VSイシス(2)
イシスが身体の正面で回していた三又の槍を掴んで何かを唱えると、背後に大きな陣が構築されていく。
「【水槍乱雨】」
襲いかかってくる槍型の水を、時には打ち払い時には避けながら宙を舞う。
くっ、これ早速やばい技!
水が圧縮されすぎて、一撃の破壊力がレザービームみたいになっていた。
逸れたのが背後で地面を抉ってるの見て寒気がしたわ。
「ふっ!」
水の槍とは違った輝きを持つ何かが視線の端を掠めた瞬間、思いっきり黒剣を振り上げる。
すると、さっきまでイシスが持っていた三又の槍がいつの間にか目の前にあり、俺の剣と激しい衝突を起こした。
この槍、遠隔操作できるのか・・・・・・!
遠くのイシスの手が手話のように動いたかと思うと、槍がそれに連動していくつもの斬撃を繰り出す。
瞬間に反応して相殺し、追尾してくる水の槍を引き連れながらイシスの方へ加速する。
「【大渦の災害】」
槍から飛び出した青い神気が天に突き刺さって暗雲を呼ぶ。
天候は荒れ狂い、海面から渦巻いて発生した三つの大渦が暴れ回る。
「"黒聖一閃"!」
迫ってきていた大渦を縦に斬り払い、崩れゆく水の間を通って─────────くっ!
周りの水が落ちていく中、ほんの少しが宙に浮いて塊となり残っていた。
各塊からそれぞれ弾丸のような水滴が放たれていて、その内の一つが目の前まで接近していた。
このまま行くと、寸分違わず眉間を撃ち抜くとんでもない技だ。
もう剣をねじ込む隙間さえない。
──────────【賜与の神眼】!
迫り来る水滴に特大の【グラビティ】を付与して落下させる。
その他は回転斬りで水の塊ごとぶった斬り、同じことが起こらないように【暴食之罪】で吸収。
足止めされたせいで追いついた水の槍を斬りながら、ボバリングして遥か上空まで一気に飛び上がる。
よし、ここまで来ればいいかな?
良い感じに引き離せているのを確認し、両手に神気を集める。
飛龍、君の技借りるよ!
「"龍の息吹"!」
合わせた掌に集まった純白の神気を解き放つ。
ゴウッと空気を斬り裂いて放たれた神気は大量の水の槍を飲み込んで海面に命中し、大きな爆発を起こした。
とりあえずこれで槍は一掃できたはず。
元の多さに戻る前に距離を詰めておかないと!
爆煙を斬り裂いて迫る青色の槍をたたき落とすと、あと二つの大渦をまとめて吹き飛ばす。
ん?今度はさっきみたいなのは無いのかな?
大人しく落ちていく水に疑問を持つが、無いなら無いで楽なので─────────。
「っ、居ない!?」
つい先程までイシスが居た場所に彼女が居ない。
それを理解すると共に、いつの間にか背後に回り込んでいたイシスの姿を捉えた。
大渦で視界を遮って動いたのか・・・・・・!
落としたはずの三又の槍を構え、神気を纏わせたそれが突き出される。
「くっ!?」
「うふふ、遠距離タイプだと思った?私、こう言うのも行けるのよ?」
神速で繰り出された槍の先端がほおを掠めた。
一旦牽制として火球を撃って距離を取り、体勢を立て直す。
あっぶなぁ、後ちょっとで串刺しになるところだった。
ほおを伝う血を拭い、剣を構える。
だがその時にはもうイシスは俺の間合いに入り込んでいて、槍が目の前まで迫っていた。
【賜与の神眼】!
