VSフェイロン
「よっこいせぇ!」
「ふおぉう!?」
突き出される神速の拳を躱して掴み一本背負いの要領で投げ飛ばすが、途中で抜け出されてしまい、繰り出された反撃がほおを掠める。
くっ、完全に初見の技のはずだったのに簡単に見切られちゃったな。
こういう搦手は通用しないと思ってた方が良いか。
「"空烈拳"!」
飛龍の足元に衝撃波を叩きつけ、砂煙に紛れながら距離をとる。
よし、今のうちに死角に回り込んで────────。
「ぬるいのだぁっ!」
「っ・・・・・!」
目くらましの砂煙を吹き飛ばして突っ込んできた飛龍の拳がいとも簡単に俺を捉えた。
リンクを派手に削って吹っ飛ばされたが、なんとか勢いを殺し結界寸前の所でギリギリ踏みとどまる。
いってて、ガードした腕が痺れてるな。
寸前で後ろに避けなかったら、使い物にならなくなっていたかもしれない。
一体どんだけの力を持ってるんだか・・・・・・・・。
今のところパワーだけで言えば完全に押し負けてるぞ。
「うむ、龍の拳をまともに喰らってもその程度のダメージとは、お前、中々見所があるではないか!」
「そりゃどー、もっ!」
飛龍が腰に手を当てて豪快に笑っている隙に蹴りを繰り出すが、ひょいっと軽くあげた腕によって防がれてしまった。
俺以上に細い腕なのに、万力に抵抗されているかのようにピクリとも動かない。
その不動の硬さは鱗に覆われた龍の腕を幻視させるほどだ。
と言うかあれって俺の見間違いじゃなくて、神気が龍の腕の形になってるんだよね?
陽炎みたいに揺らめいてるから気迫によってそう見せられてるのかと思ってたけど、きっとそれだけじゃないんだろう。
フェイントを混ぜつつ威力より速度を重視して、息を着く絶え間もないほどの攻撃を続ける。
「まだまだ、な・の・だぁ!龍の爪ォ!」
翠色の神気が煌めいたかと思うと、次の瞬間には胸を浅く斬られて障壁に衝突していた。
くそっ、速すぎだろ・・・・・・!
急いで起き上がり、間髪入れずさらに攻めてくる飛龍の攻撃を捌く。
「"万焼波紋突き"!」
「ぬわわっ!?」
当たった途端に龍の腕が砕け散り、炎を乗せた波紋が空気を伝ってその華奢な身体を貫いた。
どうやら龍の腕が突然砕けたのにビックリして、モロに喰らってしまったらしい。
空気を弾いて敵を内部から攻撃するこの技なら、表面上の防御力と関係なく相手にダメージを与えられるのだが────────────。
「けほっ、けほっ・・・・・うぅ、思った以上に響くのだ・・・・・・・・」
咳き込みながら苦い顔で口を抑えている。
ノーダメージとはならなかったものの、少し内蔵を揺らされて気持ち悪くなる程度にしか効かなかったようだ。
ふらついてる内に足をひっかけてバランスを崩し、がら空きのお腹めがけて後ろ回し蹴りをお見舞すると、身体をくの字に折り曲げてぶっ飛んでく。
しかしすぐに体勢を立て直し、追撃に向かっていた俺の方に踏み込んできた。
至近距離で見た彼女の双眸はギラリと鋭利に輝き、こぼれる獰猛な笑みも相まって、本物の龍を相手にしていると錯覚してしまうほどの圧力を感じる。
戦うのが楽しくって仕方ない、ってのがすごい伝わってくる表情だね。
どうやら飛龍の見極めタイムは終わったようで、俺相手なら全力で闘いたいと思ってくれたみたいだ。
準備運動はもう終わり、ってか!
リンクのど真ん中で拳がぶつかり合い、荒れ狂う二色の神気の本流が狭い天井を勢いよくぶち抜く。
それでも収まりきらない圧倒的な力が次々に結界を破壊する。
その速度は設置された魔法具による修正が間に合わないほど。
司会と観客たちがなんか興奮して歓声をあげてるけど、危ないからそんな事してないで逃げた方が良くない?
ほら、今も瓦礫とか飛んでいた。
司会も前のめりに解説してる場合じゃないって、観客避難させなよ・・・・・・。
「"天龍焔せ──────────」
「"龍の拳"!」
蹴り上げる前に弾かれてしまい無防備な状態になってしまう。
やべっ、こりゃまずい!
