救世主現る
「だっっめぇぇぇぇぇぇっっっ!」
どこからかそんな悲鳴のような叫び声が響き、続いて上空から金色の・・・・いや、光が集まったような槍が何本も男めがけて降り注いだ。
『ぬゥっ!?』
両腕をクロスしてガードした男だったが、光の槍の勢いに負けて数十メートル後退して吹っ飛び、コンクリートの壁に叩きつけられる。
壁は一瞬で瓦礫となり、大きな音を立てながら崩れ落ちていった。
なっ、何事!?
予想外の出来事にあたふたしていると、ドゴンッ!という轟音とともに瓦礫の山が吹っ飛び、下敷きになっていた男が傷だらけになりながらも這い出てきた。
ゆっくりと身体を起こし、憎々しげに顔を歪めて空を見上げる。
『この気配・・・・・もウ嗅ぎつけたのか・・・・・!』
上空をにらめつけた男の口から怨嗟の声が漏れる。
そして、その声に応えるように一つの人影が俺の目の前に降り立った。
その姿はさながら迷える子羊の前に舞い降りた天使のような。
「君は・・・・・!」
その人物の横顔を見て思わず目を見張ってしまう。
人影の正体は、まだ幼さが残る顔立ちの美少女。
甘栗色の髪が腰まで伸び、真っ白な羽の形をしたヘアピンをしている。
そう、俺がスーパーの近くでぶつかったあの少女だ。
最初に会った時は俯いてたから分からなかったけど、めっちゃ可愛いんですが。
え?今はそんな場合じゃない?
まぁたしかにそうだけども!
「君、大丈夫!?」
「え!?・・・・あ、うん。一応まぁ・・・・・・」
そんな少女に至近距離でそう聞かれ、思わずしどろもどろに答えてしまう。
実際はあまり大丈夫じゃないが。
斬られた場所めっちゃ痛い・・・・・。
「その傷は痛そうだね。ほんとはすぐに治したいんだけど、あいつ追い払うまでちょっと待っててね?」
少女はそう言うと俺をその場に座らせ、右手をかざす。
すると、一瞬で俺の身体は透明な白金の球体に包み込まれた。
おぉ、なにこれすごい!
なんか温かい感じがするなぁ。
「さて、そこの悪魔。よくもやってくれたね」
少女がかざした右手に光が集まり、次の瞬間、彼女の手には美しいレイピアが握られていた。
そのレイピアを正面に構え、少女は悪魔を睨みつける。
『・・・・オノレェ・・・・・!』
ギリッ、と歯をものすごい力で噛み締める音がした。
『帰れなくナルかもしれんガ、キサマが相手では、全力を出さザルを得ないナ・・・・・・!』
獰猛に笑った悪魔が背をのけぞらせ咆哮すると、全身から赤黒い魔力がオーラのように放出し、辺りに暗雲が立ち込める。
たちまち空が真っ黒に染まり、乾いた風が肌を撫でる。
それに伴い、男の身体も変化し始めた。
大きかった身体がさらに大きく、黒く染まった筋骨隆々な体躯、顔はヤギをものすごく禍々しくしたような見た目になった。
羽も一回りか二回り大きくなっている。
いやなんか、雰囲気がすごくやばい!
ゲームだとボス的な立ち位置なのかな、こいつ!
少女と悪魔、睨み合いを続ける二人の間に一瞬の静寂が訪れ、次の瞬間。
『ヌオォォオォォォッッ!!』
地面がひび割れるほどの踏み込みで距離を詰めた悪魔は、己の拳に赤黒い黒炎を纏わせ、その巨体からは想像できないほどの速さで振り下ろす。
高速の一撃を少女は難なく回避し、それを超える速度で連続突きを繰り出した。
いくつもの閃光が煌めき、重い衝撃とともに悪魔を吹き飛ばす。
『グヌゥ・・・・・!?』
吐血しながらもなんとか空中で体勢を立て直した悪魔だったが、それより先に後ろに回り込んだ少女が袈裟斬りを喰らわせ、その勢いで地面に叩きつけられる。
ドゴンッ、という重音とともに地面が砕け、破片が四方八方に飛び散った。
うわっ!?
・・・・・・あー、びっくりした。
めっちゃ大きい岩がこっちに飛んできたんだけど。
まぁ、結界がちゃんと守ってくれましたが。
それにしても、一撃一撃がものすごい威力だな・・・・・・・・。
踏み込みだけでアスファルト砕けるのもやばいし、何よりそれに耐えてる悪魔の耐久力もやばい。
そんでもって砂埃すごっ。
結界に守られている場所以外なにも見えないぞ。
『・・・ハァ・・・・ハァ・・・・ッ・・・・』
砂埃が晴れて見えたのは、片手を地につけて荒い息を吐いている悪魔。
斜めに斬られた右肩辺りはプラプラとぶら下がっていて、今にも落ちてしまいそうだ。
うわぁグロい・・・・・・・。
ほら、なんか出てるって、それ出たらダメなヤツじゃね!?
早くしまってしまって!
しかし、そんな心配は無用だったらしい。
斬られた場所の肉がつながり合い、あっという間に再生してしまった。
だが体力は戻らないらしく、荒い息をしたままだった。
そんな悪魔の正面に少女が降り立つ。
「どう?これで実力の差は明らかでしょ?そろそろ諦めて帰ってくれないかな」
『・・・・・・ソウはいかン。我は主君ノ命に従うノミ!』
再び炎を纏わせた拳を繰り出す。
だがそれは空を切り、逆に悪魔の身体に無数の斬り傷が作られた。
すぐさま傷を再生した悪魔は飛び上がり、空中で巨大な魔力を練り上げる。
『くらエ!死の吐息ッ!』
闇夜を暗く照らす紫色の極太ビームが降り注ぐ。
それを見上げる少女は左手に魔力を集中させて電撃を生み出し、槍投げのように放った。
「雷神槍!」
二つの技がぶつかり合い、大きな爆発を引き起こす。
真っ白な閃光が視界を染めてドンッ!という轟音が耳をつんざき、激しい爆風によって辺りは瓦礫の山と化した。
「はああっ!」
力を使い果たし爆風に翻弄される悪魔の元に少女が跳躍すると、レイピアに黄金の光を纏わせ神速の連撃を繰り出す。
悪魔の巨大な全身に深い斬り傷を刻み、斬られた片翼と右手が宙を舞う。
『グッ・・・・これしキ・・・・ム・・・・?』
自身の傷を直そうとしていた悪魔の顔が驚愕に染まる。
『な、ナゼ再生しナイ!』
どうやら今までのように身体を再生できないらしい。
あの黄金の光が関係あるのかな。
少女は慌てる悪魔の背後に周って破れかけてる服の襟首を掴み、指を鳴らして空中に紫色の穴(後で聞いたのだが、これはワープホールと言うらしい)を出現させる。
「よっこいせっ!」
野球選手のように振りかぶってボールを投げるように、ワープホールに向けて悪魔を投げ飛ばす。
悪魔を飲み込んだワープホールはすぐに閉じ、やがて空は何事もなかったかのように普通の夜空に戻っていた。
すいません、これからは諸事情により三日に一回程度のペースでの投稿になります