途端に、世界が色を失ってゆっくり進みだす。
右目やその周りの血管がビキビキとなり激しい痛みに襲われるが、それを無視して槍を弾き、三連撃を喰らわせる。
世界に色が戻ると同時にイシスが弾き飛ばされ、空中で止まった。
「なるほど、その神眼は厄介ね」
「イシスだってその槍、神器でしょ?そっちの方がよっぽど厄介だよ」
神が創りし伝説の宝具。
何らかの特殊能力を持ち、他とは比べ物にならないほどの性能を誇るもの。
つまり、俺の黒剣より圧倒的に強いってことだ。
「その通りよ。神器"天上の聖母"。その特殊能力は奥の手だから内緒だけどね」
そりゃそうだ、自分の手の内を晒すなんてマネする訳ないよねー。
あわよくば聞き出せればって思ってたけど、さすがにそんなことはなかったな。
さてさてさーて、どう攻めようか・・・・・・・。
剣を鞘にしまって左腰に付け、グリップ部分を握る。
極限の集中で意識が研ぎ澄まされ、次第に周囲の音が消えイシスだけが残った。
「"抜剣・花朧"!」
イシスが動いた瞬間、剣を抜いて真横に一閃する。
腕が朧のように霞んだかと思うと、いくつもの斬撃がイシスの身体に刻み込まれた。
それにも構わず槍は止まることなく突き進む。
だが危なげなくそれを弾き上げ、間合いを詰めて振り下ろす。
しかし、さすがの反応速度で槍を遠隔操作し、無理矢理自分の元に戻して俺の黒剣を受け止めてしまった。
くっ、今のはいけたと思ったのに・・・・・!
「お返しよ!」
鍔迫り合いの末、両者は弾かれ、反動の少なかったイシスが先に動いた。
渦を纏わせた槍が振るわれ、俺の胸に命中する。
あまりの衝撃に驚いている内に、あっという間に丘の上まで吹き飛ばされた。
──────────って、なんじゃこりゃ!?
立ち上がってもう一度立ち向かおうと地を蹴ったが、周りから伸びた根っこによって止められてしまった。
ちょ、さっきまでこんなの無かったでしょ!
しかも根っことは思えないくらい太くて硬いし。
「そっか、"豊穣と海の神"だもんね」
「ええ、私が根っこを成長させてサクヤ君を拘束してるの」
動くためにはこれを引きちぎるなり燃やすなりしなきゃいけないんだけど、それはちょっとなぁ〜・・・・・・。
くそぅ、俺の良心が止めちゃうんだよね。
なんの罪も無い植物たちを理由もなく破壊したくない。
「サクヤ君ってほんとに優しいわよねぇ。植物や精霊達もあなたのこと好きみたい。愛されてるわね〜」
「植物はともかく精霊もいるの?見えないんだけど」
「恥ずかしがり屋なのよ、きっと」
「そうなのかなぁ、っと!」
隙をついて【テレポート】で抜けだし、イシスの背後から剣をー横なぎする。
よし・・・・・ってあれ!?
当たったと思ったら、スカッと空振ってしまった。
「甘いわよー」
「へぶぅ!?」
頭にズビシッ、と槍が叩きつけられる。
と同時に雷が俺に降り注ぎ、苛烈な追い討ちをかける。
ぐっ・・・・・う・・・・!これ、ただの雷じゃない!
神雷ってやつか。
やっと雷が止み宙にスパークが起こる中、後退するイシスを逃さないうちに俺は剣を引く。
「"雷虎迅翔"!」
雷によって加速した剣が雷虎を伴ってイシスに噛み付く。
顔を顰めながら雷虎を打ち払うと、今度は互いに神速の斬撃をぶつけ合う。
「"冥桜閃々"!」
「"神符・霞雨"!」
無数の雨のように降り注ぐ突きと、落ちる花びらを一つ残らず斬る斬撃が衝突し、激しい閃光が爆ぜる。
またもや神眼を発動して、色を失った世界を瞬時に移動。
スロー再生みたいにゆっくり弾かれているイシスの槍を蹴り上げ、さらに数回斬る。
急いで距離を取って神眼を解除すると、世界に色が戻ると共に一気に目の痛みが重症化し、思わずフラッとなってしまう。
やべっ・・・・もう少しでも長く使ってたら危なかった。
これは目への負担が大きすぎるから、そんなに連発出来ないんだよね。
たぶんあと一回使えるかどうかだろう。
駄菓子菓子、それだけのリスクを冒したかいはあり、イシスにダメージを負わせることができた。
追撃の手を緩めてる暇は無いね!
