VSイクシード
お久しぶりですm(*_ _)m
──────────"死の超越者"。
その名の通り死して骨となってもなお、脅威の執着で生にしがみつき死を超越した存在。
その過程で多くの代償を払い、やっとの思いで取り戻した魂を軸に現在の姿を形成した。
もはや人間の頃の記憶や感情は無く、ただ本能のまま殺戮の限りを尽くす殺人マシーン。
眼下に写し出されたウィンドウには、そんなろくでもない事ばかり書かれていた。
亡くなったあとに執念で魂を取り戻すって、どんだけ死にたくなかったんだか・・・・・・。
等価交換の原則で相当の代償を払ったはずなのに、記憶や感情は消えてしまっただなんてね。
『ギギッ、ギギギギギィッ・・・・・!!』
大きく振り上げられた鋭いカマが思いっきり振り下ろされ砂煙を巻き起こす。
・・・・・・げぇ、なんつー威力。
視界が晴れて露になったカマは、地面を深く抉り周囲に亀裂を残していた。
一撃一撃が致命傷になりうるほどの破壊力があり、迂闊に近づけば一瞬でやられてしまうのは目に見えている。
「カマは俺が防ぐから、攻撃頼む!」
「了解っ!」
黒剣片手に駆け出し、四本ある脚の内の一本を攻撃する。
すると期待通り俺にヘイトが向き、引き抜いたカマが横薙ぎされた。
「うわっ、重すぎ・・・・・!?」
かろうじで弾くことは出来たが俺も大きく体勢を崩してしまい、そこにもう片方のカマが迫る。
やばいこれは防げない・・・・・・!
「"天晶閃牙"!」
『キシャアァァァァッ!!』
ガガッ、と蠢く肋骨に衝撃が走り、四本足で地を削りながら大きく後退していく。
それを追うように距離を詰めると、勢いで仰け反った体勢からすぐに復帰して両腕のカマ攻撃を連続で繰り出してきた。
こいつの攻撃はまともに対抗出来る威力じゃない、だとすれば皐月みたいに─────────!
「"水華流爛"!」
同時に迫っていた二本のカマを受け流して衝突させる。
するとガギャァンッ!と耳をつんざくような金属音がして、弾かれた両腕を大きく仰け反らせる。
そこに花恋が間合いを詰めレイピアを閃かせて無数の傷を刻み、ボスの反撃をスイッチした俺が防ぐ。
『ギイィィィィィッ・・・・・・・!』
「うわっ!?」
「っ!」
思ったとおりにいかず苛立った様子のボスが、脚をカサカサと動かし俺たちの居た場所を突っ切るようにして距離を取る。
蠢いていた顎の骨がさらに不規則に振動し始めた。
それはやがて特大の雄叫びと共に衝撃波となって打ち出された。
うぅ、頭に響く嫌な音だ・・・・・。
たいしてダメージは無いものの、数秒間俺たちを止めるだけの効果はあり、その隙にボスが大きく飛び上がる。
右のカマに集まった赤黒い魔力がバリバリッ、とスパークして一段と輝きを増す。
『キシャアァァァァァァァッッ!!!』
たたきつけられたカマが地面を放射状に陥没させ、とてつもない衝撃が俺たちを襲う。
防御していたにもかかわらず、弾き飛ばされて身体は宙に浮いてしまった。
土煙を突き破ってボスが突進してくる。
・・・・・・くそっ、痺れて・・・・・上手く、動かない・・・・・・!
