VSデュラハン
振り積もった瓦礫をガラガラと音を立てて退かしデュラハンが起き上がる。
ちっ、鎧ごと破壊する気で殴ったのに少し凹んだだけか。
殴った時の拳の跡がハッキリと残っていたが、それももう修復されてしまった。
デュラハンの特性なのか鎧の能力なのか分かんないけど、いくら壊しても修復されちゃうとしたらかなり厄介だね。
『・・・・・・・・・・・・・』
騎士は立ち上がると奥にあった玉座の前に仁王立ちする。
無言のまま握った両手を縦に並べて顔の前で構えると、揺らいでいた黒色の神気がそこに凝縮し、一本の剣を作り上げた。
見る者を皆居竦ませるほどのオーラを放つ、飾りっけのない実用性だけ追い求めたシンプルな名剣。
それが手に納まった瞬間、デュラハンから肌を刺すような剣気が満ち溢れる。
生前はさぞ素晴らしい騎士だったに違いない。
俺も【ストレージ】から黒剣を取り出して構える。
『・・・・・・・参る』
「ふっ!」
聞こえないはずの声が聞こえたと同時に突っ込み手始めに袈裟斬りを繰り出す。
鎧に触れる直前に滑り込んできた剣とぶつかって、ガギィンと耳障りな金属音が響き渡った。
二本の剣は決して譲ることなくせめぎ合い、圧力に負けた床にヒビが入って円形に陥没してしまう。
「うわっ!?」
上手い具合に力を逸らして受け流され、体勢を崩したところに跳ね上がるような神速の斬り上げ。
咄嗟に上体を逸らすと髪の毛先を刃が掠めて通り過ぎ、間一髪で逃れられなかったものがハラハラと舞い落ちる。
一歩後退してから、一瞬の内に十数回斬る高速剣撃をお見舞いする・・・・・・・が、あっさりと全て受け流されてしまった。
くっ、この速度にもついてくるのか!?
「"光焔乱紅"!」
炎を纏い神速を越した六連撃。
しかしこれさえも完璧に防がれてしまい、さらには反撃まで喰らって、右の二の腕と左太ももに浅い斬り傷が刻まれる。
バックステップで距離をとると、今度は向こうから仕掛けてきた。
縦横無尽に繰り出される剣技を何とか捌き続けるが、デュラハンみたいに綺麗にとは程遠い。
黒の神気を宿した剣の威力は半端なく、避けた一撃が地面に当たると剣がぶつかったとは思えないような重音で、地面が砕け砂煙が巻き起こる。
「っ!」
ボッと砂煙を突き破って現れたデュラハンが剣を閃かせ、不意をつかれた俺に瞬く間にいくつもの斬撃を喰らわせてくる。
むぅ、こいつかなり強い。
基本スペックは俺が上回っているものの、技術面が圧倒的にデュラハンの方が高いのだ。
積み上げてきた年月が違う、ってことだろう。
「だけど───────────」
振り下ろされた剣を指で掴み、その握力だけで粉々に潰す。
瞬時に逃げようとするデュラハンを純白の剣閃は決して逃さず、真っ直ぐに突き出した黒剣が白い軌跡を描いて心臓の位置を貫いた。
「飛龍より弱いな、お前」
ガクッと片膝を着いたデュラハンは黒い瘴気の出る傷を押さえて距離をとる。
鎧の中身も空っぽか・・・・・・。
肉体の代わりに黒いモヤのような瘴気が中に満ちていた。
鎧と剣の修復が終わりクルリと剣を回し逆手に持って地面に突き立てると、デュラハンの影が蠢き数多の鎖となって襲いかかってきた。
伸縮性と硬度を両立した不思議な感触の鎖はどれだけ引っ張ってもちぎれる気配すら見せない。
デュラハンが発揮する怪力で振り回されて何度も壁に衝突し、あちこちが穴だらけになってしまう。
頃合いを見計らった騎士が鎖をグイッと引いて抜剣の構えをとり、先程よりも速い速度のいあいぎりを繰り出す。
しかし、剣が俺の首をはねるかと思われた寸前。思いっきり足を踏ん張って勢いを止め、バク宙で後ろに回り込んだ。
収縮しようとする影をピンと張ってデュラハンもろとも一閃する。
『・・・・・・・・・・!』
さすがは元騎士と言うべきか、動きはかなり洗礼されていてほとんど無駄がなく、正直攻撃を防ぐのがやっとだ。
オマケにさっきみたいな影を操る技も持っているときた。
戦いずらいことこの上ない。
が、やはり飛龍には及ばない。
もちろん他に比べれば異常なまでに強いのだが、どうしても彼女と比較してしまうと・・・・・。
ギャギャギャッ!と摩擦で火花を散らして影を受け流し、脇を走り抜けながら強烈な斬撃を喰らわせる。
「って言っても、タフさだけは確実に俺たちを超えてるよな」
斬っても斬ってもまるでダメージが入っていないような気がする。
ただ攻撃してるだけじゃダメって事なのかな?
