞いた。シルフィって呼んでいーよ、さくにぃ』

「そりゃどーも。で、シルフィは何でこんなとこで生き倒れてたの?・・・・・・・・って言うかそもそも精霊ってお腹減るんだ・・・・・・」

『普通は空気中の魔素とかがご飯だから、人間みたいな食事は要らない。でもボクは人間の食べ物好きで、時々人間界に降りて食べてた。そしたら、いつの間にかお腹が減るようになってた・・・・・・・・』


いつの間にかって・・・・・・・実は人間の作るご飯って、大精霊の性質まで変える力があるのだろうか・・・・・。


『ん。と言う訳で、さくにぃ食べるものちょーだい』

「いや、どーゆー訳よ」

『ボクをこんなにした責任を取って、食事を用意』

「言われましても・・・・・・・ほら、見ての通り何も持ってないし」

『むー!おーーなーーかーーすーーいーーたぁーー・・・・・・!』

「うわっ!?こら、しがみつかないでよ!」


抱き枕のように抱えていた雲を放してしゃがんでいた俺の腰に抱きつき、グリグリと頭を擦りつけてくる。

これ地味に痛い。

もう、スーパーとかでお菓子ねだる子供か!


『むぅ、さくにぃ失礼。これでもさくにぃよりは年上、もっと敬うべき』

「今のところうちの妹の友達並なんですが」

『ひどい、ボクは傷ついた。お詫びとして何か食べさせて。具体的に言うと【ストレージ】の左奥に隠されてるクッキーとか』

「なんでそれ知ってんの!?」


それに正確な位置まで!

皐月やイシスにも言ってないのに・・・・・・・。


『ふっ、ボクの前では隠し事なんて無駄。風が全て教えてくれる』


普通にすごいことのはずなのだが、腰にぶら下がってのキメ顔は中々シュールな絵面だ。

あの、そろそろ皐月たちの笑顔が怖くなってきたので離してくれませんかね。


『ならクッキーちょーだい』

「・・・・・・・・しょうがないなぁ。えーっと、たしかここに・・・・・・・・・」


【ストレージ】を開いて、左隅に置いてあった袋入りのクッキーを取り出し、腰から離れたシルフィに手渡す。

瞳を輝かせながらそれを受け取った彼女は、袋を開いて早速一つパクンと口に入れた。


『ん、これは美味。いくつでもいける。お店のやつ?』

「いんや、俺の手作り。この前妹に頼まれて作ったやつの残りだよー」

『へー・・・・・・さくにぃって料理上手なんだ・・・・・へー・・・・・』


そう意味深に呟いたシルフィは、何故か俺の事をじっと見つめたままクッキーを完食し、横に置きっぱなしにしていた雲を手に取った。

今まで忘れ去られていたかのように放置されていた雲からは、気のせいでなければ哀愁のようなものが漂っていた。

・・・・・・・・・おーい、食べてすぐに横になると消化に悪いぞー。


『問題ない。食べたものはすぐに体内で魔素に変換されるから、人間みたいにはならない』

「便利な身体してんなぁ。その機能だけでも良いから欲しかったよ・・・・・・・」

『ん、羨ましがるが良い』


薄い胸を張ってドヤ顔のシルフィ。

たしかに凄いんだけど、なんでこう・・・・・・この大精霊は変な方への進化だけが進んでいるのだろうか。

シルフィが雲を抱えると、彼女の身体ごと仰向けのままぷかぷかとゆっくり宙に浮き、立ち上がった俺の胸の高さらへんまで上がってきた。

・・・・・・・・・それ、どうなってんの?

普通重力があるから、身体が水平に上昇する納屋を出ないはずなんだけど・・・・・・もしかして自分で浮いてるの?


『ちょっと違う。この雲を創ったのはボクの力だけど、浮かんでるのは雲の能力』


ほほぅ、便利な能力持ってるねこの雲。

一家に一つあればとても快適になるんじゃないだろうか。

試しに【神理眼】で見てみると、どうやらこの雲は"白玉(はくぎょく)叢雲(むらくも)"という名前のアイテムらしい。


「さて、そろそろ行こうかな。他の子たちを待たせちゃうとまずいしね」


第一印象は大事だからなぁ・・・・・・・最初っから遅刻してくるやつなんて、皆も嫌じゃない?

待っててくれたフィアと一緒に元の道に戻り、少し足早に目的の場所へ向けて───────────。


『さくにぃ、おんぶ』

「ぐえっ」


思いっきり襟を引っ張られて危うく転びそうになってしまう。

ちょ、首締まるからとりあえず離してもらっていいですかね!?

清々しいまでに出鼻を挫いてくれたのは、うつ伏せで雲の上に乗っているシルフィだ。


『さくにぃ、おんぶ』


両手を軽く広げてぐいっと近づき、早くしろと促してくる。

いや、シルフィは自分の雲あるんだから・・・・・ってちょ、無理やり登ろうとしないでよぉ!?

そこにさくにぃの背中があるならば、登る以外の選択肢はないー!と山を前にした登山家のようなことを言って首にしがみついてくる。

ここが精霊界だからとはいえ、ほとんど見ず知らずのロリっ娘をおんぶしてる絵面は完全に事案なので、俺的には断固拒否したい。


『・・・・・・・さくにぃ、今失礼な事考えた』

「ちょっと何言ってるか分からない」


あれ、なんか首の締め付けが強くなった気がするけど、気のせいかな?


「こーら、サクヤ君が困ってるでしょ。そろそろ止めときなさい?」


おぉ、フィアが止めに入ってくれた。

なんて大人な対応なんだ!