すぐそこまで敵が迫ってきているのに、さっきの攻撃に麻痺の効果があったらしく全身が硬直してほとんど身動きが取れない。
脇腹にカマが吸い込まれるように命中し、壁まで吹き飛ばされた。
「ぐっ・・・げほっ、ごほっ・・・・・!?」
口からビチャッ、と赤く温かい液体が吐き出される。
あ、危なかった・・・・・防御が間に合わなかったら両断されるとこだった。
衝撃だけで身体はボロボロだけど、死んでないだけマシだろう。
痺れはまだ失くならない。
「・・・・・・今度は、何する気だ・・・・・!」
赤黒い人魂のようだった目が濁った紫色に変わり、ドクンドクンッと脈打ちながら砂煙越しでも分かるくらいに怪しく光っている。
そして、一際大きくドクンッと響いた途端、俺の意識は暗闇の中に放り込まれてしまった。
◇◆◇◆◇◆
「──────────ぇ!」
・・・・・・・?あれ、俺今何してたんだっけ・・・・・・・。
頭がぼんやりして上手く思い出せない。
「───────────ねぇ!」
「っ!」
いつも一緒に居る女の子の声で、僕ははっと我に返った。
緑に囲まれた丘の上に広がる花畑。
そこにちょこんと座った六、七歳くらいの少女が、心配そうに僕を覗き込んでいる。
「あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
「もう、心配させないでよぉ!話の途中で急に黙り込んじゃうんだもの」
「次は気をつけるよ」
苦笑いしながらほおをかく。
どうやら僕は自分が思っていた以上に疲れていたらしい。
こんな大切な話をしている時なのに、他に意識を持っていかれるなんて。
「それで、サクヤくんは約束してくれるんだよね!」
「うん。僕たちは大人になったら結婚する。いつまでもそばに居るよ」
「───────っ、嬉しい・・・・・。ずっと、ずぅ〜っと一緒だよ?」
嬉しさのあまり瞳に涙を浮かべる少女は、幸せそうに笑い泣きしながら立ち上がり、僕に手を差し伸べる。
僕も同じくらい笑いながら泣いて、少女に向かって手を伸ばす。
しかし、手が少女に触れる直前。
「「・・・・・・・・ぇ・・・・・・?」」
少女の小さく華奢な身体が、ゴツゴツした大きな腕に貫かれた。
ビシャッ、と生暖かい液体が顔の右側にかかる。
腕を引き抜かれた少女が力なく倒れかかってきた。
震える手で少女に触れると、掌に嫌な感触と共に真っ赤なモノがべっとりついた。
「・・・・・ぅ、あ・・・・・・・!?」
貫かれた胸から流れる液体が止まらない。
誰か・・・・だれか!誰でもいいから、助けて・・・・このままじゃ・・・・!
触れる場所から聞こえる鼓動がどんどん小さくなっていく。
『ギャハハハハァッ!!』
だけど聞こえたのは、そんな下品な笑い声だけだった。
少女を貫いた太い腕の持ち主。
コウモリのような翼にヤギみたいなツノを生やした異形の生物。
名前は上級悪魔。
な、なんでこんな所に!?
本来居るはずのない悪魔が目の前に居る。
聞いていたのよりもっと怖くて、僕は蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来なかった。
だけどもう僕たちには興味をなくしたのか、見下すような視線をこっちに向けてからどこかへ飛んでいってしまった。
「よ、よかった・・・・・・。っ、急がなきゃ!すぐお母さんのとこに連れてくから!」
少女をお姫様抱っこして丘の先まで走っていく。
あそこから飛び降りればすぐに下の街まで着くはず。
いつもは怖くてしないけど、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
勇気を振り絞って丘から──────────。
「───────な、なに・・・・これ・・・・・・?」
丘から見下ろせる僕たちの街からは、今まで聞こえなかったのが嘘のように阿鼻叫喚に包まれていた。
あちこちから炎が上がり、色んな悪魔達がみんなに襲いかかっている。
声はまだ誰も消えてないから、こっち側の被害は建物だけみたい。
だけどこの均衡がいつまで続くのか・・・・・・。
輝く閃光と共に、飛んでいた悪魔が数十体斬り伏せられる。
「あっ、お母さん・・・・・!」
白髪紫目の女の人が、軍を率いて次々と悪魔を倒していく。
さすが僕のお母さん。
急いであそこに連れてかなくちゃ。
背中にググッと力を込めて純白の翼を作る。
ふと、そんな僕の周りに大きな影が指した。
「うっ!?」
飛び立とうとした瞬間に横から衝撃がきて、花たちを散らせながら吹き飛ばされる。
うぅ・・・・ごめん、離しちゃった・・・・・。
離れたところで地面に伏している少女に心の中で謝る。
それにしても、今のは何だったんだろ──────────。
『グルルルル・・・・・・・・』
背後から聞こえた唸り声に背筋が凍りついた。
次の瞬間、上級悪魔すら比べ物にならないほどの巨大な腕に、仰向けにひっくり返されて押し倒される。
猿とワニを混ぜたような四足歩行の怪物は、浅く開いた口からヨダレを垂らしながら理性の無い目で僕を見下ろす。
顔が真っ青になるのが自分でも分かった。
もちろんこの怪物が怖いって言うのもあるけど、こいつの種族スキル"恐怖付与"の効果が大きい。
"その怪物の嫌なところはね、それだけじゃないのよ"
お母さんの言葉が頭によぎった。
たしか、この怪物の一番嫌な所は─────────。
『シュルルルルッ・・・・・・!』
ガパァッと顎が開き、奥から沢山の触手が伸びて僕の身体中にゆっくり巻き付いていく。
"一番嫌な所は理性が無いくせして、わざわざ最後まで恐怖が残るやり方で食べること"
噛み砕いて一瞬で殺すんじゃなくて、触手でじわじわと体内に取り込む。
すごくいやらしい、ってお母さんが言ってた。
この怪物は魔界にだけ存在するはずなのに何で・・・・・・!?