即座に左手で魔法を放とうとするがそれすらも読まれていたようで、手首を掴まれて引き寄せられる。
「さっきのお返しなのだ、"龍神の咆哮"!」
ドンッと大きな衝撃波が俺の身体を貫き、一瞬で背後の結界までをも消し飛ばした。
遅れて端っこまで地を転がり、溜まっていた瓦礫を粉砕してやっと止まることが出来た。
「っ〜〜〜、頭打った・・・・・!いんやそれより・・・・・気持ちわる・・・・・・」
「ふっふっふっ、さっき喰らった"万焼波紋突き"と同じくらいの威力にしてやったのだ!私が味わった苦しみをお前も味わうといいのだぁ!」
「因果応報とはまさにこの事か・・・・・・・・」
"やられたらやり返す・・・・・倍返しだ!"、と薄い胸を張って高らかに笑う飛龍。
何故そのネタを知ってる・・・・・・・。
どうやら待ってくれるようなので、遠慮なく回復させてもらおう。
女の子座りで気持ち悪さが収まるのを待つ。
うぅ、もう少し・・・・・・・・・よし、そろそろ動ける。
「ん、もう休憩は良いのか?」
「うん、あんまり休みすぎるとフェアじゃないからね」
お互い距離をとって構え、もはや原型の無くなったリンクをさらに破壊しながら拳をぶつけ合う。
観客の盛り上がりも最高潮に高まり、耳が痛いほどの声援が辺りに響き渡る。
──────────そんな中だからこそ、ふと数人がボソッと呟いた声が目立って聞こえた。
極限の集中状態に至ろうとする間近のことであった。
「おぉ、ナイスパンチラ」
「今のは絶妙なパンチラでしたね」
「いやコメントがおかしへぶぅっ!?」
「あ」
思わずツッコんだせいで派手に顔面に喰らってしまった。
いって・・・・・・飛龍のやべっ、て顔可愛いな。
ってそれどころじゃないか。
さっき明らかに場違いな感想呟いてたヤツいただろ!
「え〜、だって咲夜ちゃんが履いてるの、絶対見せパンだと思ってたからさ」
「そうですそうです!さっきの座ってる時とか、見えそうで見えなかったのがめっちゃ良かったです!」
『おっと咲夜選手。外野からこんなヤジが飛んでますけども、何かコメントあります?』
「君たちもっと試合を見てよ!なに人のパンツで盛り上がってんの!?」
一部の変態のせいで、真面目に観戦してくれてる他の人たちまで迷惑じゃんか!
・・・・・・・そう言えば、今自分がどんなパンツ履いてるとか気にしてなかったな。
見せパンって言われるぐらいだから、かなりアレなのなんだろうか。
「む、みんなはこう言うのが見たいのか?ほれ」
「ちょ、何して・・・・・・・っ〜〜〜〜!?」
首を傾げていた飛龍が納得したようにポンッと手を叩き、俺向けて人差し指を振るう。
するとあら不思議、突然発生したつむじ風がただでさえ短かったチャイナ服を下からめくりあげた・・・・・・・って何しとんじゃあ!!
急いで裾を押さえものの、呆然として反応が遅れてしまったため、バッチリみんなに見られてしまった。
「ヒュー、ナイスだ飛龍さん!」
「咲夜ちゃん、その見た目で黒のr───────」
「それ以上は言わせないよ!?・・・・・ったく飛龍め、よくもやってくれたにゃ!?」
未だに吹くつむじ風に涙目で抵抗しながら、魔法を発動させて忌々しいそれを消滅させる。
と同時に彼女の懐まで潜り込み、恨みを乗せた拳を連打する。
「ふおっ!?咲夜よ、そんなに恥ずかしがることはないと思うぞ?私からすればまだまだなのだ」
「俺からすれば十分恥ずかしいわ!」
飛龍はその格好のせいで慣れてるかもしれないけど、俺の場合はそれ以前の問題なの!
もう、せっかくこれからだって時なのに調子が狂っちゃうよ。
それとも適度に肩の力が抜けたと考えるべきか・・・・・・・。
まあどちらにしろあの二人は後で必ず処す。
これは決定事項です!