核のようなものを破壊しなければいけないのか、それともデュラハンの魔力が尽きるまで破壊と再生を繰り返さないといけないのか。
はたまた他に何か攻略方法があるのか・・・・・・・。
手がかりはないかと探していると、高速の剣撃を繰り出していたデュラハンがふと動きを止め、ゆらりとした動きで剣を上段に構えた。
この距離で何するつもりだ・・・・・?
そんなゆっくり動いてるんじゃ、避けてくださいって言ってるよう───────────なっ!?
構えと同じようにゆっくり動き始めたと思ったら、瞬き一瞬の内に漆黒の鎧が目の前まで近づいていた。
予想外の動きに完全に逃げ遅れ、デュラハン渾身の一撃が肩から斜めに傷をつける。
「っ、やられたね」
傷口を押えながら大きく跳んで距離をとる。
さっきデュラハンが動く直前に感じた気配、間違いなくスキルが発動していた。
まさかこんなスキルを隠し持っていたとは・・・・・・・。
「こりゃ前言撤回しないとね。頭に血が上ってて失礼なこと言った」
どこが"飛龍より弱い"だ。
スキルの厄介さで言えばこっちの方が高いに決まってる。
原理は分からないけど、相手との距離を一瞬で詰めるスキルか。
「先程の無礼、どうかお許しいただきたい。改めて"剣士"咲夜、貴殿に決闘を申し入れる!」
【条件を達成しました。デュラハンとの会話が可能になります】
二人の間にテロップが表示された。
どうやら俺の謝罪の気持ちが届いたようで、機嫌を直してくれたらしい。
『・・・・・・・・・よかろう。我が名は"守護の騎士"ガディウス』
双方名乗りを上げ構えをとる。
辺りを静寂が支配し、感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。
『いざ、仁上に!』
「勝負っ!」
俺は神速の踏み込みで、ガディウスはスキルで刹那の内に距離を詰め鍔迫り合う。
共に弾かれたかと思いきや目の前のガディウスが消え、前傾姿勢となり真横に現れた。
かろうじで攻撃を防ぎ後ろへ跳んで逃げると、今度はまたその後ろに騎士は姿を見せ剣を振るう。
「っぶね!」
太もものストレッチでやるように両脚を折り畳んで地面に倒れ込み、バク転の要領で回転しながらガディウスの肩に足を引っ掛けて叩きつける。
『ぬぅ・・・・・・!』
「また移動した・・・・・」
すっと姿が消えたかと思うと、少し離れた所に現れて突っ込んできた。
流れる様な剣さばき。
それに比べて俺はどうだろか。
素人に毛が生えた程度の剣術を、高いスペックで誤魔化しているだけだ。
ならば今は絶好のチャンス!
せっかく本物の騎士が勝負を受け、こうして目の前で剣術を披露してくれている。
吸収しろ、積み上げ重ねてきた技術を!
盗め、本物の技を!
「"黒聖一閃・焔"!」
『・・・・・─────王国剣術、一之型"月泉晶"!』
純白と漆黒がぶつかり合い、長い均衡の末勝ったのは────────────俺の純白だった。
真っ二つに斬られた剣と鎧がカランカランッと落ちる。
『見事・・・・・・!』
そう言い残すと、漆黒の瘴気は霧のように空気に溶け、鎧や剣も後を追うようにチリとなって消えていった。
乗っ取られてもなお、主のため空の玉座を守り続けた、か。
騎士の中の騎士だったよ、あんたは。
手を合わせて数秒間黙祷し、その場を後にする。
急いで倒れている花恋の元へ向かい、冷たくなった手を取って脈を図る。
さっきチラッと確認した時の計算が合ってれば、まだ間に合うはず・・・・・・・・よし、何とかなりそうだ。
壁から抱き起こして少し離れた場所に寝かせ、花恋を中心に魔法陣を描く。
こちらの剣もガディウスを倒した時に消えたので、あとは傷を塞いで体力を回復させるだけ。
血液は魔法では作れないので貧血になるだろうが、花恋なら何とか動けはするだろう。
「【エクスヒール】」
上位回復魔法のおかげでみるみる内に傷が塞がっていった。
魔法の光が収まると、花恋の長いまつ毛がフルフル動き、ゆっくりと瞼が開く。
「・・・・・ぅっ・・・・・咲夜・・・・・?」
「うん、そうだよ。無事でよかった」
頭に響かないようにゆっくり抱き起こして顔を覗くと、顔色は悪いものの他は何とかなっていそうだった。
花恋はしばし部屋の明かりを眩しそうに目を細め、突然思い出したかのようにあっ、と呟いた。
「そうだ、デュラハンにやられる前に見つけたものなんだけど、咲夜にも見て欲しいの」
「ん、どれどれ?」
「えっとねぇ──────────これ、なんだぁー」
ニヤリと笑った花恋は、腰から取り出したダガーを思いっきり俺の胸に突き立てた。