体勢を立て直しつつあるイシスに追い討ちをかけ、また雷虎をぶつける。
今度は防がれることなく喰らわせられて、彼女はスパークをその身に走らせながら大きく後退した。
「"冥桜せ────────」
「"神凪"」
音が消えた。
イシスの周りだけ、凪いだ水面のように物静かだ。
そして次の瞬間。
いつの間にか俺は剣を弾かれ吹き飛ばされていた。
空中で何とか踏ん張って勢いを殺す。
くっ、なに今の!?
ちゃんと警戒していたはずなのに、視認さえ出来なかった。
おそらく目にも止まらぬ速さで槍を振り上げて剣を弾き、その後に五連突きで俺を吹っ飛ばした・・・・・・・のかな?
たぶん。
イシスから半径二、三メートル程の場所はまだ凪いでいるので、あれが有効射程なのだろう。
"神凪"・・・・・・ひじょーに厄介な技だ。
初見で反応できなかっただけならともかく、視認できないとなると、手の打ちようがなくなってしまう。
「・・・・・・・っと、何のつもり?」
「本当は、これは使うつもりなかったのよ。でも意外とサクヤ君が強くて、思わず使っちゃった」
"神凪"を解除して自然体に戻ったイシスが、てへぺろ!と笑う。
本当はもっと俺がレベルアップしてから試す予定だったらしい。
・・・・・・・・つまり、いつかはあれを受けられるようにならないといけない、という事だ。
うーん、あれを使われても動じない自分が全然想像できないよ?
「さて、それじゃあ次のステップに行くとしましょう」
「押忍っ、お願いします!」
これは元々言われていたことだ。
イシスがいけると思ったら、難易度を上げて彼女のとっておきの一つで戦ってくれる。
今からそのとっておきが披露されるのだ。
まあいくつもある中でメジャーだけど、破壊力はあるやつらしい。
イシスは槍を横に持って正面に掲げ、自身の神気を高めていく。
どこまでも大きく、濃く・・・・・・・・っていくらなんでも大きすきない!?
目を閉じた彼女から溢れる神気は圧倒的で、ビリビリと大気が震え海も大荒れしている。
「"解放するは龍神より受け取りし力にして、破壊と海を司る化身なり"」
水面から立ち上った大渦がイシスを包み込む。
ギラリと二つの鋭い何かが輝いたかと思うと、勢いよく大渦が四散し、中から大きなベビ型の竜が姿を現した。
「ギャオオォォォオォォオォッッ!!」
解き放たれた青い竜が大きな雄叫びを上げ、クネクネととぐろを巻きながら俺と同じ高さまで降りてくる。
美しい青と金の鱗と、立派なツノを持つ神々しい竜だ。
同じ竜でもリヴァイアサンとは色々大違いだな。
【降臨、"豊穣と海の神竜"】
久しぶりのテロップには、そう書かれていた。
ネーミングセンスがパ○ドラなんだよなぁ。
『ふふっ、これは龍化っていう技なの。龍の神から借りた力よ』
青い竜からくぐもったイシスの声が聞こえてくる。
なるほど、たしかにこれはとっておきだよね。
底の見えない神気と容姿の圧に押しつぶされそうだ。
だが、せっかく使ってくれたのだから、イシスを失望させないように精一杯頑張らなければ。
『さあ、続きを始めましょう?』
「・・・・・・・うん、絶対合格して見せるよ!」
あれ、竜の息吹ってフェイロンの技じゃなくね?って思った人、その通りです。
咲夜くんが勘違いしてる理由は後で出てくるので、ここではスルーしていただけると嬉しいです(笑)!