同じくらいの歳のはずなのに、どっかの奴隷願望の人とは全然違うなぁ・・・・・・・・・・と感心していたのも束の間。


『・・・・・・・・ユグドラシル居たんだ。気づかなかった』


邪魔されたシルフィのあからさまな煽りに、さすがのフィアさんもピキリピキリ。

若干ほおが引き攣っている。


「私はずーっと居たよぉ?その眠そうな目じゃ見つけられなかったのかな?」

『さくにぃに夢中で気づいてなかった。ボクのために良い人を連れてきてくれてありがとう。褒めて遣わす』


ブチッ!と何かが切れる音がした。


「あ・・・っはは、シルフィも面白いこと言うねぇ。いつの間に冗談なんて言えるようになったの?」

『ボクは冗談を言ったことない。これも本気』

「いつもぐうたらしてたら、そのうちサクヤ君に捨てられちゃうよ?あ、ごめん、そもそも最初から受け入れられないよねぇ」

『さくにぃはそんな事しない。むしろ、そんな妻を注意はするものの、結局はなんやかんやで面倒を見てくれるお人好しタイプ』


さくにぃこそがボクのグダフワライフを共にするにふさわしい人、と俺の背中で高らかに宣言するシルフィ。

はい二人とも待って、一旦落ち着こうね?

まずシルフィは俺を盾にするの止めてくれるかな。

勇気を振り絞って声をかけてみるが、ゴゴゴゴゴッ!と黒いオーラを纏って睨み合う二人にはちっとも聞こえていないらしい。

二人とも、喧嘩するのはまだしも俺を挟んでのはやめて欲しいんですが・・・・・・。

まあ喧嘩すること自体やんないで欲しいけどさ!


「ふっ、サクヤ君と人生を共にするのは私であるべきだよ!何せもう新しい名前も貰ったもんね!」

『・・・・・・っ、さくにぃ、それホント?』

「あっ、はいホントです」


斜め後ろから刺さる鋭い瞳に思わず敬語で答える。

・・・・・・・・やべ、なんか変な汗出てきたよ。

少し首にしがみついている腕の拘束が強くなったような気がした。

これはあれですか、ギルティ的なやつですか!?

やべぇ殺られる、と思っていたらそうではなく、逆に良い意味でもっとギュッと抱きしめ密着してきた。


『さくにぃはボクに手作りクッキーをくれたし、おんぶもしてくれてる。愛情を与えられてるのはボクの方』

「んなっ!?」

「おーい、二人とも落ち着け〜。俺は決して下心があったとかそんな事はないぞ〜」


しかし、ヘイヘーイとマウントを取り合ってるお二人にはやはり届いていないご様子。

誰か助けてぇー!具体的にはこの二人を何とかできる大人な方ヘルプミー!!


『あら、シルフィったらこんな所に居たのね。皆探していたわよ?』

『む・・・・・ノーム、今はそれどころじゃない。この調子に乗った女を潰さなければ』

「調子に乗ってないもん!サクヤ君におんぶされてるシルフィが悪いんだもん!羨ましい!」


中央の草原の方から、一人の女性が歩いてきた。

茶色のロングに数箇所緑色のメッシュが入っていて、すごく落ち着きのある雰囲気の、いわゆるお姉さん系の人だ。

シルフィにノームと呼ばれていたことから、たぶんこの人は土の大精霊なのだろう。


『ユグドラシル様・・・・・いえ、今はフィア様でしたね。お久しぶりです』

「ん、ノームも元気そうでなによりだよんっ。それで早速で悪いんだけど、シルフィ回収してってくれないかな」

『そうはさせない。最後の最後まで抵抗する・・・・・・・・さくにぃが』

「俺がかよ!?一応言っておくけど、何もしないからね?」


ナチュラルに俺を盾にしようとしていたシルフィを何とか捕まえて、"さくにぃに裏切られた・・・・・・"と項垂れている彼女をノームに引き渡す。


『あなたがサクヤさんですか。シルフィが懐くお方となると・・・・・・・ふふっ、面白い事になりそうですね』


意味ありげに微笑んだノームは、雲の上で恨めしそうにこちらを見つめるシルフィを引き連れ、草原までの道を進んでいく。

俺とフィアもそれについて行き、十分ほど歩くと目の前には大きな壁がそびえ立っていた。

ここ一部だと分かりにくいが、上から見るとそれぞれのエリアに壁があって、それは中央の草原を囲むように設置されているらしい。

つまり、この向こう側が例の草原。

うぅ、ちょっと緊張してきた・・・・・・・。

まあ今のところ良い意味でも悪い意味でも緊張せずに済んでるけど、他の子たちがどんな風なのか分からないらからね。

もしかしたら猛烈に反対されちゃったりして・・・・・・・・って、マイナス思考はダメだぞ〜!


『さくにぃ、心配する必要は無い。皆さくにぃを気に入るはず。断言する』

『ええ、気負わずとも大丈夫です。道中話していて分かりました。サクヤさんは力だけでなく、お人柄もよろしいようで。我らの主として申し分ありません』

「・・・・・そんなに褒められるとさすがに照れるな・・・・・・・」

「うんっ、二人とも良いこと言うねぇ〜!サクヤ君が──────────」

『スキあり』


ノームとフィアが話していた一瞬のスキをついて、シルフィが再び俺の背中へと移った。

ふんすっ、と鼻息を立てるシルフィはご機嫌のご様子。

・・・・・・・・・・・・まあいっか。

元気づけてくれたお礼ということで。

フィアも泣く泣く了承してくれたので、このまま壁にあった大きな門のところまで行き、そのどっしりとした扉を開いた。





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