「ひっ!?や、やだ──────」
すぐそこまで迫ってるモノが見たくなくて、僕はギュッと目を瞑った。
────────────だけど、いつまで経っても何も起こらなかった。
その代わりに。
「ねぇってば!」
「っ!?」
僕は驚いて目を開ける。
周りはお花畑が広がっていて、目の前に女の子座りした少女が居た。
「サクヤくん、顔真っ青だけど大丈夫?」
心配そうに僕の頭を撫でてくれる。
あれ・・・・なん、で・・・・・?
もしかしてさっきの夢だったのかな。
僕はホッと胸をなでおろした。
あんな酷い夢見るなんて、一体どうしたんだろう。
「ごめん、ちょっとやな夢見てたんだ」
「そっか。じゃあ楽しいことしてそんなの忘れちゃおっ!」
少女は笑いながら立ち上がって僕の手を取る。
うん、そうだね。
僕がそう言おうとした瞬間、少女の身体は貫かれた。
そこからは、地獄の始まりだった。
何度も何度も、少女が殺されては最初に戻って殺されてを無限ループのように繰り返す。
目の前で何度も何度も・・・・・・・・。
そしてついに数え切れないほどが過ぎ、また最初に戻ってきた。
少女は嬉しそうに笑ってる。
この後、無惨に殺されるとも知らずに。
「僕は、君とずっと一緒に居るよ」
何度目かも分からないセリフを口にした。
少女は嬉し涙を流しながら僕に抱きつき、受け止めきれず押し倒されるようにお花畑に倒れ込む。
太陽に照らされ、キラキラと輝く金髪の少女。
どんなものでも霞んでしまいそうなその輝きは、今の僕には少し眩しいようだ。
風が吹き抜け、少女の長い髪がふわっと広がった。
──────────っ!
自然と溢れ出した涙がほおを伝って落ちる。
突然泣き出した僕に戸惑う少女を抱き寄せて、めいいっぱい抱きしめる。
「ごめん・・・・ごめんね。今の俺じゃあ、君を助けられない。だから待ってて欲しいんだ。ただ強いだけじゃなくて、君を幸せに出来る人になって見せるから・・・・・!だから────────!」
「うん、いいよ。サクヤくんのこと待ってる」
今度は寂しそうな、でも嬉しそうな笑顔だった。
「その代わり、なるべく早く来てね?ほら、私って寂しがり屋だから」
「うん。すぐに君の所へ行くよ」
離れるのを拒むように、二人してギュッと抱きしめ合う。
いつからか灯っていた右目の光がより一層輝きだした。
"神眼覚醒"、固有名【賜与の神眼】
頭に情報が流れ込んでくると共に、周囲の景色や腕の中の少女が光の粒子となって目に吸い込まれていく。
描かれたのは大小二対の翼をイメージした簡素な幾何学模様。
完成と同時に空間にヒビが入って世界が崩壊し、視界が真っ白に染め上げられた。
意識が途切れる寸前。
「大好きだよ、サクヤくん──────」
そんな声が聞こえた気がした。




